著者
吉岡 豊 森 寿子
雑誌
川崎医療福祉学会誌 (ISSN:09174605)
巻号頁・発行日
vol.2, no.2, pp.109-115, 1992

迂回反応が多くみられた健忘失語の1例に対し喚語訓練を行った。線画カードを提示し,喚語できない時は迂回するよう教示し,それでも喚語できない時は迂回的ヒントを提示した。結果は以下のようであった。1.訓練終了後,訓練語では即時正答数が有意に増加したが,非訓練語では有意に増加しなかった。2.即時正答が増加するにつれ,迂回反応は減少していった。3.迂回反応とヒントの両方で正答に至る傾向が高くみられたのは,形態・属性に関する叙述であった。4.喚語の改善に伴い,仮名自発書字も改善した。以上の結果から,迂回反応を用いた訓練法が有効であることが示された。また,単語の視覚イメージの強化が喚語の改善に有効と思われた。さらに仮名書字障害の改善から,迂回反応のメカニズムについて考察した。
著者
永渕 正昭 紀 朝栄 笹生 俊一 吉岡 豊
出版者
日本失語症学会 (現 一般社団法人 日本高次脳機能障害学会)
雑誌
失語症研究 (ISSN:02859513)
巻号頁・発行日
vol.10, no.3, pp.183-190, 1990 (Released:2006-07-06)
参考文献数
7
被引用文献数
4 4

日本語と中国語のbilingual aphasia の1例を紹介する。3歳で中国に渡り8歳まで日本語を話したが,終戦でその後中国に残留し,35歳で日本に帰国した男性が48歳で重度の運動失語になった。この失語回復を2年間観察したが,中国語の方が日本語より良好であった。そして言語機能は聴覚的理解と読解で回復はみられたが,発語と書字は実用的回復にいたらなかった。読解は漢字 (中国語) で可能になったが,「ひらがな」ではほとんど不可能であった。言語理解は乗物と飲食物に関するもので成績がよかったが,これは病前の趣味 (旅行) と職業 (中華料理店) が関係していると考えられた。これに関連して,二 (多) 国語使用者の失語回復について若干の考察を試みた。
著者
吉川 昌利 岡田 直之 吉岡 豊城
出版者
JAPANESE PHYSICAL THERAPY ASSOCIATION
雑誌
日本理学療法学術大会
巻号頁・発行日
vol.2011, pp.Ea0343-Ea0343, 2012

