著者
田中 靖人
出版者
日本マクロエンジニアリング学会
雑誌
MACRO REVIEW (ISSN:09150560)
巻号頁・発行日
vol.34, no.1, pp.1-15, 2022 (Released:2022-04-30)
参考文献数
12

世に言う『財政規律』によれば少なくとも長期的には財政収支が均衡することを求められる。一方,最近話題のMMT (Modern Monetary Theory,現代貨幣理論)の立場からはそれは否定される。本論文は消費者の効用最大化,規模による収穫一定の技術を持つ完全競争産業における生産の決定など標準的な経済理論で用いられている新古典派的な枠組みの基礎を踏まえつつ,このMMTの言説に極めて簡潔・単純なモデルによって数学的・理論的な基礎を提供しようとするものである。賦課方式の年金と技術進歩による経済成長を含む2世代重複モデルを用いて以下の事柄を明らかにする。ある期の財政赤字は前の期からその期への人々の貯蓄(年金の受け取り分を除く正味の貯蓄)の増加に等しく,財政赤字の累積額は貯蓄に等しい。財政赤字が貯蓄の原因であって逆ではない。財政赤字は政府によって作られ,それが所得を決め,さらにそれが貯蓄を決定する。財政赤字が貯蓄を作り出すのであって貯蓄によって財政赤字が賄われているのではない。財政赤字を減らせば貯蓄も,所得も,消費も減る。
著者
田中 靖人
出版者
日本マクロエンジニアリング学会
雑誌
MACRO REVIEW (ISSN:09150560)
巻号頁・発行日
vol.33, no.2, pp.102-113, 2021 (Released:2021-10-10)
参考文献数
9

近年MMT(Modern Monetary Theory,現代貨幣理論)と呼ばれる学派の主張が注目を集めているが,これまであまり理論的,あるいは数学的な分析がなされることはなかった。本稿は効用関数と予算制約式による消費者の効用最大化,独占的競争における企業の利潤最大化,財の需要・供給の均衡,などの新古典派的なミクロ経済学の枠組みの基本を維持しながら,MMTの主張の骨格をなすものを理論的に基礎づけることを目的とし,技術進歩による経済成長を含む単純な静学モデルを用いて以下の事柄を論証する。1) 経済が成長しているときに完全雇用を維持して行くためには継続的な財政赤字が必要であり,その財政赤字を将来の黒字によって埋め合わせる必要はない。2) 実際の財政赤字が完全雇用維持に必要・十分な水準を上回ることによってインフレーションが引き起こされる。さらなるインフレーションを起こさないためには安定的に一定の財政赤字を続ける必要がある。3) 財政赤字の不足は不況を招き非自発的失業を発生させる。そこから回復させるためには完全雇用を維持して行くのに必要な水準を超える財政赤字が求められるが,完全雇用回復後は継続的な財政赤字が必要なので,不況克服のために生じた赤字を将来の財政黒字によって埋め合わす必要はないし,そうしてはならない。
著者
四柳 宏 田中 靖人 齋藤 昭彦 梅村 武司 伊藤 清顕 柘植 雅貴 高橋 祥一 中西 裕之 吉田 香奈子 世古口 悟 高橋 秀明 林 和彦 田尻 仁 小松 陽樹 菅内 文中 田尻 和人 上田 佳秀 奥瀬 千晃 八橋 弘 溝上 雅史
出版者
一般社団法人 日本肝臓学会
雑誌
肝臓 (ISSN:04514203)
巻号頁・発行日
vol.53, no.2, pp.117-130, 2012 (Released:2012-03-07)
参考文献数
69
被引用文献数
3 3

B型肝炎ワクチンは諸外国では乳児期に全員が接種を受けるユニバーサルワクチンである.しかしながら我が国では任意接種(セレクティブワクチネーション)となっており,母児感染防止の場合のみワクチン接種が健康保険でカバーされている. こうしたセレクティブワクチネーションのみでは我が国のB型肝炎を制圧することは困難である. 本稿では平成23年6月2日に第47回日本肝臓学会(小池和彦会長)において行われたワークショップ「B型肝炎universal vaccinationへ向けて」の内容を紹介しながら,ユニバーサルワクチネーションに関してまとめてみたい.
著者
飯島 沙幸 田中 靖人
出版者
日本ウイルス学会
雑誌
ウイルス (ISSN:00426857)
巻号頁・発行日
vol.63, no.1, pp.23-32, 2013-06-25 (Released:2014-04-26)
参考文献数
46

