著者
高橋 幸利 松平 敬史 笠井 良修
出版者
一般社団法人 日本内科学会
雑誌
日本内科学会雑誌 (ISSN:00215384)
巻号頁・発行日
vol.106, no.8, pp.1591-1597, 2017-08-10 (Released:2018-08-10)
参考文献数
10

ヒトパピローマウイルス(human papillomavirus:HPV)ワクチン(子宮頸がんワクチン)接種後に,日常生活が困難な状況に陥った症例が1万人あたり2名程度ある.そのような症例の中で中枢神経系関連症状を呈した32例の髄液を検討し,①Th2シフトを示唆するIL(interleukin)-4,IL-13,CD4+ T cells増加,②IL-17増加(発症後12~24カ月),③IL-8,MCP-1(monocyte chemoattractant protein-1)増加,④GluN2B,GluN1に対する自己抗体増加等が明らかとなった.
著者
冨岡 志保 下野 昌幸 加藤 絢子 高野 健一 塩田 直樹 高橋 幸利
出版者
一般社団法人 日本小児神経学会
雑誌
脳と発達 (ISSN:00290831)
巻号頁・発行日
vol.40, no.1, pp.42-46, 2008-01-01 (Released:2011-12-12)
参考文献数
9

全般性けいれんの後に発熱, 頭痛, 項部硬直が持続した16歳男児.ごく軽度の意識低下, 脳波で前頭葉に連続性棘徐波および髄液細胞数上昇, IgG indexの上昇とoligoclonal IgG band陽性を認めた.頭部MRIのFLAIR像で両側半球に散在する部分的灰白質の信号亢進が疑われた.髄膜脳炎と判断し, methylprednisolone pulse療法を実施したところ, 臨床症状と脳波異常は軽快した.髄液中の抗グルタミン酸受容体 (以下GluR) は入院時ε2・δ2に対するIgG・IgM抗体がともに陽性であり, 軽快時は両抗体がともに陰性となった.抗GluR抗体が陽性になる髄膜脳炎の中に, Rasmussen脳炎とは明らかに異なる経過をとり, 治療に反応する予後良好な一群が存在する可能性が強く示唆された.
著者
高橋 幸利 木水 友一 小池 敬義 堀野 朝子
出版者
日本神経治療学会
雑誌
神経治療学 (ISSN:09168443)
巻号頁・発行日
vol.33, no.1, pp.19-26, 2016 (Released:2016-05-20)
参考文献数
27

A. Non–herpetic acute limbic encephalitis & anti–NMDAR encephalitis Non–herpetic acute limbic encephalitis is diagnosed with the characteristic onset symptom of limbic system and absence of herpes simplexes virus in CSF. Anti–NMDAR encephalitis is diagnosed with presence of antibodies to complex of NMDA–type GluR subunits by cell–based assay. Non–herpetic acute limbic encephalitis & anti–NMDAR encephalitis are causally related with antibodies to NMDA–type GluR, which internalize complex of NMDA–type GluR subunits on neural cell surface. Internalization may lead to protection from apoptosis by excitotoxicity related with increased glutamate and cytokines, and less phosphorylation of Akt in these encephalitides. Passive transfer of rabbit antibodies to n–terminal of human GluN2B into hippocampi of mice caused probable excited behavior and impairment of memory in behavioral analysis, and decreased expression of pam gene in microarray analyses and quantitative analyses of gene expression. In non–herpetic acute limbic encephalitis, factors including granzyme B, glutamate, etc., other than antibodies are causally related with neuronal cell death.B. Encephalitis mediated by antibodies to voltage–gated potassium channel (VGKC) In encephalitides mediated by antibodies to VGKC, patients with antibodies to leucine–rich glioma–inactivated 1 (LGI1) show characteristics of limbic encephalitis, and patients with antibodies to contactin–associate protein (Caspr) 2 show Morvan's syndrome with thymoma.C. Acute disseminated encephalomyelitis (ADEM) ADEM is the most common immune–mediated encephalitis, and its immune–mediated pathophysiology was not revealed. Recently, antibodies to myelin–oligodendrocyte glycoprotein were found in a few pediatric patients.
著者
浜野 宣行 高橋 幸利 岡本 明久 三木 博和 阪本 幸世 西 憲一郎 中尾 慎一 新宮 興
出版者
一般社団法人 日本集中治療医学会
雑誌
日本集中治療医学会雑誌 (ISSN:13407988)
巻号頁・発行日
vol.18, no.2, pp.233-237, 2011-04-01 (Released:2011-10-05)
参考文献数
14

