著者
金子 文成 大西 秀明 大畑 光司 高橋 容子 松田 雅弘 森岡 周
出版者
一般社団法人日本理学療法学会連合
雑誌
理学療法学 (ISSN:02893770)
巻号頁・発行日
vol.49, no.2, pp.95-98, 2022 (Released:2022-04-20)
参考文献数
10

経頭蓋磁気刺激(以下,TMS)に関して,Baker らの報告以来,これまでに多くの研究が報告されてきた。 非観血的な方法であることから理学療法に関連する学術大会や学術誌においてこの方法を用いた研究が報告される例は多く,患者を対象とする臨床研究も散見されるようになってきた。このような状況を鑑み,当該刺激方法に関する安全性を検討する委員会を有する国内学会や,国際的な指針からの情報を簡潔にまとめ,理学療法領域の研究に従事する方々に情報共有することが肝要との判断から,声明を発出するに至った。TMS を用いた研究にかかわる場合には,必要な知識の習得と十分なトレーニングが重要であり,今後,大学院カリキュラムのレベル,あるいは卒後教育のレベルで,トレーニングの標準化を検討するべきであろう。現時点では個々人の技術と知識の習熟状況,および実施環境などから慎重に行われつつ,さらに知見が蓄積されていくことを望む。
著者
松田 雅弘 高梨 晃 川田 教平 宮島 恵樹 野北 好春 塩田 琴美 小山 貴之 打越 健太 越田 専太郎 橋本 俊彦
出版者
理学療法科学学会
雑誌
理学療法科学 (ISSN:13411667)
巻号頁・発行日
vol.26, no.5, pp.679-682, 2011 (Released:2011-11-25)
参考文献数
13
被引用文献数
1

〔目的〕股関節外転筋疲労前後の片脚立位時の重心動揺と中殿筋・脊柱起立筋の活動との関係を明らかにすることを目的とした.〔対象〕神経学・整形外科学的な疾患の既往のない健常成人男性22名(平均年齢21.4歳)とした.〔方法〕股関節外転筋疲労前後で片脚静止立位時の重心動揺と筋活動量の変化を計測した.疲労前後の重心動揺と筋活動量を対応のあるt検定,重心動揺と筋活動の関係をpearsonの相関を用いて求めた.〔結果〕疲労後にX方向の重心動揺が有意に増加し,中殿筋の活動は減少,右脊柱起立筋の活動は有意に高まった.右脊柱起立筋の活動の増加と重心動揺に正の相関がみられた.〔結語〕筋疲労により筋の作用に関連する方向の重心動揺が増大し,代償のための筋活動が増加したと考えられる.
著者
松田 雅弘 新田 收 宮島 恵樹 塩田 琴美 高梨 晃 野北 好春 川田 教平
出版者
理学療法科学学会
雑誌
理学療法科学 (ISSN:13411667)
巻号頁・発行日
vol.27, no.2, pp.129-133, 2012 (Released:2012-06-13)
参考文献数
13
被引用文献数
6 1

〔目的〕軽度発達障害児の立位バランス能力を重心動揺計にて定量的に評価した.〔対象〕対象は軽度発達障害児群17名(平均5.4歳),健常児群17名(平均5.4歳)の児童を対象とした.研究の対象者と対象者の親に対して,事前に本研究の目的と方法を説明し,研究協力の同意を得た.〔方法〕被験者は重心動揺計(ANIMA社製)の上で,開眼・閉眼,各30秒間静止立位保持をサンプリング周波数20 Hzにて計測を行った.〔結果〕開眼・閉眼時とも軽度発達障害児群において健常児群よりも有意に重心動揺・動揺速度が大きかった.〔結語〕幼児の静止立位の重心動揺の評価を行ったが,健常児群と比較して軽度発達障害児群で動揺が大きく,姿勢制御能力の未熟さのあることが考えられる.
著者
金子 賢人 松田 雅弘 千葉 康平 山下 智幸 刀祢 麻里 粟野 暢康 久世 眞之 猪俣 稔 林 宗博 出雲 雄大 森本 正
出版者
理学療法科学学会
雑誌
理学療法科学 (ISSN:13411667)
巻号頁・発行日
vol.36, no.4, pp.547-551, 2021 (Released:2021-08-20)
参考文献数
12

〔目的〕新型コロナウイルス感染症(COVID-19)群と細菌性肺炎群の身体機能と経過について検討する.〔対象と方法〕入院前ADLが自立していた患者で,入院中に人工呼吸管理を行ったCOVID-19患者12例,または細菌性肺炎患者10例を比較検討した.〔結果〕COVID-19群の入院からリハビリテーション開始までの期間は,細菌性肺炎群の入院からリハビリテーション開始までの期間と比較して有意に遅延していた.しかし,リハビリテーション介入を実施することで身体機能や基本動作能力が向上する傾向にあり,対照群との身体機能の回復傾向は同等であった.〔結語〕COVID-19患者においても早期からリハビリテーションを開始する必要性があることが示唆された.
著者
韓 露 中楯 浩康 青村 茂 張 月琳 松田 雅弘 小山 貴之
出版者
一般社団法人日本機械学会
雑誌
シンポジウム: スポーツ・アンド・ヒューマン・ダイナミクス講演論文集
巻号頁・発行日
vol.2015, pp."C-11-1"-"C-11-6", 2015-10-30

