著者
田中 裕
出版者
Yamashina Institute for Ornitology
雑誌
山階鳥類研究所研究報告 (ISSN:00440183)
巻号頁・発行日
vol.18, no.2, pp.55-62, 1986-09-30 (Released:2008-11-10)
参考文献数
20
被引用文献数
1 2 2

1.東京大学海洋研究所淡青丸•白鳳丸航海中に行なった海鳥の目視観察に基づき,ハジロミズナギドリの北太平洋における分布と分布域の表層水温との関係を調べた。2.ハジロミズナギドリは繁殖期には北太平洋西部の極前線域に,非繁殖期には北太平洋を東西に広く分布していた。3.ハジロミズナギドリが最も陸地に接近したのは,2月の伊豆諸島三宅島周辺海域と9月の三陸沖100浬の海域であった。4.分布域の表層水温は,8~28°Cの範囲にあり,最多分布域は5月の8°Cの水温帯であった。5月以外は,12~26°Cの範囲に平均的に分布していた。このことからハジロミズナギドリは繁殖地環境と同じような温暖域を好適水温としながら,一方,寒冷域も生息場所として選択できる種類であると考えられた。
著者
山階 芳麿 真野 徹
出版者
Yamashina Institute for Ornitology
雑誌
山階鳥類研究所研究報告 (ISSN:00440183)
巻号頁・発行日
vol.13, no.3, pp.147-152_3, 1981-12-25 (Released:2008-11-10)
参考文献数
5
被引用文献数
14 22

沖縄島北部の通称ヤンバルと呼ばれている丘陵地帯に,地上を歩くクイナの1種が居る事は少し前から知られていたが,山階鳥類研究所の真野徹外数氏が環境庁の鳥類標識調査事業の一環として国頭郡奥間において,1981年6月18日から7月7日にかけて調査を実施し,そのクイナの成鳥及び幼鳥各1羽の捕獲に成功した。これら2羽については,各部を詳細に調べた後,足環をつけて捕獲した元の場所に放した。又これより前にフエンチヂ岳附近の林道脇にて拾得された1個体を名獲市の友利哲夫氏が標本として保存していたが,これも今回捕獲したものと同種である事がわかった。これら3個体は羽色がRallus torquatus及びその亜種に似ているが,嘴と脚が赤色でやや大きく,それに比例して翼と尾が長くなく,又最外側の初列風切羽はそれ以外の初列風切羽より短いなどの点が異なるので,今迄に発見された事のない新種のクイナと断定し,ここに新種として記載する。
著者
三島 冬嗣
出版者
Yamashina Institute for Ornitology
雑誌
山階鳥類研究所研究報告 (ISSN:00440183)
巻号頁・発行日
vol.5, no.4, pp.397-410, 1968-12-30 (Released:2008-11-10)

Distributional and breeding records by specimen or photographic evidences, additional to the 1958 edition of the handlist of Japanes birds are given of 69 species and one hybrid Lanius cristatus cristatus ×lucionensis. Many records from Riu Kiu Is. are included. Three notes are added: 1. Subspecies of Passer montanus many be devided into kaibatoi (Sakhalin to Yakushima), saturatus (Amami-Oshima to Ishigaki I.) and taivanensis (Iriomote to Formosa). 2. Iriomote I. should be omitted from the distributional localities of Rallina eurizonoides sepiaria and Gallicrex cinerea.
著者
高島 春雄 篠原 圭三郎
出版者
Yamashina Institute for Ornitology
雑誌
山階鳥類研究所研究報告 (ISSN:00440183)
巻号頁・発行日
vol.1, no.11, pp.450-457, 1957-12-25 (Released:2008-11-10)
参考文献数
7

