著者
齋藤 めぐみ 山田 和芳 リチャード スタッフ 中川 毅 米延 仁志 原口 強 竹村 恵二 クリストファー ラムジー
出版者
公益社団法人 東京地学協会
雑誌
地学雑誌 (ISSN:0022135X)
巻号頁・発行日
vol.122, no.3, pp.493-501, 2013-06-25 (Released:2013-07-08)
参考文献数
23
被引用文献数
2 6

Sediment cores from Lake Suigetsu, Japan, reveal the absence of seawater intrusion into the lake caused by the historically documented tsunami of AD1586 (Tensho Tsunami). A high-precision chronology of the cores established by Bayesian modeling radiocarbon determinations enables us to ascertain the precise position of the historical event in the sediment depth. Diatom analysis of the core shows that a diatom assemblage dominated by freshwater taxa persisted through the period. This makes a clear contrast with the core section around AD1664 when the lake was artificially connected to the sea by a channel, and the subsequent intrusion of seawater was clearly recorded in the sediment cores by the occurrence of marine diatom fossils.
著者
安田 喜徳 中川 毅 高橋 学 佐藤 洋一郎 北川 浩之 福澤 仁之 外山 秀一 徐 朝龍
出版者
国際日本文化研究センター
雑誌
COE形成基礎研究費
巻号頁・発行日
1997

平成13年度はプロジェクトの最終年度にあたり、主として研究成果のとりまとめと、補足調査ならびに研究成果の発表を実施した。平成13年度「長江文明の探求」の成果として特筆すべきことがらは、1)世界最古の焼成レンガの発見、2)中国最古の祭政殿の発見、3)中国最古の王宮の発見、4)大型の木柱をもった貯蔵庫の発見、5)城頭山遺跡の城壁が3重構造を持つことの発見、6)城頭山遺跡の住人が苗族であった可能性が高いこと、7)長江文明と日本文明の関係の解明、8)国際シンポジウムの実施し、9)研究成果報告書の刊行、10)記者発表による研究成果の公開などである。1)世界最古の焼成レンガの発見湖南省城頭山遺跡から出土した紅焼土とこれまでよばれてきたものの焼成過程を詳細に分析した結果、それが火事などで偶然できたものではなく、焼成レンガであることが判明した。焼成温度は摂氏600度以上の高温で、均質に焼かれており、かつそれらを大量に生産するシステムが存在したことが判明した。14C年代測定の結果その焼成レンガはすでに6400年前に作られていたことがあきらかとなり、世界最古の焼成レンガであることが判明した。2)中国最古の祭政殿の発見大渓文化の土廣墓の上にこの焼成レンガを敷き詰め、その上に屈家嶺文化早期の正殿・前殿・脇殿の構造をもった建築物が発見された。これは中国最古の祭政殿とみなされる。3)中国最古の王宮の発見祭政殿の西側に焼成レンガの上にさらに40cmほど版築をした上に、列柱回廊を持つ大型の建物が発見されんた。内部には御簾を支えたとみなされる列柱も発見され、これが王宮であった可能性がきわめて高いことが判明した。4)大型の木柱をもった貯蔵庫の発見東門の背後から直径1m以上の木柱をもつ大型の建物跡が発見され、その周辺から大量のイネの籾殻のプラントオパールが集中して発見された。このことから、この大型の木造家屋はイネ籾の貯蔵庫であった可能性が指摘できる。5)城頭山遺跡の城壁が3重構造を持つことの発見、城頭山遺跡の修景保存のための発掘調査の結果、城頭山遺跡の城壁は3回にわたって築造が内側から外側へと城壁が拡大築造されていることが判明した。6)城頭山遺跡の住人が苗族であった城頭山遺跡から出土した木材片の分析の結果、大半がフウの木であることが判明し、城頭山遺跡の住人はフウの木を愛用し崇拝していた可能性が高いことが判明した。現在フウの木を崇拝し愛用しているのは少数民族の苗族であり、城頭山遺跡の住人が苗族である可能性が高いことが指摘された。7)長江文明と日本文明の関係の解明城頭山遺跡周辺では水陸未分化の稲が栽培され、畑作雑穀も栽培されていた城頭山遺跡から出土した大型種子の分析の結果、水田雑草の種子とともに大量の畑作雑草の種子が検出され、遺跡周辺での稲作は水陸未分化の稲であったことが指摘できる。これは縄文時代晩期の唐津市菜畑遺跡の分析結果とよく似ており、稲作の日本への伝播経路が長江下流域から直接東シナ海を渡って日本に伝播した可能性が高いことが明らかとなった。8)国際シンポジウムの開催平成13年11月に長江文明の興亡と環境変動についてて世界の古代文明の研究者を招聘して、国際シンポジウムを実施した。その結果4200年前の気候悪化が長江文明の崩壊に決定的な意味を持ったことが明らかとなった。9)研究成果の報告書の刊行英文1冊、中文2冊の研究成果の報告書を刊行した。英文の報告書は「Origins of Pottery and Agriculture」(Lusre Press Roli Book)384pp.中文の報告書は「神話・祭祀和長江文明」文物出版社200頁と「長江流域乃青銅器」科学出版社200頁である。さらに現在中文の報告書「城頭山遺跡」を編集中であり、平成14年12月までには刊行できる見通しである、予定頁数は1000頁を越える膨大な報告書が出る予定である。10)記者発表平成13年11月2日に記者発表を行い、研究成果の公開を行った。
著者
中川 毅
出版者
日本第四紀学会
雑誌
第四紀研究 (ISSN:04182642)
巻号頁・発行日
vol.62, no.1, pp.1-31, 2023-02-01 (Released:2023-02-21)
参考文献数
119

