著者
宮原 ひろ子
出版者
公益社団法人 東京地学協会
雑誌
地学雑誌 (ISSN:0022135X)
巻号頁・発行日
vol.119, no.3, pp.510-518, 2010-06-25 (Released:2010-08-30)
参考文献数
20
被引用文献数
4 3

The relationship between solar activity and climate change in the past can be examined using proxy records. Variations of solar activity can be reconstructed based on carbon-14 in tree rings, which are produced by galactic cosmic rays modulated by the solar wind, while climate change can be reconstructed from changes of tree-ring growth rate or content of stable isotopes in ice cores from the polar region. A comparison of solar activity and climate change at the Maunder Minimum in the 17th century and the Early Medieval Maximum Period in the 9-10th century suggests that the sun plays an important role in climate change even on a decadal time scale. The characteristic variations detected in climate change suggest the mechanism of solar influence on climate involves galactic cosmic rays. Variable features of eleven-year and twenty-two year cycles of solar activity and consequent variations of cosmic rays are possible origins of complex variations of climate change on decadal to multi-decadal time scales. We summarize variations of solar activity and cosmic rays during the past 1200 years and their possible influence on climate change.
著者
宮原 ひろ子
出版者
一般社団法人 日本物理学会
雑誌
日本物理学会誌 (ISSN:00290181)
巻号頁・発行日
vol.70, no.5, pp.340-346, 2015-05-05 (Released:2019-08-21)

2008年12月,太陽活動が約200年ぶりとも言われた太陽活動の低下を見せた.通常11年の周期で増減する太陽活動のリズムが乱れ,太陽表面での磁場活動や太陽総放射量が観測史上最低のレベルに達した.2009年1月に開始した第24太陽活動周期は2013年に極大を迎えたが,太陽表面の磁場活動の指標となる太陽黒点の数は,2001年の極大期の半分程度に低下した.太陽活動は今後どうなるのだろうか.17世紀の半ばから70年間にわたって発生した太陽活動の異常低下(マウンダー極小期)は再来するのだろうか.人工衛星による太陽観測と,樹木や氷床コアなどを使った長期的な太陽活動変動の復元の両面から研究が進められている.また,もしマウンダー極小期が再来するとすれば地球環境にどのような影響が出るのかも,社会にとって重要な問題である.こちらについては,気象観測と古気候学的な手法による研究から検証が進められている.太陽活動が地球に影響する経路はいくつか考えられる.日射量変動の影響,太陽紫外線の成層圏への影響,太陽宇宙線の中間圏への影響,そして銀河宇宙線の影響である.銀河宇宙線が気候に影響するプロセスは未解明な点が多いが,大気成分のイオン化を通じて雲活動に作用していると考えられている.1997年に銀河宇宙線と低層雲の被覆率に相関が見られるという驚くべき発表がなされて以来,その相関の検証や,チャンバー実験による物理プロセスの研究が進められている.地球に飛来する銀河宇宙線のフラックスは,宇宙線をシールドする太陽圏磁場や地磁気の強度などによって決まる.太陽圏とは,太陽表面から吹き出すプラズマと磁場の風(太陽風)が到達する領域のことである.太陽風は,太陽から約80天文単位(AU)のところで星間物質との相互作用により亜音速に減速し,最終的には太陽から120AUあたりにまで達していると考えられている.また,太陽圏の周辺の宇宙環境が変わっても,地球に飛来する宇宙線量は変化する.銀河宇宙線量の変動は本当に気候変動に影響するのだろうか.それについて1つの手がかりを与えているのは上述のマウンダー極小期である.太陽黒点が70年間にわたって消失している間,太陽圏環境が変化し,宇宙線フラックスが特異なパターンで変動していたことが明らかになったのである.その頃,地球は小氷期と呼ばれる寒冷化を経験しているが,実はその間,地球の気候は特徴的なパターンで変動を続けた.最近の研究で,その変動パターンが宇宙線の変動によって説明可能であることが示された.太陽圏を満たす磁場の大規模構造の変動によって宇宙線の変動パターンが決まり,そしてそれが気候変動を駆動する一要因になっている可能性が高いことが示されたのである.そのほか,地球史上のイベントと宇宙環境の変動に,強い相関関係があることも明らかになりつつある.地磁気強度と気候にも相関関係が見つかっている.宇宙線が雲活動に影響するプロセスは研究途上であるが,宇宙線は地球の変動に重大な役割を果たしている可能性が高い.地球は,大気,海洋,生物圏などのサブシステムから成る多圏複合システムで,それ自身複雑な内部振動を持つが,その気候システムを,太陽圏システムというさらに大きなくくりでとらえ直す必要性があることを示唆している.さらに言えば,太陽圏周辺の磁場環境あるいは放射線環境を含めた銀河系システムというさらに大きな視点での議論が必要であることも意味している.地球,太陽,太陽圏,宇宙線の物理を有機的に結び付け,地球史上の様々な未解明の変動を宇宙という視点でとらえ直すことで,その原因を究明することを目指しているのが「宇宙気候学」である.
著者
宮原 ひろ子
出版者
一般社団法人日本物理学会
雑誌
日本物理學會誌 (ISSN:00290181)
巻号頁・発行日
vol.70, no.5, pp.340-346, 2015-05-05

