著者
中川 栄二
出版者
認知神経科学会
雑誌
認知神経科学 (ISSN:13444298)
巻号頁・発行日
vol.18, no.1, pp.9-14, 2016 (Released:2016-12-06)
参考文献数
15

【要旨】発達障害とは、先天的な様々な要因によって乳児期から幼時期にかけてその特性が現れ始める発達遅延であり、主な発達障害には、知的障害(ID)、自閉スペクトラム症(ASD)、学習障害(LD)や注意欠陥多動性障害(ADHD)などがある。発達障害ではてんかんの併存や脳波異常を認める割合は高く、抗てんかん薬の治療効果が報告されている。自験例220例での検討では、脳波異常76%、てんかん併存40%、睡眠障害を34%に認めた。脳波異常は、入眠時に前頭部優位の高振幅鋭波や徐波、高振幅律動性速波がASDで55%、ADHDでは64%と高頻度に認められた。脳波異常を認めるASDでは、抗てんかん薬内服で生活の質の改善が75.5 %で認められ、脳波異常を認めるADHDでは、抗てんかん薬内服で生活の質の改善が70.5%で認められた。発達障害と脳波異常の関連については、特に前頭葉の抑制系機能の未熟性や機能低下が認知機能や抑制機構に影響を与えていると考えられ、てんかんを伴うとさらに抑制機能が低下することが示唆された。
著者
斎藤 義朗 福村 忍 齋藤 貴志 小牧 宏文 中川 栄二 須貝 研司 佐々木 征行
出版者
The Japanese Society of Child Neurology
雑誌
脳と発達 (ISSN:00290831)
巻号頁・発行日
vol.44, no.6, pp.477-481, 2012-11-01

ノイロトロピン<sup>®</sup> (Neurotropin, ワクシニアウイルス接種家兎炎症皮膚抽出液) は頸肩腕症候群や帯状疱疹後疼痛に有効であり, 成人の一次性頭痛に対する効果も報告されている. 今回, 他の各種薬剤に効果が乏しかった慢性頭痛の小児2例で本剤が有効であった. いずれも中学生女子, 片頭痛を発症して2~3年後に増悪をきたし, 不登校にいたった経過で, 起立性調節障害の併存, 間欠的な四肢・背部の疼痛, MRI上の大脳白質散在性病変も共通していた. Neurotropinには他の鎮痛薬にはない下降性疼痛抑制系の増強効果があり, 小児の難治な慢性頭痛にも有効と示唆された.
著者
斎藤 義朗 福村 忍 齋藤 貴志 小牧 宏文 中川 栄二 須貝 研司 佐々木 征行
出版者
一般社団法人 日本小児神経学会
雑誌
脳と発達 (ISSN:00290831)
巻号頁・発行日
vol.44, no.6, pp.477-481, 2012 (Released:2014-12-25)
参考文献数
15

ノイロトロピン® (Neurotropin, ワクシニアウイルス接種家兎炎症皮膚抽出液) は頸肩腕症候群や帯状疱疹後疼痛に有効であり, 成人の一次性頭痛に対する効果も報告されている. 今回, 他の各種薬剤に効果が乏しかった慢性頭痛の小児2例で本剤が有効であった. いずれも中学生女子, 片頭痛を発症して2~3年後に増悪をきたし, 不登校にいたった経過で, 起立性調節障害の併存, 間欠的な四肢・背部の疼痛, MRI上の大脳白質散在性病変も共通していた. Neurotropinには他の鎮痛薬にはない下降性疼痛抑制系の増強効果があり, 小児の難治な慢性頭痛にも有効と示唆された.
著者
新井 麻子 中川 栄二
出版者
金原出版
巻号頁・発行日
pp.961-965, 2016-06-01

症例は4歳女児で、生直後より筋緊張低下、および特異顔貌多発奇形を認めた。吸綴が不良なため経管栄養管理となった。生後3ヵ月頃より体幹、四肢にリング状の襞を認め、ミシュランタイヤ児症候群と診断した。徐々に襞は顕著になり、2歳頃最も著明になったが、以後次第に軽快した。1歳まで経管栄養を施行したが、その後経口摂取可能となった。運動発達の遅滞を認め、2歳で座位可能となったが、つかまり立ちなどは認めていなかった。また精神発達の遅滞もあり、有意語はなかった。FISH解析を行ったところ、46,XX,ish del(1)(p36.3)(D1Z2-)と染色体異常を認め、1p36欠失症候群と確定診断した。4歳時に朝食中に突然無呼吸、チアノーゼが出現、脳波検査にて両側後頭部に高振幅徐波、右前頭・中心部に棘波を認めた。てんかんによる無呼吸と診断し、抗てんかん薬内服となった。4歳になり、つかまり立ち、伝い歩きを認めるようになったが、有意語は出現していない。
著者
中川 栄二 石川 充 山内 秀雄 花岡 繁 須貝 研司
出版者
一般社団法人 日本小児神経学会
雑誌
脳と発達 (ISSN:00290831)
巻号頁・発行日
vol.25, no.6, pp.571-573, 1993-11-01 (Released:2011-08-10)
参考文献数
6
被引用文献数
2

