著者
濁川 暁 石崎 泰男 亀谷 伸子 吉本 充宏 寺田 暁彦 上木 賢太 中村 賢太郎
出版者
日本地球惑星科学連合
雑誌
日本地球惑星科学連合2016年大会
巻号頁・発行日
2016-03-10

Ⅰ.はじめに草津白根火山は,群馬・長野の県境に位置する国内有数の活動的火山であり,山頂部には2つの若い火砕丘群(北側の白根火砕丘群と南側の本白根火砕丘群)が形成されている.本火山は1882年以降19回の水蒸気噴火が発生しているが,いずれも北側の白根火砕丘群で発生している(気象庁;2005).これまでの研究(吉本ら;2013)から,草津白根火山では完新世の噴火様式が隣接する火砕丘で異なると考えられているが,特に本白根火砕丘群の噴火履歴の詳細は明らかになっていない.本研究は,本白根火砕丘群についての噴火履歴の解明を目的とする.今回は,火砕丘群の噴出物層序,全岩及びモード組成解析,山頂域噴出物と山麓テフラ層の対比,放射年代測定から明らかになった噴火履歴について報告する.Ⅱ.本白根火砕丘群構成物の産状本白根火砕丘群は,南北に並ぶ少なくとも4つの火砕丘から構成される.それらは,南から古本白根火砕丘(新称),新本白根火砕丘(新称),鏡池火砕丘,鏡池北火砕丘である(高橋ら,2010).古本白根,鏡池,鏡池北の各火砕丘の基底には溶岩流(それぞれ石津溶岩,殺生溶岩,振子沢溶岩)が見られ,その上位に火砕丘本体が載る.各火砕丘本体を構成する火砕岩(古本白根火砕岩,鏡池火砕岩,鏡池北火砕岩)は,成層構造が顕著な凝灰角礫岩として産する.また,古本白根火砕丘と鏡池火砕丘の本体には,それぞれ本白根溶岩ドームと鏡池溶岩ドームが陥入し噴出している.また,各火砕丘の表層部は,隣接する火砕丘の火口拡大期爆発により放出された火山弾により覆われている.東山麓では,国道292号線沿いの標高1780 m地点及び1570 m地点に本火山のテフラが良好に保存された露頭が見られる.この2露頭では,12L火山砂層(4.9 cal ka;吉本ら,2013)をはじめ,複数の示標テフラ層を同定し,他にも火山砂層や炭化材濃集層を複数層確認した(火山砂層と軽石層の名称は早川・由井(1989)に従う).鏡池火砕丘南東麓のガリー壁では,鏡池火砕丘本体の上位に白~灰色火山灰層と土壌層の互層が見られる.灰色火山灰層や土壌層には,計5層準(下位からKG1,…KG5層と呼ぶ)に火山弾が着弾している.Ⅲ.岩石学的特徴本白根火砕丘群の構成物の斑晶組合せは,大部分の岩石が斜長石+単斜輝石+斜方輝石±石英±カンラン石であるが(±;存在しないこともある),古本白根火砕岩及び本白根溶岩ドームでは角閃石が加わり,鏡池北火砕丘構成物では石英が欠けるなどの多様性も見られる.本白根火砕丘群の構成物の全岩SiO2量(wt.%)は,57.7~63.7 %の安山岩~デイサイトであり,SiO2-TiO2図では火砕丘毎及び噴火期毎に組成範囲と組成変化傾向が明瞭に区別される.また,各火砕丘本体の表層を覆う火山弾は,北側に隣接する火砕丘構成物の全岩組成とほぼ一致する.Ⅳ.本白根火砕丘群の形成過程と噴火履歴全岩組成による山頂域噴出物と山麓テフラの対比を行った結果,鏡池火砕丘構成物の全岩及びモード組成が山麓部の12L火山砂層の本質物の全岩・モード組成とほぼ一致した.したがって,鏡池火砕丘の活動は12L層の形成年代と同時期の約5000年前に起こったと結論される.また,鏡池火砕丘本体の上位の火山弾着弾層のうち,KG2層とKG5層の火山弾は,各々鏡池と鏡池北火砕丘構成物と同じ岩石学的特徴をもち,これらの火砕丘頂部の火口の拡大時に放出された可能性がある.KG5層直下の黒ボクの年代(1.5~1.4 cal. ka)から,約1500年前まで鏡池北火砕丘で活動が起きていたようである.また,各火砕丘の表層部に北側に隣接する火砕丘に由来する火山弾が見られることから,本白根火砕丘群の活動は,古本白根火砕丘,新本白根火砕丘,鏡池火砕丘,鏡池北火砕丘の順に,南から北へと変遷したと推測される.本白根火砕丘群のうち,鏡池北火砕丘またはその火口が形成された年代は約1500年前であり,本白根火砕丘群では,これまで推定されていた活動年代よりも最近までマグマ噴火が起きていたことが明らかになった.本研究の年代測定には2014年度(株)パレオ・ラボ研究助成,調査費用には2014年度地震火山災害軽減公募研究助成を使用した.記して感謝申し上げます.
著者
芝池 諭人 佐々木 貴教 井田 茂
出版者
日本地球惑星科学連合
雑誌
日本地球惑星科学連合2014年大会
巻号頁・発行日
2014-04-07

冥王代すなわち約 40 億年前より以前にできた岩体は世界中のどこにも見つかっていない。しかし近年、冥王代の放射性年代をもつジルコンを含む堆積岩が発見され、冥王代にはすでに大陸地殻があったと考えられるようになった。この大陸地殻は、いったいなぜ消えてしまったのだろうか。消失の原因として冥王代末期の天体衝突の集中「後期重爆撃」による破壊や溶融が挙げられるが、定量的な推定はあまりなされていない。本研究ではこれを解析的に計算する式を導出し、後期重爆撃によって大陸地殻の消失を説明することが困難であることを明らかにした。具体的には、後期重爆撃を Cataclysm, Soft-Cataclysm, Standard の三つのモデルで表し、冥王代の大陸地殻が掘削される量と溶融する量を推定した。推定方法は、 以下の通りである。まずは、月面の巨大衝突盆地(Cataclysmモデル)のデータと、力学的数値シミュレー ション(Soft-Cataclysmモデル)および月面のクレーター数密度(Standardモデル)を定式化したものから、小惑星のサイズ分布を考慮して後期重爆撃の規模を推定した。小惑星のサイズ分布は、実際の観測によって与えられた分布を累乗近似し、ベキ指数をパラメーターとした。このベキ指数によって、結果は大きく変化する。そして最後に、クレーターのスケーリング則を用いて、大陸地殻の破壊と溶融を推定した。推定される量は、総掘削体積、総溶融体積、掘削および溶融領域による地球表面のカバー率、の四つである。結果としては、後期重爆撃のいずれのモデルであっても、いくつかの巨大衝突によって大陸成長曲線と同程度の体積を溶融する可能性はあるが、溶融領域が地球表面を覆うことはできないとわかった。冥王代の大陸地殻は地球表面に点在していたと想像されるため、これら全てが溶融されるとは考えにくい。すなわち、 後期重爆撃によって冥王代の岩体の消失を説明することは困難である。
著者
塩崎 一郎 河合 隆行 野口 竜也 齊藤 忠臣
出版者
日本地球惑星科学連合
雑誌
日本地球惑星科学連合2014年大会
巻号頁・発行日
2014-04-07

