- 著者
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岡 浩一朗
- 出版者
- 日本公衆衛生学会
- 雑誌
- 日本公衆衛生雑誌 (ISSN:05461766)
- 巻号頁・発行日
- vol.50, no.3, pp.208-215, 2003 (Released:2014-12-10)
- 参考文献数
- 24
- 被引用文献数
-
25
行動変容のトランスセオレティカル・モデル(TTM)は,人がどのように健康行動を変容するかを理解するために用いられてきた。元々は,不健康な習慣的行動(たとえば,喫煙)の変容を説明あるいは予測するために開発されたものであった。最近では,身体活動・運動行動の研究分野においても TTM を利用することが支持されている。本研究は,日本人中年者を対象に,運動行動における TTM の構成要素について検討した。特に,運動行動の変容段階と運動セルフ・エフィカシーとの関係を調べた。 初めに,本研究では運動セルフ・エフィカシーを査定するための尺度を開発した。467人の中年者が,調査票に回答した。ステップワイズ変数選択による探索的因子分析の結果,5 項目 1 因子からなる尺度が開発された。計量心理学的分析の結果,この尺度が高い信頼性と妥当性を有することが示唆された。 次に,変容段階とセルフ・エフィカシーの関係を検討するため,中年者808人を対象に横断的調査が行われた。運動行動の変容段階と運動セルフ・エフィカシーを査定する調査票を実施した。運動行動の変容段階分類と運動セルフ・エフィカシーとの間に有意な関連が認められた。特に,本研究の対象者におけるセルフ・エフィカシー得点は,無関心期に属する人が他の段階の人と比較して最も低く,維持期の人が最も高かった。一般的に,段階を通じて直線的なパターンで変化した。 本研究では横断的調査デザインおよび非無作為サンプル抽出法を用いているために結果の解釈が制限されるが,本研究と先行研究の結果の類似性は,運動行動の変容段階と運動セルフ・エフィカシーの関係が,年齢や文化の違いに関わらず支持されることを示している。これらの関係を正しく理解することによって,健康増進に関わる専門家は身体活動・運動の増進に対する働きかけを改善させることができる。