著者
佐藤 隆春 大和大峯研究グループ 奥田 尚 佐藤 浩一 竹内 靖夫 南浦 育弘 八尾 昭
出版者
地学団体研究会
雑誌
地球科學 (ISSN:03666611)
巻号頁・発行日
vol.60, no.5, pp.403-413, 2006-09-25
被引用文献数
12

紀伊山地中央部の秩父帯は大峯-大台スラストで四万十帯の構造的上位にある.大峯-大台スラストは弧状および半円形断層で変位している.秩父帯は東西幅30km以上の弧状断層および直径15km以上の半円形断層の内側にみられる.両断層は同心円状の形状を示す.安山岩と安山岩-石英斑岩複合岩脈からなる弧状岩脈群が弧状断層の内側に貫入している.半円形断層の外側に並行して火砕岩岩脈群が貫入する.中生界(秩父・四万十帯)は両断層と火砕岩岩脈群の内側が数百m陥没する.これを大峯・大台コールドロンと命名する.前者は弧状断層で囲まれる.後者は半円形断層と火砕岩岩脈群で囲まれている.これらの特徴はコールドロンが連続して形成された二重のコールドロンであることを示す.コールドロンにともなわれる岩脈群の放射年代はこれらが中期中新世に形成されたことを示す.大峯・大台コールドロンの形成機構は大量の火砕岩の噴出によるピストンシリンダータイプの陥没と考えられ,特に大台コールドロンはトラップドアタイプの陥没と考えられる.紀伊山地中央部の秩父帯はこれらのコールドロンの内側に残存する中生界である.紀伊山地の隆起と侵食により,これらのコールドロンから噴出したカルデラ充填火砕岩層はコールドロンの周囲には残っておらず,カルデラ床を構成していた中生界が露出するにいたった.
著者
室生団体研究グループ 八尾 昭
出版者
地学団体研究会
雑誌
地球科学 (ISSN:03666611)
巻号頁・発行日
vol.62, no.2, pp.97-108, 2008-03-25 (Released:2017-05-16)
被引用文献数
5

中新世の室生火砕流堆積物は近畿地方,紀伊半島中央部に分布し,その面積は1.9×10^2km^2に達する.室生火砕流堆積物は基底相と主部相に区分できる.基底相は層厚50m未満で異質岩片を含む溶結した火砕流堆積物と火山豆石を含む降下火山灰,火砕サージ堆積物で構成される.主部相はさらに下部にはさまれる層厚30m未満の斜方輝石を含むデイサイト質火山礫凝灰岩と上部の層厚400mを超える膨大な黒雲母流紋岩質火山礫凝灰岩に分けられる.主部相の基質はほとんどが溶結した結晶凝灰岩である.基底相には中礫大未満のチャート,砂岩,頁岩などの岩片が含まれており,室生火砕流堆積物を供給した地域の基盤岩を構成していた.室生火砕流堆積物は以前から中期中新世の熊野・大峯酸性岩類など大規模な珪長質火成岩が分布する南方から供給されたと推定されていた.異質岩片のチャートにペルム紀〜ジュラ紀の放散虫化石が含まれ,その給源火山の一部は秩父帯にあった可能性がある.秩父帯では半円形の断裂に沿って火砕岩岩脈群が貫入する大台コールドロンが存在しており,膨大な火砕流を噴出したことが推定される.
著者
八尾 昭
出版者
一般社団法人 日本地質学会
雑誌
地質学雑誌 (ISSN:00167630)
巻号頁・発行日
vol.117, no.5, pp.303-306, 2011-05-15 (Released:2011-09-17)
参考文献数
10
被引用文献数
1

