著者
勝木 秀治 今屋 健 園部 俊晴 内間 康知 山口 光國
出版者
公益社団法人 日本理学療法士協会
雑誌
理学療法学Supplement
巻号頁・発行日
vol.2002, pp.517, 2003

【はじめに】第20回神奈川県理学療法士学会において、我々は肩関節可動域制限が上肢に与える影響を調べ、肘関節の伸展制限が生じやすいなど上肢の末梢への影響を報告した。しかし、一連のストレスメカニズムを言及するには至らなかった。今回は対象を保存的加療中の肩関節疾患患者とし、肘関節の屈伸運動タイプの違いに着目して、肩関節の可動域制限をもとに上肢の運動連鎖のメカニズムを検討した。【対象及び方法】対象は保存的加療中の一側肩関節疾患患者20名(平均年齢51.4歳)とし、自動運動での両側肩関節の前方挙上(以下、前挙)、外旋可動域を計測した。また、両側肘関節、前腕の可動域、及びCarry angleをそれぞれ計測した。尚、回内外可動域計測にはスラントを用いた。得られた計測値をもとに健側を基準として各計測値の左右差(制限角度)を求めた。また、症例をKapandjiの言う上腕骨滑車の前方関節面の違いから起こる肘関節の屈伸運動の違いを参考とし、健側を測定肢としてI型群(屈曲時同一面上で上腕と前腕が折り重なる)、II型群(上腕の外側で前腕が折り重なる)、III型(上腕の内側で前腕が折り重なる)の3群に分類した。全症例、及び症例数の多かったI型、II型について各群内で各左右差間の相関係数を求め、肩関節の可動域制限が影響する上肢の分節を調べた。【結果】肘関節の屈伸運動による分類の結果、I型8名、II型9名、III型3名であった。統計処理の結果、症例全体では前挙制限と肘関節伸展制限が正の相関を示した(r=0.67,p<0.01)。しかし、I型では、前挙制限とCarry angle(r=0.80,p<0.05)、外旋制限と肘関節伸展制限(r=0.80,p<0.05)がそれぞれ高い相関を示した。また、II型では 前挙制限と肘関節伸展制限(r=0.88,p<0.01)、前挙制限と回外制限(r=0.76,p<0.05)がそれぞれ高い相関を示した。【考察】下肢の運動と同様に上肢の運動でも運動連鎖は存在している。例えば、前腕の回内運動は肩関節の内旋運動に、回外は外旋にそれぞれ運動は波及する。今回は、肩関節の可動域制限からこの運動連鎖の影響について調べた。実験の結果、I型では外旋制限が大きいと肘関節の伸展制限が生じ易く、II型では前挙制限が大きいと肘関節の伸展制限が生じ易いなど、今回の分類で用いた肘関節の屈伸運動軸の違いにより、肩関節の可動域制限に伴い可動域制限を生じやすい部位や関節運動が異なるという興味深い結果となった。実際には上腕骨での代償か、前腕での代償か、また筋肉の走行が影響しているのかなど細かくは言及できない。臨床では、肩関節疾患で肘関節や前腕に痛みや愁訴を訴える症例を経験することは少なくない。今回の結果は、肩関節の可動域制限による二次的な上肢の障害を予測する一助になると考える。今後細かな検討を加えていきたい。
著者
山口 光國 筒井 廣明
出版者
日本肩関節学会
雑誌
肩関節 (ISSN:09104461)
巻号頁・発行日
vol.33, no.3, pp.805-808, 2009 (Released:2010-01-29)
参考文献数
7
被引用文献数
6

We investigated the movement of the shoulder girdle which included the humerus position that athletes need to throw. We examined the movement of the shoulder girdle and relations with the state of the shoulder which we were aware of. The materials were 53 athletes to know their throwing movement. Their average age was 17 - 38 years old. (average 24.4±4.8) The results, the shoulder condition and the relations with the range of motion accepted middle-class correlation for the external rotation and internal rotation movement in the state of 90° flexion. The shoulder condition and the relations with the movement of the shoulder girdle accepted strong correlation in anterior, superior, inferior and the posterior recognized middle-class correlation. The result of this appraisal method did not accept significance between the pitching side and the un-pitching side. (p<0.01) The movement of the shoulder girdle on the basis of the humerus strongly influenced the condition of the shoulder of which we were aware of rather than the range of the shoulder motion. Although ROM was important as a medical treatment, it cannot be said that it was enough in respect of prevention of an obstacle. This evaluation method was important from a viewpoint of injury prevention to it. And this method was simple and we thought very easy to use.
著者
一之瀬 巳幸 田口 直彦 山口 光國 黒塚 美文子
出版者
公益社団法人 日本理学療法士協会
雑誌
理学療法学Supplement
巻号頁・発行日
vol.2008, pp.A3P2113, 2009

