著者
大西 彩子 黒川 雅幸 吉田 俊和
出版者
一般社団法人 日本教育心理学会
雑誌
教育心理学研究 (ISSN:00215015)
巻号頁・発行日
vol.57, no.3, pp.324-335, 2009 (Released:2012-02-29)
参考文献数
37
被引用文献数
11 12

本研究の目的は, 児童・生徒が教師の日常的な指導態度をどのように捉えているのかということ(教師認知)が, 学級のいじめに否定的な集団規範と, いじめに対する罪悪感の予期を媒介して, 児童・生徒のいじめ加害傾向に与える影響を明らかにすることである。547名(小学生240名, 中学生307名)の児童・生徒を対象に, 教師認知, 学級のいじめに否定的な集団規範, いじめに対する罪悪感予期, いじめ加害傾向を質問紙調査で測定し, 共分散構造分析による仮説モデルの検討を行った。主な結果は以下の通りであった。(1) 学級のいじめに否定的な集団規範といじめに対する罪悪感の予期は, 制裁的いじめ加害傾向と異質性排除・享楽的いじめ加害傾向に負の影響を与えていた。(2) 受容・親近・自信・客観の教師認知は, 学級のいじめに否定的な集団規範といじめに対する罪悪感の予期に正の影響を与えていた。(3) 怖さの教師認知と学級のいじめに否定的な集団規範は, いじめに対する罪悪感に正の影響を与えていた。(4)罰の教師認知は, 制裁的いじめ加害傾向と異質性排除・享楽的いじめ加害傾向に正の影響を与えていた。本研究によって, 教師の受容・親近・自信・客観といった態度が, 学級のいじめに否定的な集団規範といじめに対する罪悪感の予期を媒介して, 児童・生徒の加害傾向を抑制する効果があることが示唆され, いじめを防止する上で教師の果たす役割の重要性が明らかになった。
著者
篠田麻佳 大西彩子
出版者
日本教育心理学会
雑誌
日本教育心理学会第59回総会
巻号頁・発行日
2017-09-27

問題と目的 現代社会では自殺やいじめ,ひきこもりなど様々な問題が発生している。特に子どもや若者の自殺やいじめ,ひきこもりの問題は深刻で大きな社会問題になっている。それらの問題に関連する要因は様々であるが,その一つに自己肯定感の低下が挙げられる。自己肯定感の形成には,人生最初の適応環境である家庭文化の影響が非常に大きく関わっている(榎本,2010)。家庭文化の1つとして親の養育態度があげられる。子ども時代の両親の養育態度と自己肯定感と類似の概念である自尊感情には関連があり(山下,2010),親の受容的な姿勢は子どもの自己肯定感を高めると言われている(龍・小川内,2013)。また,自分の内面を開示し,深い友人関係をもつ人は,そういった関係を避ける人よりも自尊感情は高い(岡田,2011)。このように,自己肯定感と子ども時代の親の養育態度および友人関係の関連については先行研究により示されてきた。しかし,自己肯定感は過去からの積み重ねという要素もあるため,過去や現在を部分的に分けてみるのではなく,子ども時代の出来事が現在にどのように関係しているのかを明らかにする必要がある。篠田・大西(2017)では,親の養育態度および友人関係と自己肯定感との関連が示された。しかし,因果関係については示されていない。そこで本研究では,過去の親の養育態度および現在の友人関係が大学生の自己肯定感へ与える影響について検討することを目的とする。方 法調査対象者 私立大学文系学部に通う学生130名 (男性26名,女性104名,平均年齢20.14歳,SD =.90) を対象に,無記名方式による質問紙調査を行った。調査内容 過去の親の養育態度を測定する尺度としてParental Bonding Instrument(PBI)の日本語版尺度(小川,1991),友人との関わりを測定する尺度として改訂版友人関係機能尺度(丹野,2008),自己肯定感を測定する尺度として大学生版自己肯定感尺度(吉森,2015)を使用した。結 果 Parental Bonding Instrument(PBI)の日本語版尺度,改訂版友人関係機能尺度,大学生版自己肯定感尺度それぞれに主因子法プロマックス回転による因子分析を行った。Parental Bonding Instrument(PBI)の日本語版尺度からは「養護」(α=.90),「過保護・過干渉」(α=.81)の2因子が抽出され,改訂版友人関係機能尺度からは「肯定・受容」(α=.91),「関係継続展望」(α=.88)の2因子が抽出された。また,大学生版自己肯定感尺度からは「安定した自己」(α=.79),「無条件の自己肯定」(α=.80)の2因子が抽出された。過去の親の養育態度が現在の友人関係を媒介して自己肯定感に与える影響を検討するために,共分散構造分析を行った(Figure1)。その結果,適合度指標はχ2=5.14,df=4,p=.273,GFI=.987,AGFI=.932,RMSEA=.047,AIC=39.14であった。「愛情・受容」は「無条件の自己肯定」,「過保護・過干渉」は「安定した自己」に直接的な影響を与えていた。「過保護・過干渉」は「肯定・受容」「関係継続展望」に影響を与えていた。一方,友人関係の「肯定・受容」は「無条件の自己肯定」に影響を与えていた。「過保護・過干渉」は「関係継続展望」を媒介し「安定した自己」に影響を与えていた。考 察 親からの受容的な愛情と,現在の友人に受容されていることは現在の自分を受け入れることに影響していた。先行研究でも,過去の親の愛情・受容が高い群や現在の肯定・受容的な友人関係が高い群は他の群より,現在の自分を受け入れることができると示されており,篠田・大西(2017)の結果に続くものとなった。安定した自己に過保護・過干渉的な関わりが悪影響を与えることが分かったが,愛情・受容的な関わりからの影響は見られなかった。どのような関わりが良い影響を与えるかを検討していく必要がある。また,今後は調査対象者の男女間の偏りを解消することで性別ごとに影響を与える要因についても検討したい。
著者
大西 彩子 吉田 俊和
出版者
日本グループ・ダイナミックス学会
雑誌
実験社会心理学研究 (ISSN:03877973)
巻号頁・発行日
vol.49, no.2, pp.111-121, 2010 (Released:2010-02-20)
参考文献数
48
被引用文献数
4 2