鳥取砂丘の起伏の象徴である馬の背,その南側の凹地に季節によりその姿を変化させるオアシスがある.このオアシスはいつもみられるわけではなく,夏季には消滅する.また,オアシス凹地へは絶え間なく地表を流れて注がれる流入水が存在しているが,オアシスが存在していないときには,流入水は尻無川となっている.はたして,このオアシスが如何なるメカニズムで発生・消滅しているのだろうか.すなわち,この流入水はどこからきて,どこへ流出するのだろうか.このオアシス湧水に関する問いかけは,古くからの学術的関心であり,例えば、砂丘に降った雨水が地下水となり,一部が泉となって地表に再び表れるという考え方(赤木,1991),保水性の良くない砂丘砂に浸透した雨水が、水を通さない基盤岩の不透水層や透水性の悪い火山灰層の付近に地下水として貯留し、これが湧水となるという考え方(財団法人自然美化管理財団、1995)、近年では、オアシスの形成と砂丘南側に位置する多鯰ケ池の水位変化の関連性を調べた研究(星見,2009)などの知見が既に提出されている. 一方で,学術的に高い価値を有している鳥取砂丘の自然環境は,その自然状態を保全・維持しつつ後世に継承されることが強く望まれているため,砂丘内の自然環境に人為的な影響が生じないよう厳しく管理されており,井戸などの人工物の設置や大型測器による地下水位探査が事実上不可能である.このような理由から,現在に至るまで十分な調査が成されておらず,オアシスの発生・消滅メカニズムを定量的に解明する目的で行われた研究はなく,まだ結論は出ていない. 本研究はこの問いに答える目的のために,すなわち,砂丘内湧水(オアシス)の起源を探るために鳥取砂丘の地下構造と地下水大循環に関する研究を実施した.すなわち,様々な非破壊的な物理探査法を用いて砂丘の地下構造を推定し,地下水の存在形態や流動様式,砂丘の基盤構造などに関する基礎データを得ると共に,水文学的な手法も用いてオアシス湧水の起源ならびに定量的な消長メカニズムの解明を試みた.ここで用いた具体的な方法論は後節に譲るが,概略として,前者の地下構造推定のためには,電気比抵抗映像法,1m深地温探査法,自然電位法,微動探査法,重力探査法を適用し,後者のために,オアシス水に関する水位連続観測ならびに蒸発量解析,オアシス域およびその周辺域の地下水位調査,降水ならびにオアシス湧水と多鯰ヶ池の採水データの安定同位体比解析を導入した.なお,前者の用途においては観測地点の位置や砂丘域全体の地形を把握するためにデファレンシャル法を用いたGPS測量を行い,後者の用途ではオアシス水域およびその周辺の微地形把握のためのトータルステーションを用いた測量を実施した. その結果,鳥取砂丘の地下構造と砂丘内湧水(オアシス)の起源に関して,次に示すようなひとつの結論を得た.「雨水が砂丘砂に浸透し,地下水となる.その一部は火山灰層を主体とする帯水層に導かれ(宙水として)オアシス湧水へ注がれる.オアシス湧水は馬の背の地下を超えて海へ注がれる.オアシス湧水と多鯰ヶ池の水には同時刻的・直接的関連はみられない.また,鳥取砂丘(観光砂丘)全域の大局的な地下水分布は地下構造解析から推定された基盤形状の起伏と関連がみられる.」本研究によりこれらのことが砂丘の地下構造や水位変化,同位体変化などの定量的な観測値から検証されたことに意義があると考えられる.ここではこのような研究の基礎となる学術的背景と調査の概要,複数の調査結果とその解釈,そして,全体を統括したまとめを報告する. なお,本稿で報告されるデータは主に平成21年度?平成23年度に交付を受けた鳥取県環境学術研究振興事業「鳥取砂丘の地下構造と地下水大循環に関する研究-砂丘内湧水(オアシス)の起源を探る-」の一環として取り組まれた種々の研究により取得されたものであることを明記する.
著者
松野 哲男 巽 好幸 島 伸和 鈴木 桂子 市原 寛 清杉 孝司 中岡 礼奈 清水 賢 佐野 守 井和丸 光 両角 春寿 杉岡 裕子 中東 和夫 山本 揚二朗 林 和輝 西村 公宏 古川 優和 堀内 美咲 仲田 大地 中村 崚登 廣瀬 時 瀬戸 康友 大重 厚博 滝沢 秀明 千葉 達朗 小平 秀一
出版者
日本地球惑星科学連合
雑誌
日本地球惑星科学連合2018年大会
巻号頁・発行日
2018-03-14

We started integrated marine investigations of Kikai Caldera with T/S Fukae-maru of Kobe University on October, 2016. Aims of our investigations are to reveal the structure of the caldera, the existence of magma reservoir, and to understand the mechanism of catastrophic caldera-forming eruption at 7.3 ka and a potential for a future catastrophic eruption. We conducted multi-beam echo sounder mapping, multi-channel seismic reflection (MCS) surveys, remotely operated vehicle (ROV) observations, rock sampling by dredging and diving, geophysical sub-seafloor imaging with ocean bottom seismometers, electro-magnetometers (OBEMs), some of which equip absolute pressure gauge, ocean-bottom magnetometers, and surface geomagnetic surveys.The first finding of our investigations is lines of evidence for creation of a giant rhyolite lava dome (~32 km3) after the caldera collapse. This dome is still active as water column anomalies accompanied by bubbling from its surface are observed by the water column mapping. Chemical characteristics of dome-forming rhyolites akin to those of presently active small volcanic cones are different from those of supereruption. The voluminous post-caldera activity is thus not caused simply by squeezing the remnant of syn-caldera magma but may tap a magma system that has evolved both chemically and physically since the 7.3-ka supereruption.We have been conducting integrated analyses of our data set, and have planned the fourth research cruise with T/S Fukae-maru on March, 2018, consisting of MCS survey, ROV observation, OBEM with absolute pressure gauge observation, and bathymetric and surface geomagnetic survey. We will introduce results of the data analyses and the upcoming cruise in the presentation.
著者
小野﨑 晴佳 小野 貴大 飯澤 勇信 阿部 善也 中井 泉 足立 光司 五十嵐 康人 大浦 泰嗣 海老原 充 宮坂 貴文 中村 尚 鶴田 治雄 森口 祐一
出版者
日本地球惑星科学連合
雑誌
JpGU-AGU Joint Meeting 2017
巻号頁・発行日
2017-03-10

