- 著者
-
山本 敦
古山 宣洋
- 出版者
- 社会言語科学会
- 雑誌
- 社会言語科学 (ISSN:13443909)
- 巻号頁・発行日
- vol.23, no.1, pp.84-99, 2020-09-30 (Released:2020-10-07)
- 参考文献数
- 29
演奏表現は,楽曲の解釈や表現意図に沿って,楽譜に示されていない細かな音のゆらぎを付与することで達成されるが,その指導において,このゆらぎの構造は学習者によって概念的・聴覚的に把握されるだけでなく,学習者の知覚–運動の調整を通して,実際の演奏として達成されなければならない.本稿では,音楽大学の学生と教授であるプロの演奏家による1対1のピアノレッスンを録画したデータを対象に,指導の相互行為におけるマルチモーダルな資源が組織化される過程を分析することで,演奏表現が学生と教師によって協働的に構築,産出されていることを明らかにした.教示においてゆらぎの構造は,発話や演奏,歌,ジェスチャなどの組み合わせによって知覚的に構造化され,音楽概念と結びつけられて呈示されていた.その結びつけの構造が維持されたまま,学生,教師双方によってジェスチャ–楽曲の組み合わせが実際の演奏の中で反復・同期されることで,理解の例証,調整の求め,確認の与えといった相互行為上の機能を果たしていた.さらに,このマルチモーダルな呈示の同期を通して,学生の演奏運動それ自体が同時的かつ即興的に調整を受けることで,演奏表現は協働的に達成されていた.これらの結果は,専門的な実践における知覚の相互行為的な調整および音楽教育の観点から考察された.