著者
池上 知子
出版者
The Japanese Association of Educational Psychology
雑誌
教育心理学年報 (ISSN:04529650)
巻号頁・発行日
vol.53, pp.133-146, 2014
被引用文献数
6

社会から差別をなくそうという長年の取り組みにもかかわらず, 現代においても依然として差別に苦しむ人たちは存在する。本稿では, この問題にかかわる社会心理学の理論や研究パラダイムの変遷を追いながら, なぜ事態が改善しないのかを考察する。その一つの理由として, 差別的行動や偏見に基づく思考は, 人間が環境への適応のために獲得した正常な心理機能に根ざしていること, その機能はわれわれの意識を超えた形で働くため, これを統制することがきわめて困難である点を指摘する。そして, それにもかかわらず, 社会心理学はそれらを意識的に制御することを推奨してきたことが, 問題をさらに複雑にする結果となっていることを議論する。最後に, 最近, われわれに楽観的見通しを与えてくれる新しい観点が登場してきたことに言及する。それらは, 伝統的接触仮説を発展させた研究と潜在認知の変容可能性を検討している研究の成果に基づいている。本稿では, これらの新しい方向性についても考察する。
著者
菅沼 慎一郎
出版者
The Japanese Association of Educational Psychology
雑誌
教育心理学研究 (ISSN:00215015)
巻号頁・発行日
vol.61, no.3, pp.265-276, 2013
被引用文献数
1

「諦める」は多くの人が日常的に体験することであるが, 心理学における一貫した定義はこれまでなく, その否定的側面が報告されることが多かった。本研究の目的は, 青年期における「諦める」の構造を明らかにし, 仮説的に定義すると共に, 「諦める」ことの精神的健康に対する機能に関する示唆を得ることである。後青年期(22~30歳)の男女15名を対象に, 過去の諦め体験に関して半構造化面接を行い, 29エピソードを得た。修正版グラウンデッド・セオリー・アプローチ(M-GTA)を用いて分析した結果, 11の概念と3つのカテゴリーが生成された。青年期における「諦める」は, 達成・実現を目指して努力してきた<諦めた内容>に関して, 目標の達成・実現困難度の認識という<諦めたきっかけ>を契機に, 目標や望みの放棄という<諦め方>に至る。これに基づき, 「諦める」は, 「自らの目標の達成もしくは望みの実現が困難であるとの認識をきっかけとし, その目標や望みを放棄すること」と定義された。「諦める」は否定的な側面のみならず, 建設的な側面を有しており, そこに「諦める」という概念の独自性があること, 精神的健康に対して多様な機能を有することが示唆された。
著者
伊藤 崇達
出版者
The Japanese Association of Educational Psychology
雑誌
教育心理学研究
巻号頁・発行日
vol.44, no.3, pp.340-349, 1996
被引用文献数
10

The purpose of this study was to investigate the relationships among self-efficacy, causal attributions and learning strategy in an academic achievement situation. The Self-Regulated Learning Strategies, self-efficacy and intrinsic value scales developed by Pintrich and De Groot (1990) were translated into Japanese and administered to 251 junior high school students. On the basis of the results of the factor analysis, five learning strategies subscales were constructed: general cognitive, review-summarizing, rehearsal, giving attention and connecting. These subscales were positively correlated, and there were gender differences in three subscales, self-efficacy and intrinsic value. All these subscales were strongly related to self-efficacy and intrinsic value. The relationships among self-efficacy, causal attributions and learning strategy were analyzed, and the findings suggested that learning strategies had a greater influence on self-efficacy than effort attribution for their failure.
著者
栗田 季佳 楠見 孝
出版者
The Japanese Association of Educational Psychology
雑誌
教育心理学研究 (ISSN:00215015)
巻号頁・発行日
vol.62, no.1, pp.64-80, 2014

ノーマライゼーションや平等主義的規範が行き渡った今日においても, 障害者に対する偏見や差別の問題は未だ社会に残っており, これらの背景となる態度について調べることが重要である。従来の障害者に対する態度研究は, 質問紙による自己報告式の測定方法が主流であった。しかしながら, これらの顕在的態度測定は, 社会的望ましさに影響されやすく, 無意識的・非言語的な態度を捉えることができない。偏見や差別のような, 表明が避けられる態度を捉えるためには間接測定による潜在指標が有効だと考えられる。本論文は, 潜在指標を用いて障害者に対する態度を調べた研究についてレビューを行った。障害者に対する潜在指標として, 主に, 投影法, 生理学・神経科学的手法, さらに近年では反応時間指標が頻繁に用いられるようになってきており, 多くの研究において障害者に対するネガティブな態度が示されていることがわかった。潜在的態度と顕在的態度の関連性について, 潜在指標の有用性と今後の課題について議論した。
著者
高橋 麻衣子
出版者
The Japanese Association of Educational Psychology
雑誌
教育心理学研究 (ISSN:00215015)
巻号頁・発行日
vol.61, no.1, pp.95-111, 2013
被引用文献数
2