While there are a few reports on myriapod fauna of Tôhoku District (the Northern Part of Honshû), there seems to be no report on myriapods of Towada District. Towada District here, is meant by the area around the big lake, Towada which measures 48km. round, spreading over Aomori and Akita Prefectures. The junior author, Shinohara, had a chance to visit the Lake and, although he could collect only five species of Diplopods and four species of Chilopods, he was lucky in founding among them two new species. Descriptions on them is stated herebelow. What is learnt as a result of consideration on generic diagnoses of Genus Kopidoiulus and Genus Ikahoiulus is also stated. We also added remarks on myriapods found in Irimizu Limestone Cave, Fukushima Prefecture.Epanerchodus towadaensis Shinohara sp. nov.Body length about 18-28mm, width of postcephalic somites 2.5-3.5mm. General color of dorsum darkish brown but legs and somites are yellowish brown. Collum semicircular.Carinae are more or less narrow and produced at caudal end in a short after about the sixth postcephalic plate, and more strongly produced in posterior segments.Tibiotarsus of gonopods of male clubbed with distal portion of it divide in two blades. Distal end of main blade is a little inflated and short bifurcated, but shorter blade rolled outside. Femuroprocess large, and horn long and slender.Holotype: a male (body length 25mm) obtained at Towada, Aomori Prefecture on Oct. 9, 1955. Allotype: a female (body length 28mm). Data same as above. Type specimens were collected by Shinohara and are preserved in his collection.Fusiulus komatsui Shinohara sp. nov.Body length about 17mm. Body width about 1.0mm. General colour brownish black and legs are yellow with darkish brown spots. Number of segments 48 in male. Repugnatorial pores light yellow, fixed the position behind the suture of segments.Setae of the first pair of legs are (1)+(3-4)+(3+5). Inner base and distal end of the second joint of the first pair of legs are areolate, and process of the knee is projected slightly. Penis bifurcate and projects over the anterior margin of coxae of the second pair of legs.Pregonopod of male resembles to that of F. quadratus, but inner angle of distal margin more or less like a protuberance. Postgonopod with thin blades on distal end, and outside of it with two uncertain processes but without cilia on the whole surface of gonopods.Holotype: a male obtained at Towada on Oct. 9, 1955 by Shinohara. The type is preserved in Shinohara's collection.
著者
黒田 長禮
出版者
Yamashina Institute for Ornitology
雑誌
山階鳥類研究所研究報告 (ISSN:00440183)
巻号頁・発行日
vol.8, no.3, pp.282-283, 1976-11-30 (Released:2008-11-10)
参考文献数
4

A presumed old female pintail Anas acuta with masculinized plumage pattern is here reported with its photo taken by Mr. Akio Sasagawa at Shinobazu pond, Ueno Zoo, Tokyo, early February, 1974. It has rough flank markings and elongated central tail feathess.Another example of different plumage pattern also found at the same pond, photographed a 10 February 1976, by Mr. Kazue Nakamura is added.Kuroda (1929, '39) had reported another old record of the pintail and a female Mandarin duck Aix galericulata was masculinized when molted after long kept in author's aviary.
著者
糟谷 大河
出版者
Yamashina Institute for Ornitology
雑誌
山階鳥類学雑誌 (ISSN:13485032)
巻号頁・発行日
vol.36, no.2, pp.105-115, 2005-03-20 (Released:2008-11-10)
参考文献数
15
被引用文献数
1

2002年10月から2003年2月にかけて,関東平野中部においてムクドリの冬季塒の配置と採食範囲について調査し,1953~1962年に実施された調査結果(黒田1955,1956,1962)と比較検討した。調査地域内においてムクドリの冬季塒は37ヵ所発見され,これらは3ヵ所の大規模塒と34ヵ所の小規模塒の2つに分類された。大規模塒に就塒する群れの採食地は塒を中心として放射状に遠距離まで展開するが,小規模塒のそれは塒から近距離の特定地域に限られていた。大規模塒の中で,新浜鴨場(千葉県市川市)に就塒する群れの個体数と採食範囲には,1953~1962年当時と比較して顕著な変化は認められなかったが,埼玉鴨場(埼玉県越谷市)の就塒個体数は大幅に減少し,また就塒する群れの採食範囲も異なっていた。関東平野における近年のムクドリの塒は冬季分散型,夏季集中型であると考えられていたが,現在のムクドリの冬季塒には大規模塒と小規模塒の両者が存在することが示された。
著者
黒田 長久
出版者
Yamashina Institute for Ornitology
雑誌
山階鳥類研究所研究報告 (ISSN:00440183)
巻号頁・発行日
vol.5, no.2, pp.111-137, 1967-12-31 (Released:2008-11-10)
参考文献数
9
被引用文献数
8 11