2011年3月11日の東日本大震災に伴う福島第一原子力発電所の事故により,膨大な量の放射性物質が環境中に放出された。大気中に放出された放射性物質の一形態として,「Csボール」と呼ばれる放射性Csを含む球状微粒子が注目を集めている。Csボールは2011年3月14日から15日にかけてつくば市内で捕集されたエアロゾル中から初めて発見され1),燃料由来の核分裂生成物を含む非水溶性のガラス状物質であることが明らかとなっている2)。近年の調査により,同様の放射性粒子が福島県内の土壌3)を始めとする様々な環境試料中に幅広く存在することが示唆されているが,東京を含む関東地方における飛散状況は明らかではない。そこで本研究では,SPM(浮遊粒子状物質)が捕集された関東地方の複数の大気汚染常時監視測定局でのテープ濾紙を試料4)として,放射性エアロゾルの分離を行い,その化学・物理的性状を非破壊で分析した。SPring-8の放射光マイクロビームX線をプローブとして,蛍光X線分析法(SR-µ-XRF)により粒子の化学組成を,X線吸収端近傍構造分析(SR-µ-XANES)およびX線回折分析法(SR-µ-XRD)により化学状態を調べた。 本研究でSPM濾紙試料から分離された放射性粒子は,いずれも直径1 µm前後の球形という共通した物理的性状を有していた。134Cs/137Cs放射能比(約1.0)に基づき,これらの粒子は福島第一原発2号機または3号機から放出されたと予想される。これらの性状は,先行研究1,2)で報告されたCsボールの性状とよく一致しているが,約2 µmとされるCsボールに比べて直径がやや小さい。SR-µ-XRFにより,全ての粒子から核燃料の核分裂生成物由来とも考えられる様々な重元素(Rb, Mo, Sn, Sb, Te, Cs, Ba etc.)が共通して検出され,いくつかの粒子は微量のUを含むことが明らかとなった。さらに我々は粒子から検出された4種類の金属元素(Fe,Zn,Mo,Sn)についてSR-µ-XANESから化学状態を調べたが,いずれの分析結果も高酸化数のガラス状態で存在することを示唆していた。またSR-µ-XRDからも,これらの粒子が非晶質であることが確かめられた。このように,関東地方のSPM濾紙から採取された粒子とCsボールの間に化学的・物理的性状の明確な類似性が見られたことから,我々は3月15日の時点で関東広域にCsボールと同等の放射性物質が飛来していたと結論付けた。同時にこれらの分析結果は,燃料由来の可能性があるUが事故直後の時点で関東の広い範囲にまで到達していたことを実証するものである。当日の発表では,流跡線解析による放出時間・飛散経路の推定を通じて,関東地方へのCsボールの飛散について多角的な考察を行う予定である。謝辞:SPM計テープ濾紙を提供してくださった全ての自治体に感謝します。1) K. Adachi et al.: Sci. Rep. 3, 2554 (2013).2) Y. Abe et al.: Anal. Chem. 86, 8521 (2014).3) Y. Satou et al.: Anthropocene 14, 71 (2016).4) H. Tsuruta et al.: Sci. Rep. 4, 6717 (2014).
著者
榊 剛史 鳥海 不二夫
出版者
人工知能学会
雑誌
2018年度人工知能学会全国大会(第32回)
巻号頁・発行日
2018-04-12

フェイクニュースや炎上,エコチェンバー現象など,近年は個人による情報発信における負の側面が注目されている.我々は,それらの現象を引き起こす原因の一つとして,ソーシャルポルノという仮説を提案する.ソーシャルポルノとは,「特定のコミュニティに属するユーザが、脊髄反射的に拡散・共有してしまいたくなる情報」を意味する.本論文では,ソーシャルポルノの観測を行う前段階として,ユーザ反応時間という尺度を定義し,いくつかのツイートについて,ユーザ反応時間分布の違いを考察した.結果として,特定のコミュニティのユーザが拡散する投稿とランダム抽出した投稿には,ユーザ反応時間の分布に違いが生じる可能性が示唆された.
著者
山本 悠真 ジェンキンズ ロバート
出版者
日本地球惑星科学連合
雑誌
日本地球惑星科学連合2016年大会
巻号頁・発行日
2016-03-10

陸上植物は,地球上での重要な炭素貯蔵庫であるが,その構成成分であるセルロースやリグニンは難分解性の有機物であり,光合成によって固定された炭素がそのまま地層中に埋没しやすい.海洋に流出した材はフナクイムシをはじめとした木材穿孔性二枚貝などの材食者によって分解されることが知られている.木材穿孔性二枚貝はヤスリ状の殻で材を小片化し,また,共生微生物を利用してセルロースを分解する.特に深海性の穿孔貝であるキクイガイ類の場合は海底で材を分解する.木材穿孔性二枚貝は木の周囲に分解産物をまき散らすため,材周囲に沈木群集と呼ばれる生態系が形成されることがある.沈木群集には有機物の分解によって生成される硫化水素をエネルギー源とした化学合成生態系が含まれることもある.木材穿孔性二枚貝は前期ジュラ紀に出現し,当時は木を住処として利用しており,ジュラ紀末に木を餌資源として利用するようになった.また,穿孔性二枚貝は白亜紀に多様化した.しかし,白亜紀の海での穿孔性二枚貝の穿孔による木の分解過程は明らかにされていない.そこで本研究では日本の北海道中川町に分布する白亜系蝦夷層群から産出する化石を用い,海での木の分解過程を復元することを目的とした.計67個の炭酸塩コンクリーションを中川町の白亜系露出域から採集し,実験室に持ち帰って表面の観察,切断研磨面および薄片の観察,X線CT撮影,含有無脊椎動物化石のクリーニングなどを実施した採集したサンプルの内約70%に材化石が含まれていた.そのうちの約34%に材への穿孔痕が認められた.穿孔痕壁面の詳細観察により穿孔痕形成者はキクイガイ類などの深海種の木材穿孔性二枚貝だと推定できた.穿孔痕内に硫酸還元菌の活動を示すフランボイド状パイライトの密集が多く見つかった.材化石中や材化石の周囲にパイライトの密集が見つかった.木の周囲にペレットが密集して存在し,その一部には小片化した材が含まれていた.以上の観察事実を総合すると,白亜紀の蝦夷海盆の深海帯においては,少なくとも3割程度の材が深海性穿孔貝と硫酸還元菌による分解を被っていたことが明らかとなった.
著者
尾方 隆幸
出版者
日本地球惑星科学連合
雑誌
日本地球惑星科学連合2016年大会
巻号頁・発行日
2016-03-10