気候変動の地域による先行,遅延,あるいは同時性は,気候変動の因果関係を理解する上で,しばしばカギとなる情報を提供する.とくに,16〜10 cal. kyr BP頃に起こった晩氷期から完新世初期にかけての移行は,いくつかの急激な気候変動を含む上に情報も多いことから,気候変動の時空間構造を調べるためのターゲットとして理想的である.だが現実には,異なる地域の間で年代軸を精密に同期 (synchronise) させることは容易ではなく,気候変動のタイミング比較はほとんどの場合,仮説的な議論にとどまってきた.このことを踏まえ,本研究では福井県水月湖から新たに得られた花粉データ (n=510) および気候復元の結果について報告する.水月湖の放射性炭素データはIntCal20の主要構成要素であり,絶対年代はU/Th年代と互換性がある.水月湖のきわめて精密な年代軸,およびグリーンランドのアイスコアに含まれる宇宙線生成核種の研究の進歩により,水月湖とグリーンランド,またその他の多くの地域の精密な対比が可能になった.それによると,完新世および晩氷期亜氷期 (ヤンガー・ドリアス期に相当) の開始は,いずれも水月湖とグリーンランドの間で同時だった.ただし晩氷期亜間氷期 (ベーリング・アレレード期に相当) の開始については,水月湖がグリーンランドに200年ほど先行した.偏西風の双峰的 (bimodal) な移動は,東および南アジア (ひょっとすると西アジアも) において急激な変動を産み出す,「しきい値」 を含んだメカニズムとして重要だったかもしれない.大西洋においては,緯度方向の鉛直循環 (Antarctic Meridional Overturning Circulation: AMOC) のオン・オフの切り替わりが,より強力な 「しきい値」 メカニズムとして存在していた.アジアと大西洋のしきい値の高さが異なることで,両者の気候応答に数十年〜数百年規模の遅延が生じた.また,どちらか一方だけが応答した場合には東西で気候モードの不均衡が発生し,気候は不安定化した.気候が安定な時代は,人類が農耕と定住を開始した時期に対して良い一致を示した.これらの新しい生活技術は気候が安定した時代,すなわち短期的な予測が可能な時代でないと,必ずしも生存にとって有利に働かなかったのかもしれない.
著者
齋藤 めぐみ 山田 和芳 スタッフ リチャード 中川 毅 米延 仁志 原口 強 竹村 恵二 ラムジー クリストファー Megumi SAITO-KATO Kazuyoshi YAMADA Richard A STAFF Takeshi NAKAGAWA Hitoshi YONENOBU Tsuyoshi HARAGUCHI Keiji TAKEMURA RAMSEY Christopher BRONK
出版者
東京地学協会
雑誌
地学雑誌 = Journal of geography (ISSN:0022135X)
巻号頁・発行日
vol.122, no.3, pp.493-501, 2013

Sediment cores from Lake Suigetsu, Japan, reveal the absence of seawater intrusion into the lake caused by the historically documented tsunami of AD 1586 (Tensho Tsunami). A highprecision chronology of the cores established by Bayesian modeling radiocarbon determinations enables us to ascertain the precise position of the historical event in the sediment depth. Diatom analysis of the core shows that a diatom assemblage dominated by freshwater taxa persisted through the period. This makes a clear contrast with the core section around AD 1664 when the lake was artificially connected to the sea by a channel, and the subsequent intrusion of seawater was clearly recorded in the sediment cores by the occurrence of marine diatom fossils.
著者
Halim Ahmad Sukari 中川 毅史 野口 修平 三原 誠
出版者
Japan Academic Collaboration Medical Society
雑誌
Academic Collaborations for Sick Children (ISSN:1884426X)
巻号頁・発行日
vol.1, no.1, pp.20-23, 2009