モグリウミツバメ(Pelecanoides)は翼の長い飛翔型のミズナギドリ目のなかで,外形上は小型ウミスズメに極めて似た翼の小さい潜水型に進化した。ウミスズメ(Synthliboramphus)と外部形態,翼型,翼面積など比較すると一般的類似のなかで,やはり飛翔型由来を反映する測定比例がみられる。一方翼で潜水する適応として初列部の自由な回転(プロペラ効果)など平行的適応がある。剥皮した体型では一次的潜水適応型としてのウミスズメと飛翔型由来の二次的潜水適応型のモグリウミツバメの間に一般体格とその各部(a…zのアルファベット測定)の測定比例の差がみられ,とくに胸郭が太く胸部の短かい点はそれが著しく長いウミスズメと非常に異なる違いである(これは両者の採食法への適応を反映する-後述)。骨学的にもモグリウミツバメは腰骨,肋骨,胸骨などにミズナギドリ目中のウミツバメ科や小形ミズナギドリ科の特徴を保有し,一方潜水適応としての翼骨や脚骨の長さの比例はウミスズメと極めて類似している。ただしモグリウミツバメの腰骨はミズナギドリのなかの潜水性のものほど特化(細長く)していない。また,鎖骨の著しい発達(その形はややウミツバメに近い)は独特の特徴で,これは潜水に必要な胸筋量を前方に増大(後方は腹を圧迫しないように短かい)する効果(適応)があり,飛翔能力も低下させないという補償適応である。この状態はウミスズメ目でもコウミスズメ,エトピリカなど飛翔性の高いものにも平行してみられる傾向である。胸筋ではモグリウミツバメは大胸筋深部をもち(退化しているが),これは他のミズナギドリ目に共通な滑空飛行への適応を保有していることを示す。前胃に多量の食物を貯えるのもモグリウミツバメにみられるミズナギドリ目の特徴で,常時潜水して少しつつ食物をとるウミスズメ目の細い前胃と異なる(この目でもコウミスズメなど飛翔性の高いもので小さい〓のうをみる)。さらに腸の回転型も,恐らく食習性の違いに適応して異なっている。なお,モグリウミツバメはミズナギドリ目特有の体嗅より強い「カモ嗅」を含む嗅いをもつ。
著者
中村 登流
出版者
Yamashina Institute for Ornitology
雑誌
山階鳥類研究所研究報告 (ISSN:00440183)
巻号頁・発行日
vol.6, no.5-6, pp.424-488, 1972-12-30 (Released:2008-11-10)
参考文献数
80
被引用文献数
3 4