地球科学のアウトリーチにおいて,ジオストーリーの有効性が注目され始めている。ジオストーリーに基づく地球科学的な解説は,学校教育,生涯教育,ジオパークなどのさまざまな場面で有効であるが,科学性とわかりやすさを両立させることは簡単ではない。しかし,地球科学者とメディア制作の専門家が共同作業を行い,この問題を追求することで,良質のジオストーリーを生み出す可能性が拓ける。その事例として,NHKの人気番組「ブラタモリ」の沖縄・首里編(2016年2月27日放送)を取り上げる。この回では,世界文化遺産「琉球王国のグスク及び関連遺産群」に登録されている首里城跡とその城下町をフィールドに,サイトを巡りながら,地史学的テーマ,地形学的テーマ,水文学的テーマ,さらには世界遺産としての歴史・文化に関するテーマを組み合わせ,ストーリーを構築した。ストーリーの構築にあたっては,科学性の確保だけではなく,それぞれのテーマのシームレス性を重視した。こうした工夫は,さまざまな場面での地球科学のアウトリーチに応用できるものといえる。
著者
伊藤 英之 辻 盛生 井村 隆介
出版者
日本地球惑星科学連合
雑誌
日本地球惑星科学連合2018年大会
巻号頁・発行日
2018-03-14

霧島・えびの高原では2013年12月以降,火山性地震・微動の増加や地殻変動が認められている.2017年4月には熱異常域の拡大や噴気量の増大,5月8日には噴出物も確認されたことから,噴火警戒レベル2への引き上げが行われた.2017年7月~8月にかけては急激な傾斜変動が観測され,それに対応して噴気活動も活発化した. 2018年1月19日には,継続時間約1分の火山性微動が観測されるとともに,傾斜計データの変化,火山性地震の増加など活発な活動が現在も継続中である. これらの活動に付随して,えびの高原周辺では湧水等にも変化が認められている.2017年3月19日には硫黄山南西側で,3月21日には火口南側で,6月4日には韓国岳登山道脇で顕著な熱水活動が確認されている(気象庁噴火予知連資料,2017).これらのことは火山性流体がえびの高原浅部にまで流入していることを示唆しているものと考えられる. 我々はえびの高原の浅部地下水系の理解と火山防災への寄与を目的として,2017年6月3日よりEC,水温の連続モニタリング観測を行うとともに,複数箇所の湧水を採取し,水質分析を継続的に実施している. 連続観測している地点は3カ所で,1カ所は水温のみ(No.1),残り2カ所ではEC・水温(No.2,No.3)を測定している.いずれのサイトでもデータの変動幅が大きい.EC・水温ともに降雨との相関は認められ,降雨時にはEC・水温とも一時的に低下し,特にECは,わずかの降雨にも敏感に反応する.一方,火山活動との相関については不明瞭である.2017年9月25日以降,不動池南西にある湧水ポイント(No.3)が枯渇し,それ以降のデータが回収できなくなった. 湧水湧出地点8カ所のいずれのサンプルでも,時系列変化が認められ,特にデータロガーを設置した3地点における陽イオン・陰イオンの時系列変化は著しい.これらのサンプルでは2017年9月22日以降,Ca+,Na+やSO42-,Cl-など主要イオン濃度の上昇傾向が認められ,特にNo.1における主要イオン濃度の情報が著しい.現在,火山活動や気象条件との相関について検討を行っている.
著者
松永 康生 神田 径 高倉 伸一 小山 崇夫 齋藤 全史郎 小川 康雄 関 香織 鈴木 惇史1 4 木下 雄介 木下 貴裕
出版者
日本地球惑星科学連合
雑誌
JpGU-AGU Joint Meeting 2017
巻号頁・発行日
2017-03-10

草津白根山は群馬県と長野県の県境に位置する標高2000mを越える活火山であり、その山頂部は2つの主要な火砕丘で構成されている。そのうち、北部に位置する白根山では、火口湖である湯釜を中心に活発な活動が観測されていることから、これまで地球化学的研究を中心に様々な研究が行われてきた。一方で、白根山の2kmほど南に位置する本白根山では、歴史時代に火山活動が観測されていないこともあり、幾つかの地質学的な研究を除いてほとんど研究されておらず、地下構造や火山熱水系については不明な点が多い。たとえば、本白根山の山麓には草津温泉、万代鉱温泉、万座温泉など湧出量が豊富な温泉が分布し、それらの放熱量は湯釜周辺からのものを大きく上回ることが知られているが、熱の供給源の位置については未だに不明である。また、本白根山は1500年前にマグマ噴火が起こったことが最近の地質学的研究で明らかにされたものの、マグマ溜まりの状態・位置についてはほとんど分かっていない。本白根山における噴火の発生可能性を議論する上でも、本白根山周辺のマグマ熱水系を解明することは重要である。そこで本研究では、白根山南麓を含む本白根山周辺の23点において広帯域MT観測を行い、地下比抵抗構造の推定を試みた。MT法は電磁気探査手法の一つであり、地下のメルトや熱水など高導電物質に敏感であるため、マグマ溜まりや熱水系の観測に適している。MT法データの3次元解析によって得られた最終モデルから、白根山から本白根山の地下1-3kmにかけて低比抵抗体が広がっていることがわかった。この上部に火山性地震の震源が分布することから、この低比抵抗体は流体に富んだ領域であり、ここから流体が浅部へと上昇し、地震を引き起こしていると考えられる。先行研究において、山麓温泉(草津温泉、万代鉱温泉、万座温泉)は、高温火山ガスと天水が混合してできた初生的な温泉水が、分別過程を経ずに湧出したものであると解釈されていること、この低比抵抗体の他に目立った火山性流体の存在領域が見られなかったことから、本研究ではこれを山麓温泉の流体供給源と考え、以下のようなモデルを提案する。(1)低比抵抗体の下深くには何らかの熱源が存在し、上部に熱と流体を供給する。(2)熱の供給を受けた低比抵抗体内の流体は山頂下へと上昇し、火山性地震を発生させる。(3)流体の一部は断層に沿って本白根山の東斜面へと上昇し、表層に変質領域を形成する。(4)この流体と天水が混同してできた温泉水は東斜面の溶岩中を流れ下り、万代鉱温泉、草津温泉として湧出する。一方、本白根山の直下では、マグマの存在を示すような特徴的な低比抵抗体は解析されなかった。しかし、現状では深部構造を詳細に議論できるほど測定・解析精度が十分ではないので、今回の解析結果からは火山直下にマグマ溜まりが存在しないと結論づけることはできない。今後、マグマ熱水系の推定精度を向上させるため、追加の観測やシミュレーションを実施していきたい。
著者
池上知子 高史明# 吉川徹 杉浦淳吉
出版者
日本教育心理学会
雑誌
日本教育心理学会第59回総会
巻号頁・発行日
2017-09-27