In this study, Judo and American Football (AF) are spotlighted as typical physical contact sports that concussion or subdural hematoma could happen during a play. In Judo, "waza" to cause a risk to hit a head on a tatami were performed by Judo players and recorded by VICON system and the motions were reconstructed by MADYMO by using VICON data and kinetic data and hit part were generated. In Americal football, the moment of concussion was reconstructed by MADYMO by observing the accident data in real play recorded on a video and kinetic data and hit pat were generated. In both cases the strain and stress of the brain tissue were calculated in detail by the FE human head model and injury risk was predicted, respectively.
著者
相澤 高治 松田 雅弘
出版者
JAPANESE PHYSICAL THERAPY ASSOCIATION
雑誌
日本理学療法学術大会
巻号頁・発行日
vol.2009, pp.A3O2059-A3O2059, 2010

【目的】<BR>本研究の目的はジャンプ能力と股関節筋力との関係性の検討である。ジャンプ能力と筋力との関係については、太田垣らが等速性膝屈伸筋力との相関があると報告しており、膝屈伸筋力に関しては同様な報告が多数ある。筆者らは第44回全国理学療法学術大会において、熊本らが提唱する機能別実効筋力とジャンプ能力との関係性を検討し、股関節屈筋筋力との関係性を示唆する報告を行なった。しかし、股関節筋力に関する報告は散見する程度であり、更なる検討が必要であると考えた。<BR>【方法】<BR>整形外科的疾患を有しない健常者16人(男性8人、女性8人、身長165.4±8.4 cm、体重59.9±8.7kg、平均年齢19.7歳)を対象とした。筋力測定にはBIODEX(SAKAImed製BDX-4)を用い、右脚の等速性股関節屈伸筋力を角速度60、180、300deg/secで各3回測定した。屈曲、伸展それぞれの最大値を体重で除してトルク体重比として算出した。ジャンプテストは片脚で行ない、全て右脚を測定脚とした。種類は垂直跳び、幅跳び、三段跳び、6mHopの4種目とした。垂直跳びはタッチ式測定法で測定し、着地は両脚とした。幅跳びは踏み切り時のつま先から着地時の踵までの距離を測定し、着地は両脚とした。三段跳びは踏み切り時のつま先から着地時の踵までの距離を測定した。3回連続で前方に跳び、最後の着地は両脚とした。6m Hopは6mの距離を出来るだけ素早くホップし、その時間を測定した。テストは2回実施し良値を採用した。上肢や反体側の下肢についての動作規定は設定しなかった。統計処理はSPSSver15(windows)を使用して4種目のジャンプ能力と股関節屈曲・伸展トルク体重比間における相関をPearsonの相関係数を用いて検討した。有意水準は5%未満とした。<BR>【説明と同意】<BR>ヘルシンキ宣言に基づいて、研究内容の説明、被験者に対する不利益の排除、個人情報の保護を説明し、同意を得た上で実験を行なった。<BR>【結果】<BR>ジャンプ能力とトルク体重比で有意差のあった項目は以下の通りであった。垂直跳び:屈曲60deg/sec(r=0.49)、屈曲180deg/sec(r=0.67)、屈曲300deg/sec(r=0.83)。幅跳び:屈曲180deg/sec(r=0.54)、屈曲300deg/sec(r=0.75)。三段跳び:屈曲180deg/sec(r=0.62)、屈曲300deg/sec(r=0.75)。6mHop:屈曲180deg/sec(r=-0.50)、屈曲300deg/sec(r=-0.64)。伸展に関しては全てに有意差を認めなかった。<BR>【考察】<BR>股関節屈曲筋力と4種目のジャンプ能力との関係性が改めて確認された。小澤らは大腰筋の断面積と重心動揺との関係性の検討から大腰筋が前後方向のバランス能力に関与していると報告しており、また森田らも大腰筋訓練が片脚立位での前後左右方向のバランス能力に寄与したと報告している。本研究は全て片脚でジャンプ動作を行なっており、先の報告以上にバランス能力が求められたと推測される。このことから、股関節屈曲筋力とジャンプ能力の関係性にバランス能力が関与した可能性が示唆される。次に水平方向の要素が強い幅跳び、三段跳び、6mHopと股関節屈曲筋力との関係性で推測されることは着地姿勢への関与である。この3種目は下肢を前方に素早く屈曲させ、着地時に下肢が体幹の前方回転を制動すると推測される。つまり股関節屈曲筋力と着地姿勢形成能力が関係したと示唆される。一方、垂直跳びに関してはRobertsonが動作解析により、下肢伸展筋の貢献度を股関節40%膝関節24%足関節35%だと報告している。しかし今回の結果では伸展筋との相関は確認されず、異なる結果となった。ここで熊本らが提唱する協調制御モデルで考えてみる。モデルでは拮抗筋の同時収縮が系先端(足部)での出力方向制御を担うとされ、4種目とも股関節筋群が方向制御を担当する領域でtake-off時に出力していると推定される。股関節の伸展に拮抗するだけの屈曲筋力があることにより方向制御が可能となると考えられ、出力方向制御能力とジャンプ能力との関係性が示唆される。今後は股関節屈曲筋力とジャンプ能力との関係性は確認できたが、まだ推測の域をでないものが多く、動作の種類やフェーズとの関係性、協調制御モデルにもとづく解析方法の検討など、更なる検討が必要と思われる。<BR>【理学療法学研究としての意義】<BR>従来の報告は出力を生み出す膝関節に注目が集まり、ジャンプ能力と膝屈伸筋力との関係性に議論が集中していた。しかし私達の研究成果は、股関節屈曲筋力が関与するとされるバランス能力や出力方向制御能力がジャンプ能力と関係することを示唆するもので、他に報告はなく新規性が高い。
著者
大沼 亮 星 文彦 松田 雅弘 酒井 朋子 神野 哲也
出版者
The Society of Physical Therapy Science
雑誌
理学療法科学 (ISSN:13411667)
巻号頁・発行日
vol.37, no.4, pp.427-432, 2022 (Released:2022-08-20)
参考文献数
18

