著者
下方 浩史 安藤 富士子
出版者
一般社団法人 日本老年医学会
雑誌
日本老年医学会雑誌 (ISSN:03009173)
巻号頁・発行日
vol.49, no.6, pp.721-725, 2012 (Released:2013-07-24)
参考文献数
16
被引用文献数
8 8

加齢に伴って筋肉量が減少し,筋力を維持できなくなってしまうサルコペニアは高齢者の日常生活機能を低下させる.われわれは栄養摂取等の生活習慣や既往歴など,サルコペニアのリスク要因について,無作為抽出された40歳以上の地域在住男性1,783名,女性1,825名での10年間,延べ14,010回の測定の縦断的データを用いて網羅的に検討を行った.二重エネルギーX線吸収装置(DXA)での筋肉量から診断されたサルコペニアでは喫煙,運動不足,総エネルギー摂取量の不足,たんぱく質・分岐鎖アミノ酸不足,自覚的健康が良くないことなどがリスクになっていた.65歳以上のみを対象とした身体機能からの診断されたサルコペニアでもDXAでの診断の場合と同様に検討を行った.喫煙がリスクになっており,総エネルギー摂取量,ビタミンD,たんぱく質,分岐鎖アミノ酸摂取が意にリスクを下げていたが,身体活動との関連は有意ではなかった.
著者
下方 浩史 安藤 富士子
出版者
一般社団法人 日本老年医学会
雑誌
日本老年医学会雑誌 (ISSN:03009173)
巻号頁・発行日
vol.49, no.2, pp.195-198, 2012 (Released:2012-12-26)
参考文献数
5
被引用文献数
11 14

サルコペニアは高齢者の日常生活機能を低下させ,健康長寿の障害となる.われわれは無作為抽出された地域在住中高年者コホートのデータを使用して,日常生活機能と筋力,筋量との関連について検討した.男女ともに40歳以降,握力,下肢筋力は年間約1パーセントずつ低下していた.どの年代でも男性は女性よりも筋力が強く,80代の男性の筋力は40代の女性の筋力にほぼ等しかった.筋力の低下は女性の日常生活機能により大きな影響を与える可能性がある.一方,四肢の筋量は男性では加齢とともに低下するが,女性では加齢による低下はほとんどなかった.このことは女性では筋肉の量的な変化よりも,質的な変化が問題になっていることを示している.日常生活機能は筋肉のパフォーマンスの影響を受け,握力と歩行速度で推定することが可能であった.高齢者の脆弱を予防するためには,これらの評価によりハイリスクの集団を見つけることが重要であろう.
著者
西田 裕紀子 丹下 智香子 富田 真紀子 安藤 富士子 下方 浩史
出版者
一般社団法人 日本発達心理学会
雑誌
発達心理学研究 (ISSN:09159029)
巻号頁・発行日
vol.25, no.1, pp.76-86, 2014 (Released:2016-03-20)
参考文献数
43
被引用文献数
6

本研究では,地域在住高齢者の知能と抑うつの経時的な相互関係について,交差遅延効果モデルを用いて検討することを目的とした。分析対象者は「国立長寿医療研究センター・老化に関する長期縦断疫学研究(NILS-LSA)」の第1次調査に参加した,65~79歳の地域在住高齢者725名(平均年齢71.19歳;男性390名,女性335名)であった。第1次調査及び,その後,約2年間隔で4年間にわたって行われた,第2次調査,第3次調査において,知能をウェクスラー成人知能検査改訂版の簡易実施法(WAIS-R-SF),抑うつをCenter for Epidemiologic Studies Depression(CES-D)尺度を用いて評価した。知能と抑うつの双方向の因果関係を同時に組み込んだ交差遅延効果モデルを用いた共分散構造分析の結果,知能は2年後の抑うつに負の有意な影響を及ぼすことが示された。一方,抑うつから2年後の知能への影響は認められなかった。以上の結果から,地域在住高齢者における知能の水準は,約2年後の抑うつ状態に影響する可能性が示された。
著者
内田 育恵 杉浦 彩子 中島 務 安藤 富士子 下方 浩史
出版者
一般社団法人 日本老年医学会
雑誌
日本老年医学会雑誌 (ISSN:03009173)
巻号頁・発行日
vol.49, no.2, pp.222-227, 2012 (Released:2012-12-26)
参考文献数
21
被引用文献数
23