【はじめに】ストレス社会と言われる現代において、香りがもたらす心身への効果が注目され、利用されている.しかし、香りが人体にどのような影響を及ぼすのか、古くから研究が行われてきたものの、客観的・科学的な検証は充分とは言えない.今回我々は、香りが心身にプラス効果を与え、臨床に活用できることを期待し、作業能力・ストレスについて香りの有無で比較検討したので報告する.<BR>【対象】健常者20名(男性8名、女性12名、平均年齢32.7歳)、本研究の趣旨に賛同していただけた方を対象とした.<BR>【方法】内田=クレペリン精神作業検査を用いて15分間の作業を5分間の休憩を挟み2回ずつ行い、その作業量と正解率を香り無の群10名と香り有の群10名で比較した.香りは日本人に好まれリラックス効果があると言われているスウィートオレンジ(フィトサンアローム製品)を使用した.芳香方法はディフューザーとコットンに精油を2滴含ませたもので行った.ディフューザーは空気の圧力で精油を小さな微粒子にし、香りを部屋中に広げるアロマ芳香器であり、アロマキャンドルやアロマランプと異なり、熱を加えないため精油成分が変化する心配がない.<BR>【結果】内田=クレペリン精神作業検査では、香り無群の回答数1回目727.7±249.3、正解率99.4±0.80%、2回目823.9±272.1、正解率99.3±0.68%、香り有群の回答数1回目797.5±153.3、正解率99.6±0.48%、2回目879.5±167.8、正解率99.8±0.19%であり、香り無群と香り有群の1回目・2回目の回答数と正解率に有意な差を認めた(P>0.05).<BR>【考察】内田=クレペリン精神作業検査の加算作業の作業量からわかる能力とは、何が出来るか出来ないかなど具体的な能力ではなく、物事を学習したり処理したりする基本的能力のことをいい、日常の学習や動作・行動のテンポやスピードの高低と深い関連があると言われている.この検査の被験者は、単調な思考回転を長時間持続することが求められるため、著しい負担とストレスを受けることになるが、今回、香り無群と香り有群で比較し有意な差を認めた.今回の結果から、香りが身体作業に効果をもたらせているものと推察できる.医療現場に身をおくクライアントは、大なり小なり心身のストレスを抱え、その対応も、臨床上非常に重要となることが多い.今回の結果は、好ましい香りが心身にプラス効果を与え、有意義な作用が存在すると期待され、我々の臨床でも機能障害によるストレスを軽減させたり、運動時の集中力を高めたりなど活用できると考える.近年、医療現場で香りを治療補助として取り入れられるようになりつつある.今後、更なる検討を加え、理学療法における臨床応用への有用性を検証してゆく.
著者
久保 祐子 山口 光國 大野 範夫 福井 勉
出版者
日本理学療法士学会
雑誌
理学療法学 (ISSN:02893770)
巻号頁・発行日
vol.33, no.3, pp.112-117, 2006-06-20 (Released:2018-08-25)
参考文献数
6
被引用文献数
6

姿勢・動作において身体重心位置を把握することは重要であるものの,実際には重心位置は不可視的であり,経験的に推測されていることが多い。身体重心は身体各部の重さの中心であることから,おおよそであるものの観察可能である上半身と下半身重心点の中点が身体重心に近似するものと推察される。今回我々は身体を上半身と下半身に分け,それぞれ算出した重心点の中点と3次元動作解析装置から得られる身体重心位置との差異を,前額面,矢状面上の姿勢ならびに動作について調査した。その結果,身体重心点と上半身と下半身重心点の中点とは近似しており,臨床上の観察点としての有用性が示唆された。
著者
浜田 純一郎 山口 光國 筒井 廣明 前田 健 近 良明
出版者
日本肩関節学会
雑誌
肩関節 (ISSN:09104461)
巻号頁・発行日
vol.36, no.2, pp.725-729, 2012 (Released:2012-10-25)
参考文献数
6

Background: The understanding of the glenohumeral (GH) joint motion during baseball pitching should be necessary for diagnosis and treatment for throwing shoulder. The purposes of this study were firstly to investigate the motions of the scapula, pelvis, upper body, and upper limbs and secondly to speculate the motion of the GH joint and the scapula from the top position to ball release.Methods: We observed the pitching of 2 professional and 2 high-level amateurs with a digital camera and a video camera, recording each motion of the pelvis, upper body, scapula, and upper limbs. We classified pitching motion into 3 phases which were slide, upper body rotation, and arm throwing in order to simply analyze the motion in each phase.Results: Each scapula protracted and retracted respectively during pitching motion. The pelvis which was closed in the stride, ball release, and follow-through synchronized with scapular motion. The throwing arm moved in the scapular plane and made the elbow extend to the ball release. Internal rotation of the humeral head was a little from the top position to the ball release.Discussion: Both scapula and pelvis synchronized at each phase of pitching motion. The motion of the GH joint was speculated to be a small amount from the top position to ball release.
著者
筒井 廣明 管 直樹 山口 光國 山本 龍二 三原 研一 保刈 成 上里 元 鈴木 一秀 大島 和 内川 友義
出版者
Japan Shoulder Society
雑誌
肩関節 (ISSN:09104461)
巻号頁・発行日
vol.19, no.2, pp.310-316, 1995

