著者
池上 龍太郎 清水 逸平 吉田 陽子 南野 徹
出版者
一般社団法人 日本内科学会
雑誌
日本内科学会雑誌 (ISSN:00215384)
巻号頁・発行日
vol.106, no.8, pp.1652-1658, 2017-08-10 (Released:2018-08-10)
参考文献数
11

血管は,加齢に伴って構造的・機能的変化を来たし「老化」する.加齢に伴い,高血圧や糖尿病などが合併することで,血管老化はさらに加速し,心血管疾患が発症するリスクは大きく上昇する.老化のプロセスには未解明な点が多く存在するが,一定の制御機構を伴う生命現象であることが広く認識されるようになっている.最近の研究報告により,「細胞レベルの老化」が「個体や臓器の老化」,「老化疾患の発症」に深く関連することがわかってきた.本稿では,血管老化のメカニズムについて細胞老化を中心に概説し,老化そのものを治療標的とした次世代の治療戦略について考えてみたいと思う.
著者
渡部 裕 南野 徹
出版者
一般社団法人 日本不整脈心電学会
雑誌
心電図 (ISSN:02851660)
巻号頁・発行日
vol.35, no.2, pp.86-94, 2015 (Released:2016-03-25)
参考文献数
32
被引用文献数
1

カテコラミン感受性多形性心室頻拍(catecholaminergic polymorphic ventricular tachycardia : CPVT)は,交感神経活性を高める精神的ならびに肉体的なストレスによってVTを発症する遺伝性不整脈症候群の一種であり,現在までにいくつかの原因遺伝子が明らかとなっている.これらの遺伝子の変異は,筋小胞体に存在するリアノジンレセプターからの異常なCa2+の放出により,CPVTをきたすことが共通している.臨床像としては,器質的に心臓は正常であり,運動や感情の高まりによって誘発される心室不整脈による動悸や失神,心肺停止が特徴である.心房細動や心室不整脈が高頻度で見られるものの,一拍ごとにQRS波の軸が180°変化する二方向性VTが特徴的であり,診断に有用である.交感神経活性によって誘発されるVTは心室細動へ移行することがあり,心停止が初発症状である症例もしばしば見受けられる.安静時心電図は正常であり,診断に際しては画像診断による器質的心疾患の除外と,運動やストレスによって出現する不整脈が重要である.治療には,β遮断薬やフレカイニドが用いられる.植込み型除細動器は,心停止歴のある症例やβ遮断薬が不整脈の抑制に不十分な症例で適応となるが,突然死の予防効果は不完全である.
著者
須田 将吉 清水 逸平 南野 徹
出版者
一般社団法人 日本血栓止血学会
雑誌
日本血栓止血学会誌 (ISSN:09157441)
巻号頁・発行日
vol.30, no.3, pp.521-528, 2019 (Released:2019-06-14)
参考文献数
19

要約:老化は様々な疾患のリスク因子である.動脈硬化巣に老化細胞が蓄積していることがわかり,血管細胞の老化がこれらの疾患に関与していることが示された.血管内皮細胞特異的に老化を抑制すると血管機能が保たれ,反対に老化を促進すると血管機能が悪化することも報告されている.さらに血管内皮細胞の老化抑制は,脳血管・心血管疾患だけでなく,肥満や糖尿病も改善させることが明らかとなり,血管内皮細胞の老化抑制は加齢関連疾患の包括的治療につながる可能性が示唆されている.さらに近年では,老化細胞除去(senolytic)治療という新しいストラテジーに注目が集まっている.老化した血管内皮細胞を選択的に除去する薬剤を投与したマウスでは,認知症や加齢による筋力低下などの老化の表現型が改善し,さらには寿命が延長するという結果も出てきている.血管内皮細胞老化は,血管疾患だけでなく様々な疾患の発症や個体老化にも重要であり,新しい治療標的となりつつある.
著者
長谷川 洋 南野 徹
出版者
公益財団法人 日本心臓財団
雑誌
心臓 (ISSN:05864488)
巻号頁・発行日
vol.43, no.5, pp.588-593, 2011 (Released:2012-11-07)
参考文献数
17
著者
南野 徹 木下 実紀 森本 雄祐 難波 啓一
出版者
一般社団法人 日本生物物理学会
雑誌
生物物理 (ISSN:05824052)
巻号頁・発行日
vol.62, no.3, pp.165-169, 2022 (Released:2022-07-25)
参考文献数
19
被引用文献数
1

細菌の運動器官であるべん毛を作るために必要なタンパク質輸送装置は,細胞膜を隔てた電位差を主要な動力源に利用してべん毛の部品を細胞外へ運び出す.この輸送装置には,プロトン駆動型輸送エンジンに加え,ナトリウム駆動型エンジンや膜電位センサーが搭載されていることが,最近の筆者らの研究で明らかとなった.
著者
須田 将吉 清水 逸平 南野 徹
出版者
一般社団法人 日本血栓止血学会
雑誌
日本血栓止血学会誌 (ISSN:09157441)
巻号頁・発行日
vol.30, no.3, pp.521-528, 2019

