著者
池長 裕史 儀間 朝治
出版者
Yamashina Institute for Ornitology
雑誌
山階鳥類研究所研究報告 (ISSN:00440183)
巻号頁・発行日
vol.25, no.1, pp.28-39, 1993
被引用文献数
2

沖縄島の北部のみから記録されているクイナ科の希少種であるヤンバルクイナは5種類以上の鳴き声を持つ。初めてビデオ撮影に成功したデュエットの映像と録音テープをもとに,本種の鳴き声についてソナグラフで解析し,以下の知見を得た。<br>1) 5種類の鳴き声:コールI(ケッケッ(<i>Kyo</i>)-コール),コールII(ググッ(Gu)-コール),ソロソングI(クルル(<i>Krr</i>)-コール),デュエット(ケケケ(<i>Kek</i>)-デュエット)及びソロソングII(ケケケ(<i>Kek</i>)-コール)のソナグラムと波形を図示し,デュエットについては2羽を分別した。<br>2) デュエットの際,2羽はお互いに向かい合わず,反対方向を向いて頭をふりながら同時あるいは交互に鳴き合わせた。<br>3) デュエットは,先に鳴き始め,1秒間に7~8回の比較的安定した間隔で発声する個体と,これに同調し,やや分散的に鳴く別の個体とにより唱和され,この2羽は嘴の長さの差からそれぞれ雄と雌と考えられた。<br>4) ソロソングII(ケケケ(<i>Kek</i>)-コール)はデュエットに類似していたが,他の個体が同調することなく,それより短い独唱のままで終わっており,導入部,声の連続性,後半の声の強さの変化においてデュエットとは差がみられた。<br>5) 同じ種類の鳴き方でも鳴き声は変化し,ある特定の声の特徴について,それが雌雄の差によるのか,鳥の個体差によるものなのかは今後の課題である。
著者
田村 實 上田 恵介
出版者
Yamashina Institute for Ornitology
雑誌
山階鳥類研究所研究報告 (ISSN:00440183)
巻号頁・発行日
vol.32, no.2, pp.86-90, 2000-12-29 (Released:2008-11-10)
参考文献数
19
被引用文献数
1

一般に鳴禽類では,メスの囀りは一般的ではないが,著者らは1998年5~7月に,山梨県清里において,コルリの繁殖生態を調査中に,コルリのメスが囀るのを観察•記録することができた。観察したのは繁殖期の後半(6月下旬)で,2つのなわばり内の巣で,メスが巣内ビナに給餌を行っていた時期と,巣立ち雛を連れている時期に観察され,ビデオ撮影•録音された。またヒナが巣立った直後に発見した別のなわばり内の巣のメスも,巣立ちビナを連れながら,さえずっているのが観察された。メスの囀りにもいくつかのレパートリがあったが,オスの囀りと異なり,囀り4パターンの中,2パターンにおいて,オスの囀りに特徴的な「チッ,チッ,チッ…」という前奏が聞かれなかった。メスはオスよりも低い声で,また,オスよりも弱い声で囀っていたが,囀りのパターンは部分的にはよく似ている傾向が見られた。メスが囀ることの意味は,まだよくわからないが,人の巣への接近という状況下で起こっていることから,メスによる巣の防衛行動に関連した機能があると思われた。
著者
黒田 長久
出版者
Yamashina Institute for Ornitology
雑誌
山階鳥類研究所研究報告 (ISSN:00440183)
巻号頁・発行日
vol.25, no.1, pp.12-27, 1993-03-30 (Released:2008-11-10)
参考文献数
10
被引用文献数
5