Purpose<br>The purpose of this study is to recognize the effect of exercise for cuff muscles using EMG.<br>Materials and Methods<br>5 healthy young men, aged from 17 to 29 yrs., were examined. The "resisted external rotation"exercise for the infraspinatus muscle was estimated. The Cuff-Y exercise with a yellow Thera-Band and F. W. Jobe's strengthening exercise with a 1.5kg weight were compared. During the exercises, the infraspinatus, the supraspinatus, the deltoid, and the middle fiber of the trapezius were examined with EMG. The EMG was recorded continuously from the beginning for 5 minutes.<br>Results<br>The exercise withe the yellow Thera-Band could dominate the activity of the infraspinatus muscle compared to other muscles. As for the exercises with a 1.5kg weight, it was difficult to keep the activity of the infraspinatus advantageous and the 5 volunteers demonstrated five different patterns of muscle activity. Furthermore, the relative activity of the infraspinatus gradually decreased with time.<br>Conclusion<br>Exercises for cuff muscles should be carried out to keep the dominant activity of the targeted muscle compared to other muscles. The setting of the load and time limit both failed and the purpose of the exercise could not be attained.
著者
山口 光國 筒井 廣明 山本 龍二 三原 研一 保刈 成 鈴木 一秀 上里 元 大島 和 内川 友義 菅 直樹 牧内 大輔
出版者
日本肩関節学会
雑誌
肩関節 (ISSN:09104461)
巻号頁・発行日
vol.20, no.2, pp.325-328, 1996-11-30 (Released:2012-11-20)
参考文献数
4

PurposeWe investigated the muscle strength of the scapulothoracie joint which is apt to be affected by the position of other joints.
著者
筒井 廣明 山口 光國 山本 龍二 三原 研一 保刈 成 鈴木 一秀 上里 元 大島 和 内川 友義 菅 直樹 牧内 大輔
出版者
日本肩関節学会
雑誌
肩関節 (ISSN:09104461)
巻号頁・発行日
vol.20, no.2, pp.337-340, 1996-11-30 (Released:2012-11-20)
参考文献数
6
被引用文献数
1

[Purpose]Cuff exercises are usually performed to improve the shoulder function and to keep the condition of the shoulder of throwing athletes. Thus, there are a large number of athletes who could not acquire the expected effects of the exercises. In this study, we examined the estimation of the cuff function and the daily exercises of the athletes electromyographically.
著者
山口 光國
出版者
理学療法科学学会
雑誌
理学療法科学 (ISSN:13411667)
巻号頁・発行日
vol.13, no.3, pp.163-170, 1998

スポーツ障害肩の発生は様々な因子が考えられ,その治療に際しては種々の職種が連絡を密に取り,対応することが望まれる。スポーツ障害肩に対する理学療法の役割は,病態により生じた機能障害の改善のほか,肩関節を含めた全身の関節機能の再建を第一の目的とし,病態や,技術的能力に対しての悪影響を排除することにある。また,実際の理学療法の目的は,損傷部の改善を第一の目的とするか,機能の改善を図るのか,スポーツと言う特殊性を考慮した訓練を施すのか,症例の状態により決定される。
著者
山口 光國
出版者
日本理学療法士学会
雑誌
理学療法学 (ISSN:02893770)
巻号頁・発行日
vol.30, no.4, pp.217-221, 2003
参考文献数
11

肩関節不安定症(instability)とは,あくまでも関節運動に際し,不安感,疼痛,脱臼を伴う病的状態と定義されている。肩関節不安定症は関節の解剖学的,生理学的破綻が基本となるが,肩に限らず身体の関節機能の障害や,日常生活動作の不備が強く関与する。よって肩関節不安定症に対し理学療法は,表出される愁訴を全て解剖学的,生理学的破綻と決め付けることなく,あくまでも機能的な問題の関与を疑い,対応を図る必要がある。また,肩関節不安定症に対する手術療法は,構造上の物理的破綻やそれに伴う生理学的な破綻に対するものだけでも,その対処法は多岐に渡り,さらに機能的,個体的な要因を加味された場合の対処法も異なるなど,病態,関わる因子により選択される方法は異なる。よって,術後の理学療法は,医師の指示をもとに対処された術法の目的を熱知した上で,生理学的な回復過程に準じ,施行されなければならない。さらに,肩不安定性への起因となりうる,身体機能ならびに運動についても術前から調査し,術後の機能回復ならびに予防的対応としての理学療法が施行されることが望ましい。