1.エナガ(Aegithalos caudatus)の繁殖期の番い行動圏について構造•分布•冬の群れテリトリーとの関係を研究した。調査は1964~1968年の5繁殖期に,本州中部山麓の混合林で行なった。2.番い行動,活動点の分布,移行行動,たたかい行動,手伝い行動を分析し,繁殖期の番いテリトリアリズムについて考察した。3.番いは番い群を経て冬の群れから分出して来る。春に番い形成の行動は見られない。番い群の行動圏は冬の群れのそれに入っている。そしてその範囲を共同で防衛している。番いは冬の群れの中にでき,除々に孤立していく。番い行動圏は番い行動と共に冬の群れのそれから分離して来るが,冬の群れの行動圏内に入っている。4.番いは夜には,共同ねぐらで群れと共に眠る。日中には営巣行動をするが初期には午前中のみで,悪天候には群れに戻る。次第に一日中番いで過し,営巣するようになる。5.番い行動圏は重複し,特に冬の群れ行動圏のセンターでは著しい。優位の雄の番いは早く孤立し,群れ行動圏のセンターに対立するような位置をとる。おそくまでセンターにとどまり,そこで重複した行動圏を持つものは劣位の雄のものである。6.はじめは同じ群れのメンバーと番い群をつくり,異る群れのメンバーとはたたかう。しかし,番いの孤立化が進むにつれて同じ群れのメンバーともたたかうようになる。番いが完全に孤立するのは共同のねぐらから巣の内部へ番いのねぐらを移した時からである。それは巣の外装が完成したあとである。7.たたかい行動のピークは営巣期にあり,営巣期後半に交尾が行なわれる。エナガのテリトリアリズムは営巣期に最高となって完成する。その後,たたかいはずっと減少し行動圏も小さくなる。個体群内は社会的構造において安定し,次世代の生産が行なわれる。しかし実際には抱卵期以後,巣の破壊がはげしくなり,そのために再営巣があるために混乱する。8.番いは行動圏内に高活動密度部を持ち,そこは隣接番いと決して重複しない。パトローリングはそのセンターから出てセンターへ戻る。その間隣接番いとのたたかいがある。また,隣接番いとしばしば対立する特定の数ヶ所がある。9.巣の位置は必ずしも高活動密度部に関係しない。しかしそのセンターの内部か又は近くにある。それはブッシュの濃密な場所である。巣の位置は雄が紹介して雌が決定する。その時求愛や交尾前と同じ型のディスプレイを伴なう。10.再営巣は前の巣の近くに行なうが,しばしば著しく離れ,隣接テリトリーを越えることもある。しかし前の行動圏にこだわる傾向があり,一方では,たとえ離れても冬の群れ行動圏を出ない。11.手伝いは営巣期,抱卵期には現われない。育雛行動のみの手伝いである。独身者と繁殖に失敗した番いであって,後に家族群となり,冬季群のメンバーとなる。12.番いのテリトリアリズムはルーズであるが,space outははっきりしている。番いのテリトリアリズムは冬の群れのテリトリイ内で現われ,その占有地域は冬の群れテリトリアリズムによって保証されている。
著者
山階 芳麿
出版者
Yamashina Institute for Ornitology
雑誌
山階鳥類研究所研究報告 (ISSN:00440183)
巻号頁・発行日
vol.9, no.2, pp.131-142, 1977

本文はソ連邦•中国及び朝鮮に於いて近年出版された報告を集めて,トキ及びコウノトリのアジア大陸東部に於けるこの両種の現状を解説したものである。<br>1.トキがソ連邦で最後に発見されたのは1940年(クリュチ•ザハロフスキー地区),中国で最後に発見されたのは1957年(陜西省洋県)で,既に久しく発見されていないから,恐らく両国では絶滅したものであろう。しかし,朝鮮半島の中部では1965年以後,1974年まで稀に目撃されているので,北方の蕃殖地から稀に中部の平原に迷い出るのであろう。そして,その蕃殖地は不明だが,推測をすれば長白山脈の南側森林地帯が一番可能性がありそうである。<br>2.コウノトリはソ連邦内では,東西はゼーヤ川流域から日本海沿岸まで1,000km,南北はアムール川下流のボロン湖から沿海州南部のハンカ湖まで600kmの広大な地域に未だかなり多く蕃殖している。又,中国に於いても満州の中北部(恐らく嫩江流域)及び中部(ハルピン付近)に蕃殖しているという。これらのごく一部は朝鮮半島及び日本に越冬に来るが,その大部分は中国の揚子江下流及び福建省あたりで越冬する。したがってこの貴重なコウノトリの保存は,ソ連邦と中国の密接な協力によってのみ可能なのである。私はそれを強く希望する。それとともに,未だかなり大陸に蕃殖しているとはいえ,稀に日本に越冬に来るコウノトリが,心なき狩猟家によってたびたび銃殺されているのは,国際的にも日本の恥である。狩猟者及び狩猟者団体の猛省をうながしたい。
著者
山本 裕 樋口 広芳
出版者
Yamashina Institute for Ornitology
雑誌
山階鳥類学雑誌 (ISSN:13485032)
巻号頁・発行日
vol.35, no.2, pp.144-148, 2004-03-20 (Released:2008-11-10)
参考文献数
4
被引用文献数
2 3