企画趣旨 2015年6月に公職選挙法が改正され,選挙権が得られる年齢が20歳以上から18歳以上に引き下げられ,2016年夏の参議院選挙から適用された。選挙運動を行うことのできる年齢も同様に引き下げられている。これを機に若者に投票所に足を運んでもらうにはどのようにすればよいか各方面で議論されている。また,受験勉強や部活動に追われている高校生や大学生に政治参加を促す主権者教育が教育現場の大きな課題となっている。一方,半数近い若者が「政治のことはよくわらない」という理由から政治参加に対して不安や戸惑いを感じているという調査結果もある。わが国の将来を担う若者が社会や政治のあり方を変える大きな力となることは歓迎すべきことではあるが,そのためには,若者自身の問題意識の深化や判断能力の向上をはかることが必要である。問題に対する表面的理解,近視眼的判断が国や社会の指針を左右することがあってはならないからである。本シンポジウムでは,日本の若者が現代社会に内包されている問題(格差・貧困・差別等)をどのように認識しているかを探り,社会の深層構造の理解と変革への動機を促す手立てについて考えてみたい。インターネット世代のレイシズム高 史明 近年の日本では,在日コリアン(日本に居住する韓国・朝鮮人)をはじめとする外国籍住民に対する差別的言説の流行が大きな社会問題になっている。こうした流行は2000年代を通して進展してきたが,2013年頃から社会的な関心も向けられるようになり,2016年の「ヘイトスピーチ解消法」の成立・施行をもたらしている。報告者はこうした在日コリアンに対するレイシズム(人種・民族的マイノリティに対する偏見・差別)の問題について,特にインターネットの使用との関連性に注目して,実証的な研究を行ってきた。本報告ではその成果を踏まえて,「若者はいかにして社会・政治問題と向き合うようになるのか」という問いの中でも,「インターネットが日常となった現在において,若者はどのような経路で社会・政治についての情報と接触するのか,それはどういった内容のものなのか,その結果若者はどのような政治的態度を持つのか」について論じる。 まず,若者層の情報獲得手段の変化,つまり新聞を読む習慣の減少とインターネットへの傾斜について,既存の調査および発表者の持つデータにもとづき紹介する。次に,インターネット上の2つのコミュニティ(TwitterとYahoo!ニュースのコメント欄)における言説の特徴についての研究を紹介し,インターネットを通じた情報接触が若者の政治的態度に及ぼしうる影響について論じる。最後に,報告者がこれまで行ってきた調査データを,「若者とインターネットとレイシズム」という観点から再分析した結果をもとに,若者は他の世代と比べてどの程度レイシズムを受容しているのか,またインターネットの利用はどのような影響を若者に及ぼしているのかを論じる。社会意識論から見た現代日本の若者-社会的なものにかかわりたがらない若者たち-吉川 徹 若者論は社会学のなかでも常に活況を呈している分野である。90年代に制服少女を語った宮台真司から,数年前の古市憲寿の幸福な若者に至るまで,若年層の新しく繊細な文化的動向は,「失われた20年」と形容される同時代の見通しにくさを端的に論じてきた。その反面,冷静に見極めると,日本社会における若者のプレゼンスはかつてないほど低下している。これは第一に,若年人口の量的な縮小による。現在の日本の若者の同年人口は,70年安保当時の若者であった団塊の世代のおよそ半数にすぎない。第二に,若者の年齢拡大がある。社会的役割や地位が未確立なアイデンティティ形成期,あるいはモラトリアム期を若者のメルクマールと考えると,非正規化,晩婚化,パラサイト・シングルなどの実態は青年期を長期化させている。政府統計や官庁の公式文書においても,かつては20歳前後であった若者の年齢幅が,いつしか35歳までとされるようになり,現在では40歳未満という見方が定着しはじめている。40歳といえば,一昔前ならば若者の親の世代にあたる。第三に,若者の集団としての画一性が失われ,ひとまとまりの文化現象を呈さなくなっていることがある。浅野智彦らはこれらの動向を受け,若者が「溶解」していると指摘する。 そんななかで,社会に対する広い視野や,人生の長いパースペクティブをもたず,自己利益だけをコンサマトリーに考える傾向が若年層で浸透している。合わせて就労,文化,政治,消費などの社会的活動の積極性も他世代より低い。さらに詳しくデータを見ていくと,これは現在の若年層に一様にみられる傾向ではなく,性別,学歴(社会的地位),地域による分断を確認できる。政治的な関心や政治的な行動には,若者内でのセグメントの分断がとりわけ顕著に表れる。一例を挙げるならば,若年・非大卒層は社会的な積極性が他の層と比べて著しく低い。しかし,かれらこそが,雇用条件の悪化や,経済的困窮,非婚化,晩婚化の当事者として政策上の支援を必要としている人びとに他ならない。本企画においては,このような若者の政治参加をめぐる不整合を検討したい。格差問題への理解を促すゲーミング杉浦淳吉 社会には様々な格差が存在している。経済格差をはじめ,学校教育には「スクールカースト」のような問題もある。格差が生じるプロセスとその葛藤および解決策をゲームによって体験しながら理解する実践的研究を紹介する。ゲーミング・シミュレーションは現実社会の問題構造を現実と切り離された安全な空間で再現し,それを体験できる環境を用意することが可能である。格差問題を扱ったゲーミングとして仮想世界ゲーム(広瀬,1997)が挙げられる。初期条件として優位な集団と劣位な集団を設定し,集団間の葛藤とその解決の学習が可能である。また,階層間移動ゲーム(大沼,1997)では,ゲーム内で階層格差を作り出し,いったん格差が生じると,それぞれの立場から問題をとらえるようになっていく。この2つのゲーミングは,格差による葛藤に対して参加者全体の合意にもとづくルール変更というオプションが用意されている点が特徴として挙げられるが,大多数にとって納得のいく提案でなければルール変更は実現されず,格差を解消するルールの導入は困難となる。これらのゲームは30~40名の規模で長時間にわたる演習が必要であるが,ここでは5~6名のグループ単位で簡便なルール設定による格差の拡大と解消,及びルールの改訂に焦点をあてるゲームの活用方法を提案する。 大富豪というトランプゲームはルールの設定の仕方により格差拡大およびその葛藤と解決を学習する演習に展開できる (杉浦・吉川,2016)。大富豪は様々なルールのバリエーションが存在するが,格差拡大のルールは実際に順位の変動を小さくし,また逆転機会を提供するルールは順位の変動を大きくしており,ルール設定の仕方次第で格差の固定化・流動化が可能となる。グループ間でルールの異なるゲームを設定した演習を行うと,各々体験したゲームが表す社会が閉鎖的か否かといった評価に違いがみられた。ルール改正の話し合いにおいて,リーダーと認識されたプレーヤのリーダーシップタイプと新ルールの評価の関連を検討したところ,リーダーが民主的であると認識されていたグループの方が,リーダーが放任的あるいは専制的であると認識されていたグループよりも,ルール変更により逆転のチャンスが増えたと評価していた。若者の多くによく知られ楽しまれているカードゲームを格差問題の理解につなげる学習ツールとして展開するための方法と効果について討論する。
著者
Koizumi Takeshi 宮村 淳一 菅野 智之 橋口 祥治
出版者
日本地球惑星科学連合
雑誌
日本地球惑星科学連合2016年大会
巻号頁・発行日
2016-03-10