精神症状や痙攣発作などの辺縁系障害を認める辺縁系脳炎の中でも抗N-methyl-D-aspartate(NMDA)受容体脳炎が近年話題となっており,若年女性の卵巣奇形腫に合併する頻度が高いことが報告されている。我々は,若年女性の腫瘍合併を伴わない抗NMDA受容体脳炎の1症例を経験した。抗痙攣薬や鎮静薬投与下でも痙攣抑制が困難な状況が継続したが,ステロイドパルス療法による一時的な症状の改善は認められた。血液検査,脳波検査,画像検査などでは特に有意な所見は得られず,また腫瘍の検出にも至らなかった。しかし,髄液中のグルタミン酸受容体抗体が検出され,本症例の辺縁系脳炎における自己抗体の介在が示唆された。重度の辺縁系障害のために長期の人工呼吸管理を余儀なくされたが,緩徐な症状軽快を認め,ICUを退室した。辺縁系脳炎は稀な疾患であるが,比較的治療反応性であるため,本疾患を疑った場合には早期に抗体検査や腫瘍検索を行うべきである。
著者
池田 修一 高橋 幸利
出版者
信州大学
雑誌
基盤研究(C)
巻号頁・発行日
2011

正常卵巣におけるNMDAR抗原の発現を検索するため、ウシの卵巣と未受精卵を検索した。免疫組織化学的に原始卵胞の細胞質と未受精卵の細胞膜にNR2B抗原の発現が認められた。次に凍結卵巣と未受精卵1031個を集めて蛋白化学的分析を行った。Immunoblottingではこれら組織にNR1とNR2Bの蛋白分画があることが見出された。そこで未受精卵の細胞膜から抽出した蛋白分画をLC-MS/MSで解析したところ、SPFGRFK, KNLQDR, GVEDALVSLK, QPTVAGAPK, NEVMSSKの5個のペプチドを得た。これらはNR1、NR2A、NR2B、NR2Cの部分アミノ酸配列と一致した。
著者
黒羽 泰子 長谷川 直哉 長谷川 有香 谷 卓 高橋 哲哉 松原 奈絵 高橋 幸利 小池 亮子
出版者
日本神経治療学会
雑誌
神経治療学 (ISSN:09168443)
巻号頁・発行日
vol.34, no.5, pp.543-546, 2018 (Released:2018-04-05)
参考文献数
11

症例は48歳男性.37歳,全身けいれん,失語で発症し,左側大脳半球のT2高信号域を認め,carbamazepine, sodium valproateを開始した.42歳,右半身不全麻痺が出現し,48歳,二次性全般化発作が頻回となり,失語,歩行障害が進行した.頭部MRI上,左側大脳半球が高度に萎縮し,脳波で左側前頭極に焦点のある鋭波を認めた.血清,髄液で抗GluN2B抗体が陽性であった.一側性大脳半球萎縮,焦点性てんかん発作があり,知的退行,運動障害が進行性であるため,Rasmussen脳炎と診断し,ステロイドパルス療法を施行した.治療後,二次性全般化発作の頻度が減り,自立歩行も可能となった.Rasmussen脳炎は,主に小児期に発症する自己免疫性てんかんで,早期治療介入が予後を改善する.本症例は,長期経過後の導入にもかかわらずステロイドパルス療法が有効であった.成人発症の緩徐進行性難治性てんかんでは,同疾患の可能性も疑い,長期経過例でも免疫療法を検討する必要があると思われる.
著者
小野 浩明 高橋 幸利
出版者
一般社団法人 日本小児神経学会
雑誌
脳と発達 (ISSN:00290831)
巻号頁・発行日
vol.42, no.1, pp.58-60, 2010 (Released:2016-05-11)
参考文献数
10