書き言葉を読んで理解する能力は活字媒体から情報を取得するために必要な能力であり, これを効果的に育成することは学校教育の大きな目標の一つである。読解活動の形態には大きく分けて音読と黙読が存在するが, 読解指導の場面では最終的に黙読での読解能力を習得させることを目的としている。本論文では, 読解能力の発達段階によって音読が読解過程に及ぼす影響はどのように異なるのか, そして, 黙読での読解能力を習得する上で音読はどのような役割を担うのかを考察することを目的とした。まず, 成人と児童それぞれにおける音読の有用性を検討し, 読み能力によって音読の役割が異なることを示した。特に児童においては, 読解中に利用可能な認知資源の量が少なくても, 構音運動や音声情報のフィードバックによって音韻表象を生成し利用できることが, 音読の利点として挙げられた。そして, 読解中の音韻表象の生成と眼球運動のコントロールに着目して, 音読から黙読への移行についての仮説的モデルとこれに即した指導法を提案し, 今後の課題を述べた。
著者
堤 亜美
出版者
The Japanese Association of Educational Psychology
雑誌
教育心理学研究 (ISSN:00215015)
巻号頁・発行日
vol.63, no.3, pp.323-337, 2015
被引用文献数
6

本研究では, 一般の中学・高校生を対象とした, 認知行動療法的アプローチに基づく抑うつ予防心理教育プログラムの実践を行い, その効果を検討した。プログラムは全4セッション(1セッション50分)からなり, 主な介入要素は1)心理教育, 2)感情と思考の関連, 3)認知の再構成, 4)対反芻, であった。中学3年生および高校2・3年生を対象に本プログラムを実施したところ, 分散分析の結果, 中学生対象の実践ではプログラム実施群はプログラム実施前に比べ実施後に有意に抑うつの程度と反芻の程度が低減したこと, 高校生対象の実践ではプログラム実施群はプログラム実施前に比べ実施後に反芻の程度が有意に低減し, 抑うつの程度が有意に低減した傾向が示された。また, 中学生では実施6ヶ月後, 高校生では実施3ヶ月後の時点において, プログラム実施後の抑うつ・反芻の程度を維持していることも示された。そして感想データの分析の結果, 自分自身や周囲の人たちの抑うつ予防に対する積極性の獲得など, 一次予防や二次予防につながる様々な変化が見出された。これらのことから, 本プログラムは抑うつ予防に対し継続的な有効性を保持するものであることが示唆された。
著者
村山 航
出版者
The Japanese Association of Educational Psychology
雑誌
教育心理学年報 (ISSN:04529650)
巻号頁・発行日
vol.51, pp.118-130, 2012
被引用文献数
17

妥当性とは曖昧な構成概念を扱う心理学にとって, もっとも重要な概念の1つである。妥当性というと「基準連関妥当性」「構成概念妥当性」「内容的妥当性」という3つのタイプがあると一般に説明されることが多い(妥当性の三位一体観)。しかし, 1980年代以降の妥当性研究では, こうした妥当性のタイプ分けは適切ではなく, 「構成概念妥当性」という考え方にすべての妥当性は収斂するという考え方が主流である(単一的な妥当性概念)。本稿の前半では, こうした妥当性概念の歴史的変遷について, 思想的な背景や近年の議論などを踏まえた解説を行った。本稿の後半では, 妥当性に関するより実践的なトピックを取り上げ, 心理測定学的な観点から議論を行った。具体的には, 1. 「内容の幅の広い項目群を用いた尺度作成」というアイディアと伝統的な心理測定学的モデルの矛盾, 2. 「個人間相関」と「個人内相関」を区別することの重要性とその関係, そして3. 心理学における「尺度の不定性」が結果の解釈などに与える影響などについて議論を行った。
著者
鈴木 宏昭 杉谷 祐美子
出版者
The Japanese Association of Educational Psychology
雑誌
教育心理学年報 (ISSN:04529650)
巻号頁・発行日
vol.51, pp.154-166, 2012