ヤマガラParus variusの1亜種オーストンヤマガラParus varius owstoniの分布域である伊豆諸島南部の三宅島(34°05'N,139°32'E)で,亜種ヤマガラP.v.variusと思われる2個体が1996/1997年の秋冬期に観察された。これら2個体は,羽色や計測値から,亜種ヤマガラP.v.variusと判断された。これら2羽は,三宅島南部のスダジイCastanopsis cuspidata var. Sieboldiiが優占する常緑広葉樹林で,1997年4月まで継続して観察されたが,その後,姿を消した。亜種オーストンヤマガラの分布域での亜種ヤマガラの確認は,本報告が初めてである。
著者
高島 春雄 芳賀 昭治
出版者
Yamashina Institute for Ornitology
雑誌
山階鳥類研究所研究報告 (ISSN:00440183)
巻号頁・発行日
vol.1, no.8, pp.329-343, 1956-06-25 (Released:2008-11-10)
参考文献数
15
被引用文献数
2 4
著者
黒田 長久
出版者
Yamashina Institute for Ornitology
雑誌
山階鳥類研究所研究報告 (ISSN:00440183)
巻号頁・発行日
vol.2, no.14, pp.50-59, 1960-06-20 (Released:2008-11-10)
参考文献数
5
被引用文献数
4 7

M. pectoralis major of birds in general consists of M. pect. m. proprius and lateralis (Kuroda, '60) and in soaring birds such as some hawks and the Tubinares a distinct deep-seated layer, M. pect. m. profundus (white muscle in the Tubinares) (Kuroda, 1. c.), is differentiated. The M. p. m. lateralis, generally ignored, is an important part in flight in pulling backward the wing (humerus) struck down by M. p. m. proprius, thus giving the propelling effect to the wing. Comparison of this part of the pectoral muscles in various groups of birds is shown in Plate 1. The comparative weight of M. p. m. profundus (Fig. 3, H, I, L, N) in some species of the Tubinares is listed; it is best developed in the albatross in which the M. p. minor (M. supracoracoideus) is the smallest. The relative weight of entire pectoral muscles to the body weight and that of small pectoral muscle to large pectoral are listed by Orders of birds. As a rule smaller species of a group of birds generally have more developed small pectoral relative to large pectoral. The former muscle is least developed in some hawks and the Tubinares which are soarers and best developed in the wing-diving sea-birds, the Alcidae. Their relative development is heighly adaptive to the way of flight. In the herons, an anterior superficial layer of the M. p. m. proprius can be distinguished, and this was named, the M. pect. major antero-superficialis.
著者
田宮 康臣 青柳 昌宏
出版者
Yamashina Institute for Ornitology
雑誌
山階鳥類研究所研究報告 (ISSN:00440183)
巻号頁・発行日
vol.14, no.1, pp.35-44, 1982-03-31 (Released:2008-11-10)
参考文献数
8
被引用文献数
1 1

アデリーペンギンの非繁殖個体が,育雛期後半にルッカリーに再上陸し,放棄巣や未利用巣で模擬営巣することは従来より知られていたが,その意義についてはほとんど報告されていない。1968-69年のバード岬ルッカリーでの観察で,繁殖の成功に意義があると認められる彼等の行動結果を得たので報告する。この結果から,再上陸は繁殖にとって適応的であると共に,彼等のクレイシシステムはより多くの雛を巣立たせるために役立っていると考えられる。
著者
中村 登流
出版者
Yamashina Institute for Ornitology
雑誌
山階鳥類研究所研究報告 (ISSN:00440183)
巻号頁・発行日
vol.3, no.3, pp.155-173, 1962-12-31 (Released:2008-11-10)
参考文献数
20
被引用文献数
2 2