There exist problems regarding the Japanese notation for chronostratigraphic and geochronologic units, as proposed by Japanese Industrial Standards (JIS). The first problem is the inappropriate translation into Japanese of the terms “Lower/Early, Middle/Middle, and Upper/Late” applied to Series/Epoch units in the International Stratigraphic Chart. The second problem is the inappropriate word order of System/Period units and Series/Epoch units. These problems can be overcome by using logical notation in which the terms “Lower/Early, Middle/Middle, and Upper/Late” for Series/Epoch units are translated as “kabutou/kose, chubutou/chuse, and joubutou/shinse” in Japanese. Although the Geological Society of Japan recommends the use of the JIS-style notation, the revised notation (as summarized here) is more logical and appropriate.
著者
室生団体研究グループ 八尾 昭 茅原 芳正 別所 孝範 鎌田 浩毅 山本 俊哉 渕上 芳孝 石井 久夫 森山 義博 西尾 明保 寺戸 真 八尾 昭
出版者
地学団体研究会
雑誌
地球科学 (ISSN:03666611)
巻号頁・発行日
vol.62, no.2, pp.97-108, 2008
参考文献数
52
被引用文献数
2

中新世の室生火砕流堆積物は近畿地方,紀伊半島中央部に分布し,その面積は1.9×10^2km^2に達する.室生火砕流堆積物は基底相と主部相に区分できる.基底相は層厚50m未満で異質岩片を含む溶結した火砕流堆積物と火山豆石を含む降下火山灰,火砕サージ堆積物で構成される.主部相はさらに下部にはさまれる層厚30m未満の斜方輝石を含むデイサイト質火山礫凝灰岩と上部の層厚400mを超える膨大な黒雲母流紋岩質火山礫凝灰岩に分けられる.主部相の基質はほとんどが溶結した結晶凝灰岩である.基底相には中礫大未満のチャート,砂岩,頁岩などの岩片が含まれており,室生火砕流堆積物を供給した地域の基盤岩を構成していた.室生火砕流堆積物は以前から中期中新世の熊野・大峯酸性岩類など大規模な珪長質火成岩が分布する南方から供給されたと推定されていた.異質岩片のチャートにペルム紀〜ジュラ紀の放散虫化石が含まれ,その給源火山の一部は秩父帯にあった可能性がある.秩父帯では半円形の断裂に沿って火砕岩岩脈群が貫入する大台コールドロンが存在しており,膨大な火砕流を噴出したことが推定される.
著者
奥田 尚 江崎 洋一 八尾 昭
出版者
地学団体研究会
雑誌
地球科学 (ISSN:03666611)
巻号頁・発行日
vol.59, no.6, pp.371-382, 2005
参考文献数
39
被引用文献数
2

高知市東方の三宝山地城では,仏像構造線を境にして,北西側に秩父帯の三宝山コンプレックス(新称)と大谷コンプレックス(新称),南東側に四万十帯の新宮コンプレックス(新称)が分布する.産出する放散虫化石が示す年代から,三宝山コンプレックスはジュラ紀新世後期,大谷コンプレックスは白亜紀古世前期に形成された地質体である.三宝山コンプレックスは,基質をなす剪断された泥岩中に緑色岩類・石灰岩・チャートのレンズ状・ブロック状岩体を含む.三宝山南方のドライブウェイの露頭では,緑色岩類のみかけ上,上位に灰白色石灰岩が分布する.また,みかけ上,下位の緑色岩類中に暗灰色石灰岩礫が含まれる.暗灰色石灰岩から4属4種,灰白色石灰岩から3属3種の六射サンゴ化石が産出する.前者はイタリアの南チロルやギリシャのHydra島,米国NevadaのNew PassなどのLadinianからCarinanの石灰岩から産出する種に,後者の六射サンゴ化石はオーストリアの北アルプスやユーゴスラビアのJulian AlpsのNorianからRhaetianの石灰岩から産出する種に似ている.以上のことから,三宝山コンプレックスに含まれる暗灰色石灰岩は.パンサラッサ海に形成された火山島の周縁でLadinianからCarnianに形成された.その後,灰白色石灰岩がNorianからRhaetianに形成されたと考えられる.
著者
桑原 希世子 八尾 昭 山北 聡
出版者
地学団体研究会
雑誌
地球科學 (ISSN:03666611)
巻号頁・発行日
vol.52, no.5, pp.391-404, 1998-09-25
参考文献数
34
被引用文献数
5
著者
八尾 昭
出版者
一般社団法人 日本地質学会
雑誌
地質学雑誌 (ISSN:00167630)
巻号頁・発行日
vol.118, no.Supplement, pp.S90-S106, 2012-08-15 (Released:2013-02-21)
参考文献数
70
被引用文献数
1 3