インフルエンザ脳症では情動異常や行動異常などの側頭葉辺縁系症状が前駆症状として出現することがある. しかし, インフルエンザ罹患に伴う辺縁系脳炎自体の報告例は稀である. 今回, インフルエンザ感染を契機に情動障害, 異常行動を呈した12歳女児例を経験した. 症状が遷延したためステロイドパルス療法を施行し, 以後軽快した. 頭部MRIでは異常を認めなかったが, 脳血流検査において側頭葉辺縁系の血流増加と髄液中抗グルタミン酸受容体抗体陽性を示したことから本例を辺縁系脳炎と診断した. インフルエンザで異常行動が遷延する場合は辺縁系脳炎の可能性も考慮し, 自己抗体の検索, ステロイドを含めた治療法の選択を検討するべきかと思われた.
著者
高橋 幸利 藤原 建樹 西村 成子 藤原 建樹 西村 成子 角替 央野 久保田 裕子 今井 克美 重松 秀夫 下村 次郎 池田 浩子 大谷 英之 山崎 悦子 大谷 早苗 高橋 宏佳 美根 潤 池上 真理子 向田 壮一 高山 留美子
出版者
独立行政法人国立病院機構(静岡・てんかん神経医療センター臨床研究部)
雑誌
基盤研究(C)
巻号頁・発行日
2007

脳炎は感冒などの後に発病し後遺症を残す病気で、病態解明と治療法の開発が重要である。非ヘルペス性急性辺縁系脳炎では、グルタミン酸受容体(GluR)のひとつであるGluRε2分子の幅広い領域を抗原とする抗体が産生されていて、感染ウィルスに対する抗体がGluRε2に交差反応しているのではないことが分かった。ラスムッセン脳炎では抗GluRε2 抗体を含む髄液IgGがアポトーシスを誘導している可能性が示唆された。
著者
高橋 幸利
出版者
一般社団法人 日本小児神経学会
雑誌
脳と発達 (ISSN:00290831)
巻号頁・発行日
vol.45, no.2, pp.99-105, 2013 (Released:2014-10-11)
参考文献数
20
被引用文献数
7

非ヘルペス性急性辺縁系脳炎を代表とする神経細胞表面抗原に対する自己抗体の関与する脳炎では比較的予後が良いとされる. 非ヘルペス性急性辺縁系脳炎の抗NMDA型glutamate receptor (GluR) 抗体は, NMDA型GluRの内在化により脳炎症状を起こすと考えられているが, シナプス外NMDA型GluRの内在化により, グルタミン酸などによるGluR活性化—アポトーシス (興奮毒性) を抑制, 予後を改善している可能性がある. シナプスのNMDA型GluRは内在化されにくく, cAMP-response-element-binding-proteinリン酸化が保持され, 細胞生存が可能となっている可能性がある.
著者
高橋 幸利
出版者
一般社団法人 日本内科学会
雑誌
日本内科学会雑誌 (ISSN:00215384)
巻号頁・発行日
vol.96, no.8, pp.1608-1613, 2007 (Released:2012-08-02)
参考文献数
7
被引用文献数
2 1

抗てんかん薬による神経・筋障害は軽度のものを含めるとかなり高頻度に見られ,眠気のように共通したものから,抗てんかん薬ごとに特徴的な副作用まで多岐にわたる.バルプロ酸では,致死性肝毒性(意識障害,てんかん発作増悪)・催奇形性(神経菅閉鎖不全)・高アンモニア血症などが重要である.カルバマゼピンでは,中毒症状(眠気・複視・失調)・てんかん発作増悪(欠神発作・ミオクロニー発作など)が重要である.フェニトインでは,急性PHT中毒(水平性眼振,複視,失調)・進行性ミオクローヌスてんかんの悪化(失調,てんかん発作の悪化,退行)・精神障害(統合失調症様の症状)が重要である.ゾニサマイドでは,認知・精神症状(意欲の低下,幻覚,焦燥,うつ,不安)が重要である.ガバペンチンでは,眠気・部分発作の増悪が重要である.フェノバルビタールでは,行動変化(小児の行為障害,注意欠陥多動障害)・認知障害が重要である.トピラメートでは,精神症状(不安,焦燥,うつ)・認知障害・部分発作の増悪が重要である.
著者
高橋 幸利
出版者
一般社団法人 日本内科学会
雑誌
日本内科学会雑誌 (ISSN:00215384)
巻号頁・発行日
vol.96, no.8, pp.1608-1613, 2007-08-10
参考文献数
7
被引用文献数
1 1