1992年7月8日沖縄島東村北部新川ダムサイトで犬の咬傷で死亡し,同村教育委員会で冷凍保存され,その後我孫子市鳥の博物館に送られたヤンバルクイナ雄幼鳥についてその形態測定と解剖を行った。この標本と1992年11月石垣市ダム下流道路で拾われたオオクイナ,筆者所有の断片的記録資科(クイナ,ヒクイナ,ツルクイナ,ムナジロクイナ,バン,タスマニアバン(無飛力),オオバン)を用い,外形態の翼開型や剥皮体の各部測定(黒田1961),胸骨,腰骨,胸筋量,脚節量,臓器重量などを調べた。ヤンバルクイナは胸骨,胸筋が縮小し,無飛力化が進んでおり,脚筋は発達し,胸筋の約4倍の量があった。上膊骨は短細化し,大腿骨は太く上膊骨より長かった。脚も長く地上走行から樹上塒への登攀にも十分適応を示していた.
著者
小笠原 〓
出版者
Yamashina Institute for Ornitology
雑誌
山階鳥類研究所研究報告 (ISSN:00440183)
巻号頁・発行日
vol.5, no.4, pp.351-362, 1968-12-30 (Released:2008-11-10)
参考文献数
7
被引用文献数
3 4

調査は1965年11月から,1966年1月までに,キジ,ヤマドリの生態分布及び食性を明らかにするために仙台市周辺及び,秋田県北秋田郡田代町周辺で行なった。冬期,キジ,ヤマドリの生息場所及び生息範囲は,対照的であるが,その分布はかなりオーバラップしている。すなわち,仙台市周辺では,キジの生息範囲はかなり広いが,ヤマドリは主に山地に限られ,一方田代町周辺ではヤマドリの分布範囲が広く,キジは主に米代川沿に多く分布し,さらに,キジの個体数は,仙台市周辺の方が,田代町周辺より多いように思われる。捕獲した鳥は,キジが仙台市周辺で12個体,田代町周辺で2個体,岩手県で1個体で,計15個体,一方ヤマドリは,仙台市周辺で4個体,田代町周辺で1個体の計5個体で,それぞれについての食性調査を行なった。食餌物の全般的配分では,キジでは植物質が全体の99.6%,動物質が0.4%,一方,ヤマドリでは,植物質が全体の99.8%,動物質が0.2%と,両種とも,そのほとんどが植物質であった。さらに,植物質では,キジで37種,ヤマドリで20種が同定できた。仙台市周辺のものでは,キジ,ヤマドリともに,植物の種実が多く,それぞれの77.4%,75.1%を占めていた。田代町のものでは,キジで全体の91.2%が種実であった。植物の種実を,木本類,草木類,つた類と大別すると,仙台市周辺では,キジ(GP),ヤマドリ(CP)では,それぞれ,草木類で,42.2%(GP),44.5%(CP),木本類が,10.4%(GP),12.4%(CP),さらに,つた類では,43.3%(GP),43.1%(CP),となり,草本類及びつた類の種実が多かった。また植物質を科別にみると,キジでは,マメ科,イネ科,ブドウ科,タデ科の種実及びヤマノイモ(ムカゴ)が多く,一方ヤマドリではマメ科,タデ科,ヒユ科,ミズキの種実及びシダ類葉片が多かった。動物質は,きわめて少なく,わずかに5種類にすぎなかった。
著者
Peter Berthold Ulrich Querner
出版者
Yamashina Institute for Ornitology
雑誌
山階鳥類研究所研究報告 (ISSN:00440183)
巻号頁・発行日
vol.14, no.2-3, pp.157-165, 1982-12-20 (Released:2008-11-10)
参考文献数
31
被引用文献数
6 11