本巡検では,紀伊半島西部の海岸に沿って北から南へ縦断し,秩父北帯・黒瀬川帯・秩父南帯を見学する.見学地点(7地点)において,御荷鉾帯(秩父北帯の北縁部)の緑色岩類とジュラ紀中世−新世珪質岩,秩父北帯のジュラ紀古世−中世メランジュと礫岩,黒瀬川帯の弱変成岩類とそれを不整合で覆う下部白亜系,黒瀬川帯の主要構成岩類(花崗岩類, シルル系−デボン系, ペルム系など)とジュラ紀新世−白亜紀古世被覆層,秩父南帯のジュラ紀中世−新世メランジュとそれに含まれる大規模な後期古生代石灰岩岩体,および秩父南帯南端部の白亜紀古世メランジュと仏像構造線を観察する.これらの見学を通して,秩父帯の付加体形成や秩父帯と黒瀬川帯の接合などが,日本列島の基盤地質構造発達史において重要なイベントであったことをおさえていく.
著者
柏木 健司 山際 延夫 八尾 昭 江崎 洋一 酒折 有美子 庄司 康弘
出版者
日本古生物学会
雑誌
化石 (ISSN:00229202)
巻号頁・発行日
vol.72, pp.5-16, 2002
参考文献数
58

1)紀伊半島西部, 和歌山県広川町の黒瀬川帯に分布する, 池之上層中部層に含まれる鳥巣式石灰岩から, 刺胞および海綿動物化石を報告した.刺胞および海綿動物化石の指示する年代はジュラ紀新世である.2)池之上層中部層の大部分は, 炭酸塩マウンド周辺に堆積した陸源砕屑岩が卓越する部分に相当する.炭酸塩マウンドそのものは1箇所でのみ認められる.散点的かつ小規模に含まれる鳥巣式石灰岩は, 岩酸塩マウンドから重力流により運搬され, 陸源砕屑岩中にブロックとして定置した.3)Kimmeridgianの頃, 陸側から古生代後期の緑色岩-石灰岩の巨大オリストリスが海溝陸側斜面上に多量に供給された.厚層のオリストストロームの堆積は, 海溝陸側斜面の浅海化を促進させた.4)Tithonian〜Berriacianにかけて, 海山列の付加に伴って海溝陸側斜面が急激に上昇し, 広範な浅海域が形成されるとともに, その浅海域に池之上層中部層や由良層などの鳥巣層群相当層が堆積した.
著者
西原 ちさと 八尾 昭
出版者
日本古生物学会
雑誌
化石 (ISSN:00229202)
巻号頁・発行日
vol.78, pp.32-39, 2005-09-28 (Released:2017-10-03)