目的:我が国における高齢難聴者の現況を推計することを目的として,「国立長寿医療研究センター―老化に関する長期縦断疫学研究(NILS-LSA)」データを検討した.方法:NILS-LSA第6次調査(2008~2010年実施)より男性1,118名,女性1,076名の計2,194名を対象として,地域住民の粗率に近似すると考えられる5歳階級別難聴有病率を算出した(算定A).また,聴力に有害な作用をもたらす耳疾患と騒音職場就労を除外した算出も行った(算定B).総務省発表人口推計を用いて全国難聴有病者数を推計した.次に第1次調査(1997~2000年実施)時点で,除外項目と難聴定義に該当せず,かつ第6次調査にも参加した男性212名,女性253名の計465名を対象として,10年後の難聴発症率を解析した.結果:難聴有病率は65歳以上で急増していた.算定Aでは,男性の65~69歳,70~74歳,75~79歳,80歳以上の年齢群順に43.7%,51.1%,71.4%,84.3%で,女性では27.7%,41.8%,67.3%,73.3%といずれも高い有病率を示した.算定Bでは,同様の年齢群順に男性で37.9%,51.4%,64.3%,86.8%で,女性では26.5%,35.6%,61.4%,72.6%であった.全国の65歳以上の高齢難聴者の数は,算定Aでは1,655万3千人,算定Bでも1,569万9千人に上った.10年後の難聴発症率は,調査開始時年齢60~64歳群では32.5%,70~74歳群では62.5%と,年齢上昇に伴い高くなったが,依然聴力を良好に維持する高齢者が存在した.結論:高齢者の難聴有病率は高く,全国難聴有病者数推計から,加齢性難聴が日本の国民的課題であることが再確認された.また年を経ても聴力を良好に維持することが可能であると示唆された.
著者
西田 裕紀子 丹下 智香子 富田 真紀子 安藤 富士子 下方 浩史
出版者
一般社団法人 日本発達心理学会
雑誌
発達心理学研究 (ISSN:09159029)
巻号頁・発行日
vol.23, no.3, pp.276-286, 2012-09-20 (Released:2017-07-28)

本研究では,中高年者の開放性がその後 6 年間の知能の経時変化に及ぼす影響を明らかにすることを目的とした。分析対象者は,「国立長寿医療研究センター・老化に関する長期縦断疫学研究(NILS-LSA)」の第2次調査及び6年後の第5次調査に参加した,地域在住の中年者及び高齢者1591名であり,開放性はNEO Five Factor Inventory,知能はウェクスラー成人知能検査改訂版の簡易実施法(知識,類似,絵画完成,符号)を用いて評価した。反復測定分散分析の結果,開放性が知能の経時変化に及ぼす影響は,知能の側面や年代によって異なることが示された。まず,「知識」得点の経時変化には,高齢者においてのみ開放性の高低が影響しており,開放性が高い高齢者はその後6年間「知識」得点を維持していたが,開放性が低い高齢者ではその得点が低下することが示された。一方,「類似」,「絵画完成」,「符号」では,開放性が高い中高年者は低い中高年者よりも得点が高いことが示されたが,開放性の高低による経時変化への影響は認められなかった。以上より,中高年者の開放性は知能やその経時変化の個人差の要因となること,特に高齢者にとって,開放性の高さは一般的な事実に関する知識量を高く維持するために役立つ可能性が示唆された。
著者
西田 裕紀子 丹下 智香子 富田 真紀子 安藤 富士子 下方 浩史
出版者
日本老年社会科学会
雑誌
老年社会科学 (ISSN:03882446)
巻号頁・発行日
vol.34, no.3, pp.370-381, 2012-10-20 (Released:2020-01-30)
参考文献数
51

本研究では,高齢者の抑うつがその後8年間の知能低下に及ぼす影響を明らかにすることを目的とした.分析対象は,「国立長寿医療研究センター・老化に関する長期縦断疫学研究(NILS-LSA)」の第1次調査(ベースライン)に参加した65〜79歳の地域在住高齢者805用いて評価した.また,知能の変化は,ベースラインおよび2年間隔で行われた4回の追跡調査において,ウェクスラー成人知能検査改訂版の簡易実施法(知識,類似,絵画完成,符号)により測定した.線形混合モデルを用いた分析の結果,抑うつの有無は,「知識」「類似」「符号」の経年変化に影響を及ぼすことが示された.一方,抑うつから「絵画完成」の経年変化への影響は認められなかった.以上の結果から,高齢者の抑うつは,その後8年間の一般的な事実に関する知識の量,論理的抽象的思考力,および情報処理速度の低下を引き起こす可能性が示された.
著者
内科系学会の男女共同参画に関する連絡協議会 橋本 悦子 瀧原 圭子 鈴木 眞理 成瀬 桂子 内田 啓子 金子 猛 三谷 絹子 村田 美穂 相良 博典 駒瀬 裕子 名越 澄子 村島 温子 吉田 正樹 安藤 富士子 梶波 康二 西川 典子 檜山 桂子 別役 智子 正木 崇生 山内 高弘 白鳥 敬子
出版者
一般社団法人 日本内科学会
雑誌
日本内科学会雑誌 (ISSN:00215384)
巻号頁・発行日
vol.107, no.5, pp.894-899, 2018
被引用文献数
4