Suspended moult is a special adaptive moult strategy which is widespread in long-distance migrants. The replacement of remiges and rectrices in this type of moult starts before migration but then is interrupted during migration. So far, it has virtually not been investigated experimentally. We carried out an investigation on the Orphean Warbler, Sylvia hortensis, an European trans-Saharan migrant known commonly to suspend its moult. We studied 15 trapped adults and 8 handraised young individuals, which were kept in light conditions simulating those to which freeliving conspecifics are normally exposed in the course of a year. In the first experimental year, the adults, caught during breeding, all suspended their moult and retained some old primaries, secondaries, and tertials. In the second experimental year, when the same birds were prevented from breeding, they moulted weeks earlier, and, as a result, completed their moult before the migratory period. Similarly, the handraised birds showed a complete moult in their second year. Thus, the suspended moult of the Orphean Warbler is not based on strictly endogenously controlled moult programs with preprogrammed moult pauses. Moult in this species can be adapted on a facultative basis to various conditions experienced. The course of the moult and its suspension appear to be linked to the preceeding individual breeding season, and some conceivable control mechanisms are discussed in detail.
著者
藤巻 裕蔵 樋川 宗雄
出版者
Yamashina Institute for Ornitology
雑誌
山階鳥類研究所研究報告 (ISSN:00440183)
巻号頁・発行日
vol.10, no.1-2, pp.172-177, 1978-03-31 (Released:2008-11-10)
参考文献数
20
被引用文献数
2 2

旭川市東旭川町瑞穂で森林性鳥類の調査法の研究中にクロジの営巣を確認した。調査地は標高500m,面積140haほどの針広混交の天然林中に設けられた23haの区画である。ここではエゾマツ,トドマツの針葉樹が40%,シナ,カツラ,イタヤ,オヒョウなどの広葉樹が60%を占める。調査地の中央を流れる沢を境に南側では林床植物がシダ類,ヤマアジサイなどでそれほど密ではないが,北側ではクマイザサが密生している部分が多い。クロジは調査地内で2~4つがいで生息し,主として北側のクマイザサの密生地にいた。このうち一つがいの巣を1976年7月8日に確認した。巣は高さ130cmのトドマツの幼木上部,地上90cmのところにあり,巣内には4卵があった。その後7月20日に巣内に巣立ちまじかのひなを見たが,翌日にはひなは巣立っていた。このほか調査地内で7月6日に雄1羽と幼鳥3羽の群が観察された。北海道でクロジは,春と秋の渡り時期に平地の森林で見られる。繁殖期には北海道南部以外の地方では標高200~1300mの主として針広混交林でかなり普通に見られる。
著者
西垣外 正行 小海途 銀次郎 和田 貞夫 奥野 一男
出版者
Yamashina Institute for Ornitology
雑誌
山階鳥類研究所研究報告 (ISSN:00440183)
巻号頁・発行日
vol.6, no.3, pp.286-299, 1971-06-30 (Released:2008-11-10)
参考文献数
3
被引用文献数
1

1.1957年から1969年に,大阪,奈良,和歌山の県境を走る金剛山地および和泉山脈のうち,二上山から和泉葛城山までの尾根づたい約40km,幅1kmの範囲で,クマタカの繁殖生活に関する調査を行なった。2.この報告は,12年間に発見された19巣をもとにして,繁殖全期間中,巣場所選定から巣造りまでを扱う。3.本地方におけるクマタカは,1月下旬から2月初旬に巣造り開始の兆候を現わす。4.巣造り期に風雪害による巣に被害が生じた際,営巣が中断され,新に再営巣する。5.巣造りに要する日数はおよそ30日位である。6.本種は自らの古単を利用することがわる。7.営巣樹における巣の位置は,樹幹,樹頂,枝先の3つの型がある。枝先型は本種の特性とみなされる。8.巣の大きさは,直径150cmから80cm位のほぼ円型,巣の厚みは,最大85cmから最小25cm位である。9.産座の材料には,アカマツまたはスギを主とし,ヒノキ,五葉マツを混じえる。いずれも青葉のつらた小枝が使用される。10.巣台に使用される材料は,アカマツの枯枝が主で,最大直径3.5cm,長さ110cmの木片が使用されることがある。11.営巣地点の標高は,250mから600m位で,各主峰に対して1/2位(450m)に位置する事が多い。12.営巣地点と人家の距離150mという例がある。13.営巣林は赤松の純林84%,杉の純林5%,混合林(ヒノキ林にアカマツの混合)11%である。14.営巣樹の大きさは,胸高直径39cm,高さ約5m以上の樹木が必要とされる。15.営巣樹はアカマツ94%,スギ6%である。16.営巣林内の巣の位置は,垂直的には下層部が多く,平面的には何ら特微がない。17.各巣の位置の年変化は,平均590m位である。
著者
元 炳〓 禹 漢貞 咸 奎晃 尹 茂夫
出版者
Yamashina Institute for Ornitology
雑誌
山階鳥類研究所研究報告 (ISSN:00440183)
巻号頁・発行日
vol.4, no.6, pp.405-444, 1966-12-31 (Released:2008-11-10)
参考文献数
25
被引用文献数
1 4