経管栄養を受け血清亜鉛値が低値であった重症心身障害児 (者) 8名に亜鉛欠乏症の治療を目的とし, 硫酸亜鉛, きなこ, ココアを投与してそれぞれの投与前後の血清亜鉛値の変化を検討した. 投与量は, 硫酸亜鉛は金属亜鉛として1~2mg/kg/日, きなこは15~259/日 (亜鉛としては0, 7~hng/日), ココアは6~129/日 (亜鉛としては0.7~1mg/日) とした. 投与前後の血清亜鉛値は, 硫酸亜鉛では45.5μ9/dl±8.1から76.5μ9/dl±4, 5に, きなこでは53.5μ9/dl±6.4から67.6μ9/dl±9.4に, ココアでは53.7μg/dl±7.2から66.4μg/dl±59にそれぞれ変化し, 硫酸亜鉛, きなこ, ココアのいずれも投与後に, より有意に亜鉛値を改善維持した. また, きなこおよびココアは硫酸亜鉛より少ない亜鉛投与量で同等の効果が認められた。さらにココアはきなこより少ないカロリーと投与回数で亜鉛値を改善維持することができた. 以上の点からこの三者の中では, ココアが亜鉛欠乏症改善剤として最も優れていると考えられた.
著者
中川 栄二
出版者
一般社団法人 日本小児神経学会
雑誌
脳と発達 (ISSN:00290831)
巻号頁・発行日
vol.51, no.2, pp.91-96, 2019 (Released:2019-05-08)
参考文献数
15
被引用文献数
1

2017年に国際抗てんかん連盟 (ILAE) の用語・分類委員会は, てんかん発作とてんかん分類に関する新たな提言を行った. てんかん発作型, てんかん病型, てんかん症候群の3段階でてんかんを分類診断し, 可能な限り病因診断を行い, てんかん発作のみならず併存症状を含めて包括的にてんかんを診断し治療すべきであることを提言した. 本邦では, ここ10年間で新規の抗てんかん薬が相次いで発売されるようになり, てんかん治療に用いられる薬剤は20種類を超えるが, 2006年以降に承認された新規抗てんかん薬が10剤を占めている. 小児のてんかん診療と治療は, 新規の抗てんかん薬などの最新のエビデンスや併存症状も勘案して生活の質の向上を目指して包括的に行う必要がある.
著者
小林 瑛美子 中川 栄二 宮武 千晴 竹下 絵里 石山 昭彦 齋藤 貴志 小牧 宏文 須貝 研司 佐々木 征行
出版者
一般社団法人 日本てんかん学会
雑誌
てんかん研究 (ISSN:09120890)
巻号頁・発行日
vol.33, no.1, pp.76-82, 2015-06-30 (Released:2015-08-06)
参考文献数
13
被引用文献数
2 2

症例は10歳女児。新生児期脳出血後遺症による非定型欠神発作を認めていたが抗てんかん薬(クロナゼパム、カルバマゼピン、ラモトリギン)の内服により疲労時に短い発作症状を認めるのみに落ち着いていた。9歳時に乾燥細胞培養日本脳炎ワクチン第1期1回目及び2回目を接種した。2回目接種後から1カ月経過した頃より非定型欠神発作が群発するようになった。頭部MRIでは右側大脳・脳幹部の萎縮を認めていたが進行はしていなかった。脳波では2.5~3 Hzの全般性棘徐波を睡眠ステージに関係なく連続的に認め、電気的なてんかん重積状態を示した。髄液中の抗グルタミン酸受容体抗体の上昇を認め、てんかん発作の急激な悪化に自己免疫異常が関与していると考え、免疫グロブリン静注投与を行ったところ発作頻度が減少し脳波上の改善も得られた。臨床経過からてんかん発作の急性増悪因子として日本脳炎ワクチン接種が考えられた。
著者
吉岡 誠一郎 須貝 研司 富士川 善直 小牧 宏文 中川 栄二 佐々木 征行
出版者
一般社団法人 日本小児神経学会
雑誌
脳と発達 (ISSN:00290831)
巻号頁・発行日
vol.39, no.6, pp.432-435, 2007-11-01 (Released:2011-12-12)
参考文献数
9