抗てんかん薬による神経・筋障害は軽度のものを含めるとかなり高頻度に見られ,眠気のように共通したものから,抗てんかん薬ごとに特徴的な副作用まで多岐にわたる.バルプロ酸では,致死性肝毒性(意識障害,てんかん発作増悪)・催奇形性(神経菅閉鎖不全)・高アンモニア血症などが重要である.カルバマゼピンでは,中毒症状(眠気・複視・失調)・てんかん発作増悪(欠神発作・ミオクロニー発作など)が重要である.フェニトインでは,急性PHT中毒(水平性眼振,複視,失調)・進行性ミオクローヌスてんかんの悪化(失調,てんかん発作の悪化,退行)・精神障害(統合失調症様の症状)が重要である.ゾニサマイドでは,認知・精神症状(意欲の低下,幻覚,焦燥,うつ,不安)が重要である.ガバペンチンでは,眠気・部分発作の増悪が重要である.フェノバルビタールでは,行動変化(小児の行為障害,注意欠陥多動障害)・認知障害が重要である.トピラメートでは,精神症状(不安,焦燥,うつ)・認知障害・部分発作の増悪が重要である.<br>
著者
高橋 宏佳 高橋 幸利 美根 潤 向田 壮一 池上 真理子 池田 浩子 大谷 英之 下村 次郎 久保田 裕子 藤原 建樹
出版者
一般社団法人 日本小児神経学会
雑誌
脳と発達 (ISSN:00290831)
巻号頁・発行日
vol.42, no.4, pp.273-276, 2010-07-01
参考文献数
12
被引用文献数
1

&emsp;Dravet症候群に対するtopiramate (TPM) の治療効果を検討した. Dravet症候群と診断された11症例 (7.1&plusmn;6.2歳) を対象とし, 投与前2カ月と投与後2カ月, 投与後6カ月目を含む2カ月間の発作回数を比較した. けいれん発作に対する投与後2カ月での評価は, 発作消失が1例, 50%以上発作減少が6例, 50%未満~無効が3例, 悪化が1例であった. 服用を6カ月間続けたのは10例で, 発作消失が1例, 50%以上発作減少が7例, 50%未満~無効が2例, 悪化が0例であった. TPMはDravet症候群のけいれん発作抑制に有効と思われた.
著者
小松原 孝夫 眞柄 慎一 小林 悠 放上 萌美 皆川 雄介 岡崎 実 遠山 潤 高橋 幸利
出版者
一般社団法人 日本小児神経学会
雑誌
脳と発達 (ISSN:00290831)
巻号頁・発行日
vol.51, no.4, pp.254-259, 2019 (Released:2019-10-26)
参考文献数
18

Rasmussen脳炎 (Rasmussen encephalitis; RE) は, 主に小児期に発症し, 慢性局在性脳炎をきたす自己免疫性疾患である. 通常, 一側性のてんかん発作を初発症状として発症し, 数年の経過を経て対側大脳半球の進行性萎縮と痙性片麻痺が徐々に顕在化する. 今回てんかん発作が先行せずに発症した非典型REの4歳6か月女児例を経験した. 痙性片麻痺で発症し, 一側大脳半球の進行性萎縮を認め, 診断基準3項目中2項目を満たしたためREと診断した. 補助診断として, 髄液中抗グルタミン酸受容体抗体が強陽性を示し, 髄液granzyme B濃度の有意な上昇を認めた. メチルプレドニゾロンパルス療法, 経静脈的γグロブリン療法が病態の改善に有効であった. 同様の症例はヨーロッパコンセンサス研究でRE with delayed seizures onsetとして紹介されている. 過去の報告と同様に, 本例の経過からは, REでは自己免疫反応が先行し, のちに慢性的な大脳障害を来すことが示唆された. REの特に病初期においては, てんかん発作を伴わない症例が存在することに注意が必要である.
著者
高橋 幸利 山崎 悦子 西村 成子 角替 央野 丹羽 憲司 Josep Dalmau 今井 克美 藤原 建樹
出版者
日本神経学会
雑誌
臨床神経学 (ISSN:0009918X)
巻号頁・発行日
vol.48, no.11, pp.926-929, 2008 (Released:2009-01-15)
参考文献数
8
被引用文献数
7 6