本論文では大学生のレポートライティングにおける問題設定に注目して, その援助の可能性を探究した。問題設定は気づき, 洗練, 定式化の3つのプロセスからなり, この各々のプロセスで支援の可能性が存在する。気づきについては文献の批判的読みと直感的判断が重要である。これらを援助することでよりよいレポートが作成される可能性が高まる。洗練の段階では図的にあるいは言語的に自らのアイディアを外化することでレポートの質が向上することを示した。問題の定式化の段階では, 明確化, 普遍化, 相対化の3つが必要となる。協調学習環境下の長期にわたるライティング実践の結果, 明確化と相対化は普遍化に比べて学習されやすいことが明らかになった。
著者
千島 雄太 水野 雅之
出版者
The Japanese Association of Educational Psychology
雑誌
教育心理学研究 (ISSN:00215015)
巻号頁・発行日
vol.63, no.3, pp.228-241, 2015
被引用文献数
5

本研究の目的は, 大学入学前に持っていた複数の領域に渡る大学生活への期待と, 実際に経験した大学生活に関して探索的に把握し, 大学適応への影響について実証的に明らかにすることであった。文系学部の大学生84名を対象とした予備調査によって, 大学生活への期待と現実に関して探索的に検討し, それぞれ項目を作成した。続いて, 文系学部の新入生316名を対象とした本調査を行い, 探索的因子分析の結果, 大学生活への期待は, "時間的ゆとり", "友人関係", "行事", "学業"の4つの領域が抽出された。対応のある<i>t</i>検定の結果, 全ての領域において期待と現実のギャップが確認された。さらに, 大学環境への適応感とアパシー傾向を従属変数とした階層的重回帰分析を行った。その結果, "時間的ゆとり"と"友人関係"において, 期待と現実の交互作用が認められ, いずれにおいても現実得点が高い場合に, 期待得点はアパシー傾向と負の関連が示された。特に, 期待したよりも時間的ゆとりのある大学生活を送っている場合に, アパシー傾向が高まることが明らかにされ, 大学における初年次教育の方向性に関して議論された。
著者
猪原 敬介 上田 紋佳 塩谷 京子 小山内 秀和
出版者
The Japanese Association of Educational Psychology
雑誌
教育心理学研究 (ISSN:00215015)
巻号頁・発行日
vol.63, no.3, pp.254-266, 2015
被引用文献数
4

海外の先行研究により, 読書量, 語彙力, 文章理解力には緊密な相互関係が存在することが明らかになっている。しかし, 我が国の小学校児童に対する調査はこれまでほとんど行われてこなかった。この現状に対し, 本研究では, これまで調査がなされていなかった1・2年生を含めた小学校1~6年生児童992名に対して調査を実施した。また, 読書量推定指標間の関係についても検討した。その際, 海外では使用例がない小学校の図書貸出数と, 新たに作成したタイトル再認テストの日本語版を含め, 6つの読書量推定指標を同時に測定した。結果として, 全体的にはいずれの読書量指標も語彙力および文章理解力指標と正の相関を持つこと, 読書量推定指標間には正の相関があるもののそれほど高い相関係数は得られなかったこと, の2点が示された。本研究の結果は, 日本人小学生児童における読書と言語力の関係についての基盤的データになると同時に, 未だ標準的方法が定まらない読書量推定指標を発展させるための方法論的貢献によって意義づけられた。
著者
鈴木 雅之
出版者
The Japanese Association of Educational Psychology
雑誌
教育心理学研究 (ISSN:00215015)
巻号頁・発行日
vol.59, no.2, pp.131-143, 2011
被引用文献数
1 10

本研究では, テストをフィードバックする際にルーブリックを提示し, 評価基準と評価目的を学習者に教示することの効果について, 中学2年生を対象とした数学の実験授業によって実証的に検討した。また, 返却された答案とルーブリックだけで, 自身の答案内容とルーブリックの記述内容との対応関係が理解できるのかを検討するために, ルーブリックを提示し具体的な添削をする群と, 添削をしない群を設けた。さらに, ルーブリックがなくても具体的な添削があれば, ルーブリックの提示と同等の効果が得られる可能性を考慮し, ルーブリックを提示せずに添削だけを施す群を設定した。その結果, ルーブリックを提示された2群は, 提示されなかった群と比較して, 「改善(自身の理解状態を把握し学習改善に活用するためのものであるという認識)」テスト観や内発的動機づけが高く, 理解を指向して授業を受ける傾向にあり, 最終日の総合テストでも高い成績をおさめた。また, パス解析を行った結果, 動機づけと学習方略, テスト成績への影響は, ルーブリックの提示によって直接引き起こされたのではなく, テスト観を媒介したものであることが示唆された。さらに本研究では, 添削の効果がみられないことが示された。
著者
岡田 有司
出版者
The Japanese Association of Educational Psychology
雑誌
教育心理学研究 (ISSN:00215015)
巻号頁・発行日
vol.60, no.2, pp.153-166, 2012
被引用文献数
1