2008年12月,太陽活動が約200年ぶりとも言われた太陽活動の低下を見せた.通常11年の周期で増減する太陽活動のリズムが乱れ,太陽表面での磁場活動や太陽総放射量が観測史上最低のレベルに達した.2009年1月に開始した第24太陽活動周期は2013年に極大を迎えたが,太陽表面の磁場活動の指標となる太陽黒点の数は,2001年の極大期の半分程度に低下した.太陽活動は今後どうなるのだろうか.17世紀の半ばから70年間にわたって発生した太陽活動の異常低下(マウンダー極小期)は再来するのだろうか.人工衛星による太陽観測と,樹木や氷床コアなどを使った長期的な太陽活動変動の復元の両面から研究が進められている.また,もしマウンダー極小期が再来するとすれば地球環境にどのような影響が出るのかも,社会にとって重要な問題である.こちらについては,気象観測と古気候学的な手法による研究から検証が進められている.太陽活動が地球に影響する経路はいくつか考えられる.日射量変動の影響,太陽紫外線の成層圏への影響,太陽宇宙線の中間圏への影響,そして銀河宇宙線の影響である.銀河宇宙線が気候に影響するプロセスは未解明な点が多いが,大気成分のイオン化を通じて雲活動に作用していると考えられている.1997年に銀河宇宙線と低層雲の被覆率に相関が見られるという驚くべき発表がなされて以来,その相関の検証や,チャンバー実験による物理プロセスの研究が進められている.地球に飛来する銀河宇宙線のフラックスは,宇宙線をシールドする太陽圏磁場や地磁気の強度などによって決まる.太陽圏とは,太陽表面から吹き出すプラズマと磁場の風(太陽風)が到達する領域のことである.太陽風は,太陽から約80天文単位(AU)のところで星間物質との相互作用により亜音速に減速し,最終的には太陽から120AUあたりにまで達していると考えられている.また,太陽圏の周辺の宇宙環境が変わっても,地球に飛来する宇宙線量は変化する.銀河宇宙線量の変動は本当に気候変動に影響するのだろうか.それについて1つの手がかりを与えているのは上述のマウンダー極小期である.太陽黒点が70年間にわたって消失している間,太陽圏環境が変化し,宇宙線フラックスが特異なパターンで変動していたことが明らかになったのである.その頃,地球は小氷期と呼ばれる寒冷化を経験しているが,実はその間,地球の気候は特徴的なパターンで変動を続けた.最近の研究で,その変動パターンが宇宙線の変動によって説明可能であることが示された.太陽圏を満たす磁場の大規模構造の変動によって宇宙線の変動パターンが決まり,そしてそれが気候変動を駆動する一要因になっている可能性が高いことが示されたのである.そのほか,地球史上のイベントと宇宙環境の変動に,強い相関関係があることも明らかになりつつある.地磁気強度と気候にも相関関係が見つかっている.宇宙線が雲活動に影響するプロセスは研究途上であるが,宇宙線は地球の変動に重大な役割を果たしている可能性が高い.地球は,大気,海洋,生物圏などのサブシステムから成る多圏複合システムで,それ自身複雑な内部振動を持つが,その気候システムを,太陽圏システムというさらに大きなくくりでとらえ直す必要性があることを示唆している.さらに言えば,太陽圏周辺の磁場環境あるいは放射線環境を含めた銀河系システムというさらに大きな視点での議論が必要であることも意味している.地球,太陽,太陽圏,宇宙線の物理を有機的に結び付け,地球史上の様々な未解明の変動を宇宙という視点でとらえ直すことで,その原因を究明することを目指しているのが「宇宙気候学」である.
著者
三宅 芙沙 堀内 一穂 宮原 ひろ子 早川 尚志 笹 公和 箱崎 真隆 前原 裕之 栗田 直幸 木村 勝彦 門叶 冬樹
出版者
名古屋大学
雑誌
基盤研究(S)
巻号頁・発行日
2020-08-31