〔目的〕脳卒中片麻痺患者の歩行開始時の体幹運動特性について検証した.〔対象と方法〕対象は健常高齢者10名と脳卒中片麻痺患者30名とした.重心動揺計,表面筋電計,加速度計を用い,歩行開始時の体幹運動を計測した.筋電図は左右の中殿筋と脊柱起立筋の4筋を導出筋とし,加速度は頸部(C7),腰部(L3),骨盤(S1)に貼付し,測定した.〔結果〕脳卒中片麻痺患者の筋活動潜時は,麻痺側先行ステップ時の麻痺側中殿筋,非麻痺側先行ステップ時の麻痺側脊柱起立筋が非麻痺側より遅延していた.加速度はC7からL3を引いた差の値(dCL)の比較において,健常高齢者と脳卒中片麻痺患者の麻痺側先行ステップで立脚側方向へdCLが変化していたのに対して,非麻痺側先行ステップで遊脚側方向へ変化がみられた.〔結語〕脳卒中片麻痺患者の歩行開始において,先行肢別に体幹が傾斜する代償制御と動き出しが遅延する遅延制御の異なるパターンの運動戦略を呈した.
著者
阿部 紀之 細矢 貴宏 松田 雅弘
出版者
日本義肢装具学会
雑誌
日本義肢装具学会誌 (ISSN:09104720)
巻号頁・発行日
vol.37, no.2, pp.137-142, 2021-04-01 (Released:2022-04-15)
参考文献数
21

装具処方の必要性や装具種類の判断に有用な指標を明らかにするため,被殻出血患者34名を対象に装具処方有無の2群と,処方された装具の種類(長下肢装具 : KAFO·支柱付き短下肢装具 : MAFO·プラスチック短下肢装具 : PAFO)により3群に分け,脳画像所見,装具情報,身体機能をそれぞれ比較した.装具処方の有無では在院日数,入退院時の歩行能力,運動機能,ADLで有意差を認めた.また,出血量と短径はKAFO-PAFO群間,長径はKAFO-PAFO群,MAFO-PAFO群間で有意差を認めたが,身体機能は3群間の差を認めなかった.装具処方の必要性は身体機能やADLが有用な指標であるが,処方装具の種類には脳画像所見も有用な指標であることが示唆された.
著者
松田 雅弘 高梨 晃 塩田 琴美 宮島 恵樹 野北 好春 川田 教平 細田 昌孝 川口 祥子
出版者
理学療法科学学会
雑誌
理学療法科学 (ISSN:13411667)
巻号頁・発行日
vol.25, no.2, pp.265-269, 2010 (Released:2010-05-27)
参考文献数
14
被引用文献数
1 1

〔目的〕腹部ベルトを使用し,腹部収縮時と姿勢の違いによる筋厚の変化を明らかにすることを目的とした。〔対象〕整形外科的な既往のない健常男性大学生15名(18-20歳)とした。〔方法〕腹部ベルトの有無と座位・立位姿勢で,腹部筋の収縮による腹部筋厚の変化について超音波測定装置で計測した。〔結果〕内腹斜筋・腹横筋の非収縮時と収縮時の筋厚はベルトの有無・姿勢に関係なく有意差があった。収縮圧変化を比較した結果,外腹斜筋ではベルト有りで有意に増加し,腹横筋はベルト有りで低下傾向があった。〔結語〕腹部ベルトは人工的に腹圧を向上させることで,外部腹部筋の活動に関して活動性を向上させるが,腹横筋に関しては抑制に働く傾向があると考えられる。
著者
松田 雅弘 新田 收 古谷 槇子 楠本 泰士 小山 貴之
出版者
公益社団法人日本理学療法士協会
雑誌
理学療法学 (ISSN:02893770)
巻号頁・発行日
vol.45, no.4, pp.248-255, 2018 (Released:2018-08-20)
参考文献数
18
被引用文献数
2

【目的】発達障害児はコミュニケーションと学習の障害以外にも,運動協調性や筋緊張の低下が指摘され,幼少期の感覚入力問題は運動協調性の低下の原因のひとつだと考えられる。本研究は幼児の運動の協調性と感覚との関連性の一端を明らかにすることを目的とした。【方法】対象は定型発達の幼児39 名(平均年齢5.0 歳)とした。対象の保護者に対して,過去から現在の感覚と運動に関するアンケートを実施した。運動の協調性はボールの投球,捕球,蹴る動作の25 項目,80 点満点の評価を行った。5,6 歳児へのアンケート結果で,特に感覚の問題が多かった項目で「はい」と「いいえ」と回答した群に分けて比較した。【結果】「砂場で遊ぶことを嫌がることがあった。手足に砂がつくことを嫌がった」の項目で,「はい」と回答した群で有意に運動の協調性の総合点が低かった。【結論】過去から現在で表在感覚の一部に問題を示す児童は,児童期に運動の協調性が低い傾向がみられた。
著者
楠本 泰士 松田 雅弘 高木 健志 新田 收
出版者
日本保健科学学会
雑誌
日本保健科学学会誌 (ISSN:18800211)
巻号頁・発行日
vol.21, no.2, pp.82-88, 2018 (Released:2019-03-25)
参考文献数
20