本研究では, (1) まず学校生活の諸領域が生徒関係的側面と教育指導的側面の2つの側面から捉えられるのかについて検証した。その上で, (2) これらの側面から生徒を分類し学校適応の違いを検討するとともに, (3) これらの側面と学校適応との循環的な関係について検討した。研究1では, 質問紙調査によって得られた中学生822名のデータ分析の結果, まず学校生活の諸領域が生徒関係的側面(友人関係, クラスへの意識, 他学年との関係)と教育指導的側面(教師との関係, 学業への意欲, 進路意識, 校則への意識)の2つの側面から捉えられることが示された。次に, 生徒関係的側面・教育指導的側面のどちらか一方の側面の得点が高かった生徒は, その側面が学校への心理的適応の支えになっており, 社会的適応についても部分的に支えていることが示された。研究2では, 中学生338名の縦断データ(1学期と3学期に同一の質問紙を実施)の分析から, 生徒関係的側面・教育指導的側面と学校適応の循環的な関係が示唆された。そこからは, それぞれの側面が学校適応に及ぼす影響の違いだけでなく, 学校適応がその後の両側面に与える影響についても示された。
著者
波田野 結花 吉田 弘道 岡田 謙介
出版者
The Japanese Association of Educational Psychology
雑誌
教育心理学研究 (ISSN:00215015)
巻号頁・発行日
vol.63, no.2, pp.151-161, 2015
被引用文献数
5

これまでの心理学データ分析では, 概して統計的仮説検定の結果は報告されるが, 効果量の報告や議論は軽視されがちであった。しかし近年の統計改革の中で, 効果量を活用することの重要性が再認識されている。そこで本研究では, 過去4年間に 『教育心理学研究』誌に掲載された論文中で報告された仮説検定について, 論文中の情報から対応する効果量の値を算出し, 検定における<i>p</i>値と効果量との間の関係を網羅的に調べた。分析対象は, 独立な2群の<i>t</i>検定, 対応のある2群の<i>t</i>検定, 1要因および2要因の被験者間分散分析における<i>F</i>検定であった。分析の結果, いずれの場合においても報告された<i>p</i>値と効果量の相関係数は-0.6~-0.4であり, 両者の間には大まかな対応関係が見られた。一方で, 検定結果が有意であるにもかかわらず小さな効果量しか得られていない研究も決して少なくないことが確認された。こうした研究は概ね標本サイズが大きいため, 仮説検定の枠組みの中では検定力分析の必要性が考えられる。また仮説検定の枠組みに留まらず, メタ分析によって関心下の変数ごとに効果量の知見を蓄積することや, ベイズ統計学に基づく新たな方法論などが今後の方向性として考えられる。
著者
吉野 巌 山田 健一 瀧ヶ平 悠史
出版者
The Japanese Association of Educational Psychology
雑誌
教育心理学研究 (ISSN:00215015)
巻号頁・発行日
vol.63, no.1, pp.83-83, 2015

62巻2号に掲載された「音楽鑑賞における演奏者の映像の効果―音楽心理学研究に基づく仮説の実践授業での検討―」の英文要約の中の誌名が誤っていたため,修正いたしました。
著者
香川 秀太
出版者
The Japanese Association of Educational Psychology
雑誌
教育心理学研究 (ISSN:00215015)
巻号頁・発行日
vol.60, no.2, pp.167-185, 2012
被引用文献数
1

本研究は, 従来の学内学習と現場実践との関係に関する議論を, 状況論の立場から検討し, 従来の徒弟制重視説や学内学習固有機能説に代わる, 緊張関係説を示した。これに基づき, 学内学習から臨地実習への看護学生の学習過程を調査した。学内学習を経て臨地実習を終えた学生に半構造化面接を行い, グラウンデッドセオリーアプローチによる分析を行った。その結果, 看護学生は, 学内学習では, 教員の指導にかかわらず, 架空の患者との相互行為を通して, ほぼ教科書通りの実践にとどまっていた。しかし, 臨地実習で, 本物の患者や看護師との, 学内とは異なる相互行為を通して, 教科書的知識を「現場の実践を批判的に見せるが柔軟に変更もすべき道具」と見なすように変化した。これを本研究では, 学内-臨地間の緊張関係から生まれる, 第1の学内学習のみにも, 第2の臨地での学習にも還元できない独特な知識, つまり「第三の意味(知)」ないし「越境知」として議論した。また, 学内と臨地の各場面での相互行為過程を, 「異なる時間的展望同士が交差・衝突し変化する過程(ZTP)」として考察した。最後に, 結果に基づき, 省察やリアリティ豊かな学習を促進する, 「越境知探求型の学習」を提案した。
著者
栗田 季佳 楠見 孝
出版者
The Japanese Association of Educational Psychology
雑誌
教育心理学研究 (ISSN:00215015)
巻号頁・発行日
vol.62, no.1, pp.64-80, 2014