気象庁は、噴火災害軽減のため、全国110の活火山を対象として、観測・監視・評価の結果に基づき、噴火警報を発表している。噴火警報は、噴火に伴って発生し生命に危険を及ぼす大きな噴石、火砕流などの火山現象の発生や、危険が及ぶ範囲の拡大が予想される場合に、「警戒が必要な範囲」を明示して発表される。噴火警戒レベルが運用されている火山では、気象庁は、あらかじめ地元の火山防災協議会で合意された、防災行動とリンクした噴火警戒レベルを付して噴火警報を発表する。これらの噴火警報は、報道機関、都道府県等の関係機関に通知されるとともに、直ちに住民等に周知される。地元の市町村等の防災機関は、噴火警報に基づき、入山規制や避難勧告等の防災対応を実施する。平成26年(2014年)9月27日に発生した御嶽山噴火では、11時52分の噴火発生から8分後の12時00分、気象庁は「噴火に関する火山観測報」を発信し関係者に噴火発生の事実を伝えるとともに、警戒が必要な範囲を評価した上で、12時36分に噴火警報(噴火警戒レベル3)を発表した。しかしながら、噴火は登山中の人々を巻き込み、多くの人命が失われる結果を招いた。火山噴火予知連絡会の火山情報の提供に関する検討会は、登山者等火山に立ち入っている人々に、迅速、端的かつ的確に伝えて、命を守るための行動を取れるよう、「噴火速報」を新たに発表することを提言、気象庁は平成27年(2015年)8月からその運用を開始した。噴火速報は、登山者や周辺の居住者に噴火後速やかに身を守る行動を取ってもらうため、噴火の規模の評価等を行う前に、噴火の発生事実のみを発表する情報である。噴火速報は、観測体制の整っている常時観測火山を対象とし、その火山が初めて噴火した場合、また、継続的に噴火している火山では、それまでの規模を上回る噴火を確認した場合に発表される。視界不良により遠望カメラでの確認ができない場合でも、地震計や空振計のデータで推定できる場合は、気象庁は「噴火したもよう」として噴火速報を発表する。噴火速報は、気象庁ホームページ、テレビ、ラジオなどで知ることができるほか、平成28年1月現在、ヤフー株式会社、日本気象株式会社、株式会社ウエザーニューズによって、スマートフォンアプリ、メール等による情報提供サービスが行われている。
著者
鈴木 惇
出版者
人工知能学会
雑誌
2018年度人工知能学会全国大会(第32回)
巻号頁・発行日
2018-04-12

本研究は、主に Web 上で投稿されている、台本形式小説 (SS: ショートストーリーもしくはサイドストーリーの略とされる) を自動生成することを目的とする。本研究は既存のニューラル対話モデルを各話者の特徴を考慮して拡張する。提案モデルである three-step unified LSTM interlocution producer (TULIP) は発話符号化LSTM, 文脈更新 LSTM 発話復号化 LSTM の三つのLSTMの結合によりなっている。本研究では提案モデルに Web 上 の台本形式小説を学習させ、直接既存の小説を加工することなく一から小説を生成した。本研究では、質的、量的の双方の観点から出力した小説を評価し、提案するLSTMベースの手法が自然な日本語列を生成することを確認した。さらに、既存の定量評価手法の問題点についても指摘した。
著者
鶴田 治雄 大浦 泰嗣 海老原 充 大原 利眞 森口 祐一 中島 映至
出版者
日本地球惑星科学連合
雑誌
JpGU-AGU Joint Meeting 2017
巻号頁・発行日
2017-03-10

