著者
井上 有史 久保田 英幹 栗原 まな 馬場 啓至 平田 幸一 松岡 洋夫
出版者
日本てんかん学会
雑誌
てんかん研究 (ISSN:09120890)
巻号頁・発行日
vol.26, no.3, pp.483-489, 2009-01-31
参考文献数
4
被引用文献数
4

2002年6月に道路交通法が改定され、てんかんをもつ人でも条件により運転が許可されるようになった。すべての人が更新を終えた法施行後5年後の実態および問題点について調査するため、警察庁(公安委員会)とてんかん学会会員にアンケートを送付した。警察庁からの提供資料は2003年、2005年と比較し、てんかん学会会員の回答は2003年の調査結果と比較した。合法的に免許を取得した人は2544人で、48%は再適性検査不要であり、要再検査は3年後がもっとも多かった。一方、免許不許可は169人、保留・停止は60人であった。95%が自己申告であり、多くは主治医診断書で処理され、臨時適性検査医によるものは2.5%であった。てんかん学会員は43名が回答し、半数以上がてんかんをもつ人の運転免許に関する意識がポジティブに変わったとした。すべてのてんかんで一律に同じ基準で判定することの問題、殊に希発発作、最近発症のてんかん、誘因のある場合等では、別個に判定すべきであるという意見があった。適性検査における問題点として、発作がおきるおそれがないとは断定できないこと、再発時の免許取消を改善すべきこと、判定医の責任の所在の明確化などが挙げられ、警察の適切な情報公開、学会の判定マニュアル作成や実証的研究推進などの要望があり、啓発活動の重要性が指摘された。法施行後5年が経過し、法の内容および処理手順については浸透してきており、具体的な問題点の整理検討と改善にむけての行動の必要性が指摘された。
著者
井上 明子 井上 有史 鈴木 節夫 渡辺 裕貴 八木 和一 清野 昌一
出版者
一般社団法人 国立医療学会
雑誌
医療 (ISSN:00211699)
巻号頁・発行日
vol.43, no.11, pp.1157-1162, 1989-11-20 (Released:2011-10-19)
参考文献数
11

成人てんかん患者200人に意識調査を行い, 悩みについて分析した. 悩みとして選択された項目をクラスター分析により8種に分類した. 1. 発作をめぐる悩みはもつとも多く, 続いて, 2. 社会の無理解, 3. 結婚の悩み, 4. 就職の悩み, 5. 抗てんかん薬の副作用, 6. 治療継続の負担, 7. 対人関係・性格の悩み, 8. 日常生活・家庭での悩み, の順であつた. 1の発作をめぐる悩みはさらに3群, 1)発作発生の予測困難, 発作中の行動の不安, 2)社会を意識した悩み, 3)身体へ向かう悩み, に分けられた.これらの悩みの選択と, 患者の病態および調査票の他の質問項目の回答との関係を検討し, てんかんの心理社会的問題の背景を考察した.
著者
鈴木 健之 西田 拓司 井上 有史
出版者
一般社団法人 日本てんかん学会
雑誌
てんかん研究 (ISSN:09120890)
巻号頁・発行日
vol.34, no.1, pp.23-30, 2016-06-30 (Released:2016-06-29)
参考文献数
19
被引用文献数
1

本研究は、てんかん患者の認知機能障害に対するリハビリテーションの有用性、およびその他の認知機能改善に関連する要因を明らかにすることを目的とした。症候性部分てんかん患者51名に対して、浜松方式高次脳機能検査(HHBFS)を用いて、初期評価と再評価との比較、作業療法介入の有無による認知機能の変化の比較を行った。また重回帰分析によりHHBFSの得点の向上に関与する変数を検定した。その結果、初期評価と再評価で認知機能障害の改善がみられ、作業療法介入により有意な認知機能の改善を示すHHBFSの下位項目が認められた。また、認知機能障害の改善に関連する要因として、薬剤の影響と作業療法介入が認められ、てんかん患者の認知機能障害に対して抗てんかん薬の調整と作業療法によるリハビリテーションが有効である可能性が示唆された。
著者
船越 昭宏 井上 有史
出版者
日本失語症学会 (現 一般社団法人 日本高次脳機能障害学会)
雑誌
失語症研究 (ISSN:02859513)
巻号頁・発行日
vol.15, no.2, pp.198-203, 1995 (Released:2006-06-02)
参考文献数
6