<p> 2012年度及び2016年度に行われた日本内科学会と内科系13学会における男女共同参画の実態調査結果を比較した.女性理事のいる学会が5学会から9学会に増加し,女性評議員数も全学会で増加,男女共同参画推進組織のある学会は10学会から13学会となった.評議員,委員会委員,司会・座長の女性の比率がいずれも会員比と同等の学会は2016年度で1学会のみであったのに対し,専門医の女性比率は13学会で会員比とほぼ同等であった.</p>
著者
杉浦 彩子 内田 育恵 中島 務 西田 裕紀子 丹下 智香子 安藤 富士子 下方 浩史
出版者
一般社団法人 日本老年医学会
雑誌
日本老年医学会雑誌 (ISSN:03009173)
巻号頁・発行日
vol.49, no.3, pp.325-329, 2012 (Released:2012-12-26)
参考文献数
17
被引用文献数
3 1

目的:耳垢は高齢者および知的障害者に頻度が高いことが知られており,湿性耳垢の頻度が高い欧米では高齢者の約3割に耳垢栓塞があるという報告もある.しかしながら乾性耳垢の多い日本においての報告はない.今回,本邦における一般地域住民における耳垢の頻度と認知機能,聴力との関連について検討した.方法:『国立長寿医療研究センター・老化に関する長期縦断疫学研究』第5次調査参加者中,60歳以上で,耳垢確認のための鼓膜ビデオ撮影検査を受け,かつ耳疾患の既往のない一般地域住民男女792人を対象とした.Mini-Mental State Examination(MMSE)と良聴耳の耳垢の有無,良聴耳の4周波数平均聴力との関連について一般線形モデルで検討した.結果:対象792人中良聴耳の耳垢を85人(10.7%)に認めた.MMSE 24点以上の群では良聴耳の耳垢が有るのは10.0%だけだったが,MMSE 23点以下の群では23.3%に耳垢を認めた.また良聴耳の平均聴力は年齢,性を調整しても耳垢有群では無群より有意に悪かった(p=0.0001).また,年齢,性,良聴耳平均聴力,教育歴を調整しても耳垢有の群では有意にMMSE得点が低かった(p=0.02).結論:本邦においても高齢者の1割に良聴耳の耳垢を認め,耳垢により聴力が低下している場合があることが示唆された.また耳垢を有する群では認知機能が悪いことが明らかとなった.
著者
富田 真紀子 西田 裕紀子 丹下 智香子 大塚 礼 安藤 富士子 下方 浩史
出版者
公益社団法人 日本心理学会
雑誌
心理学研究 (ISSN:00215236)
巻号頁・発行日
pp.89.17223, (Released:2018-11-15)
参考文献数
37
被引用文献数
4

A work-family balance scale was developed for middle-aged and elderly individuals. Employed people (N =1,351, 788 men and 563 women; age range, 40 to 85 years; mean age, M = 54.82, SD = 9.86 years) in the seventh study-wave of the National Institute for Longevity Sciences-Longitudinal Study of Aging participated in the study. We hypothesized a four-factor structure consisting of “work-to-family conflict,” “family-to-work conflict,” “work-to-family facilitation,” and “family-to-work facilitation.” An item pool based on previous studies was developed and administered to the participants, and confirmatory factor analysis was conducted on their responses. The results identified 16 items related to work-family balance with a four-factor structure, which supported the hypothesis (GFI = .924, RMSEA = .073). Multiple-group analysis of populations based on age group (middle-aged, elderly) and gender established the configural and measurement invariance of the scale. Moreover, reliability (α = .69―.85) and criterion-related validity were confirmed based on mental health. Furthermore, age (the 40s, 50s, 60s, over 70) and gender differences were partially identified in the four subscales that were developed.
著者
下方 浩史 安藤 富士子
出版者
一般社団法人日本体力医学会
雑誌
体力科学 (ISSN:0039906X)
巻号頁・発行日
vol.66, no.2, pp.133-142, 2017-04-01 (Released:2017-03-19)
参考文献数
24
被引用文献数
3