本論文は,1963年6月から1966年12月までの期間に,韓国に於て京畿道を中心として標識放鳥した結果と併せ,この放鳥過程で観察した主に渡り鳥の季節的分布並びに其の生態に就いて纒めて報告した。1.1963年6月6日から25日までの20日間に,3種(及び亜種)99羽,1964年7月3日から1966年12月31日までに124種(及び亜種)123,242羽を放鳥した。22種(及び亜種)196羽(144羽再帰)が国内(標識放鳥した以外の場所)で回収されており,5種(及び亜種),7羽が国外から回収された。2.1964年8月12日から1966年9月30日までの3年間に亙ってSeoul東北方泰陵墨洞所在の梨畑でホオジロハクセキレイ11,680羽とツバメ9,013羽を放鳥した。a.ホオジロハクセキレイは3月初めにツバメは4月上旬,韓国に渡来し5月~6月に繁殖を終え,10月下旬南下移動するまで梨畑で集団就眠する。b.ホオジロハクセキレイとツバメは,同じ塒で就眠するが,帰眠,離眠時間及び照度が違い,その行動にも差異があるのみでなく塒の一部が重複(overlap)するけれども,其の地位(roosting niche)が違っている。ホオジロハクセキレイの大群が塒周囲に集結すると同時に入塒を始める頃,ツバメは上空に現われ始め,ホオジロハクセキレイの群が入塒完了後ツバメ小群が大群をつくりながら就眠地域上空を時計針と反対方向に飛び廻る。次いで低空を飛びながら,素早く入塒を完了する。ツバメが離塒した後,ホオジロハクセキレイが出始める。c.帰眠,離眠(塒)は晴,曇天に依って時間的差はあるが照度(Lux)には,殆んど差がなかった。d.ホオジロハクセキレイは塒から20km半径以上の距離から小群で帰眠飛翔を始める。e.ホオジロハクセキレイとツバメの一部は1~2年後回帰(return)する。再捕獲(repeat)が少いが,これは両種共南下移動中の群であるためであろう。3.1964年7月から1966年10月まで,主に京畿道で放鳥したホオジロ属鳥類は12種(及び亜種)78,170羽である。Emberiza rutila, E. spodocephala, E. tristrami, E. aureola ornata及びE.rusticaは春秋通過する優占種であり,秋には大豆,トウモロコシ,キビ畑を好み,特にEmberiza rutila集団は粟畑に集結する。E.rustica集団は前記4種とは違い,開けた土地の藪,疎林又は森林の下木や灌木等に集結する第一位の優占種である。シマノジコEmberiza rutila秋の渡りは,8月上旬から10月下旬まで,春は5月に韓国を通過する。性比は155:100(17761♂,11674♀)であるが,9月(1964年と1965年両年共)だけは38:100である。渡りの初めには雄群が先立ち,以後雌群が渡来し,次いで若鳥と雌雄の混成群が通過する。アオジEmberiza spodocephala秋は,9月下旬から10月下旬まで,春は4月下旬から5月中旬まで,韓国を通過する。性比は140:100(551♂,392♀)である。シロハラホオジロEmberiza tristrami9月下旬から10月下旬まで韓国を南下通過し,翌年4月下旬から5月中旬まで北上通過する。性比は140:100(551♂,392♀)である。シマアオジEmberiza aureola ornata8月上旬から10月下旬まで,韓国を南下通過し,翌年4月下旬から5月下旬まで北上通過する。カシラダカEmberiza rustica10月上旬南下渡来し始め,前記の4種が韓国を通過完了する頃の10月下旬から大群が南下し,11月下旬から渡来最盛期をあらわす。12月上旬から漸次渡来数が減少しながら通過を終えるが,一部は残留越冬する。越冬群の滞留期間は10月上旬から4月下旬までであり,性比は191:100(25687♂,13450♀)である。チョウセンコジュリンEmberiza yessoënsis continentalis10月中旬頃韓国に渡来するが一部は越冬し一部は南下する。滞留期間は10月中旬らか2月中旬までであるが数は少い。チョウセンホオジロEmberiza cioides周年見かける繁殖種であるが,冬大群が南下し,翌年春北上する。性比は1964年と1965年の調査では159:100(792♂,497♀)である。ミヤマホオジロEmberiza elegans elegans数少く繁殖する留鳥であるが,10月下旬頃大群が南下し,翌年4月北上する。性比は280:100(962♂,462♀)である。ホオアカEmberiza fucata fucata4月中旬韓国に渡来繁殖し,9月大部分南下する夏鳥である。キマユホオジロEmberiza chrysophrys5月と9~10月に極めて数少く韓国を通過する。コホオアカEmberiza pusilla春秋韓国を通過するが数は稀で少ない。厳冬にも数少く南下し漂行しているようである。シラガホオジロEmberiza leucocephala leucocephalaいままで5回6羽が採集され迷鳥として知られていたが,厳冬の1月下旬頃極めて少数南下し,翌年3月まで越冬する冬鳥である。
著者
藤巻 裕蔵
出版者
Yamashina Institute for Ornitology
雑誌
山階鳥類研究所研究報告 (ISSN:00440183)
巻号頁・発行日
vol.34, no.1, pp.73-79, 2002-10-25 (Released:2008-11-10)
参考文献数
21
被引用文献数
1 3

