著者
榎谷 高宏 大野 範夫 千賀 浩太郎 飯島 伸介 鎌田 久美子 菊地 和美 迫力 太郎 長谷川 絵里 藤井 杏美 水元 紗矢
出版者
社団法人 日本理学療法士協会関東甲信越ブロック協議会
雑誌
関東甲信越ブロック理学療法士学会 (ISSN:09169946)
巻号頁・発行日
vol.36, pp.151, 2017

<p>【はじめに】</p><p>脳卒中を取り巻く医療状況の大きな発展にも関わらず,脳卒中後の復職率は20 年前と比べて大きな違いはない.今回早期からの仕事再開と,入院中のIT 環境が復職に有効と考えられた症例を担当したので報告する.なお発表に際し事例より同意を得た.</p><p>【症例紹介】</p><p>50 歳代前半男性.職業システムエンジニア・管理職.平成28 年X 日右被殻出血発症,X +15 日定位血種吸引除去術施行.X +24 日当院回復期病棟転院.X+208 日自宅退院.</p><p>【入院時評価】</p><p>GCS:E4V5M6.B.R.S.:上肢I 手指I下肢II.感覚:左上下肢重度鈍麻.高次脳機能障害:左USN,注意障害,Pusher 症候群あり.ADL: 全介助.FIM: 運動15 点,認知11 点.SIAS:23 点.MMSE:26 点.BBS:0 点.</p><p>【経過】</p><p>入院当日から職場の方が来院し引き継ぎを行う.X +58 日個室に移動.入院中は電話やIT 環境を整え仕事をした.疲労や姿勢保持を含め注意を促し,徐々に仕事の量(時間)と質(業務・責任度)を増やしていった.</p><p>【退院時評価】</p><p>B.R.S.: 上肢II手指II下肢III.感覚: 変化なし.高次脳機能障害: 左USN,注意障害残存.ADL: 車椅子院内自立.FIM:運動82 点,認知29 点.SIAS:38 点.MMSE:30 点.BBS:40 点.自宅内はタマラック継手AFO で伝い歩き,入院中同様に仕事を行い,通勤に向けて障害者支援施設にて通所リハを継続.</p><p>【考察】</p><p>今回は会社・本人の強い意向から早期に就業開始を余儀なくされたが,IT 活用をし,入院当初から会社との関係性が途切れなかったことは,復職に有効であったと考えられる.また,早期からの仕事再開が本人の精神的安定,覚醒の向上,身体機能の向上に有効であったと考えられる.今後,定年延長などにより復職に対するするニーズはさらに高まってくると考えられ,本症例のようなケースも増加すると考える.</p>
著者
久保 祐子 山口 光國 大野 範夫 福井 勉
出版者
日本理学療法士学会
雑誌
理学療法学 (ISSN:02893770)
巻号頁・発行日
vol.33, no.3, pp.112-117, 2006-06-20 (Released:2018-08-25)
参考文献数
6
被引用文献数
6

姿勢・動作において身体重心位置を把握することは重要であるものの,実際には重心位置は不可視的であり,経験的に推測されていることが多い。身体重心は身体各部の重さの中心であることから,おおよそであるものの観察可能である上半身と下半身重心点の中点が身体重心に近似するものと推察される。今回我々は身体を上半身と下半身に分け,それぞれ算出した重心点の中点と3次元動作解析装置から得られる身体重心位置との差異を,前額面,矢状面上の姿勢ならびに動作について調査した。その結果,身体重心点と上半身と下半身重心点の中点とは近似しており,臨床上の観察点としての有用性が示唆された。
著者
入谷 誠 山嵜 勉 大野 範夫 山口 光国 内田 俊彦 筒井 廣明 黒木 良克
出版者
日本理学療法士学会
雑誌
理学療法学 (ISSN:02893770)
巻号頁・発行日
vol.18, no.1, pp.35-40, 1991-01-10 (Released:2018-10-25)
被引用文献数
3