女性器癌患者に対し、近年、妊孕性温存を目的とした治療法の開発が行われている。しかしながら、病期の進んだ症例に対しては、妊孕性を犠牲にして癌切除を行なう必要がある。我々は、病期が進み、拡大子宮切除を行なわれた患者さんの妊孕性再建を目指して、卵巣凍結研究と免疫抑制下の子宮移植研究を行なっている。子宮移植研究自体は、まだまだ倫理的な問題や法的な問題が残っており、早期の臨床応用は難しいと思われるが、摘出した卵巣の一部を凍結保存し、将来、卵原細胞から成熟卵子を得るためのIVM-IVF技術の進歩を待ち、産児を得る可能性を残すことは非常に重要なことだと考えている。<BR> 我々は、形成外科領域における血管吻合技術の進歩「超微小血管外科技術(Super-Microsurgery)」と移植外科領域の進歩「免疫寛容下臓器移植」を融合させることで、新しい子宮移植法の確立し、子宮癌により子宮を摘出された患者さんの安全な妊孕性再建を目指す。女性器癌を発症した患者に対して、摘出した卵巣組織の一部(病理診断に使用しない部分)を凍結保存することは、代理母、子宮移植研究を鑑みて非常に重要なことである。今回、ブタの子宮移植実験モデルを開発したので報告する。
著者
Samanpachin Kanit 中川 毅史 野口 修平 三原 誠
出版者
日本学術連携医学会
雑誌
Academic Collaborations for Sick Children (ISSN:1884426X)
巻号頁・発行日
vol.1, no.1, pp.16-19, 2009-08-25 (Released:2010-05-11)
参考文献数
15
被引用文献数
1 1

昨今、若年女児の医原性不妊症を回避するための妊孕性温存を目的として、未受精卵凍結、卵巣凍結の研究が進んできているが、その一方で若年男児に関しては、精子凍結技術の発達からあまり大きな問題とされていない。しかしながら、思春期前若年男児においては、精子形成が未熟なため精子を採取することができず、未だ妊孕性温存の治療法は開発されていない。今回我々は、思春期前小児癌男児の妊孕性温存を目的とした血管付精巣移植実験モデルを開発し、ラット精巣動静脈の血管吻合が現実のものとなった。さらに、マウス精巣組織を磁場環境下凍結技術によって凍結し、既存の凍結方法よりも組織破壊が減少できることを見い出した。超微小血管外科技術と精巣凍結技術の応用によって、精巣の長期保存と移植研究の道を切り開いた。
著者
中川 毅
出版者
名古屋大学
雑誌
名古屋大学加速器質量分析計業績報告書
巻号頁・発行日
vol.9, pp.244-252, 1998-03

フランス南部および中部アルプス地方の9地点から堆積物試料を採取し、層準によって化石花粉に富んだ密度フラクションまたは陸上起源の大型植物遺骸を抽出し、それぞれに対してAMS年代測定をおこなった。花粉のフラクションの分離にあたっては、Regnell&Everitt(1996)によって提案された比重分離法を適用した。もっとも彼らの論文が示唆するところとは異なり、実際に抽出されたフラクションは、かならずしも花粉だけを純粋に含むものではなかった。年代測定の結果を比較・検討したところ、密度フラクションから得られる年代は、陸上起源の大型植物遺骸から得られる年代に対して、ほぼ一貫して古い値をしめすことが分かった。ただし分離されたフラクションがほぼ純粋に化石花粉を含む場合に限っては、両者の間に値の矛盾は見られなかった。このことは、年代のシフトには花粉遺骸の物質の混入が寄与していること、また、花粉が純粋な形で抽出できさえすれば、AMS年代測定用の適切な試料となりうることを示している。Regnell&Everittの方法は原状では完全なものではなく、このことは、その後の彼らとのpersonal communicationによっても裏付けられている。技術的な改善点としては、密度のさらなる細分化、シュルツ液の利用による炭素粒子の除去などが考えられ、これらの実施は当面の課題であろう。
著者
中川 毅 奥田 昌明 米延 仁志 三好 教夫 竹村 恵二
出版者
日本第四紀学会
雑誌
第四紀研究 (ISSN:04182642)
巻号頁・発行日
vol.48, no.3, pp.207-225, 2009-06-01 (Released:2012-03-27)
参考文献数
40
被引用文献数
4 6

過去におけるモンスーン変動のパターンを復元するための代表的な試料として,中国のレス古土壌堆積物と鍾乳石をあげることができる.だが,前者が主としてモンスーンと氷期・間氷期サイクルの密接な結びつきを示唆するのに対し,後者においては太陽放射の直接の影響の方が卓越するなど,両者の間には本質的に解決されない矛盾が存在していた.著者らは,琵琶湖の堆積物コアの化石花粉データを用いて,季節ごとの気候を過去45万年にわたって定量的に復元することで,この矛盾を統合的に説明することを試みた.その結果,シベリアと太平洋の気団の温度はいずれも氷期・間氷期サイクルに応じて変動するが,海陸の温度傾度においてはそのような変動が相殺され,むしろ太陽放射の直接の影響の方が卓越することがわかった.また海陸の温度傾度はモンスーンの直接の駆動力であるため,夏モンスーンの強度も太陽放射の変動周期に同調して(すなわち,主として23,000年の歳差運動周期で)変動していた.ただし,太陽放射の振幅が十分に大きくない時代においては,モンスーンは氷期・間氷期サイクルの方に連動する傾向が見られた.本稿では,これらの事実を総合的に説明することのできる,きわめて単純なモデルについて解説する.またモンスーンが海洋の表面温度の分布に及ぼすかもしれない長期的な影響,ならびにレス古土壌堆積物が内包している,モンスーンの記録計としての問題点についても言及する.