【目的】青年期軽度発達障害児と健常児の静的・動的バランスの特徴を明らかにすることとした。 【方法】対象は軽度発達障害児24 名(15 ~ 16 歳),健常児29 名(15 ~ 16 歳)とし,膝伸展トルクと重心動揺検査を対応の無いt 検定,線上歩行の失敗の有無をχ2 検定にて検討した。また,発達障害児における線上歩行の踏み外しの有無で2 群にわけ,各パラメータを対応の無いt 検定にて検討した。 【結果】発達障害児は健常児と比べて,重心動揺が多くの項目で開眼・閉眼ともに発達障害児の値が大きく,ロンベルグ率に差はなかった。線上歩行の踏み外しは発達障害児が多かった。線上歩行を踏み外した発達障害児は,閉眼での左右軌跡長が長かった。 【結論】青年期軽度発達障害児は健常児と比べ下肢筋力や静的・動的バランスが低下していた。線上歩行を踏み外した発達障害児は,踏み外さなかった発達障害児と比べて静的バランスが低下している可能性が示唆された。
著者
楠本 泰士 藤井 香菜子 林 寛人 高木 健志 網本 さつき 松田 雅弘 新田 收
出版者
公益社団法人日本理学療法士協会
雑誌
理学療法学 (ISSN:02893770)
巻号頁・発行日
vol.47, no.2, pp.181-188, 2020 (Released:2020-04-20)
参考文献数
21

【目的】痙直型脳性麻痺患者における日本語版Trunk Impairment Scale(以下,TIS)の信頼性と構成概念妥当性を検証することを目的とした。【方法】完成した日本語版TIS を用いて検者内,検者間信頼性は20 名で検討した。構成概念妥当性は69 名に対して,TIS と粗大運動能力分類システム(以下,GMFCS)との相関関係を調査した。【結果】検者内,検者間ともに級内相関係数は0.90 ~0.99 だった。検者内の最小可検変化量(以下,MDC)は,静的,動的座位バランス,協調動作,合計点の順に0.44,1.35,0.44,0.96だった。検者間のMDC は1.54,1.97,1.15,2.37 だった。GMFCS との相関係数は–0.63,–0.76,–0.30,–0.74 だった。【結論】痙直型脳性麻痺患者における体幹機能検査として,日本語版TIS は良好な信頼性があり,構成概念妥当性が支持された。
著者
松田 雅弘 野北 好春 妹尾 淳史 米本 恭三 渡邉 修 来間 弘展 村上 仁之 渡邊 塁 塩田 琴美 高梨 晃 宮島 恵樹 川田 教平
出版者
公益社団法人 日本理学療法士協会
雑誌
理学療法学Supplement
巻号頁・発行日
vol.2010, pp.AbPI1026, 2011

【目的】<BR> 脳卒中において利き手側の片麻痺を呈した場合、麻痺の程度が重度であれば非利き手側でADL動作を遂行することとなるため、リハビリテーションの一環として利き手交換練習が実施されている。利き手側で同様の運動を獲得していたとしても、非利き手での運動を学習する一連の経過は新規動作の獲得と同様に時間を要する。しかし、その動作習得過程で、どのようなリハビリテーションの手法を用いることの有効性に関するニューロイメージングの視点からの知見は少ない.そこで今回,健常者における非利き手での箸操作の運動時、イメージ時、模倣時の脳神経活動を検出した。<BR>【方法】<BR> 対象は、神経学的な疾患の既往のない右利き健常成人5名(平均年齢20.7歳)である。<BR> 課題は3種類設定し、第1課題は開眼にて左手にて箸を把持して箸先端を合わせる運動の課題(運動課題)、第2課題は左手で箸を持っている映像をみせて実際に箸操作運動を行わずに、箸操作を行っているときをイメージさせる課題(運動イメージ課題)、第3課題は左手で箸操作を行っている映像をみながら運動課題と同様の箸操作運動を行う課題(模倣課題)とした。スキャン時間はこれらの課題および安静を各々30秒間とし,3種類の課題はランダムに配置し,各課題間は安静を挟む(ブロックデザイン)ようにして撮像した。測定装置はPhilips社製3.0T臨床用MR装置を使用した。測定データはMatlab上の統計処理ソフトウェアSPM2を用いて集団解析にて被験者全員の脳画像をタライラッハ標準脳の上に重ね合わせて,MR信号強度がuncorrectedで有意水準(p<0.001)をこえる部位を抽出した。<BR>【説明と同意】<BR> 全対象者に対して、事前に本研究の目的と方法を説明し、研究協力の同意を得た。研究は共同研究者の医師と放射線技師の協力を得て安全面に配慮して行った。<BR>【結果】<BR> 運動課題では両側感覚運動野、補足運動野、下頭頂小葉、大脳基底核、小脳、前頭前野、右Brodmann area(BA)44の賦活が認められた。運動イメージ課題では、右感覚運動野、両側補足運動野、上頭頂小葉、下頭頂小葉、BA44、大脳基底核の賦活がみられ、運動課題でみられた左感覚運動野と両側小脳の活動が消失した。模倣課題では、両側感覚運動野、補足運動野、上頭頂小葉、下頭頂小葉、BA 44、左前頭前野の賦活が認められた。<BR> 最も広範囲に賦活が認められたのは運動課題で、次に模倣課題であり、両課題とも両側運動関連領野の活動がみられた。運動イメージ課題が最も活動範囲は狭かったが、運動の実行がなくても運動関連領域の活動が認められた。さらに模倣課題時、運動イメージ課題時とも下頭頂小葉、BA 44の活動が両側広範囲にみられた。<BR>【考察】<BR> 運動イメージ課題時、模倣課題時にはミラーニューロンに関連する領域の広い活動が確認された。補足運動野、前頭葉の活動など、感覚運動野に入力する前運動野の活動が広く確認され、運動学習を遂行する上で必要な部位の活動が確認された。模倣課題時は広範囲に活動が認められ、見本を教示しながら動作を指導する方が、活動範囲が広範囲でありリハビリテーションに有用であることが示唆された。イメージ動作でも同様に狭小ではあるが運動関連領野の活動が認められ、運動開始以前に運動イメージを行わせることが重要であることが示唆された。運動イメージで運動を開始する準備を行い、模倣動作を促すことで広く運動関連領野の活動性を向上させることから、リハビリテーション医療の治療では、運動の実行のみではなく画像を提示したり、イメージを繰り合わせた方法が有用であることが示唆された。<BR>【理学療法学研究としての意義】<BR> 機能的MRIなどによって非侵襲的に脳活動を捉えられるようになったが、その研究手法は実際のADL動作と直結しているものではなく、閉鎖的な実験環境上の問題でタッピングなどの動作を主体としているため、ADL動作時の脳内活動の検討は不十分であった。今回実際にADL動作を行い,リハビリテーション治療で行われている手法に関してニューロイメージングの視点から知見を報告した。リハビリテーション医療の治療の中で、運動の実行のみではなく画像を提示したり、イメージを繰り合わせた方法の有用性が本研究より示唆された。
著者
松田 雅弘 大山 隆人 小西 由里子 東 拓弥 高見澤 一樹 田浦 正之 宮島 恵樹 村永 信吾 小串 健志 杉浦 史郎 三好 主晃 石井 真夢 岡田 亨 亀山 顕太郎
出版者
公益社団法人 日本理学療法士協会
雑誌
理学療法学Supplement
巻号頁・発行日
vol.2014, 2015