ノーマライゼーションや平等主義的規範が行き渡った今日においても, 障害者に対する偏見や差別の問題は未だ社会に残っており, これらの背景となる態度について調べることが重要である。従来の障害者に対する態度研究は, 質問紙による自己報告式の測定方法が主流であった。しかしながら, これらの顕在的態度測定は, 社会的望ましさに影響されやすく, 無意識的・非言語的な態度を捉えることができない。偏見や差別のような, 表明が避けられる態度を捉えるためには間接測定による潜在指標が有効だと考えられる。本論文は, 潜在指標を用いて障害者に対する態度を調べた研究についてレビューを行った。障害者に対する潜在指標として, 主に, 投影法, 生理学・神経科学的手法, さらに近年では反応時間指標が頻繁に用いられるようになってきており, 多くの研究において障害者に対するネガティブな態度が示されていることがわかった。潜在的態度と顕在的態度の関連性について, 潜在指標の有用性と今後の課題について議論した。
著者
吉田 寿夫 村山 航
出版者
The Japanese Association of Educational Psychology
雑誌
教育心理学研究 (ISSN:00215015)
巻号頁・発行日
vol.61, no.1, pp.32-43, 2013
被引用文献数
5

これまで, 「学習者は専門家が学習に有効だと考えている方略を必ずしも使用していない」ということが, 学習方略の研究者によって示唆されてきた。本研究では, こうした実態について定量的に検証するとともに, なぜこうしたことが起きるのかに関して, 「コスト感阻害仮説」, 「テスト有効性阻害仮説」, 「学習有効性の誤認識仮説」という3つの仮説を提唱し, 各々の妥当性について検討を行った。また, その際, 先行研究の方法論的な問題に対処するために, 学習方略の専門家から収集したデータを活用するとともに, 各学習者内での方略間変動に着目した分析を行った。中学生(<i>N</i>=715)と専門家(<i>N</i>=4)を対象にした数学の学習方略に関する質問紙調査を行い, それらのデータを分析した結果, 実際に学習者は専門家が学習に有効だと考えている方略を必ずしも使用していないことが示された。また, 学習有効性の認識に関して専門家と学習者の間に種々の齟齬があることが示されたことなどから, 学習有効性の誤認識仮説が概ね支持され, どのような方略が学習に有効であるかを学習者に明示的に伝える必要性が示唆された。
著者
蔵本 真紀子
出版者
The Japanese Association of Educational Psychology
雑誌
教育心理学研究 (ISSN:00215015)
巻号頁・発行日
vol.70, no.2, pp.146-162, 2022-06-30 (Released:2022-07-12)
参考文献数
51
被引用文献数
3

本研究では,日本で思春期以上の子どもを育てている国際結婚夫婦26名に面接調査を行い,子どもの文化的アイデンティティの発達過程を親の視点から探り,子どもと親が経験した課題,そして親の子育てのアプローチの軌跡を検討することを目的とした。データの分析には,グラウンデッド・セオリー・アプローチを援用した。その結果,アイデンティティの発達に影響を与えるさまざまな要因,文化的アイデンティティの発達と言語発達のパターン,そして子どもが経験した困難が浮き彫りになった。親については,文化継承,いじめ・溶け込みにおける闘い,安全基地としての役割,自律性の促進のカテゴリーが抽出された。獲得された文化的アイデンティティは様々であるが,子どもがアイデンティティに充実感を覚える最大の要因は親から尊重され見守られているという実感であることがうかがえた。また子どもが幼少期に活発的だった文化継承について,成長と共に子どもが次世代の文化継承の担い手になっていくという世代交代が示唆された。重要な点は,異文化間の子どもたちが文化的アイデンティティを育むための単一の方法があるわけではないこと,そして異文化間に育つ子どもたちと親の独自のニーズや課題を把握することがますます求められることである。