今回,我々は足位,すなわちFOOT ANGLEの変化が,骨盤の側方安定性に関与する中殿筋活動の動態と距骨下関節の内外反角度にどの様に影響をするかをX線学的及び筋電図学的に検索した。その結果,X線学的には,TOE-OUTで距骨下関節は内反し,TOE-INで距骨下関節は外反した。筋電図学的分析では,中殿筋の活動はTOE-OUTからTOE-INに向かって,明らかに増加した。さらに中殿筋の活動量が最も大きかったTOE-IN 30°でアーチサポートを挿入すると,中殿筋の活動量が明らかに低下したことから,中殿筋の活動量はFOOT ANGLEの変化のみならず,足部アーチの状態も大きく影響を及ぼしていることを示唆した。
著者
加藤 彩奈 宮城 健次 千葉 慎一 大野 範夫 入谷 誠
出版者
公益社団法人 日本理学療法士協会
雑誌
理学療法学Supplement Vol.35 Suppl. No.2 (第43回日本理学療法学術大会 抄録集)
巻号頁・発行日
pp.A0078, 2008 (Released:2008-05-13)

【はじめに】変形性膝関節症(以下膝OA)は立位時内反膝や歩行時立脚相に出現するlateral thrust(以下LT)が特徴である。臨床では膝OA症例の足部変形や扁平足障害などを多く経験し、このLTと足部機能は密接に関係していると思われる。本研究では、健常者を対象に、静止立位時の前額面上のアライメント評価として、下腿傾斜角(以下LA)、踵骨傾斜角(以下HA)、足関節機能軸の傾斜として内外果傾斜角(以下MLA)を計測し、下腿傾斜が足部アライメントへ与える影響を調査し、若干の傾向を得たので報告する。【対象と方法】対象は健常成人23名46肢(男性11名、女性12名、平均年齢29.3±6.1歳)であった。自然立位における下腿と後足部アライメントを、デジタルビデオカメラにて後方より撮影した。角度の計測は、ビデオ動作分析ソフト、ダートフィッシュ・ソフトウェア(ダートフィッシュ社)を用い、計測項目はLA(床への垂直線と下腿長軸がなす角)、HA(床への垂直線と踵骨がなす角)、LHA(下腿長軸と踵骨がなす角)、MLA(床面と内外果頂点を結ぶ線がなす角)、下腿長軸と内外果傾斜の相対的角度としてLMLA(下腿長軸への垂直線と内外果頂点を結ぶ線がなす角)とした。統計処理は、偏相関係数を用いて、LAと踵骨の関係としてLAとHA、LAとLHAの、LAと内外果傾斜の関係としてLAとMLA、LAとLMLAの関係性を検討した。【結果】各計測の平均値は、LA7.1±2.4度、HA3.0±3.9度、LHA10.5±5.5度、MLA15.3±3.9度、LMLA8.1±4.0度であった。LAとLHAでは正の相関関係(r=0.439、p<0.01)、LAとLMLAでは負の相関関係(r=-0.431、p<0.01)が認められた。LAとHA、LAとMLAは有意な相関関係は認められなかった。【考察】LHAは距骨下関節に反映され、LAが増加するほど距骨下関節が回内する傾向にあった。したがって、LA増加はHAではなく距骨下関節に影響するものと考えられる。LA増加はMLA ではなくLMLA減少を示した。これらの関係から下腿傾斜に対する後足部アライメントの評価は、床面に対する位置関係ではなく下腿長軸に対する位置関係を評価する必要性を示している。LA増加に伴うLMLA減少は距腿関節機能軸に影響を与えると考えられる。足関節・足部は1つの機能ユニットとして作用し、下腿傾斜に伴う距腿関節機能軸変化は距骨下関節を介し前足部へも波及する。今回の結果から膝OA症例のLTと足部機能障害に対し、距腿関節機能軸変化の影響が示唆された。今回は健常者を対象とした静的アライメント評価である。今後、症例との比較も含め運動制御の観点から動的現象であるLTと足部機能障害の解明につなげていきたい。
著者
水元 紗矢 島田 周輔 神原 雅典 石原 剛 加藤 彩奈 大野 範夫 鈴木 貞興 小笹 佳史 浅海 祐介 吉川 美佳
出版者
公益社団法人 日本理学療法士協会