【目的】加齢に伴う運動器障害のために移動能力の低下をきたし,要介護になったり,要介護になる危険の高い状態を「ロコモティブシンドローム(ロコモ)」と定義し,中高齢者の運動器に起こる身体状態として知られている。子どもの発育の偏りや運動不足,食育などが原因となり,筋肉,骨,関節などの運動器のいずれか,もしくは複数に障害が起き,歩行や日常生活に何らかの障害を引き起こすなど,子どもでも同様の状態が起こりうる。さらに,転んでも手がつけない,片脚でしっかり立つ,しゃがみ込むなど基本動作から,身を傷害から守る動作ができない子が急増している。幼稚園児36.0%,就学児42.6%,小学校40%で片足立ち。しゃがみ込み,肩180度挙上,体前屈の4項目の検査で1つでも当てはまる児童生徒が存在する。【活動報告】千葉県浦安市の児童に対するロコモの検診を行政と連携し,千葉県スポーツ健康増進支援部中心に実施した。参加者は3~12歳の334名であった。検査項目は先行研究にある片脚立ち,肩180度挙上,しゃがみ込み,体前屈以外に,四つ這いバランス,腕立て・腹筋などの体幹筋力,2ステップテスト,立ち上がりテストなど,柔軟性・筋力・バランス能力など12項目とした。また,食事・睡眠などのアンケートを実施した。当日は理学療法士が子どもと1対1で検査することで安全性の確保と,子どもの集中力を維持させ,検診を楽しむことで計測が可能であった。【考察】この検診で成長にともなう運動発達が遅れている子の把握が可能であった。親を含めた検診を通じて家族の運動への関心が高まったことや,自分の子どもの運動能力の把握,日頃の運動指導にもつながった。【結論】今回の検診で子どもの運動機能の現状を把握するのに,この取り組みが有益なことが示唆された。今後は広く地域と連携して子どものロコモ検診を行い,健康状態の把握と運動の啓発を理学療法士の視点として取り組んでいきたい。
著者
村上 仁之 渡邉 修 来間 弘展 松田 雅弘 津吹 桃子 妹尾 淳史
出版者
公益社団法人 日本理学療法士協会
雑誌
理学療法学Supplement Vol.34 Suppl. No.2 (第42回日本理学療法学術大会 抄録集)
巻号頁・発行日
pp.A0561, 2007 (Released:2007-05-09)

