- 著者
-
磯 直樹
- 出版者
- 日本教育社会学会
- 雑誌
- 教育社会学研究 (ISSN:03873145)
- 巻号頁・発行日
- vol.110, pp.91-113, 2022-07-30 (Released:2024-04-01)
- 参考文献数
- 40
ブルデューの文化資本は,支配と不平等に文化がどのように関わるかを分析するための概念である。本稿では,この概念に焦点を当てつつ,ブルデューが「階級」を支配と不平等にどのように関わらせて概念化したのかを考察する。さらに,他の社会学者によって,ブルデュー派階級分析と呼びうる理論と方法がどのように展開されてきたかを論じる。 ブルデューの階級分析で軸になる概念は「社会空間」である。これは階級構造に意味が近いが,ブルデューによれば「社会階級」なるものは実在しない。「実在するのは社会空間であり,差異の空間であって,そこでは諸階級が潜在的状態で,点線で,つまりひとつの所与としてではなく,これから作るべき何かとして実在する」という。階級分析を行いつつも「社会階級」の実在を否定するという,この一見分かりにくい論理構造によってブルデューの「階級」分析は構成されている。社会空間における行為者の客観的位置は,資本の種類と多寡によって決まる。複数の行為者の位置が同じでも,各々のハビトゥスの違いによって思考や行為は異なってくる。ハビトゥスは複数の性向の体系として,新たに実践を産み出していく。 ブルデュー派階級分析は,ブルデュー以外の社会学者と統計学者によって展開されてきた。フランスの幾何学的データ分析の発展がブルデュー社会学と合流し,フランスだけでなく,ノルウェーやイギリスにおいてブルデュー派計量分析と呼べるものが21世紀に入ってから体系化されていった。ブルデュー派階級分析は質的方法も採り入れ,支配と不平等の社会学として発展を続けている。