東電福島第一原子力発電所事故直後における大気中放射性物質の時空間分布の解明のため、大気環境常時測定局で使用されている、β線吸収法浮遊粒子状物質(SPM)計中の使用済みテープろ紙に採取された放射性セシウムの分析を、これまで東北地方南部と関東地方南部の99地点で実施して、その解析結果とデータ集を2つの論文(Tsuruta et al., Sci. Rep., 2014; Oura et al., JNRS, 2015)で公開した。その後、第一原発から約4km及び16km近傍に位置したSPM局2地点(双葉、楢葉)における事故直後のテープろ紙の提供を受け、SPM中の放射性セシウムを分析した結果の概要を報告する。まず、SPM計が東日本大震災直後も正常に作動していたかどうかを調べて慎重に検討した結果、信頼できると判断した。そこで、2011年3月12-23日(楢葉は3月14-23日)の期間、1時間連続採取されたSPM試料中のCs-134とCs-137濃度を分析した。また、これらのデータを総合的に解析するにあたり、福島県のモニタリングポスト(MP;上羽鳥、山田、繁岡、山田岡など)と第一・第二原発のMPの空間線量率、気象庁のAMeDAS地点と1000hPaの風向風速なども利用した。その結果、これまでの99地点のデータだけではわからなかった、原発近傍の大気中放射性セシウム濃度の詳細な時間変化が、初めて明らかになった。原発より北西方向に位置する双葉では、Cs-137が高濃度(>100 Bq m-3)となったピークは、3月12-13日、15-16日、18-20日に6回も測定され、その多くはプルーム/汚染気塊として、さらに北西~北方へ運ばれたことが明らかになった。また、原発より南側に位置する楢葉でも、高濃度のピークが、3月15-16日、20-21日に6回測定され、その多くは、プルーム/汚染気塊として、風下側の関東地方か福島県南部に運ばれた。これらのプルーム/汚染気塊は、これまでの論文で明らかにしたプルーム/汚染気塊と良い対応が見られたが、今回の測定で新たに見つかったものも、いくつか存在した。また、近くのMPの空間線量率のピークとCs-137濃度のピークとを比較した結果、両者のピーク時間がほぼ一致し、良い対応関係が見られた。とくに、3月12日午後3時における双葉でのCs-137の高濃度のピークは、近くのMPで期間中に最大となった空間線量率のピーク時間とよく一致し、放射性物質のFD1NPP近傍での動態が、詳細に明らかになった。謝辞:2地点のテープろ紙を提供してくださった福島県に感謝します。この研究は、文科省科研費「ISET-R」と環境省推進費「5-1501」で実施中である。
著者
新妻 信明
出版者
日本地球惑星科学連合
雑誌
日本地球惑星科学連合2016年大会
巻号頁・発行日
2016-03-10

気象庁が公開しているCMT発震機構解に基づき太平洋スラブが下部マントルに到達し,崩落を開始したかを検討したので報告する.2015年5月30日M8.1の小笠原沖の地震では震度1以上で日本列島全域が揺れ,深度682kmの震源域が太平洋スラブに連続していることを示すとともに.太平洋スラブ先端が660km以深の下部マントルに到達したことを示した.この3日後の6月3日にも同域でM5.6深度695kmと更に深い地震が起こり,下部マントル突入を確実にした.これらの地震は同じ正断層型発震機構であった.震源域では2011年3月11日の東日本大震災後,日本海溝側への引張応力増大によって発震機構が変化し,2013年11月には西之島が噴火を開始した.また南方のマリアナ海溝域で2013年5月14日M7.3pr深度619kmが,マリアナスラブは海溝から同心円状屈曲したまま下部マントル上面に沈込んでいることを示した.伊豆スラブは同心円状屈曲後平面化して南ほど急斜しており,幾何学的にマリアナスラブとの間に裂け目が存在しなければならない.この裂け目の北側に位置する伊豆スラブ南端で.2015年5月・6月の下部マントル地震は起こっている.この下部マントル地震は現在の最深記録であるが,それまでの最深記録はウラジオストック域の2009年4月18日深度671kmM5.0+ntであった.この深度も660kmの下部マントル上面深度以深である.深度660kmの下部マントル上面の温度圧力条件下では,上部マントル主要構成鉱物のカンラン石は,高密度のペロブスカイトに相転移する.この相転移は低温ほど高圧を要するため,低温のスラブは下部マントル上面を通過できず停滞すると考えられる.スラブ先端も次第に暖められ,ペロブスカイトに相転移を開始すると,浮力を失って後続のスラブを下部マントルへ引き摺り込む.低温のスラブも引き摺り込まれると高圧になり相転移が連鎖的に進行する.連鎖的相転移はスラブを下部マントルに崩落させる.映画「日本沈没」(第2版)では,日本沈没を,停滞スラブの下部マントルへの崩落よって説明している.2009年4月18日の地震も下部マントル地震であったのであろうか.2009年4月18日の発震機構は横ずれ断層+nt型であり,停滞スラブ内の逆断層型発震機構と異っており,660kmを境界に発震機構が変わっている.また,震源がスラブの下面に位置していることは,沈込前に海底で冷却されていないことを意味しており,スラブ中で相転移し易い条件を持っていることから,下部マントル地震であったと考えられる.ウラジオストック域で太平洋スラブが下部マントルに突入していたとすると,2011年3月11日の東日本大震災の原因となったであろう.同域では,2016年1月2日にも初動震源(破壊開始)深度681km M5.7が起こっている.しかし,そのCMT震源(主要破壊)深度は641kmであり,発震機構が圧縮過剰逆断層P型と停滞スラブと同じであることから,2009年4月に下部マントルに突入を開始していたスラブ下面に停滞スラブが引き込まれて起こったと考えられる.ちなみに,2009年4月の初動震源深度とCMT深度は共に671kmであり,小笠原の下部マントル地震は,682kmと688kmおよび共に695kmである.太平洋スラブは2009年4月18日に下部マントルへの崩落を開始し,2011年3月11日東日本大震災を起こし,2015年5月30日・6月3日に伊豆スラブ南端も下部マントルに崩落させ,2016年1月2日にウラジオストック域で停滞していたスラブも下部マントルに引摺込んだ.千島海溝でも2012年8月14日深度654kmM7.3pが起こっており,660km以深の地震が起これば,太平洋スラブ全体は下部マントルへの崩落を開始する.日本列島は,日本海拡大後の1千万年前に脊梁域まで海面下に没している.この地質記録を生かし,既に開始した日本沈没に対処しなければならない.
著者
渡辺 満久 鈴木 康弘 中田 高
出版者
日本地球惑星科学連合
雑誌
日本地球惑星科学連合2016年大会
巻号頁・発行日
2016-05-19