【はじめに】近年,PETや機能的MRIなどのイメージング技術により,随意運動や認知活動の脳内機構が明らかにされている.しかし,随意運動遂行中に密接に関連する触覚認知の脳内機構に焦点化した研究は極めて少ない.触覚認知がどのように行われ,どのように学習されるのかを明らかにすることは,脳損傷後の理学療法の治療戦略を立てる際に,重要な示唆を与えると考えられる.そこで本研究は,触識別時の脳内機構および学習の影響を明らかにすることを目的に,機能的MRIを用いて麻雀牌を題材として,初心者と熟練者を対象に,触識別に関する脳内神経活動を感覚運動野(sensorimotor cortex: 以下,SMC)と小脳に焦点化して定量的,定性的に分析を行った.【対象】対象者は健常者16名である.内訳は,麻雀経験のない初心者が10名(対照群)と、5年以上の麻雀経験を持ち,母指掌側のみで牌を識別できる熟練者6名(熟練者群)である.【方法】GE社製1.5T臨床用MR装置を用いて,閉眼にて利き手母指掌側での麻雀牌の触知覚時および触識別時の脳内神経活動の測定を行った.データ解析はSPM99を用い,得られた画像データを位置補正,標準化,平滑化を行い,有意水準95%以上を持って賦活領域とした.加えて,両群間の差の検定をt‐検定を用いて分析した.【結果】対象者16名中,触知覚時では,対側SMCが14名で賦活した.さらに触識別時では,SMCの賦活のなかった2例を加えた16名で,SMCの賦活領域の増大を確認した.加えて,同側SMCが12名と同側小脳が11名の賦活を認めた.また,全脳賦活領域をボクセル数として定量化した平均値は,対照群は触知覚時467.0ボクセル,触識別時4193.0ボクセル,熟練者群は触知覚時408.5ボクセル,触識別時2201.8ボクセルであった.両群とも触知覚時に比べ,触識別時では有意に増加した.また熟練者群は対照群に比べ,触識別時に全脳賦活領域が有意に減少した.【考察】触知覚時は,対側SMCの賦活が認められ,触識別時は,対側SMCだけでなく,さらに同側SMC,小脳でも賦活が認められた.つまり,単なる触知覚に比べ,触識別という認知活動時には,両側SMCや小脳などの広い領域が関与していると考えられる.しかし,熟練者においては,全脳賦活領域が減少し,限局したことから,“学習”により,全脳賦活領域の縮小,限局をもたらすことが示唆された.触識別という認知的要素が脳内機構として明確化され,学習により縮小,限局するという脳内の可塑的現象は,脳損傷者に対する理学療法において,認知的要素が中枢神経系になんらかの影響を及ぼす可能性を示唆しているではないかと考えられる.
著者
相澤 高治 松田 雅弘
出版者
理学療法科学学会
雑誌
理学療法科学 (ISSN:13411667)
巻号頁・発行日
vol.28, no.4, pp.547-550, 2013 (Released:2013-10-08)
参考文献数
12

〔目的〕今回の研究目的は,切り返し動作を含むジャンプ動作と股関節筋力および膝関節筋力との関連性を検討した.〔対象〕下肢に整形外科疾患のない健常成人32名(平均年齢21.05歳)とし,被験者には事前に研究内容の説明を行い,同意を得た.〔方法〕等速性筋力測定器(BIODEX)を用いて股関節・膝関節の屈曲・伸展筋力を3回計測した.ジャンプ動作は利き足片脚で6 m HOPジャンプ,8字走ジャンプ,スラロームジャンプの3種類とし,そのゴールへの到達時間を測定した.筋力とジャンプの測定値をPearsonの相関を用いて検討した.〔結果〕股関節・膝関節筋力と3種類のジャンプに有意な相関が認められた.〔結語〕直線のジャンプ動作よりも切り替えしの多いジャンプ動作で筋力との関連があり,特に膝関節屈曲筋力との関連が最もみられた.
著者
櫻井 瑞紀 新田 收 松田 雅弘 妹尾 淳史
出版者
日本理学療法士学会
雑誌
理学療法学 (ISSN:02893770)
巻号頁・発行日
pp.11312, (Released:2018-04-18)
参考文献数
32
被引用文献数
1

【目的】非特異的腰痛(以下,NLBP)では深部筋機能不全やサイドブリッジ持久力テスト(以下,SBET)保持時間低下が報告されているが,その際の深部筋疲労についての報告はない。本研究の目的は,NLBP 者におけるSBET 実施時の体幹深部筋疲労を,T2 値を指標として明らかにすることである。【方法】対象は腰痛のない対照群とNLBP 群の2 群とした。測定項目はSBET 保持時間と,SBET 前後の深部筋T2 値とした。統計解析はSBET 前後と腰痛の有無を独立変数,深部筋T2 値を従属変数とした2 元配置分散分析および単純主効果の検定を実施した。【結果】SBET 保持時間はNLBP 群が有意に低値を示した。深部筋T2 値においてSBET 前後・腰痛経験の主効果および交互作用が示された。単純主効果の検定ではNLBP 群のPost でT2 値は有意に高値を示した。【結論】NLBP 者では体幹筋等尺性持久力低下とSBET における体幹深部筋易疲労性を認めた。
著者
宮島 恵樹 三好 主晃 東 拓弥 石井 真夢 村永 信吾 田浦 正之 小西 由里子 小串 健志 亀山 顕太郎 関 俊昭 松田 雅弘 高見澤 一樹
出版者
公益社団法人 日本理学療法士協会
雑誌
理学療法学Supplement
巻号頁・発行日
vol.2014, 2015