本研究の目的は,自己愛傾向,認知的共感性,情動的共感性,いじめに否定的な集団規範が生徒のいじめ加害傾向に与える影響を明らかにすることで,いじめの個人内生起メカニズムについて検討することである。188人(男子103人,女子85人)の中学生を対象に,自己愛傾向,認知的共感性,情動的共感性,関係性いじめ否定規範意識,直接的いじめ否定規範意識,関係性いじめ加害傾向,直接的いじめ加害傾向を質問紙調査で測定し,共分散構造分析による仮説モデルの検討を行った。主な結果は以下の通りであった。(1)各いじめ否定規範意識は,各いじめ加害傾向に負の影響を与えていた。(2)誇大的自己愛傾向は,各いじめ否定規範意識に負の影響を与えることで間接的に各いじめ加害傾向に影響を与えていた。(3)認知的共感性は,直接的いじめ加害傾向へ負の影響を与える直接効果と,関係性いじめ否定規範意識に正の影響を与えることで,関係性いじめ加害傾向に負の影響を与える間接効果がみられた。(4)情動的共感性は,各いじめ否定規範意識に正の影響を与えることで,間接的に各加害傾向に影響を与えていた。本研究によって,集団規範がいじめ加害傾向に影響を与える主な要因であることが示唆され,集団規範を考慮したいじめ対策を行うことの重要性が明らかになった。
著者
三島 浩路 黒川 雅幸 大西 彩子 吉武 久美 本庄 勝 橋本 真幸 吉田 俊和
出版者
一般社団法人 日本教育心理学会
雑誌
教育心理学研究 (ISSN:00215015)
巻号頁・発行日
vol.64, no.4, pp.518-530, 2016 (Released:2017-02-01)
参考文献数
29
被引用文献数
5 5

高校ごとの生徒指導上の問題の発生頻度認知や携帯電話に対する規制と, 携帯電話に対する生徒の依存傾向等との関連を検討した。13の高校に所属する教師約500人と生徒約1,700人を対象に調査を行った。その結果, 生徒指導上の問題の発生頻度認知が高い高校に在籍している生徒ほど, 携帯電話に対する重要度認知が高く, 携帯電話に対する依存傾向が強いことが示唆された。生徒指導上の問題の発生頻度認知が低い高校に関しては, 携帯電話に対する規制の強弱により, 生徒の携帯電話に対する依存傾向が異なることが示唆された。具体的には, 生徒指導上の問題の発生頻度認知が低い高校の中では, 携帯電話に対する規制が強い高校に在籍している生徒の方が, 規制が緩やかな高校に在籍している生徒に比べて, 携帯電話に対する依存傾向が強いことを示唆する結果が得られた。
著者
大西 彩子 吉田 俊和
出版者
The Japanese Group Dynamics Association
雑誌
実験社会心理学研究 (ISSN:03877973)
巻号頁・発行日
vol.49, no.2, pp.111-121, 2010
被引用文献数
2