非傍腫瘍性非ヘルペス性急性辺縁系脳炎・脳症(NPNHALE)(成人69例+小児26例)と,卵巣奇形腫を合併する脳炎・脳症症例(NHAE-OT)(19例)を比較検討した.NHAE-OTの臨床特徴は,発病年齢,先行因子から脳炎発病までの日数,初発神経症状,急性期神経症状,髄液所見などの点で,成人のNPNHALEときわめてよく似ていることがわかり,卵巣奇形腫に合併する脳炎・脳症は,急性辺縁系脳炎の特徴を示すことがわかった.抗GluRε2抗体についても,共通性がみられ,両群とも高率に,NMDA型GluRのうちのGluRε2(NR2B)の細胞外ドメイン(N末)をエピトープとする自己抗体を有していた.
著者
月田 和人 下竹 昭寛 中谷 光良 高橋 幸利 池田 昭夫 髙橋 良輔
出版者
日本神経学会
雑誌
臨床神経学 (ISSN:0009918X)
巻号頁・発行日
vol.57, no.1, pp.37-40, 2017 (Released:2017-01-31)
参考文献数
10
被引用文献数
2 7

症例は46歳男性.5ヶ月前から性格変化や記銘力低下があり徐々に増悪し就業不能となった.頭部MRI T2強調像で両側内側側頭葉に異常高信号域を認め当初はウイルス性や自己免疫性の辺縁系脳炎を疑ったが,血清と髄液梅毒反応がともに陽性であったため神経梅毒と診断した.ベンジルペニシリンで治療し就業可能にまで回復した.辺縁系脳炎に類似した画像所見を示す神経梅毒の症例では,比較的若年発症,HIV陰性,亜急性経過の認知機能低下やてんかん発作の特徴を有するため,同様の臨床的特徴をもつ症例では積極的に神経梅毒を疑うべきである.さらに本症例は髄液の抗グルタミン酸受容体抗体が強陽性で,病態へ関与した可能性が疑われた.
著者
酒井 智彦 田崎 修 松本 直也 鵜飼 勲 別宮 豪一 高橋 幸利 杉本 壽
出版者
一般社団法人 日本救急医学会
雑誌
日本救急医学会雑誌 (ISSN:0915924X)
巻号頁・発行日
vol.20, no.5, pp.258-264, 2009-05-15 (Released:2009-09-04)
参考文献数
16

フェノバルビタール大量療法で難治性痙攣をコントロールし得た 1 例を経験した。患者は50歳の男性。熱発・全身倦怠感で発症し, 4 日後に,脳髄膜炎を疑われ,前医へ入院となった。入院後から痙攣発作を認めるようになり,痙攣の持続時間は数十秒から30分程度であった。原因検索を行うと同時に,各種抗痙攣薬で痙攣のコントロールが試みられたが,痙攣の頻度は変わらず,前医第 9 病日に当センターへ転院となった。ミダゾラム,サイアミラール,プロポフォールなどの静脈麻酔薬を併用しつつ,抗痙攣薬で痙攣のコントロールを試みたが,痙攣は消失しなかった。経過中,血清中の抗グルタミン酸受容体IgM-ε2抗体が陽性であることが判明し,自己免疫介在性脳炎が強く疑われた。ステロイドパルス療法が著効しなかったため,フェノバルビタールの投与量を段階的に1,200mg/dayまで増量したところ,血中濃度が60μg/mlを超えたところで痙攣が消失した。その後,他の抗痙攣薬を順次中止し,フェノバルビタールの単剤投与としても,痙攣が再発することはなく,第76病日の脳波でも棘波は消失した。痙攣のコントロールに難渋する症例に対して,フェノバルビタール大量療法は効果の期待できる治療法であると考えられた。
著者
高橋 宏佳 今井 克美 高山 留美子 美根 潤 大谷 早苗 池田 浩子 久保田 裕子 高橋 幸利 井上 有史 藤原 建樹
出版者
The Japanese Society of Child Neurology
雑誌
脳と発達 (ISSN:00290831)
巻号頁・発行日
vol.43, no.4, pp.305-308, 2011-07-01