【目的】我々は,千葉県民の能動的で活発な健康社会づくりに寄与するため,2010年度より「千葉県から転倒を減らそうプロジェクト」を展開している。本取り組みは県内士会員による転倒予防を目的とした転倒予防セミナーの開催と,歩行年齢測定会の実施である。また,ロコモティブシンドロームの概念の普及,健康日本21プロジェクトの一環として活動の展開を広げている。高齢者の転倒予防の実践は,各個人の健康寿命延命のみならず,実益的な医療費削減や介護費削減,地域・自治体の活性への貢献として今後の重要課題といえる。【活動報告】測定会は,有志の県士会員の協力を得ながら千葉県内各地の健康増進,福祉関連イベントへの出展や,県・開催市町・医師会などからの後援を受け,県内各地で開催される健康増進,福祉関連イベントなどに出展を行ってきた。歩行年齢測定は,測定項目は,体組成,ファンクショナルリーチ,2ステップテスト,TUG,立ち上がりテストの5項目で行い,測定結果の説明は,転倒予防に対する危険度,機能低下が明らかな点,改善目標を自己管理の為の運動指導とあわせて説明した。運動動機能の維持向上への取り組みを歩行機能の低下を自覚する世代から,その予備軍まで幅広い働きがけをしている。これまでの4年間で4000名以上の県民の皆様が参加されており測定会場によっては毎年会場に足を運ぶ県民も少なくはない。【考察】理学療法士が国民の健康寿命延伸や,転倒予防活動に積極的に参加することで理学療法士の認知向上はもとより。理学療法士の知識技術が健康増進分野へも十分寄与することが示唆され,予防分野への職域拡大に貢献すること考える。【結論】進行する要介護状態への早期発見,運動習慣への動機付けという早期対応の促進にも繋がり,要介護状態への抑制の一助となり得ると考える。
著者
万治 淳史 松田 雅弘 網本 和 和田 義明 平島 冨美子 稲葉 彰 福田 麻璃菜
出版者
公益社団法人 日本理学療法士協会
雑誌
理学療法学Supplement Vol.42 Suppl. No.2 (第50回日本理学療法学術大会 抄録集)
巻号頁・発行日
pp.0312, 2015 (Released:2015-04-30)

【はじめに,目的】脳卒中後の運動麻痺の治療として経頭蓋直流電気刺激(Transcranial Direct Current Stimulation:tDCS)の有効性について報告がされている。中枢性運動障害のパーキンソン症候群でも一次運動野を刺激することによる上肢の運動緩慢の改善(Fregni et al, 2006他)や,tDCSによる皮質脊髄性の興奮性の向上(Siebner et al, 2004),パーキンソン病(Parkinson disease:PD)のジストニアに対する有効性(Wu et al, 2008)などの報告が見られる。しかし,本邦ではPDに対するtDCSによる治療効果の報告はまだ少ない。今回,起立・歩行動作障害を呈するPD患者に対し,tDCSを実施し,動作の改善が見られた症例について,報告する。平成26年日本理学療法士協会研究助成の一部を利用して実施した。【方法】対象はPDの患者2名,症例Aは75歳,女性,Hoehn & Yahrの分類4で日常的に起立・歩行は困難で介助を要し,すくみ足も顕著であった。症例Bは71歳,女性,Hoehn & Yahrの分類3で自力での起立・歩行は可能であるが補助具を要し,体幹屈曲姿勢が著明であった。方法はtDCSはDC Stimulator(NeuroConn GmbH社製)を利用し,陽極を左運動野,陰極を右前頭部に設置し,1mAの直流電流を20分実施した。刺激前後での評価は,tDCS刺激の前後に,立ち上がり動作と10m歩行テストを実施した。各動作について,前額面・矢状面よりデジタルビデオカメラにて撮影を行い,所要時間の計測を行った。動作分析のため,肩峰・大転子・膝関節・足関節・第5中足骨頭にマーカーを貼付し,撮像データから動作時の体幹・下肢関節角度の算出を行った。tDCS実施前後での計測データの比較を行い,tDCSによる効果について検証した。また,別日にSham刺激前後で同様に測定を行い,tDCSによる効果との比較を行った。【結果】tDCS前後での歩行について,速度:症例A 5.4±0.1→11.0±0.4m/min,症例B 7.8±0.2→8.9±0.1m/min,歩行率:A 92.3±7.2→106.4±6.5steps/min,症例B 88.6±0.9→90.2±3.5steps/minと2症例ともに歩行指標の改善が見られた。特に症例Aについて,大幅な歩行速度の増加が見られ,刺激前にはバランス自制困難で介助を要していたが,刺激後には自制内となった。起立動作について,所要時間:症例A 7.6±0.7→5.6±0.6秒,症例B 33.2±12.8→19.6±3.4秒と動作スピードの改善が見られた。また,起立動作の失敗回数について,症例Aにおいて,刺激前4回/2試行であったものが,1回/2試行と動作失敗の減少が見られた。立位姿勢における股関節屈曲角度:症例A 71.8±1.8→74.0±4.7°,症例B 38.5±0.7°→28.5±2.1°と症例Bにおいて伸展方向に姿勢の変化が見られた。Sham刺激前後においてはtDCS実施時に比べ,改善効果は小さい結果となった。【考察】tDCS前後でのPD患者における歩行動作と立ち上がり動作の効果について検討した。一次運動野(M1)上に陽極設置し,直流電気刺激を行うことで運動誘発電位の振幅が上昇し,陰極下では反対の効果がある。このように脳皮質の活動性の促通/抑制により,活動のバランスを整えることで歩行・立ち上がり動作の改善に寄与していると考えられる(Krause et al, 2013)。歩行に関しては検討した症例はすくみ足・小刻み歩行が顕著で歩行に時間を要していたが,歩行速度・歩行率の改善はこれらPD特有の症状の改善に効果を示したものと考えられる。同様に立ち上がり動作においても,後方重心と動作緩慢により動作困難であったものが。前方への重心移動や動作の円滑性の改善により,起立動作遂行を可能とし,所要時間の短縮が見られた。このようにtDCSにより運動野を刺激することで,PD特有の症状の改善が認められたのは,一次運動野からの入力刺激によって大脳基底核の入力が増大することや,刺激位置(電極接触位置)から運動野前方の補足運動野へも刺激が波及し,運動プログラムの活性化などが関与した可能性が考えられる。脳刺激部位による特異性に関しては今後とも検討を必要とする。今後さらに症例数を増やして検討していく。【理学療法学研究としての意義】tDCSによる脳刺激でPDに対する即時効果として動作遂行能力,動作緩慢に影響することが示唆された。PDに対する脳刺激による治療の可能性を示唆したものであり,今後,詳細な効果の検証を行う上での基盤となると考える。また,その効果や程度を把握することで,その後の理学療法が円滑に実施可能になると考えられる。
著者
高橋 彰子 福原 一郎 高木 伸輔 井手 麻衣子 新田 收 根津 敦夫 松田 雅弘 花井 丈夫 山田 里美 入岡 直美 杉山 亮子 長谷川 大和 新井 麻衣子 加藤 貴子
出版者
公益社団法人 日本理学療法士協会
雑誌
理学療法学Supplement
巻号頁・発行日
vol.2012, pp.48100455, 2013