本研究の目的は,自己愛傾向,認知的共感性,情動的共感性,いじめに否定的な集団規範が生徒のいじめ加害傾向に与える影響を明らかにすることで,いじめの個人内生起メカニズムについて検討することである。188人(男子103人,女子85人)の中学生を対象に,自己愛傾向,認知的共感性,情動的共感性,関係性いじめ否定規範意識,直接的いじめ否定規範意識,関係性いじめ加害傾向,直接的いじめ加害傾向を質問紙調査で測定し,共分散構造分析による仮説モデルの検討を行った。主な結果は以下の通りであった。(1)各いじめ否定規範意識は,各いじめ加害傾向に負の影響を与えていた。(2)誇大的自己愛傾向は,各いじめ否定規範意識に負の影響を与えることで間接的に各いじめ加害傾向に影響を与えていた。(3)認知的共感性は,直接的いじめ加害傾向へ負の影響を与える直接効果と,関係性いじめ否定規範意識に正の影響を与えることで,関係性いじめ加害傾向に負の影響を与える間接効果がみられた。(4)情動的共感性は,各いじめ否定規範意識に正の影響を与えることで,間接的に各加害傾向に影響を与えていた。本研究によって,集団規範がいじめ加害傾向に影響を与える主な要因であることが示唆され,集団規範を考慮したいじめ対策を行うことの重要性が明らかになった。<br>
著者
大西 彩子
出版者
甲南大学
雑誌
若手研究(B)
巻号頁・発行日
2013-02-01

本研究では認知の歪みの修正という観点からのいじめ防止対策について検討するため,一般的な反社会的行動に関する選択的道徳不活性化(SMD)といじめに関する選択的道徳不活性化(SMDB)に着目し、それらがいじめの傍観経験、制止経験、加害経験、被害経験とどのように関連するのかを明らかにすることを目的とした。調査は,公立定時制高校の1~4年生12クラス260名を対象とした。その結果、いじめの加害および傍観行動と被害経験には、一般的な反社会的行動に関する認知の歪みであるSMDといじめの認知の歪みであるSMDBが関連していることが示された。
著者
大西 彩子 黒川 雅幸 吉田 俊和
出版者
一般社団法人 日本教育心理学会
雑誌
教育心理学研究 (ISSN:00215015)
巻号頁・発行日
vol.57, no.3, pp.324-335, 2009
被引用文献数
12

本研究の目的は, 児童・生徒が教師の日常的な指導態度をどのように捉えているのかということ(教師認知)が, 学級のいじめに否定的な集団規範と, いじめに対する罪悪感の予期を媒介して, 児童・生徒のいじめ加害傾向に与える影響を明らかにすることである。547名(小学生240名, 中学生307名)の児童・生徒を対象に, 教師認知, 学級のいじめに否定的な集団規範, いじめに対する罪悪感予期, いじめ加害傾向を質問紙調査で測定し, 共分散構造分析による仮説モデルの検討を行った。主な結果は以下の通りであった。(1) 学級のいじめに否定的な集団規範といじめに対する罪悪感の予期は, 制裁的いじめ加害傾向と異質性排除・享楽的いじめ加害傾向に負の影響を与えていた。(2) 受容・親近・自信・客観の教師認知は, 学級のいじめに否定的な集団規範といじめに対する罪悪感の予期に正の影響を与えていた。(3) 怖さの教師認知と学級のいじめに否定的な集団規範は, いじめに対する罪悪感に正の影響を与えていた。(4)罰の教師認知は, 制裁的いじめ加害傾向と異質性排除・享楽的いじめ加害傾向に正の影響を与えていた。本研究によって, 教師の受容・親近・自信・客観といった態度が, 学級のいじめに否定的な集団規範といじめに対する罪悪感の予期を媒介して, 児童・生徒の加害傾向を抑制する効果があることが示唆され, いじめを防止する上で教師の果たす役割の重要性が明らかになった。
著者
三島 浩路 黒川 雅幸 大西 彩子 吉武 久美 本庄 勝 橋本 真幸 吉田 俊和
出版者
一般社団法人 日本教育心理学会
雑誌
教育心理学研究 (ISSN:00215015)
巻号頁・発行日
vol.64, no.4, pp.518-530, 2016
被引用文献数
5

高校ごとの生徒指導上の問題の発生頻度認知や携帯電話に対する規制と, 携帯電話に対する生徒の依存傾向等との関連を検討した。13の高校に所属する教師約500人と生徒約1,700人を対象に調査を行った。その結果, 生徒指導上の問題の発生頻度認知が高い高校に在籍している生徒ほど, 携帯電話に対する重要度認知が高く, 携帯電話に対する依存傾向が強いことが示唆された。生徒指導上の問題の発生頻度認知が低い高校に関しては, 携帯電話に対する規制の強弱により, 生徒の携帯電話に対する依存傾向が異なることが示唆された。具体的には, 生徒指導上の問題の発生頻度認知が低い高校の中では, 携帯電話に対する規制が強い高校に在籍している生徒の方が, 規制が緩やかな高校に在籍している生徒に比べて, 携帯電話に対する依存傾向が強いことを示唆する結果が得られた。