乳児期に発症した難治性のてんかんに対して緩和ケトン食が著効した1例を経験した. 生後8カ月からてんかん性スパズムが出現し, 一時ACTH療法にて発作は消失したが, 1歳1カ月時に部分発作で再発し, 2歳以後は部分発作とスパズムの複合発作となり, 種々の抗てんかん薬に抵抗性であった. 2歳6カ月時に絶食期間をおかず, カロリー制限・水分制限をせず, MCTオイルを使用した緩和ケトン食を開始し, 20日目に発作消失かつ脳波も著明改善した. 従来の古典的ケトン食を緩和した緩和ケトン食療法は副作用が少なく継続しやすいため, 難治性のてんかんにおいて試してみる価値のある治療法であり, わが国においても再評価されるべきである.
著者
高橋 幸利
出版者
日本神経学会
雑誌
臨床神経学 (ISSN:0009918X)
巻号頁・発行日
vol.52, no.11, pp.836-839, 2012 (Released:2012-11-29)
参考文献数
9
被引用文献数
2 1

感染などにともなう免疫反応によって脳炎症状がおこる2次性脳炎(脳症)には,自然免疫が関与するものと,獲得免疫が関与するものが存在する.後者の内で細胞表面抗原に対する自己抗体の関与する脳炎では比較的予後が良いとされる.抗NMDA型Glutamate receptor(GluR)抗体の関与する脳炎は,小児から40歳までくらいの成人に多く,辺縁系症状で発病,抗体がNMDA型GluRの内在化をおこし,NMDA型GluR拮抗作用―機能抑制をもたらし,脳炎症状を起こすと考えられている.抗voltage-gated potassium channel(VGKC)抗体の関与する脳炎には抗Leucine-rich glioma-inactivated 1(LGI1)抗体および抗contactin-associate protein(CASPR)2抗体による脳炎があるが,男性に多い.α-enolaseのN末に対する抗体(抗NAE抗体)による橋本脳症の臨床特徴は幅広く,抗TPO抗体スクリーニング陽性例では抗NAE抗体による確定診断が必要である.
著者
山本 吉章 家田 直幸 三島 信行 松田 一己 高橋 幸利 賀川 義之
出版者
一般社団法人日本医療薬学会
雑誌
医療薬学 (ISSN:1346342X)
巻号頁・発行日
vol.37, no.7, pp.411-418, 2011 (Released:2012-08-30)
参考文献数
25
被引用文献数
1

This study was designed to evaluate the persistence and safety of topiramate therapy in children and adults with epilepsy. It was a retrospective cohort study undertaken from October 2007 in which we analyzed the clinical records of 726 patients (216 children and 510 adults) who received topiramate for the treatment of epilepsy at the National Epilepsy Center, Shizuoka Institute of Epilepsy and Neurological Disorders. Factors associated with discontinuation of topiramate therapy determined from the results of the log-rank test (p<0.1) were subjected to multivariate Cox regression analysis in order to calculate hazard ratios and 95% confidence intervals (95% CI).Suspension (Discontinuation) or dose reduction of topiramate were necessary due to adverse effects in 85 children (39%), of which the major ones were drowsiness (16.2%), anorexia (10.7%), hypohidrosis (4.7%), and irritability (4.2%). There was a higher incidence of hypohidrosis and a lower incidence of speech disorders in children as compared with adults (both p < 0.05). According to Cox proportional hazards analysis, the adjusted hazard ratio for discontinuation of topiramate therapy in children was 0.92 (95% CI : 0.75-1.23 ; p=0.76). In conclusion, this comparative study showed that the persistence and safety of topiramate therapy were similar in children and adults.