This paper reports on a faunal change of Middle Jurassic (Bajocian) radiolarians from manganese carbonate nodules in the Inuyama area, Mino Terrane. Five radiolarian assemblages, distinguished from five horizons (IN-16, IN-10, IN-7, IN-3 and IN-1 in ascending order) of the Unuma section, are well-preserved and extremely diversified in specific composition. About 300 species of radiolarian fossils are obtained from each manganese carbonate nodule. Approximately two thirds of radiolarian species are composed of common species between two horizons. The value of Spumellaria/Nassellaria (S/N) ratio is high in the lowermost horizon (IN-16) and low in the uppermost horizon (IN-1). Although the extinction and origination rates of radiolarian species are totally constant through the section, the origination of nassellarian species in the uppermost horizon shows a high rate. On the basis of these faunal analyses, the radiolarian faunal change was constant during Bajocian time except for a little change of the S/N ratio and the origination rate of nassellarian species. It is suggested that there was not the large oceanic environmental change during Bajocian time in the western part of the Panthalassa.
著者
大和大峯研究グループ 岩橋 豊彦 奥田 尚 佐藤 浩一 竹内 靖夫 南浦 育弘 八尾 昭
出版者
地学団体研究会
雑誌
地球科學 (ISSN:03666611)
巻号頁・発行日
vol.56, no.1, pp.11-26, 2002-01-25
参考文献数
31
被引用文献数
11

入之波地域の地質は,構造的に上位から下位に向かって秩父帯の三之公層(ジュラ紀中世前期頃)・北股川層(ジュラ紀中世中期-後期)・奥玉谷層(ジュラ紀新世前期)・黒石層(ジュラ紀新世中期-後期)・大普賢岳層(ジュラ紀新世中期-後期)・山葵谷層(ジュラ紀新世後期)・高原層(白亜紀古世前期)・,四万十帯の伯母谷川層(Albian-Cenomanian)・赤滝層(Turonian-Campanian?)と重なり,各地質体はスラストで境される.今回新たに報告した三之公層・北股川層・奥玉谷層・黒石層はメランジュからなる地質体であり,付加コンプレックスの特徴を示す.当地域の秩父帯は,ジュラ紀中世から白亜紀古世に至る付加過程で形成された一連の地質体で構成される.秩父帯の各地質体は低角度のスラストで境され,地帯を境するような高角度の断層はない.また,黒瀬川帯の存在を示すような地質体や岩石も見いだされない.秩父帯は,大峯-大台スラストを境してナップとして四万十帯の上に衝上している.南北性の高角度断層である入之波断層を境して,西側の地質体が上昇している.
著者
塩野 清治 升本 眞二 八尾 昭
出版者
大阪市立大学
雑誌
基盤研究(B)
巻号頁・発行日
1996

本研究の目的は,地下構造を探求する地質学的原理の定式化を通じて,地質調査データにもとづいて3次元地質構造を推定する計算機処理システムを具体化することである。地質学の原理に関する理論面での研究では,地層の分布域,地層・化石・地質年代の関係,地層の対比・区分など地質学の基礎概念が集合,関数,関係,同値関係,順序関係,ブール代数など離散数学の初歩的概念で表現できることを示した。また,地質学の基本原理である「地層累重の法則」に対して数学表現を与え,この法則が地層の形成順序や層序区分の基礎であることの理論的根拠を明らかにした。これは地層学的対象の計算機処理の原理を提示するとともに,「地質学の数学的基礎」という従来にない新しい研究分野への展望を与える重要な成果である。また,堆積作用と侵食作用で形成される地質構造に対する数学モデルにもとづいて,地層の分布域と体積面や侵食面に相当する曲面との間に成り立つ論理的関係(論理モデル)を一般表現する方法を導いた。論理モデルとの曲面の具体的形状が与えて地層の分布域が確定するという立場から,地質調査データから地質図を作成する過程を一連の数学的手続きとして形式表現した。これは地質図の計算機処理に対する理論的基礎を与えるものである。計算機処理の面では、露頭での観察データを入力して3次元地質構造を出力するアルゴリズムを研究した。処理システムは空間情報の入力・管理・解析・モデリングの標準基盤として多くの分野で実用されているGIS上で開発した。処理システムの有効性は既存の平面地質図を入力データとして、3次元地質構造を推定することによって検証した。2次元の空間情報を対象としたGIS上で3次元の地質構造を処理できる道を開いたことは3次元GISの発展や地質情報の活用を促進する上で重要な意義を持つ。