雑誌
理学療法学Supplement Vol.38 Suppl. No.2 (第46回日本理学療法学術大会 抄録集)
巻号頁・発行日
pp.CbPI1300, 2011 (Released:2011-05-26)

【目的】変形性膝関節症において、異常な膝回旋運動を呈しているという報告を散見する。膝回旋はわずかな運動であり、回旋を評価することは難しい。内外側ハムストリングスは膝屈曲においては共同筋だが、回旋では拮抗筋となるため筋活動をみることで膝回旋運動を推察することができる。我々は第45回の本学会で下肢アライメントと歩行時筋活動との関係について、Q-angle高値側は内外側ハムストリングス筋活動比(M/L比)が低いと報告した。臨床において足位や後足部アライメントが脛骨回旋異常を引き起こしている症例を経験することから、今回足位および後足部回内外アライメントがM/L比に与える影響について検討したので報告する。【方法】対象は膝に障害のない健常男性10名(平均年齢27.5歳±1.9歳)の左膝10肢である。足位と後足部アライメントを変化させた条件下で、片脚スクワットを行なわせた際のM/L比を比較検討した。課題運動は片脚立位から膝屈曲60°の片脚スクワットである。上肢は胸の前で固定し、反対側の下肢は膝屈曲位、膝内外反および股関節内外転中間位で後挙させた。スクワットは屈曲2秒、屈曲保持2秒、伸展2秒の計6秒間とし、計3回行った。被験者には十分練習を行った上で計測した。筋活動の算出にはスクワット伸展2秒間の大腿二頭筋(BF)、半腱様筋(ST)、半膜様筋(SM)の筋活動を計測した。筋活動の記録には表面筋電計(Megawin Version2.0、Mega Electronics社)を用いた。得られた筋活動のRoot Mean Square(RMS)振幅平均値を算出し、計3回の平均値を各筋のRMSとした。さらに膝屈曲45°での最大等尺性収縮を100%として正規化し、%RMSを算出し各筋の%RMS を求めた。ST、SMに対するBFの割合をそれぞれST/BF比、SM/BF比とした。足位は、床に対して足長軸を進行方向に向けた位置をtoe 0°、それより5°外側に向けた位置をtoe-outとした。後足部アライメントは、入谷の方法をもとに2mmのパットを用いて回内位(PR)、中間位(NP)、回外位(SP)を誘導した。検討項目は、ST/BF比とSM/BF比を以下に示す3通りの方法で比較検討した。1.(1) NP・toe0°とNP・toe-out、(2) NP・toe0°とPR・toe0°とSP・toe0°、(3) NP・toe-out とPR・toe-out とSP・toe-outとした。2.NP・toe-outでのST/BF比とSM/BF比を検討した。各筋の%RMSを比較した。統計学的解析には、二元配置分散分析法と多重比較検定、対応のあるt-検定を用いた。有意水準は5%未満とした。【説明と同意】 ヘルシンキ宣言に基づき、被験者には研究の主旨を十分に説明し同意を得た上で計測した。【結果】1-(1) toe0°とtoe-outではST/BF比、SM/BF比とも有意差を認め(P<0.05)、toe-outでBFの活動が高くなった。1-(2) toe0°では、ST/BF比でPRとSP間に有意差を認めた(P<0.05)。1-(3) toe-outでは、SM/BF比でNPとPR間に有意差を認め(P<0.05)、PRでBFの活動が高まり、SMの活動低下がみられた。2. toe-outでのST/BF比とSM/BF比は有意差を認めなかった。【考察】 本研究により、荷重位での足位および後足部アライメントによりM/L比が変化することが示された。Scott.K(2009)はtoe-outでのエクササイズにてM/L比の減少が起こると報告しており、本研究の結果もそれを支持する結果となった。toe-outにてBF筋活動が高まることは、内旋方向へ誘導される下腿の運動を制御した結果ではないかと考えた。