B型肝炎ウイルス(Hepatitis B virus; HBV)は現在も世界的な感染拡大が続いており,依然として大きな問題となっている.Australia抗原が発見されて以来,臨床医学・疫学など様々な方法で研究が続けられてきたが,HBVは感染宿主域が狭く,in vitro, in vivo共に簡便で効率の良い感染実験系が現在に至るまで確立されていない.そのため逆遺伝学:リバースジェネティクスの手法が果たしてきた役割も大きい.我々はB型慢性肝疾患患者から様々な遺伝子型のHBVクローンを樹立し,リバースジェネティクス手法を用いて解析を行ってきた.それらの結果からHBVの病態と遺伝子型の関連性がどのようなものか徐々に明らかになってきた.本稿では我々がHBVについてリバースジェネティクスを用いて解析してきた研究内容について紹介したい.
著者
大根 久美子 可児 里美 北村 由之 鷺 陽香 金子 敦 大橋 実 菊池 祥平 田中 靖人 井上 貴子
出版者
一般社団法人 日本肝臓学会
雑誌
肝臓 (ISSN:04514203)
巻号頁・発行日
vol.64, no.12, pp.656-659, 2023-12-01 (Released:2023-12-11)
参考文献数
1

We developed and reported a fully automated, high-sensitivity hepatitis B core-related antigen assay (iTACT-HBcrAg). This study aimed to evaluate the impact of carryover during the use of iTACT-HBcrAg by analyzing samples with high HBcrAg levels. A negative sample tested immediately after a sample with an HBcrAg of 8.7 LogU/mL showed an HBcrAg of 2.4 LogU/mL, thus confirming carryover. The sample with an HBcrAg of 8.8 LogU/mL and collection tubes containing the negative samples were continuously opened to check for the effects of sample splashing and aerosols. The results showed that sample splashing and aerosols did not account for the carryover. The iTACT-HBcrAg is a highly sensitive assay; therefore, carryover can occur when magnetic particle-antigen complexes are introduced into the next sample via the BF wash nozzle. Any sample determined to be positive for HBcrAg after the testing of a sample with an HBcrAg above the measurement range should be retested for confirmation.
著者
瀬戸山 博子 野村 真希 矢田 ともみ 吉丸 洋子 楢原 哲史 稲田 浩気 田中 健太郎 蔵野 宗太郎 徳永 尭之 飯尾 悦子 長岡 克弥 渡邊 丈久 江口有 一郎 田中 靖人
出版者
一般社団法人 日本肝臓学会
雑誌
肝臓 (ISSN:04514203)
巻号頁・発行日
vol.64, no.11, pp.583-586, 2023-11-01 (Released:2023-11-10)
参考文献数
5

Continuation of activities is important for the hepatitis medical care coordinators to fulfill their functions, which must be supported by regional core centers for liver disease management. Thus, we conducted a questionnaire survey among coordinators in Kumamoto Prefecture to identify factors that motivates them to continue their activities. Results showed that coordinators were mainly motivated by a sense of social contribution. The factors considered important in the continuation of their activities are self-evaluation and of others, resolution of concerns about their activities, and the presence of peers/consultants. The regional core centers should actively provide a place and means for the coordinators to be active.
著者
田中 靖人
出版者
日本マクロエンジニアリング学会
雑誌
MACRO REVIEW (ISSN:09150560)
巻号頁・発行日
vol.33, no.1, pp.52-70, 2021 (Released:2021-04-30)
参考文献数
8

独占的競争のもとでの世代重複モデルを用いて需要不足による非自発的失業の存在について考えるとともに,財政政策によって完全雇用を実現する可能性を検討する。主な結論は以下の通りである。非自発的失業が存在する状況において財政支出の拡大によって完全雇用を実現するためには財政赤字にして政府債務を作る必要があるが,その後完全雇用を維持するためには均衡財政が求められる。したがって最初の政府債務を返済する必要はない。同様に減税によって完全雇用を実現する場合も,その減税による直接的な消費増加分の財源は政府債務で賄い,それを返済する必要はない。政府債務を返済しないというのは満期のない国債にするか,中央銀行が買い取ることを意味する。
著者
太田 隆徳 伊藤 孝一 杉浦 時雄 小山 典久 齋藤 伸治 村上 周子 田中 靖人
出版者
一般社団法人 日本肝臓学会
雑誌
肝臓 (ISSN:04514203)
巻号頁・発行日
vol.62, no.7, pp.403-412, 2021-07-01 (Released:2021-07-08)
参考文献数
38