1.この研究はエナガ(Aegithalos caudatus trivirgatus)の蕃殖期生活の特殊性を明確にするため野外観察の結果をまとめたものである。2.1951年から1961年までの蕃殖期におけるのべ147回の野外調査により,48番,71巣を観察した。雌雄の区別は行動差,尾羽の曲り方の差,尾羽の破損状態,足環によって判別した。3.蕃殖期は比較的早期性で新葉ののびる時期に育雛期が来るように調整されている。早期営巣者は2月からはじめるが寒波によって影響されやすく,営巣期間が晩期営巣者より長い。4.番形成は営巣場所決定以前に行なわれ,番群は冬期群移行範囲の局部執着により出現する。営巣に入っても寒冷気候が戻った場合再び番群が形成される。5.営巣場所は林縁ならびに林冠部で,常緑性針葉樹に執着し10m以上の枝先にもっとも多い。落葉広葉樹の樹幹には3~10m,小灌木またはブッシュでは3m以下である。6.蕃殖期内で巣が破壊された場合営巣場所を変更する。蕃殖期末に破壊された場合再度営巣はしない。7.営巣は雌雄共同で行なう,営巣活動時間は休息時間とほぼ同じ位で,むしろ休息の方が多い。営巣期間は早期営巣者で2ヶ月もかかる場合があるが晩期営巣者は10日位である。8.塒は営巣初期の外廓ができるまでブッシュの中にとり,外廓ができて以後巣内でとる。9.抱卵活動は,巣外時間に対する巣内時間の比で示すと,前半で1に近く,後半で2に近い。10.夕刻巣へ入る時には雄が先導して雌が先に入り,後から雄が入る儀式的行動がある。11.孵化当時の給餌は抱雛している雌に雄が口うつしにし,雌が雛に与えるが数日にして雌雄が給餌行動をとるようになる。12.1羽当り1分間の給餌回数は0.03であり,初期と晩期でやや少ない。13.雌雄の給餌行動には雄が先導して先に雌が給餌し,その間雄はデスプレイ行ない,次に雄が給餌するという儀式的行動がある。14.主として雄が行なうup-right flight displayは営巣期には特定の場所で大規模に行なわれ,産卵•抱卵•育雛期には巣の周辺の一定空間で行なわれ,その活動が最高に達するのは孵化直後である。15.テリトリーははっきりせず巣の防衛が主であり,デスプレイは持ちながらテリトリーの主張をしない。
著者
黒田 長久
出版者
Yamashina Institute for Ornitology
雑誌
山階鳥類研究所研究報告 (ISSN:00440183)
巻号頁・発行日
vol.4, no.5, pp.397-402, 1966-06-30 (Released:2008-11-10)

1. A total of 5, 789 Tree Sparrow Passer montanus were banded in Japan during 1924-'43 with 157 recoveries (2.71%), of which 121 (77.07%) were those banded during August and October at Kuzutsuka, Niigata, a heavy snow area.2. In total, 60.5% of recoveries were made within 5km and 80% within 23km from banded places, and out of 110 recoveries within 23km, 91.8% were within 5km. These results represent resident populations.3. There were no recoveries between 24-100km. But, 45 (29%) recoveries were made again between 100-600km from S-SW directions (except one from E and one N). These data represent emigrating populations and since the birds were banded during August and October and were recovered in winter months, their movements suggest the wintering dispersal. However, whether this is a mere dispersal or a true migration is not clear, and it is suggested that the emigrating population would be young groups of the year.4. Kuzutsuka population consisted of 67.23% resident (within 23km, of which 90% within 5km) and 39% emigrating populations. The latter dispersed distances of 105-406km, while out of only 23 recoveries from birds banded at Nagaura, only 4km from Kuzutsuka, 6 recoveries were made from Okayama at 600km of distance. These 6 birds had been banded in the same period (October to November 2, 1940) and all were recovered after 4 months at Okayama (only one other bird came from Kuzutsuka). This is an evidence of group movement of a local population.5. The periods from banding to recoveries were: within 6 months 77.37% (101), 12 months 13.14% (18), 13-17 months 6.57% (9) and 19-35 months 2.9% (one each for 19, 24, 26, and 35 months) (total 137 cases).
著者
川路 則友 安部 淳一
出版者
Yamashina Institute for Ornitology
雑誌
山階鳥類研究所研究報告 (ISSN:00440183)
巻号頁・発行日
vol.20, no.2, pp.107-110_1, 1988-09-30 (Released:2008-11-10)
参考文献数
11
被引用文献数
1 2