toe-out・PRにおいてSM/BF比は減少を認めたが、ST/BF比は有意差を認めなかった。この理由としては、STとSMの筋機能の違いによるものと考えた。SMは筋形状とレバーアームの関係により浅屈曲で筋活動が優位になり、STは深屈曲で筋活動が優位となる。回旋作用としてはSMに比べSTで作用が高い。本研究ではスクワット60°屈曲位で行ったことから、SM筋活動の抑制が起きたためSM/BF比に有意差を認めたと考えた。【理学療法学研究としての意義】本報告で、足位および後足部アライメントの変化によるST/BF比、SM/BF比の基礎的データが得られた。足位および後足部アライメントが内外側ハムストリングスの筋バランスに影響を与えることが示された。スクワット運動や荷重位でのエクササイズにおいて、足位や後足部アライメントを考慮する必要があると考えた。
著者
尾崎 尚代 千葉 慎一 嘉陽 拓 大野 範夫 鈴木 一秀 牧内 大輔 筒井 廣明
出版者
公益社団法人 日本理学療法士協会
雑誌
理学療法学Supplement
巻号頁・発行日
vol.2006, pp.C0889, 2007

【はじめに】腱板完全断裂症例に対する理学療法の目的は、疼痛の除去および残存腱板や上腕二頭筋長頭腱での代償作用を引き出し、肩関節の運動能力を改善することにある。しかし、広範囲断裂や長頭腱断裂を伴う症例の中には、これらの代償作用を得られずとも上肢挙上が可能となり、ADL上の支障がなくなる症例を経験する。そこで、理学療法を実施した腱板完全断裂症例について追跡調査し、若干の知見が得られたので報告する。<BR>【方法】対象は、当院にてMRIまたはMRAで腱板完全断裂と診断を受けて理学療法を行い6ヶ月以上の経過観察が可能であった20例20肩(男性11肩、女性9肩)であり、外傷歴は有11例・無9例、断裂部の大きさは3.5mm未満6例・3.5mm以上14例、単独断裂11例・複数腱断裂9例である。これらの症例に対しJOA scoreの推移とレ線的検討を行った。尚、治療開始時年齢は平均67.35歳、発症から当院初診までの期間は平均17.07ヶ月、経過観察期間は平均15.90ヶ月であり、手術療法に移行した症例は除外している。<BR> JOA scoreの推移は、疼痛、機能、可動域について、初診時、1ヵ月後・3ヵ月後・6ヵ月後・9ヵ月後・1年後・最終診察時の推移を調査した。また、X線的検討はScapula45撮影法での45゜無負荷保持を用い、最終診察時の自動屈曲可動域が120度以上尚且つ30度以上の改善を良好群、それ以外を不良群に分類して、腱板機能および肩甲骨機能について検討した。<BR>【結果】X線所見・関節不安定性を除いたJOA score(80点満点)の推移は、初診時41.93点±14.68から最終診察時67.83点±8.61と有意に改善した(p<0.001)が、初診時と比較して疼痛は理学療法開始1ヶ月後(p<0.01)、機能は3ヵ月後(p<0.02)、可動域は6ヵ月後(p<0.02)以降で有意に改善したものの、外傷歴や断裂腱の数、大きさとの関係には有意差は認められなかった。<BR>またX線的検討の結果、良好群13例(屈曲148.85度±19.49)・不良群7例(屈曲104.29度±22.81)共に肩甲骨関節窩に対して骨頭の上昇が著明であるが、胸郭上の肩甲骨の上方回旋角度は正常値(12.30±4.1)に比して良好群では小さく(2.02±7.01)なり、不良群では大きく(25.53±17.82)なっていた(p<0.001)。<BR>【考察】今回の結果、腱板断裂症例に対しては、疼痛を理学療法開始後1ヶ月以内に、機能を3ヶ月以内に理学療法の効果を出す必要があることがわかった。また、腱板断裂症例の可動域改善には残存腱等での代償動作のみならず、上腕骨に対して肩甲骨関節窩をあわせるような肩甲骨の下方回旋運動が可能である必要性が示唆され、肩甲骨の可動性と共に、いわゆるouter musclesの機能により肩甲上腕関節の適合性を得ることで上肢挙上が可能になり、ADL拡大につながると考える。