<p><b>要約:</b>老化は様々な疾患のリスク因子である.動脈硬化巣に老化細胞が蓄積していることがわかり,血管細胞の老化がこれらの疾患に関与していることが示された.血管内皮細胞特異的に老化を抑制すると血管機能が保たれ,反対に老化を促進すると血管機能が悪化することも報告されている.さらに血管内皮細胞の老化抑制は,脳血管・心血管疾患だけでなく,肥満や糖尿病も改善させることが明らかとなり,血管内皮細胞の老化抑制は加齢関連疾患の包括的治療につながる可能性が示唆されている.さらに近年では,老化細胞除去(senolytic)治療という新しいストラテジーに注目が集まっている.老化した血管内皮細胞を選択的に除去する薬剤を投与したマウスでは,認知症や加齢による筋力低下などの老化の表現型が改善し,さらには寿命が延長するという結果も出てきている.血管内皮細胞老化は,血管疾患だけでなく様々な疾患の発症や個体老化にも重要であり,新しい治療標的となりつつある.</p>
著者
南野 徹
出版者
日本循環制御医学会
雑誌
循環制御 (ISSN:03891844)
巻号頁・発行日
vol.38, no.1, pp.16-18, 2017 (Released:2017-05-11)
参考文献数
10
著者
中村 修一 南野 徹
出版者
公益社団法人 日本農芸化学会
雑誌
化学と生物 (ISSN:0453073X)
巻号頁・発行日
vol.49, no.1, pp.22-31, 2011-01-01 (Released:2012-01-01)
参考文献数
40

大腸菌やサルモネラ菌などの細菌は,「べん毛」と呼ばれる繊維状の運動器官をスクリューのように高速回転させて水中を泳ぐことにより,栄養が豊富で生育に適した温度やpHの環境に集まることができる.べん毛繊維を回転させているのは,繊維の根元に細胞膜に埋まって存在する「べん毛モーター」と呼ばれる直径約45 nmの回転分子モーターである.べん毛モーターは,細胞膜を隔てて形成される水素イオン(プロトン)の電気化学的ポテンシャル差を1秒間に約300回転の高速回転に変換し,その回転方向は環境中の化学物質などに反応して瞬時に切り替わる.ここでは,プロトン駆動型細菌べん毛モーターの構造と回転機構について,最新の研究内容を含めて紹介する.
著者
南野 徹 小室 一成
出版者
千葉大学
雑誌
基盤研究(B)
巻号頁・発行日
2005

老化の研究は世界的にもまだ端緒についたばかりであり、その機序はほとんど解明されていない。通常ヒト正常体細胞の分裂回数は有限であり、ある一定期間増殖後、細胞老化とよばれる分裂停止状態となる。その寿命は培養細胞のドナーの年齢に相関すること、また、早老症候群患者より得られた細胞の寿命は有意に短いことも報告されている。そこで我々は、血管の老化研究を「細胞レベルの老化が個体老化の一部の形質、特に病的な形質を担う」という仮説に基づいて進めることにした。我々はこのアプローチによってこれまでテロメアシグナル(Mol Cell Biol.2001;21:3336-3342,Circulation.2002;105:1541)やAngiotensinII/Ras/ERKシグナル(Circulation.2003;108:2264,Circulation in press)、インスリン・Aktシグナル(EMBO J.2004;23:212)が細胞レベルの老化に重要であることを報告し、さらにこれらのシグナルが血管老化・動脈硬化の病態生理に深く関与していることを示唆してきた。本研究ではさらに高齢者に認められる日内リズムの障害に細胞老化シグナルが関与していることを調べるために、細胞レベルの老化が時計遺伝子の発現にどのような影響を及ぼすかについて検討した。初期経代の血管細胞に血清刺激を加えると、時計遺伝子の発現は24時間周期の変化を示すようになる。それに対して老化した細胞では、その振幅が明らかに低下していた。テロメレースの導入によって細胞老化を抑制すると、その障害は解除された。老化したマウスにおいても、末梢臓器の時計遺伝子発現は障害されていた。そこで生体内における細胞老化の関与を調べるために、若年マウスに老化した細胞を含んだマトリゲルを移植、あるいは逆に、初期経代細胞を老化マウスに移植して、時計遺伝子の発現を観察した。その結果、老化マウスに移植された初期経代細胞ではほぼ正常であったのに対し、若年マウスに移植された老化細胞では、著しく時計遺伝子の発現が障害されていた。この障害は、細胞老化を抑制する遺伝子を導入しておくことによって正常化したことから、細胞老化シグナルの制御によって個体老化に伴う時計遺伝子の発現を改善し、高齢者で認められる生理的な日内変動リズムを改善しうることを示唆すると考えられた。