The state in which physical and mental functions are deteriorated with aging is called frailty, and decrease in muscle mass and muscle strength with aging accompanying deterioration of physical function is called sarcopenia. Frailty and sarcopenia are found in older adults, which is a major obstacle to achieve healthy longevity. Estimation of prevalence and number of patients, as well as elucidation of risk factors in frailty and sarcopenia are important for the prevention of frailty and sarcopenia. The prevalence of frailty determined by criteria based on the method of Fried et al. was 5.2% for men and 20.9% for women in a cohort of randomly selected community-living population, and the estimated number of people with frailty was about 0.77 million men and 2,22 million women among the population aged 65 years and over in Japan. The prevalence of sarcopenia by the Asian Working Group for Sarcopenia (AWGS) criteria was 9.6% for men and 7.7% for women. The number of people aged 65 years and over with sarcopenia in Japan was estimated to be 1.64 million for men and 1.39 million for women. The onset of frailty was related to physique, physical function, cognitive function, depression, and various chronic diseases. Depression and lack of exercise were significant risk factors of sarcopenia. Physical activity, nutrition and control of chronic diseases are required for the prevention of frailty and sarcopenia, and the prevention will be an important issue for health and longevity in Japan.
著者
下方 浩史 安藤 富士子
出版者
The Japan Geriatrics Society
雑誌
日本老年医学会雑誌 (ISSN:03009173)
巻号頁・発行日
vol.49, no.2, pp.195-198, 2012-03-25
参考文献数
5
被引用文献数
14

サルコペニアは高齢者の日常生活機能を低下させ,健康長寿の障害となる.われわれは無作為抽出された地域在住中高年者コホートのデータを使用して,日常生活機能と筋力,筋量との関連について検討した.男女ともに40歳以降,握力,下肢筋力は年間約1パーセントずつ低下していた.どの年代でも男性は女性よりも筋力が強く,80代の男性の筋力は40代の女性の筋力にほぼ等しかった.筋力の低下は女性の日常生活機能により大きな影響を与える可能性がある.一方,四肢の筋量は男性では加齢とともに低下するが,女性では加齢による低下はほとんどなかった.このことは女性では筋肉の量的な変化よりも,質的な変化が問題になっていることを示している.日常生活機能は筋肉のパフォーマンスの影響を受け,握力と歩行速度で推定することが可能であった.高齢者の脆弱を予防するためには,これらの評価によりハイリスクの集団を見つけることが重要であろう.<br>
著者
西田 裕紀子 丹下 智香子 富田 真紀子 安藤 富士子 下方 浩史
出版者
一般社団法人 日本発達心理学会
雑誌
発達心理学研究 (ISSN:09159029)
巻号頁・発行日
vol.25, no.1, pp.76-86, 2014

本研究では,地域在住高齢者の知能と抑うつの経時的な相互関係について,交差遅延効果モデルを用いて検討することを目的とした。分析対象者は「国立長寿医療研究センター・老化に関する長期縦断疫学研究(NILS-LSA)」の第1次調査に参加した,65~79歳の地域在住高齢者725名(平均年齢71.19歳;男性390名,女性335名)であった。第1次調査及び,その後,約2年間隔で4年間にわたって行われた,第2次調査,第3次調査において,知能をウェクスラー成人知能検査改訂版の簡易実施法(WAIS-R-SF),抑うつをCenter for Epidemiologic Studies Depression(CES-D)尺度を用いて評価した。知能と抑うつの双方向の因果関係を同時に組み込んだ交差遅延効果モデルを用いた共分散構造分析の結果,知能は2年後の抑うつに負の有意な影響を及ぼすことが示された。一方,抑うつから2年後の知能への影響は認められなかった。以上の結果から,地域在住高齢者における知能の水準は,約2年後の抑うつ状態に影響する可能性が示された。
著者
西田 裕紀子 丹下 智香子 富田 真紀子 安藤 富士子 下方 浩史
出版者
一般社団法人 日本発達心理学会
雑誌
発達心理学研究 (ISSN:09159029)
巻号頁・発行日
vol.23, no.3, pp.276-286, 2012

本研究では,中高年者の開放性がその後 6 年間の知能の経時変化に及ぼす影響を明らかにすることを目的とした。分析対象者は,「国立長寿医療研究センター・老化に関する長期縦断疫学研究(NILS-LSA)」の第2次調査及び6年後の第5次調査に参加した,地域在住の中年者及び高齢者1591名であり,開放性はNEO Five Factor Inventory,知能はウェクスラー成人知能検査改訂版の簡易実施法(知識,類似,絵画完成,符号)を用いて評価した。反復測定分散分析の結果,開放性が知能の経時変化に及ぼす影響は,知能の側面や年代によって異なることが示された。まず,「知識」得点の経時変化には,高齢者においてのみ開放性の高低が影響しており,開放性が高い高齢者はその後6年間「知識」得点を維持していたが,開放性が低い高齢者ではその得点が低下することが示された。一方,「類似」,「絵画完成」,「符号」では,開放性が高い中高年者は低い中高年者よりも得点が高いことが示されたが,開放性の高低による経時変化への影響は認められなかった。以上より,中高年者の開放性は知能やその経時変化の個人差の要因となること,特に高齢者にとって,開放性の高さは一般的な事実に関する知識量を高く維持するために役立つ可能性が示唆された。