著者
入谷 誠 山嵜 勉 大野 範夫 山口 光国 内田 俊彦 森 雄二郎 黒木 良克
出版者
The Society of Physical Therapy Science
雑誌
理学療法のための運動生理 (ISSN:09127100)
巻号頁・発行日
vol.7, no.1, pp.47-54, 1992

下肢障害の理学療法の目的は下肢機能の再建である。下肢の機能と下肢筋力とは切り放して考えることはできないが、我々は個々の筋力強化を行うのではなく、下肢全体の統合された機能を最大限に発揮させることにより、筋力も自然と改善され、結果的に機能をよリ早期に、また効率よく改善することができるものと考えている。したがって我々の理学療法は機能的な診方、特に下肢各関節の相互の関連を中心に診て、荷重位での機能的な訓練を中心に行っている。ここでは主として正中位感覚獲得法、テーピング、足底挿板(Dynamic Shoe Insole)について紹介した。
著者
尾﨑 尚代 千葉 慎一 嘉陽 拓 大野 範夫 筒井 廣明
出版者
公益社団法人日本理学療法士協会
雑誌
日本理学療法学術大会 (ISSN:02893770)
巻号頁・発行日
vol.2007, pp.C1397-C1397, 2008

【はじめに】肩関節の安定化機構は関節構造および筋機能での関節窩に対する上腕骨頭の求心位保持能力およびショックアブソーバーとしての肩甲骨の動きが必要となるが、これらの中の1つでも問題が生じれば肩に機能障害が生じると考えられる。今回は当院診察時の診断補助として用いられるX線像から得られた情報を基に、肩関節の運動時不安定性の機能的問題点について検討した結果を報告する。<BR>【方法】対象は、肩関節の運動時不安定性を訴え、SLAP損傷またはinternal impingementと診断された40例(男性38名・女性2名、右37名・左3名、年齢21.88歳±5.29)であり、全員投球動作を要するスポーツ愛好者である。これらの症例に対し当院初診時に撮影したX線像のうち、Scapula-45撮影法45度挙上位無負荷像を用いて患側の腱板および肩甲骨機能を、自然下垂位と最大挙上位の前後像を用いて鎖骨および胸郭の運動量を、また、最大挙上位像を用いて上腕骨外転角度(以下、ABD)、関節窩の上方回旋角度(以下、上方回旋)および関節窩に対する上腕骨の外転角度(以下、関節内ABD)について計測した。ABD・鎖骨の運動量の変化・上方回旋・関節内ABDについては健患差を、t検定を用いて比較検討した。また、胸郭の運動量は遠藤ら(1996)の報告に基づいて基準点を20mmとし、また鎖骨の運動量については、Fungら(2001)の報告に基づいて基準点を20度として、符号検定を用いて検討した。<BR>【結果】腱板機能は正常範囲であり(0.32±4.86)、肩甲骨機能は低下していた(5.53±7.52)。ABDは患側(以下、患)165.36度±6.33・健側(以下、健) 167.11度±7.30(p<0.02)、鎖骨の運動量の変化は患25.18度±8.30・健22.60度±8.00(p<0.01)、上方回旋は患54.88度±5.25・健52.02度±5.30(p<0.001)、関節内ABDは患110.60度±7.28・健112.85度±17.12(n.s.)であった。また胸郭の運動量は12.70mm±6.47となり、基準点に対して胸郭は動かず、鎖骨は動く傾向になった(p<0.01)。<BR>【考察】今回の結果から、肩関節の運動時不安定性を呈する症例は、肩甲骨を体幹に固定する機能および胸郭の可動性が低下しており、また、上肢挙上角度を得るために、鎖骨と肩甲骨の運動量が大きくなることから、胸鎖関節と肩鎖関節への負担増大が懸念された。今回はX線像を用いた前額面上のみの調査を若者中心に行ったが、野球やテニスなどのスポーツ愛好家の年齢層は幅広い。また、投球障害を呈する症例は数年前と比較して腱板機能は向上しているが肩甲骨の機能低下を呈する者が多いという報告や、加齢と共に肩甲骨や脊柱の可動性が低下するという報告もあり、胸郭の可動性を引き出すことは、運動時不安定感の改善と共に、障害予防の点からも重要と考える。<BR>