北海道のエゾライチョウBonasa bonasiaの食性について,237例のそ嚢内容物にもとづいて調べた。得られたそ嚢数は,狩猟期の1994/95年と1995/96年の10月~1月の216例,非狩猟期の1996年2~9月の21例である。そ嚢内容物の湿重量を計測した後,各食物項目に区分して乾燥し,各食物項目ごとに乾重量を計測した。各食物項目について月ごとに出現頻度と乾重量で示した。調べたそ嚢内容物237例のうち,35例(15%)は空であった。そ嚢内容物の湿重量は0~49.4g,平均(±標準偏差,以下同様)5.3±6.7g(n=237),乾重量は0~22.5g,平均1.88±3.02gであった。例数の多かった10月~1月についてみると,湿重量,乾重量とも10,11月より12,1月で有意に大きかった。出現頻度の高かった食物は,6,7月には草本類の葉,種子,節足動物,8,9月には葉,種子,果実,節足動物,10月には落葉広葉樹の冬芽,ヤマブドウとサルナシの果実,11,12月には冬芽,葉,果実,1,2月には冬芽であった。これらのうち,同定できたのは,冬芽では,ヤナギ類,カンバ類,ハンノキ類,ホオノキ,サクラ類,ナナカマド類,イヌエンジュ,ニシキギ類カエデ類,ツツジ類,トネリコ類であった。葉では,イチイ,トドマツ,カタバミ類,シロツメクサであった。種子では,ウルシ,トウヒ類,トドマツ,カンバ類,ハンノキ類,キイチゴ類,シソ類,カタバミ類,スゲ類,スミレ類であった。果実では,7,8月にはニワトコ,10月以降にはヤマブドウ,サルナシ,マタタビ,フッキソウ,ツルウメモドキ,ナナカマドであった。動物では,カタツムリ類,クモ類,カゲロウ類,カワゲラ類ハサミムシ類,バッタ類,カメムシ類,アワフキムシ類,鱗翅類,甲虫類,アリ類であった。乾重量でみた主要な食物は,6,7月には種子,8~9月には葉,種子,果実,10~12月には冬芽,葉,種子,果実,1~2月には冬芽と果実であった。北海道における食性をヨーロッパと比べると,どちらも植物食である点では基本的に同じであるが,北海道では樹種の多さを反映して多くの落葉広葉樹の冬芽を利用し,ヤマブドウやサルナシといった蔓植物の果実を秋から地表が雪で覆われる厳冬期までよく食べていた。
著者
ユ・ ヤ・トゥン スウェネン・ コーネリス
出版者
Yamashina Institute for Ornitology
雑誌
山階鳥類学雑誌 (ISSN:13485032)
巻号頁・発行日
vol.37, no.1, pp.43-44, 2005