【目的】 厚生労働省の調査によると、ICD-10に基づく死因分類のうち、建築物内または周辺での日常行動に関連すると考えられる死因の中で、公共的建築空間及び街路等の公共的空間を発生場所とする死因は、「転倒・転落」が圧倒的であった。また、H.Luukinenら(2000)によると転倒によって死亡に至らなくても約1割は骨折や重篤な障害を引き起こし、日常生活を制限されることになるとしている。また、河野(2007)は転倒・転落による死者数の将来予測として2015年には年間4000人を超えると予測しており、急速化する高齢化に伴って拡大するリスク因子について検証することの意義は大きいと考える。その上で、鈴木(2006)は転倒の原因は男女ともに「つまずいた」が圧倒的に多く、次いで「滑った」あるいは「段差に気付かなかった」が続いているとしており、Saidら(2005)や齊藤ら(2010)をはじめ障害物のまたぎ動作に関する様々な研究や報告がなされてきた。しかし、それらは地域高齢者や脳卒中片麻痺患者を対象としたものが多く、疾患特性で検討した報告は少ない。今回我々は当院入院中の患者を対象に、対象物のまたぎ課題を行い、自己身体認知への影響やその傾向と対策を検証することとした。【方法】 当院回復期病棟入院患者で機能的自立度評価法(Functional Independence Measure以下FIM)の移動(歩行に限る)項目が5点以上の患者21名(男性8名、女性13名 平均年齢73.0±10.77歳)を1.下肢整形外科疾患群(以下整形群)、2.中枢神経疾患群(下肢疾患群以外の整形外科疾患を含む:以下中枢群)と大別し、バーの跨ぎ課題を実施した。実施手順は次の通りである。まず被験者が立位の状態で7m先にあるバーの高さを、自分が跨ぐことができると思われる最大の高さに設定する。設定はバーの高さを検者が操作し、被験者はそれを見て目的の高さになったら申告するという方法で行った。その後申告したバーの高さを変えずに、バーを被験者の50cm前方に移動した。7m前方で申告した高さを修正する場合は、7m前方での高さ設定と同様の方法でバーの高さを変更した。バーの高さが決定された後、実際に跨ぎ動作を実施し、その高さを跨ぐことができた場合はさらにバーを上げ、失敗した場合はバーを下げるという手順を2回繰り返し、実際の跨ぎ動作能力の最大値(以下、最大値)を測定した。【倫理的配慮、説明と同意】 臨床研究に関する倫理指針(厚生労働省)、個人情報保護法、ヘルシンキ宣言を遵守し、対象者には本研究趣旨を十分に説明、書面にて研究参加の同意を得た。【結果】 跨ぎ動作1回目での成功率は、整形群30%(3/10人)、中枢群81.8%(9/11人)と整形群において有意に失敗する傾向がみられた(p<0.01)。最大値と距離別予測値との相関を比較した結果、両群ともに距離に関係なく最大値と相関を認めた。また、距離別予測値と最大値との誤差は、7m予測値・50cm予測値ともに整形群で有意に誤差が大きく(p<0.05)、距離間に有意差は無いが50cm予測値との誤差がより大きい傾向を示した。【考察】 整形群では、またぎ動作1回目において失敗する傾向がみられ(p<0.01)、その際の値と最大値は負の誤差、つまり自己を過大評価する傾向にあった。岡田ら(2008)はリーチ距離と見積もり誤差の関係で負の誤差と転倒群の関連を示しており、本研究のtaskとは異なるが転倒予防の一助となる可能性を示唆している。上述のSaidら(2005)は脳卒中患者の障害物またぎ動作は健常者に比べ、障害物-足部間クリアランスの増大など、代償的ストラテジーにて行われると報告されている。つまり、中枢群では代償的ストラテジーの選択によりまたぎ動作をより安全に遂行した結果、初回での成功率が高値を示した可能性がある。また、距離別予測値と最大値の誤差は整形群で有意に大きく(p<0.05)、50cm予測値でその傾向は大きかったことからも、整形群では疾患による下肢の身体認知の誤差を代償するストラテジーの選択や指標の選択が乏しいと考えられる。【理学療法学研究としての意義】 本研究により、整形群で有意に自己身体認知に誤差が生じる可能性が示唆された。その上で、生活環境に限局した動作練習たけでなく最大能力を認識させる課題の提供や評価、または身体や環境を指標とした課題の提供を行いフィードバックすることで新たな自己身体認知を確立する必要がある。今後、またぎ動作の方法をより細かく評価し代償パターンの検証や、指標の選択に何を用いたかを明らかにすることで加速的介入を図れると考える。
著者
吉岡 豊 森 壽子 藤野 博 瀬尾 邦子 濱田 豊彦 寺尾 章
出版者
川崎医療福祉大学
雑誌
川崎医療福祉学会誌 (ISSN:09174605)
巻号頁・発行日
vol.2, no.1, pp.169-176, 1992

本研究では42例の失語症患者と3歳から8歳の正常児94例を対象に, 文理解力と物語理解力を調査し, 失語症患者と正常児の相違点を考察した.課題として文理解力の評価には2種類の3文節能動文を用い, 物語理解力の評価には失語症鑑別検査(老研版)を用いた.主な知見は以下の如くであった.1.失語症患者では物語理解力が文理解力よりも良好であった.両課題の成績には乖離が見られ, 特に重度・中度群で著しく, 軽度群では差がやや縮まった.2.正常児ではどの年齢でも物語理解力と文理解力はほぼ並行して発達した.また, 理解良好な者の比率は4〜5歳代で有意に上昇した.以上の結果から, 文理解力と物語理解力の乖離は失語症患者に特有な現象であることが確認された.その原因としては, 文理解力には主に左脳の能力が, 物語理解力には右脳の能力も関与しているためと考えられた.