1. はじめに布田川-日奈久断層の活動により2016年熊本地震が引き起こされ、甚大な被害を生じた。被害がとくに顕著な地域はやや局所的であり、活断層との関係が伺われる。以下、益城町と南阿蘇村の事例を報告し、今後の地震防災に活かすべき教訓として提示したい。2.益城町益城町の市街地では震度7を2度記録したが、4/16の地震時の建物被害が著しかったようである。地震被害が激甚な害域は、南北幅が数100 km程度で、東西に数 km連続する「震災の帯」をなしている。ここでは、耐震性が低くない建物までもが壊滅的な被害を被っていることがある。この「震災の帯」の中には、益城町堂園付近から連続する(布田川断層から分岐する)地震断層が見出さるため、その活動が地震被害の集中に寄与している可能性が非常に高い。木山川南方の布田川断層沿いにおいても地震断層が出現し、その近傍では壊滅的な被害を受けた家屋が集中している。その被害集中範囲も、地震断層沿いの幅およそ1km程度内に限定される。このように、地震断層直上の建物は悉く全壊し、近傍においても建物被害が著ししい。断層運動による地盤のずれとともに、強震動と地盤破壊による影響が強かったと推定される。3.南阿蘇村阿蘇カルデラ内の南阿蘇村(倒壊した阿蘇大橋周辺)においては、複数の地震断層が併走して現われた。地震断層直上およびその近傍では、ほとんどの建物が倒壊しており、多くの犠牲者を出した。ここでも、断層運動による地盤のずれてしまったことと、断層近傍での震動が強かったことが、被害を拡大させたと考えられる。これらの地震断層は、事前に検出することは非常に困難であると思われる。断層による地盤のずれの現われ方に関して、今後の防災においては非常に貴重な事例となるであろう。また、この地域においては、少なくとも5台の自動車が北~北西方向へ横倒しとなっていることも確認した。このような現象は、兵庫県南部地震では確認されていない。横ずれ断層にともなう断層直交方向のS波により転倒したと推定される。それは、南阿蘇村に集中する大規模な斜面崩壊の引き金にもなったと思われる。4.まとめ活断層の位置は、地震防災上きわめて重要活基礎的な情報であることが再確認された。どうようの現象は兵庫県南部地震時に神戸市街地でも確認されていたのであるが、残念ながら活断層の重要性が共有されることはなく、結果的に、兵庫県南部地震の教訓を生かすことにはつながらなかった。今後、活断層の事前認定が防災上極めて重要であることを再認識し、「都市圏活断層図」等を活用することによって、広域的な減災対策を講ずることが必要である。なお、南阿蘇村の事例は、現段階での活断層認定の限界を示すものである。地震防災を考える上では、既知の活断層周辺において何が起こるのか、慎重に検討してゆく必要がある。
著者
野田 陽
出版者
人工知能学会
雑誌
2018年度人工知能学会全国大会(第32回)
巻号頁・発行日
2018-04-12

本研究では各入力次元の寄与度に基づいて入力へ重みをかける、補助重み法 (AW) を提案する。AW は特徴抽出するという意味で Lasso に似ているが、医用質量分析機器データのように、少数の判別に寄与する次元に対して大量の寄与の無い次元がある場合に Lasso よりも高速に特徴抽出が可能である。(実証コード:https://bitbucket.org/akira_you/awexperiment)
著者
菊池聡 石川幹人#
出版者
日本教育心理学会
雑誌
日本教育心理学会第57回総会
巻号頁・発行日
2015-08-07

科学的な主張の外観がありながら,実際には適切な科学的な方法論が適用されていない誤った主張や言説は,疑似科学やニセ科学と呼ばれる。日本では血液型性格学やマイナスイオンなどがその代表とされる。疑似科学信奉は,迷信や占い信奉などと並んで,超常信念(paranormal belief)の一つと位置付けられる。こうした超常信念は,しばしば科学的知識や合理的思考の欠如と関連づけられるが,一方で合理的・適応的な役割も担うことも指摘されている(菊池,2012)。 疑似科学が一般社会もたらす深刻な問題の一つとして,疑似科学にもとづく一部の補完代替医療や健康法などが無批判に信用され,健康被害が引き起こされることがある。こうした健康法・健康食品の利用は,高齢者にとって強い関心事といえるが,石川(2009)の調査では,新聞に掲載される疑似科学的広告の9割以上が健康食品を扱っているという現状がある。 高齢者の超常信念は青少年と異なる特徴を持つことは松井(2001)や菊池(2013)などで示されているが,心理学領域での超常信念の研究は,合理的思考と対比される文脈で,青少年を対象として行われることが多かった。そこで,本調査では,現実に,科学的に根拠の無い(効果の疑わしい)医療や健康法のユーザーとなりうる高齢者を対象として,科学的な立場からの批判が受け入れられにくい背景要因について検討を行った。方法調査協力者 シルバー人材センター登録者で会員研修会に参加した585名に調査用紙への回答を依頼し,郵送法で回収した。有効回答者,267名。年齢は61歳から88歳まで。平均71.5歳(SD=4.9)。質問紙・日常生活での健康への態度 健康状態や,健康法・健康診断への取り組み,メディアを通した健康情報の収集などについて尋ねた。11項目5件法。・疑似科学的言説への態度 「マイナスイオンを使った器具で健康状態が改善できる」など,疑似科学的主張や,健康食品の効能,科学的気象予測など計7種類の主張に対して,それぞれ「信頼できる↔信頼できない」「興味がある↔興味がない」「科学的↔非科学的」の各5件法。信頼性の評定を疑似科学信念得点とした。・科学的懐疑への態度 『自分が愛用している健康食品や健康法に対し科学的な根拠がはっきりしないのではないか,という意見を聞かされた』場面を想定させ,そこで取る態度について尋ねた。「根拠を知ろうとする」「感情的に反発する」「自分の実感を信用する」など7項目5件法。・その他,迷信への態度や科学への態度など。結果 疑似科学的主張への信頼度(肯定率)を,菊池(2013)の同県内高校生データと比較すると,血液型(高齢者肯定率25%)はほぼ同等だが,マイナスイオン(15%)や地震雲(27%)の肯定率は半分程度であった。また,疑似科学の信頼性評定は科学性評価と.r=65~.75の相関があり,高齢者はこれらを迷信としてではなく科学性をもとに信頼度を評価していることが示された。 「科学的懐疑への態度」項目を因子分析によって「情報探索」「感情的反発」「失望」「無関心」の4尺度とし,日常の健康への態度や疑似科学信念との関連を重回帰分析によって求めた(Table.1)。その結果「情報探索」は,「日常的健康情報収集」「性別(男性)」と有意な関連があった。一方,「反発」「失望」「無関心」といったネガティブな態度は,すべて「疑似科学信念」と正の関連性が示された。その他の健康への態度や,迷信態度,年齢などとの関連性は見られなかった。考察 科学的立場からの懐疑論や疑似科学批判は,しばしば科学的根拠の乏しさや不十分さを批判するパターンを蹈襲する。しかし,高齢者はある種の科学性にもとづいた理性的判断のもとで疑似科学信念に至るがゆえに,批判的な指摘に対して,判断の誤りを指摘されたようにとらえ,ネガティブな反応をする傾向があると推測できる。これは有効な科学コミュニケーションのあり方や現代社会の問題としての疑似科学を考える上で重要な示唆となりうるものである。