2004年11月17日に香港のマイポ自然保護区でクロツラヘラサギ<i>Platalea minor</i> の幼鳥が成鳥に餌をねだる行動をしているのを観察した。成鳥は逃げていたが結局, 餌を与えた。その後, 成鳥は幼鳥を追い払ったり, 逃げたりしたが, 幼鳥は餌ねだりを続けた。12月1日にも餌ねだり行動が見られ, 足環から成鳥は同一個体であることがわかった。幼鳥も同一個体と思われた。12月29日にはこの成鳥の足環を読むことができたので2001-2002年の冬に病気のために香港で保護され, 2002年1月30日に放鳥された個体であるとわかった。餌ねだり行動は, 秋の渡り直前に韓国で9月後半に観察されたことがあるが, 越冬地での観察は初めてのことである。幼鳥は数十羽の成鳥のなかから餌をねだる相手を選んでいたので, 餌を要求された成鳥はこの個体の親であったかもしれない。
著者
江崎 保男 馬場 隆 堀田 昌伸
出版者
Yamashina Institute for Ornitology
雑誌
山階鳥類学雑誌 (ISSN:13485032)
巻号頁・発行日
vol.38, no.2, pp.67-79, 2007

1996年~1999年の繁殖期に長野県北東部のブナ林において,個体識別した森林性ホオジロ類であるクロジ個体群の繁殖生態,特になわばりと行動圏について調査した。成鳥雄は若鳥雄よりも有意に早く渡来し,雌は最初の雄よりも6~10日遅れて渡来した。1999年には12羽の雄が出現し10羽が定着した。これら定着個体はすべて雌を獲得し繁殖した。雄間の闘争行動は5月初めから5月15日まで高い頻度で観察されたが,その後急激に減少した。1999年のソングエリアは雄間の闘争が激しかった5月15日以前には,一部の隣接雄間でかなり重複していたが,5月16日以降ほぼ完全に分離し,調査地全域に隙間なく分布していた。1999年に定着した雄10羽のうち6羽は1998年以前より調査地内のほぼ同じ場所で定着・繁殖していた個体であり,クロジの雄がなわばりへの強い帰還性をもつことが明らかになった。ソングエリアとは異なり,かれらの行動圏は繁殖期をとおして大きく重複していた。1999年に調査地内で23個の巣を発見した。雄を特定できた17巣のすべてで,雄親は繁殖地内に定着した10雄のいずれかであった。つがい数より多い巣が発見されたが,雄が特定された17巣のうち16巣では雌親も特定された。雄のなわばり内に複数の巣が発見された場合には,いずれも最初の営巣に失敗した同一つがいが再営巣した結果であった。また,雄親が特定できなかった6巣についても,上記のつがいの再営巣あるいは,調査地に隣接するペアのものと考えて矛盾がなかった。このことから,クロジが社会的な一夫一妻であることが示唆された。