記憶に関する質問紙を,側頭葉切除術を受け,発作の抑制された側頭葉てんかん56名 (優位側切除群27名,非優位側切除群29名) に施行して,術後の主観的な記憶評価を調べ,記憶障害の自覚がどのような要因と関連するのかを検討した。優位側切除群は正常対照群15名に比べて記憶障害を強く自覚し,手術後に記憶機能が低下したと考えていた。一方,非優位側切除群は記憶障害を自覚せず,術前から術後にかけての変化の意識もなく,むしろ正常対照群より記憶の変化の自覚に乏しかった。術前術後にかけての記憶検査成績の変化,切除範囲の違い,薬剤数の変化は優位側切除群での記憶障害の自覚の高さを説明しなかった。しかし人格検査とは相関がみられ,内向的—神経症傾向と記憶障害の自覚が関連することが示唆された。以上,切除側と人格傾向が術後の記憶障害の自覚に強く影響すると考えられた。
著者
井上 有史 鈴木 節夫 渡辺 裕貴 八木 和一 清野 昌一
出版者
一般社団法人 日本てんかん学会
雑誌
てんかん研究 (ISSN:09120890)
巻号頁・発行日
vol.10, no.1, pp.1-9, 1992-03-31 (Released:2011-01-25)
参考文献数
44
被引用文献数
5 4

非言語性高次大脳機能を主誘発因とする反射てんかんの自験10例と文献に報告された64例を臨床・脳波学的に検討し, 次の諸特徴を抽出した. 1) 若年発症. 2) 誘発される発作型は全般発作で, 腕や手を中心とするミオクローヌスと大発作が主体であり, 欠神発作を合併することがある. 3) 脳波には中心部を中心とする全般性てんかん放電がみられ, これは特殊な神経心理学的賦活により誘発される. 4) 誘因は複雑な連続的空間的思考から随意運動へといたるプロセスにあると考えられ, 具体的には計算, 描画, 構成, 書字, チェスやカードなどのゲーム, 複雑な手指運動などであり, 随意運動の表象だけでも誘発される. 5) 精神緊張や注意集中は助長因子である.高次大脳機能により誘発される特発性反射てんかんは, 非言語性機能によって誘発される上記の一群と, 言語誘発てんかん (読書てんかんを含む) とに大別される. 本邦における非言語性高次大脳機能誘発てんかんの多さは言語誘発てんかんの少なさと対照的であり, 言語的・文化的背景が存在する可能性を指摘した.
著者
山﨑 陽平 西田 拓司 井上 有史
出版者
一般社団法人 日本てんかん学会
雑誌
てんかん研究 (ISSN:09120890)
巻号頁・発行日
vol.35, no.3, pp.702-709, 2018-01-31 (Released:2018-02-01)
参考文献数
13
被引用文献数
3 8

てんかん患者のための学習プログラムMOSES(Modular service package epilepsy、モーゼス)は、てんかん患者が病気を理解し、実践的な対処能力を身に付け、積極的に病気に向き合うことを学ぶための心理社会的学習プログラムである。海外の報告では、MOSESは知識の向上だけでなく、てんかんに対する対処法を身につけ、発作を減らし、副作用を軽くすることが証明されている。今回、本邦で実施しているMOSESの有用性を明らかにするために、MOSES実施前後で、てんかん患者の生活の質(QOL)、てんかんに関する知識、気分状態、主観的日常生活評価の変化について調査した。本調査の結果、MOSESを受けたてんかん患者55名では、てんかんの知識スケール、全体的な生活の質、てんかんへの適応の項目で統計学的に有意な得点の向上を認めた。MOSESの効果として、てんかんについての知識の向上のみならず、生活全般の満足度やてんかんという病気を前向きに受け入れようという心理面の変化が得られたと考えられる。
著者
高橋 宏佳 今井 克美 高山 留美子 美根 潤 大谷 早苗 池田 浩子 久保田 裕子 高橋 幸利 井上 有史 藤原 建樹
出版者
The Japanese Society of Child Neurology
雑誌
脳と発達 (ISSN:00290831)
巻号頁・発行日
vol.43, no.4, pp.305-308, 2011-07-01

乳児期に発症した難治性のてんかんに対して緩和ケトン食が著効した1例を経験した. 生後8カ月からてんかん性スパズムが出現し, 一時ACTH療法にて発作は消失したが, 1歳1カ月時に部分発作で再発し, 2歳以後は部分発作とスパズムの複合発作となり, 種々の抗てんかん薬に抵抗性であった. 2歳6カ月時に絶食期間をおかず, カロリー制限・水分制限をせず, MCTオイルを使用した緩和ケトン食を開始し, 20日目に発作消失かつ脳波も著明改善した. 従来の古典的ケトン食を緩和した緩和ケトン食療法は副作用が少なく継続しやすいため, 難治性のてんかんにおいて試してみる価値のある治療法であり, わが国においても再評価されるべきである.