- 著者
-
傳 康晴
- 出版者
- 千葉大学
- 雑誌
- 奨励研究(A)
- 巻号頁・発行日
- 2000
本年度は、人間同士の音声対話コーパスの分析を通じて、「命題要素+インタラクション要素」という観点から自然発話文の構造を記述することを目指した。その結果、以下の成果が得られた。・発話冒頭の語句の再開始 昨年度の成果により、発話冒頭に見られる語句の再開始(「たー、田中真紀子が、えーと、総裁選に出るんだって」)が、発話の滞りを聞き手に事前告知するための合図として機能することがわかったが、この事前告知を有標化する音の引き伸ばし(「たー」)が意図的なものであるか検討するため、類似した現象である語句の言い直し(「た、辻元清美が辞職したって」)と比較した。その結果、言い直しよりも再開始のほうが音の引き伸ばしは顕著であり、自己発話の滞りを話し手が事前に検知して告知するという意図的な方略であることがわかった。・非優先的発話の構造 依頼を断る場面など社会的に好まれない発話(非優先的発話)は、一般に、間延びしたり、回りくどい言い回しになることが知られているが、依頼そのものがぶっきらぼうであった場合には、さらに、呼応の隔りの調整のため、問い返しという方略がしばしば用いられることが実験的検討によってわかった。これは、非優先的発話では、発話が問い返しを含む複数のターンにわたって計画されることを示唆しており、単独文の文法規則によって自然発話文の構造を記述しようという本研究の限界を示し、今後の課題を投げ掛けるものとなった。