著者
久保 祐子 山口 光国 大野 範夫 福井 勉
出版者
JAPANESE PHYSICAL THERAPY ASSOCIATION
雑誌
日本理学療法学術大会
巻号頁・発行日
vol.2002, pp.118-118, 2003

【はじめに】我々は、身体を上半身と下半身とに分けた各々の質量中心点より身体重心を求める「身体重心点の視覚的評価」を考案し、臨床場面で姿勢や動作を観察する際に利用している。第36、37回日本理学療法士学術大会において、この評価をもとに歩行時の上半身の動きについて調査し、上半身質量中心点の動きが歩行時の身体重心の移動や調節に関係していると考えられた。今回は、これまでに調査した上半身の回旋運動と左右座標における上半身質量中心点の動きとの関係を調査し、さらに検討した。【方法】対象は健常者10名(男性5名、女性5名)、平均年齢25.7歳であった。動きの観察には三次元動作解析装置VICON370(oxfordmetrics社製)を用い、被験者の身体に13標点(左右肩峰、大転子、外果、第2、7、11胸椎棘突起より左右へ5cmの位置、第7胸椎棘突起)を付け、自由に歩行したところを観察及び計測した。歩行中の上半身回旋運動は、第7胸椎レベルに対する第2、第11胸椎レベルの回旋角度変化から、その回旋方向について、また歩行中の上半身質量中心点の動きとして、第7胸椎の左右座標における移動方向と速度及び加速度変化を調査した。【結果】全被験者において、上半身の回旋運動は第7胸椎の上部と下部で反対方向へ回旋し、踵接地から反対側踵接地までは、立脚側において上部は後から前、下部は前から後へ回旋していた。左右座標における第7胸椎の移動は、踵接地から立脚中期にかけて立脚側へ移動し、立脚中期に最大となり、その後、反対側へ移動していた。これは各部位においても同様の傾向を示した。上半身質量中心点における速度及び加速度は踵接地時にその方向が替わり、踵接地時には、次の支持基底面側への変化を示していた。【考察】今回の結果から、上半身質量中心点の存在する第7胸椎を支点として上半身の回旋運動が認められ、これまでの報告と同様に、効率の良い重心移動に関係していると考えられる。また、上半身質量中心点の左右座標における移動に関しては、他の部位における動きと同様であることから、これらは支持基底面上に身体重心を移動させるための変化として捉えられる。しかし、上半身質量中心点の速度及び加速度変化に着目すると、踵接地時には次の支持基底面側への力を受けており、上半身では、すでに反対側への対応が開始されているものと推察される。これまでの上半身質量中心点の観察は、身体運動に伴う受動的な変化として捉えられていたが、今回の調査から、単に受動的な変化だけでなく、連続した運動における能動的な身体調節が行われている可能性が示唆された。 今後このような上半身質量中心点の特徴を踏まえ、下半身の動きを調査に加え、歩行時における身体重心位置の調節について更に検討する必要があると考える。
著者
阿部 恭子 沼田 憲治 大野 範夫 小笹 佳史
出版者
公益社団法人日本理学療法士協会
雑誌
理学療法学 (ISSN:02893770)
巻号頁・発行日
vol.30, no.7, pp.415-420, 2003-12-20