樹木年輪の14Cや氷床コアの10Be、36Clといった宇宙線生成核種は、観測史上最大とされる1956年のSEP(Solar Energetic Particle)イベントの数十倍という過去の超巨大SEPイベントの優れた代替データである。本研究は、年輪の14Cと氷床コアの10Be、36Cl分析から、完新世(過去1万2千年間)における最大のSEPイベントの同定と、超巨大SEPイベントの発生頻度及びその発生特性の解明を目的とする。我々の太陽における発生特性を、太陽型恒星の恒星フレアと比較することで、太陽型恒星における太陽の普遍性と特殊性を評価する。
著者
宮原 ひろ子
出版者
公益社団法人 東京地学協会
雑誌
地學雜誌 (ISSN:0022135X)
巻号頁・発行日
vol.119, no.3, pp.510-518, 2010-06-25
参考文献数
20
被引用文献数
1 3

&emsp;The relationship between solar activity and climate change in the past can be examined using proxy records. Variations of solar activity can be reconstructed based on carbon-14 in tree rings, which are produced by galactic cosmic rays modulated by the solar wind, while climate change can be reconstructed from changes of tree-ring growth rate or content of stable isotopes in ice cores from the polar region. A comparison of solar activity and climate change at the Maunder Minimum in the 17<sup>th</sup> century and the Early Medieval Maximum Period in the 9-10<sup>th</sup> century suggests that the sun plays an important role in climate change even on a decadal time scale. The characteristic variations detected in climate change suggest the mechanism of solar influence on climate involves galactic cosmic rays. Variable features of eleven-year and twenty-two year cycles of solar activity and consequent variations of cosmic rays are possible origins of complex variations of climate change on decadal to multi-decadal time scales. We summarize variations of solar activity and cosmic rays during the past 1200 years and their possible influence on climate change.
著者
植村 恒仁 Uemura Tsunehito 宮原 ひろ子 Miyahara Hiroko 村木 綏 Muraki Yasushi 増田 公明 Masuda Kimiaki
出版者
名古屋大学年代測定資料研究センター
雑誌
名古屋大学加速器質量分析計業績報告書
巻号頁・発行日
vol.13, pp.110-117, 2002-03

It is known that the periods when solar activity was extremely weak (so-called grand minima) existed several times in the last 1000 years. It is reported by Kocharov et al. that the solar activity periodicity during the Maunder minimum was not the 11 year variation but the 22 year variation. What does the cycle of 22 years mean? Does the periodicity of 22 years exist also in the minima other than the Maunder minimum? We have investigated the solar activity of the Sporer minimum, which preceded the Maunder minimum, in order to understand the periodicity of solar activity during the minima. Both the liquid scintillation method and the accelerator mass spectrometry method (AMS method) were used for measuring the ^<14>C concentration in annual tree rings.
著者
宮原 ひろ子 Miyahara Hiroko 毛受 弘彰 Menjo Hiroaki 桑名 宏輔 Kuwana Kousuke 増田 公明 Masuda Kimiaki 村木 綏 Muraki Yasushi 中村 俊夫 Nakamura Toshio
出版者
名古屋大学年代測定資料研究センター
雑誌
名古屋大学加速器質量分析計業績報告書
巻号頁・発行日
vol.16, pp.57-64, 2005-03