【はじめに、目的】重症心身障害児者(以下;重身者)は,異常筋緊張など多様で重層した原因で症候性側弯が発症進行する.側弯の進行予防に対して理学療法が施行されるが,それ以外にも日常生活で使用する側弯装具が処方される場合も多い.今までは,ボストン型装具や硬性コルセットなどが広く使用されているが,大きく,通気性も悪く,服が着にくい,また痛みを訴えるなどのデメリットもあった.近年,3点固定を軸に側弯進行を予防し,装着感がよく,通気性なども改善された動的脊柱装具(DSB 通称プレイリーくん)が開発された.開発者の梶浦らは,多様な利点で,重身者の症候性側弯に有効であると述べている.しかし,親の子に対する装具装着の満足度や,理学療法士による効果判定などの関連性や,装具装着による変化に関しての報告は少ない.そこで,動的脊柱装具を処方された重身者の主たる介護者の親と担当理学療法士にアンケート形式で満足度と装具の効果について検討することを目的とした.【方法】対象は当院の外来患者で動的脊柱装具を作成した側弯のある児童または成人17名と,担当理学療法士6名とした.対象患者の平均年齢15.9歳(3~22歳),GMFCS平均4.7(3~5),Cobb角平均82.46(SD31.62)°の側弯を有していた.装具に対する満足度や効果の実感に関するアンケートを主たる介護者の親と担当理学療法士と分けて,アンケートを2通り作成した.親へのアンケートは,装具装着の見た目,着けやすさ,姿勢保持のしやすさ,皮膚トラブル,装着時間,総合的な満足度などの装具使用に関する項目に関して,20項目の質問を紙面上で答えさせた.理学療法士には姿勢変化,治療的効果などの評価の4項目に関して紙面上で記載させた.その他,装具装着前後でのCobb角を算出した.統計処理はSPSS ver20.0を用いて,質問紙に関しては満足度合を従属変数とし,その他の項目を独立変数として重回帰分析を実施し,関連性についてはpearsonの相関を用いた.理学療法士の効果判定に関係する因子の検討では理学療法士の評価を従属変数として,効果に対する要因,Cobb角を独立変数として多重ロジスティック解析を実施した.各質問紙項目内による検討に関してはカイ二乗検定を用いた.また,Cobb角の変化に関しては対応のあるt検定を用いた.危険率は5%未満とした.【倫理的配慮、説明と同意】全対象者と全対象者の親に対して,事前に本研究の目的と方法を説明し,研究協力の同意を得た.【結果】Cobb角は動的脊柱装具作成装着前後で有意に改善した.動的脊柱装具に関する親の満足度と関連する項目はCobb角の変化ではなく,体に装具があっていると感じている,装具の着けやすさ,装具を装着したときの見た目と関連していた.満足度と装着時間とは正の相関をしており,満足度が高い人ほど装着時間も長かった.理学療法士の評価は満足感と関連していなく,姿勢保持のしやすさ,Cobb角と関連していた.【考察】今回GMFCSレベル4~5のADLで全介助を要し,側弯の進行の危険性が高い方を対象としており,親の関心や理学療法士の治療選択も側弯予防は重要な目標の1つである.重身者の親の満足度は主に子どもの装着に関係する項目と最も関連していた.理学療法士の効果検討としてはCobb角,姿勢保持と関連していた.動的脊柱装具装着の前後で側弯に改善がみられることは,梶浦らの報告とも同様で,この体幹装具が側弯に対して長期的な効果の可能性も示唆された.その装具に関する理学療法士の効果判定はCobb角と関連が強く姿勢の変化を捉えている傾向にあった.親の満足度は最も快適に使用できる項目であり,満足しているほど装着時間が延長することが考えられる.今回のアンケートより,装具に対する親への感想を聴取することで生活状況の確認となり,満足度を高めるように作成することが可能となると示唆された.【理学療法学研究としての意義】重身者にとって側弯は内臓・呼吸器疾患と直接的に結びつきやすく側弯の進行予防は生命予後に関しても重要である.側弯進行予防の理学療法を効果的にするためにも,使いやすい側弯装具は重要な日常生活器機である.新たに開発された動的脊柱装具の満足度と効果についてアンケート調査を行った.親が実際の装具使用を肯定的に感じているほど,装着時間も長く,親の満足度に関連する因子として,装着しての見た目や,子の過ごしやすさも重要な因子であることが今回示唆された.