脳卒中片麻痺患者のいわゆるプッシャー現象が損傷半球側や特定領域, 視空間失語の有無に無関係に出現し体幹の非麻痺側傾斜に対し強い恐怖心を持つとする報告がある。このことは, プッシャー現象の発現要因の一つに心理的要因が影響していることを示唆している。このような心理的傾向は, 明らかに本現象を認めずとも, 立ち直り・平衡反応に左右非対称性が認められる片麻痺患者にも内在している可能性が推察される。本研究は, 明らかなプッシャー現象を認めない脳卒中片麻痺患者の体幹傾斜時における内省報告から, 立ち直り・平衡反応の非対称性と心理的要因との関連性を検討することを目的とした。対象は脳卒中片麻痺患者30例, 座位で体幹を左右に傾斜させた時の内省報告の結果, 麻痺側, 非麻痺側傾斜に対する「怖さ」を示す内容から5群に分類された。そのなかで麻痺側に比べ非麻疹側の傾斜に対しより恐怖心を示した症例が30例中15例と高い割合で存在した。さらにこれら15症例の中で非麻痺側傾斜時に体幹の抵抗を示す症例が10例であった。これらのことからプッシャー現象の有無に関わらず, 非麻疹側傾斜に対する「怖さ」は片麻疹患者に共通する一つの病態であることが推察される。今回の結果は, 片麻痺患者の体幹機能を評価する場合, 左右体幹筋活動のみならず, 左右への傾斜に対する心理的な側面も踏まえることの重要性が示唆される。
著者
吉野 浩一 大野 範夫 鈴木 貞興 藤井 杏美
出版者
公益社団法人日本理学療法士協会
雑誌
理学療法学 (ISSN:02893770)
巻号頁・発行日
vol.35, no.2, 2008-04-20

【はじめに】<BR>立位バランスまたは歩行時の安定性に大きく関与していると考えられる足趾の機能を評価することは、下肢の疾患に対する理学療法を施行するうえで重要である。臨床上も立位バランス不良の症例において、足趾の開俳運動不全を呈していることをしばしば経験する。そこで今回、足趾開俳機能と足趾把持機能との関連性について検討したので報告する。<BR>【対象と方法】<BR>対象者は測定時に下肢に愁訴のない成人男性22名,44足を対象とした。平均年齢は29.2±4.5歳,平均身長172.3±5.3cm,平均体重66.5±6.6kgであった。足趾の開俳は足関節底背屈0°にて、自動運動で足趾の開俳が可能であるかを評価した。その際、代償運動排除のため足部のMP関節伸展に制限を加えた。可否の判定は足趾間の接触がなく開俳可能なものと定義した。その後、全被験者の足趾屈筋の筋力(把持力)を測定した。測定にはT.A.G.メディカル社製EZフォース(プロトタイプ)を使用し、自作の足趾把持用のバーを取り付け測定した。測定肢位は自然立位とし、片側に対し3回施行し両側の測定を行った。測定された数値(peak)は3回の平均値とし、体重で除し体重比で算出した。尚、測定された筋力は全足趾開俳可能群(以下開俳群)と非開俳可能群(以下非開俳群)に分け、開俳機能と足趾屈筋筋力との関係について比較検討した。統計処理にはマン・ホイットニ検定を用い危険率5%以下を有意とした。<BR>【結果】<BR>22名44足中、11名の両側22足に足趾の開排不全が認められた。開排不全の最も多かったのは4,5趾間で13足、ついで3,4趾間9足、2,3趾間5足、1,2趾間5足であった。尚、2趾間以上重複しての開排不全は10足であった。また、足趾把持筋力(体重比)の平均値は開排群0.146±0.03kg/BW、非開排群0.108±0.02kg/BWで(p<0.05)にて有意差を認めた。<BR>【考察】<BR>今回の実験において足趾開排の差における足趾把持筋力の有意差が確認できた。これは足趾同士が接触せず、足趾間が開排する事により屈筋がより収縮しやすい足趾の肢位に置かれたことによるものと思われる。この結果、足趾の把持能力改善には足趾の開排運動が有効であることが示唆された。また、足趾別の検討として、非開排群においては4,5趾間の開排不可が13足と多く、この影響も考えられたが、重複した開排不全が10足あり、足趾別の把持力貢献度は今回の実験では検討することはできない。今後、足趾固有の機能についても検討していきたい。<BR><BR><BR><BR><BR><BR><BR>