This paper presents the variation of solar activity during the Maunder Minimum (1645-1715 AD) deducted from radiocarbon content in tree-rings. Radiocarbon is produced by the galactic cosmic rays, which are modulated by the solar wind and the interplanetary magnetic field in the heliosphere. The production rate of radiocarbon, therefore, reflects the state of solar magnetic activity. Most distinct index of solar magnetic activity it the group sunspot number. The variations of sunspot number have shown clear cyclicity since the 18^<th> century with average length being about eleven years. The sunspots, however, have once almost disappeared during the period of 1645-1715 AD due to extraordinary weakening of solar activity. This period has been called as the Maunder Minimum. There is no remarkable cyclicity in the sunspot variations. We, therefore, investigated the cyclicity of radiocarbon content in tree rings from the Maunder Minimum in order to clarify the characteristics of solar activity during this period. We compared two radiocarbon records obtained newly by our group and by Stuiver et al. The results of frequency analyses have shown that solar magnetic reversals had maintained through the Maunder Minimum and that the length of the "eleven-year" cycle was stretched to 13-15 years.
著者
宮原 ひろ子 門叶 冬樹 堀内 一穂 横山 祐典
出版者
東京大学
雑誌
挑戦的萌芽研究
巻号頁・発行日
2011

マウンダー極小期(西暦1645-1715年の黒点消失期)において発生していた約28年に一度の宇宙線の1年スケールの異常増加の正確な年代を決定するため、山形大学高感度加速器質量分析センターに導入された加速器質量分析計を用いて、樹木年輪中の炭素14の測定精度を向上させるための基礎実験を行った。多重測定によって加速器質量分析計の安定性の検証と測定精度向上のためのメソッド開発を行い、従来の1/4以下の測定誤差を達成することに成功した。

1 0 0 0 OA 研究ニュース

著者
藤森 淳 酒井 広文 宮原 ひろ子 横山 祐典 小林 修 青木 秀夫
出版者
東京大学大学院理学系研究科・理学部
雑誌
東京大学理学系研究科・理学部ニュース
巻号頁・発行日
vol.40, no.3, pp.10-14, 2008-09

半導体スピントロニクス材料の複雑な磁性/気体分子の向きを揃える新手法を開発/樹齢2000年の屋久杉を使って太陽活動の歴史を探る/樹齢2000年の屋久杉を使って太陽活動の歴史を探る/水中での有機合成における革新的技術を開発/鉄系新高温超伝導体の理論を提唱
著者
植村 恒仁 Uemura Tsunehito 宮原 ひろ子 Miyahara Hiroko 村木 綏 Muraki Yasushi 増田 公明 Masuda Kimiaki
出版者
名古屋大学年代測定資料研究センター
雑誌
名古屋大学加速器質量分析計業績報告書
巻号頁・発行日
vol.13, pp.110-117, 2002-03 (Released:2010-06-01)

It is known that the periods when solar activity was extremely weak (so-called grand minima) existed several times in the last 1000 years. It is reported by Kocharov et al. that the solar activity periodicity during the Maunder minimum was not the 11 year variation but the 22 year variation. What does the cycle of 22 years mean? Does the periodicity of 22 years exist also in the minima other than the Maunder minimum? We have investigated the solar activity of the Sporer minimum, which preceded the Maunder minimum, in order to understand the periodicity of solar activity during the minima. Both the liquid scintillation method and the accelerator mass spectrometry method (AMS method) were used for measuring the ^<14>C concentration in annual tree rings.
著者
松崎 浩之 笹 公和 堀内 一穂 横山 祐典 柴田 康行 村松 康行 本山 秀明 川村 堅二 瀬川 高弘 宮原 ひろ子 戸崎 裕貴
出版者
東京大学
雑誌
基盤研究(A)
巻号頁・発行日
2010

南極ドームふじアイスコア中の過去72万年にわたる宇宙線生成核種記録を加速器質量分析で分析した。特徴的な宇宙線イベント(ラシャンプ、ブレーク、アイスランドベイズン)を詳細に解析したところ、宇宙線生成核種(特にベリリウム10)の記録が、グn一バルなイベントの記録となっていることが証明された。これにより、古環境研究における、より信頼性の高い年代指標を確立する道が拓けた。