乳児期に部分皮質形成異常と診断されていたが, 経過中に片側巨脳症に進展した難治性てんかん男児例を報告した.患児は4カ月時に難治性てんかんを発症し, 発達は退行した.4カ月時の頭部MRI検査では, 右前頭葉弁蓋部周囲の部分皮質形成異常と診断された.この皮質形成異常部位は徐々に肥厚, 拡大し, 5年後には右大脳皮質のほとんどを占め, 右半球全体も大きくなり, 片側巨脳症と診断した.最重度精神運動発達遅滞を呈し, てんかん発作のコントロールは困難であった.FDG-PET, 脳血流SPECTでは片側巨脳症側の糖代謝低下と発作時脳血流量増加を認めた.進行性腫大を呈した片側巨脳症の報告は今までになく, 片側巨脳症の病態生理を考察する上で重要な症例である.
著者
井上 道雄 本橋 裕子 竹下 絵里 石山 昭彦 齋藤 貴志 小牧 宏文 中川 栄二 須貝 研司 佐々木 征行
出版者
日本重症心身障害学会
雑誌
日本重症心身障害学会誌 (ISSN:13431439)
巻号頁・発行日
vol.40, no.2, pp.231, 2015

はじめに経鼻胃管を利用する重症心身障害児(者)(以下、重症児(者))では、骨格変形や嚥下障害等により、適切な胃管留置ならびに胃内に管があることの確認がときに困難である。当院では、管の胃内留置を確認するため、pHチェッカーを用いて逆流物が胃酸と同等のpH5.5以下であることを確認している。一方で、重症児(者)の胃酸分泌抑制薬使用者へのpHチェッカーの有用性を検討した報告は乏しい。目的経鼻胃管を使用する重症児(者)において、胃酸分泌抑制薬の内服がpHチェッカーの結果に与える影響について検証する。対象当院重症児(者)病棟に入院中で経鼻胃管を利用している17人。方法カルテ診療録を調査し、胃管の留置位置が適正であると確認できた例の、注入前と胃管交換時に用いたpHチェッカー5.5 (JMS)の値と内服情報を収集し、その関係について検討した。経鼻胃管内腔の容量が最低1.6mlであるため、胃内容物が1.6ml以下は除外した。結果対象者の使用薬剤数は平均7.8剤、16人が胃酸分泌抑制薬(H2受容体拮抗薬、プロトンポンプ阻害薬)あるいは制酸剤(酸化マグネシウム)を内服していた。46機会の計測を行った。そのうち、胃内容物が1.6ml以下は25機会(全体の54%)であった。残りの21機会分のpH値で検討を行った。21機会中、胃酸分泌抑制薬もしくは制酸薬内服ありの19機会でpH 5.5以下は14機会(74%)だった。考察胃残が十分引けない機会が相当数あり、重症心身障害児の胃酸分泌抑制薬・制酸薬内服者で、pHチェッカーで逆流物を胃内容物であると同定できた割合は半数以下であった。胃残が十分量引けない例での内服薬の間接的影響の有無は今回は検討できていない。胃残が十分量引ければ、pHチェッカーは74%の感度で呼吸器分泌物と胃内溶液が鑑別できる。今後、胃酸分泌抑制薬・制酸薬の非内服者における、胃逆流物量、pHチェッカー値のデータが蓄積し、今回のデータと比較を行うことが必要である。
著者
髙橋 純一 安村 明 中川 栄二 稲垣 真澄
出版者
認知神経科学会
雑誌
認知神経科学 (ISSN:13444298)
巻号頁・発行日
vol.16, no.3+4, pp.179-187, 2015 (Released:2017-09-26)
参考文献数
20

【要旨】ADHD児に対する新規治療法としてニューロフィードバック (NF) 訓練の中でSCP (slow cortical potential) 訓練を中心に研究紹介を行なった。ADHD児10名のSCP訓練の有効性の検証を行ない、そのうち9名 (ERP指標では8名) が最終的な分析対象となった。訓練前後における神経生理学的指標として、事象関連電位 (ERP) 指標では注意の持続能力に関するCNV振幅を用いた。行動指標では、ADHD傾向を測定できるSNAP-Jが保護者によって評定された。脳波 (EEG) 指標では、SCP訓練におけるセッションごとの陰性方向および陽性方向のEEG振幅の変化を分析した。ERP指標の結果から、SCP訓練前後でCNV振幅の有意な上昇が見られた。一方、行動指標では、SCP訓練前後の評定得点に関する変化は見られなかった。SCP訓練中のEEG振幅については、セッションを経るにつれて陰性方向および陽性方向のEEG振幅の上昇が見られた。CNV振幅は注意の持続を反映することから、SCP訓練によって、対象児の注意の持続に関する能力が上昇したと推測した。以上から、本研究で実施したADHD児へのSCP訓練は一定の効果があったと考えた。また、SCP訓練中のEEG振幅が変容したことから、SCP訓練前後のCNV振幅の変化と訓練中のEEG振幅の上昇との間に何らかの関連が示唆された。