シベリアセンニュウは,これまで日本での正式な確認記録がなかったが(日本鳥学会1974),最近になって標識調査により下記の2個体が捕獲され,日本にも稀ながら渡来していることが明らかになった。最初の個体は,北海道枝幸郡浜頓別町にある環境庁浜頓別1級ステーションにおいて協力調査員山内昇氏により1985年9月29日に捕獲されたものである。成鳥で,性別は不明であった。次の個体は,鹿児島県国分市にある国分干拓で1987年11月15日に筆者らにより捕獲されたものである。この個体も成鳥で性別は不明であった。シベリアセンニュウには4亜種が知られているが(Dement'ev et al. 1968など),筆者らの捕獲したものは,羽毛の特徴,分布などからrubescensに属すると思われた。本種は,渡り途上ではアシ原等の環境でほとんど目立たない行動を示していると思われ,これから標識調査などにより記録が増大することが充分考えられる。
著者
池長 裕史 儀間 朝治
出版者
Yamashina Institute for Ornitology
雑誌
山階鳥類研究所研究報告 (ISSN:00440183)
巻号頁・発行日
vol.25, no.1, pp.28-39, 1993-03-30 (Released:2008-11-10)
参考文献数
16
被引用文献数
2 2

沖縄島の北部のみから記録されているクイナ科の希少種であるヤンバルクイナは5種類以上の鳴き声を持つ。初めてビデオ撮影に成功したデュエットの映像と録音テープをもとに,本種の鳴き声についてソナグラフで解析し,以下の知見を得た。1) 5種類の鳴き声:コールI(ケッケッ(Kyo)-コール),コールII(ググッ(Gu)-コール),ソロソングI(クルル(Krr)-コール),デュエット(ケケケ(Kek)-デュエット)及びソロソングII(ケケケ(Kek)-コール)のソナグラムと波形を図示し,デュエットについては2羽を分別した。2) デュエットの際,2羽はお互いに向かい合わず,反対方向を向いて頭をふりながら同時あるいは交互に鳴き合わせた。3) デュエットは,先に鳴き始め,1秒間に7~8回の比較的安定した間隔で発声する個体と,これに同調し,やや分散的に鳴く別の個体とにより唱和され,この2羽は嘴の長さの差からそれぞれ雄と雌と考えられた。4) ソロソングII(ケケケ(Kek)-コール)はデュエットに類似していたが,他の個体が同調することなく,それより短い独唱のままで終わっており,導入部,声の連続性,後半の声の強さの変化においてデュエットとは差がみられた。5) 同じ種類の鳴き方でも鳴き声は変化し,ある特定の声の特徴について,それが雌雄の差によるのか,鳥の個体差によるものなのかは今後の課題である。
著者
鈴木 昭夫
出版者
Yamashina Institute for Ornitology
雑誌
山階鳥類研究所研究報告 (ISSN:00440183)
巻号頁・発行日
vol.1, no.3, pp.125-126, 1953-12-25 (Released:2008-11-10)
参考文献数
5

1.私は駒井博士の行われた猫の毛色のセンサスと同じ方法で埼玉県所沢附近でセンサスを行い毛色の遺伝関係を調べた。このセンサスで集計された猫の数は276匹(雄140,雌136)である。2.集計された猫について計算した性比は100:100で人為的選択の要因はみられなかつた。3.毛色特に茶の因子が伴性因子によるとの仮説のもとに計算すると駒井博士の結果とよく一致する。又茶の因子頻度は24.56でかなり少い。4.この猫の毛色のセンサスの結果は茶の伴性因子であるという推定によく合うものになつたが,同時に黒と雉とでは雌雄の数に大差なく,その常染色体性のものであることを示している。
著者
岡 奈理子
出版者
Yamashina Institute for Ornitology
雑誌
山階鳥類学雑誌 (ISSN:13485032)
巻号頁・発行日
vol.35, no.2, pp.164-188, 2004-03-20 (Released:2008-11-10)
参考文献数
100
被引用文献数
23 26