症例は2歳男児.母と姉と祖母がB型肝炎ウイルス(HBV)キャリアで,母と姉はHBe抗原陽性かつ高HBV DNA量(HBV DNA>7 log IU/ml)だった.出生直後に抗HBsヒト免疫グロブリンが投与され,HBワクチンが出生時,生後1,6カ月時に接種された.1歳時にHBs抗原陰性,HBs抗体333.8 mIU/mlだったが,2歳時にHBs抗原0.25 IU/ml,HBs抗体115.6 mIU/ml,HBV DNA 3.5 log IU/mlとHBV感染が成立した.直接シークエンス法による遺伝子解析により,本児,母,姉由来のHBVにワクチンエスケープ変異として知られるG145R変異とP120Q変異を認めた.母と姉が保有していた変異株が1歳以降に本児に水平感染したと考えられた.高ウイルス量HBVキャリア妊婦から出生した児では,2歳以降も継続的なフォローアップと積極的なワクチン追加接種も考慮する必要があると考えられた.
著者
平嶋 昇 田中 靖人 小林 慶子 島田 昌明 岩瀬 弘明 後藤 秀実
出版者
The Japan Society of Hepatology
雑誌
肝臓 (ISSN:04514203)
巻号頁・発行日
vol.50, no.11, pp.644-649, 2009-11-25
被引用文献数
1 1

症例は26才女性.2007年11月21日,AST235 U/L,ALT636 U/L,T-Bil.3.5 mg/d<i>l</i>で紹介を受けた.HBs抗原・IgM-HA抗体・HCV抗体陰性であったがHCV RNA定性(アンプリコア法)は陽性であった.ALTは正常化せず,08年2月8日HCVグループ2,RNA定量3.0 Log IU/m<i>l</i>(リアルタイム法),3月21日肝生検F1A1であったため,3月25日からペグインターフェロンα2aを12週投与してHCV RNAは陰性化した.尚,07年8月頃から付き合い始めたフィアンセは刺青を有し07年11月C型急性肝炎を発生,11月28日HCVグループ2,RNA定量430 KIU/m<i>l</i>(ハイレンジ法)であった.保存血清を用いて分子系統樹解析を名古屋市立大学臨床分子情報医学教室において行ったところ患者とフィアンセはおなじ感染ルートであることが推測された.日本のC型慢性肝炎は高齢化し治療に難渋しているが,若い世代を中心に麻薬や刺青によるC型肝炎感染が散見され性交渉によってさらに拡大しているとも言われている.C型肝炎は感染早期にインターフェロンを投与した方が治療効果は高く早期治療が望ましい.若い世代に対する積極的HCV対策も今後は必要である.<br>
著者
楠本 茂 田中 靖人
出版者
一般社団法人 日本内科学会
雑誌
日本内科学会雑誌 (ISSN:00215384)
巻号頁・発行日
vol.103, no.7, pp.1645-1653, 2014-07-10 (Released:2015-07-10)
参考文献数
10
被引用文献数
1 2

免疫抑制療法後のB型肝炎ウイルス(HBV)再活性化は,ときに致死的となる合併症であり,その対策のポイントはあらかじめリスク評価(スクリーニング検査)を行うことである.再活性化リスクに応じて,抗ウイルス薬の予防投与あるいはHBV-DNAモニタリングによるpreemptive therapyを行うことで,劇症肝炎予防が期待できる.C型肝炎ウイルス再活性化による劇症肝炎はまれであるが,肝硬変,肝がんについて長期フォローアップが重要である.
著者
木村 みさか 岡山 寧子 田中 靖人 金子 公宥
出版者
一般社団法人日本体力医学会
雑誌
体力科学 (ISSN:0039906X)
巻号頁・発行日
vol.47, no.4, pp.401-410, 1998-08-01
被引用文献数
7 4 3

安全かつ簡便にフィールドでも測定可能な高齢者の持久性評価法の開発を目的として, シャトル・スタミナテスト (SST; 10m折り返し3分間走) の「走り」を「歩き」に応用したシャトル・スタミナ・ウオークテスト (SSTw) の信頼性・妥当性を検討した.<BR>1) SSTwの成績はVo<SUB>2</SUB>maxとr=0.827の相関を示し, 2) 初回時テストと再テストの間にはr=0.853の相関が認められ, 3) 推定最大心拍数に対するテスト中のピーク心拍数の割合は平均86.3%で, 男女差, 年齢差がなく, 4) 運動中の主観的身体負担度は, 全体の73.7%が「普通fairy light」または「ややきついsomewhat hard」と回答し, 5) SSTwの成績は運動能 (持久性) の自己評価を反映していた.また, 6) SSTwの加齢に伴う低下率は, 40歳以上においてVo<SUB>2</SUB>maxで報告されている低下率と同程度の値を示した.<BR>以上より, SSTwは, 40歳以後の中高齢者, 特に後期高齢者や低体力者を含む広範囲な高齢者にとって安全で, 屋内で多人数を同時に短時間に測定できる簡便な持久性評価法として信頼性, 妥当性に優れるテストであることが示唆された.