著者
森本 岩太郎
出版者
The Anthropological Society of Nippon
雑誌
人類學雜誌 (ISSN:00035505)
巻号頁・発行日
vol.79, no.4, pp.367-374, 1971 (Released:2008-02-26)
参考文献数
20
被引用文献数
2 2

愛媛県上黒岩岩陰遺跡出土の,縄文早期中葉に属する12~14歳の若年者1体の脛骨は,扁平度が強く,VALLOIS 法による脛指数は54.7を示した.これに対し,日本各地で得られた縄文後•晩期の同年齢者6体の脛指数の平均は77.7であり,扁平脛骨は1例もみられない.一般に扁平脛骨は思春期以後に発現する形質とされているので,上黒岩岩陰の若年者の扁平脛骨は,縄文早期人が後•晩期人よりやや早熟の傾向をもつことを物語るものとして注目される.この上黒岩の若年者の扁平脛骨では,骨幹の周径に対する横断面積の比率が,縄文後•晩期若年者の脛骨に比べて小さく,骨質の不足がうかがわれる.若年者の場合だけでなく,上黒岩岩陰の縄文早期に属する成人7体の脛骨も,各地で得られた縄文後•晩期の成人113体に比べると,骨幹が細い.脛骨骨幹横断形の変異が,下肢運動に対する脛骨の栄養学的•構築学的反応の表われであるとするならば,上黒岩岩陰の若年者の扁平脛骨は,縄文早期の生活条件が後•晩期に比べていっそうきびしかったことを反映するもののように思われ,興味深い.
著者
岩本 有加
出版者
Japan Association for Quaternary Research
雑誌
第四紀研究 (ISSN:04182642)
巻号頁・発行日
vol.44, no.3, pp.145-153, 2005-06-01 (Released:2009-08-21)
参考文献数
24
被引用文献数
1 1

縄文時代早・前期人の骨形態的特徴のひとつとして,扁平脛骨が知られているが,この特徴はすべての早・前期人に見られるわけではない.今まで扁平脛骨の成因についてはいくつかの要因が提案されているが,生活習慣に深いかかわりをもつ環境要素,つまり遺跡の立地条件からの議論は少ない.本稿では,脛骨の扁平度と環境要素との関連性を明らかにするために,脛骨の中央横断示数と遺跡周辺の起伏量との関連を検討した.その結果,起伏量の小さな遺跡から出土した人骨については,扁平脛骨が見られないことがわかった.それに対し,小起伏丘陵と大起伏丘陵に立地する遺跡から出土した脛骨は,扁平度が強い.なかでも小起伏丘陵に立地する遺跡から出土した脛骨については,強度の扁平脛骨が見られた.したがって,脛骨の形態は遺跡の立地条件と密接な関係があると考えられる.