The global distribution and status of colonies of the Streaked Shearwater (Calonectris leucomelas) were elucidated on the basis of a comprehensive survey of all published literature, of unpublished literature, and a specimen survey and interviews. Information on colony population size was also obtained. The species occurs or occurred on a total of 98 islands in East and South-east Asia; consisting of 86 islands where breeding occurs (breeding islands), 11 islands with a high likelihood of breeding occurring, and one island with a low likelihood of breeding occurring. The 86 breeding islands, including three on which breeding has definitely or possibly ceased, are located in the following seas from 24-42°N, 121-142°E; 30 islands (35%) in the Pacific, 20 (23%) in the Sea of Japan, 16 (19%) in the East China Sea, 9 (10%) in the Yellow Sea, 7 (8%) in Tsushima Strait, and 4 (5%) around Taiwan. Japan hosts 72 (84%) of the 86 islands, South Korea hosts 6, China hosts 4, North Korea hosts 2, and Russia and Taiwan host one each. Thus most of the breeding islands are located on the continental shelf in the seas surrounding the Japanese Archipelago, an area of high marine productivity. Information on present colony status was unavailable for 21 (24%) of the 86 breeding islands, most of which were in Japan. Streaked Shearwaters still breed on the remaining 62 (72%) islands (52 of which are in Japan) but probably no longer breed on the three other islands. Most (80%) of the 86 breeding islands are situated in temperate areas within the 5-20°C zone of average Spring (March) surface water temperatures; 42% of the islands within the 15-20°C zone, 20% within the 10-15°C zone and 19% within the 5-10°C zone. The remaining 20% are within the 20-25°C (10%) and 1-5°C (9%) zones. Streaked Shearwater populations have recently tended to increase rapidly in the higher latitudes for this species (38-40°N) within the 5-10°C zone in the subarctic boundary between the warmer and colder currents in the northwest Pacific, where about 100, 000 birds breed on the uninhabited islands.Breeding activities largely take place on those islands with a large Streaked Shearwaters population, which corresponds to about 30% of the breeding islands, while only 1-2% of the breeding population breed on the remaining 70% of islands hosting small or medium-size populations. The number of breeding birds on 36 islands (excluding Mikura Island, which has by far the largest population), was recently estimated as 816, 000 birds. As the Mikura Island total was roughly estimated to be 1, 750, 000-3, 500, 000 birds, the total number of Streaked Shearwaters breeding on the 37 islands amounted to 2, 566, 000-4, 316, 000 birds. Further population surveys of the Mikura Island population are needed, as this single estimate greatly influences the size of the estimated world population for this species. Up-to-date information on the status and distribution of Chinese and Korean populations of the Streaked Shearwater is also desired, as both countries have many offshore islands near the breeding zone for the species.
著者
Satoshi Yamagishi
出版者
Yamashina Institute for Ornitology
雑誌
山階鳥類研究所研究報告 (ISSN:00440183)
巻号頁・発行日
vol.14, no.2-3, pp.96-102, 1982-12-20 (Released:2008-11-10)
参考文献数
4
被引用文献数
5 10

A total of 197 Bull-headed Shrikes Lanius bucephalus were examined for this study. Out of 756 nestlings banded for a population study, 38 were re-captured more than once and examined. Their plumage was checked for the presence of buff-tipped greater primary upper coverts (BTGPUCs), and the process of replacement of the buff-tipped coverts was followed. Similar examinations of BTGPUCs were also made on 6 juveniles and on 153 other captured birds whose age could not be established. At least some proximal juvenal BTGPUCs, almost without exception, were retained until the second fall molt. Thus, the presence of these juvenal feathers in the greater primary upper covert (GPUC) series is a reliable criterion for designating first-year birds in this species.