著者
田崎 冬記 宮木 雅美 戸田 秀之 三宅 悠介
出版者
日本緑化工学会
雑誌
日本緑化工学会誌 (ISSN:09167439)
巻号頁・発行日
vol.39, no.4, pp.503-511, 2013 (Released:2015-02-13)
参考文献数
26
被引用文献数
1

知床岬台地草原では,エゾシカ個体数の増加によってササ類の減少,樹皮剥ぎによる特定樹種の激減,実生・稚樹の採食による更新阻害,海岸性の植生群落とそれに含まれる希少植物の減少および土壌侵食等が問題となっている。このような背景からエゾシカの密度操作実験が行われ,同効果の把握や人為介入の開始・終了等の目安となる植生指標の開発が求められている。本調査では,防鹿柵内外のイネ科草本,アメリカオニアザミおよびハンゴンソウ,台地草原全体のイネ科草本およびクマイザサ,台地草原に隣接する森林の木本葉量の調査を行い,植生指標の適用性について検討した。その結果,イネ科草本はエゾシカ密度操作開始後から増加傾向を示し,逆にアメリカオニアザミはエゾシカの影響を排除した場合,直ちに減少した。これらは短期的な植生指標となり得ると考えられた。また,クマイザサは被度・稈高で密度操作実験開始後の変化が異なることから,被度は短期的,稈高は中長期的な植生指標となり得ると考えた。一方,台地草原に隣接する森林葉量は密度操作開始後,その増加量は高さによって異なったため,高さによって異なる時期の植生指標になり得ると考えた。
著者
常田 邦彦 鳥居 敏男 宮木 雅美 岡田 秀明 小平 真佐夫 石川 幸男 佐藤 謙 梶 光一
出版者
日本生態学会
雑誌
保全生態学研究 = Japanese journal of conservation ecology (ISSN:13424327)
巻号頁・発行日
vol.9, no.2, pp.193-202, 2004-12-25
参考文献数
28
被引用文献数
14 5

最近数10年間におけるシカ個体群の増加は,農林業被害の激化をもたらしただけではなく,シカの摂食による自然植生および生態系の大きな変化を各地で引き起こしている.自然環境の保全を重要な目的とする自然公園や自然環境保全地域では,この問題に対してどのような考え方に基づいて対応するかが大きな課題となっている.知床半島のエゾシカは一時絶滅状態になったが1970年代に再分布し,1980年代半ばから急増して,森林と草原の自然植生に大きな影響を与え続けている.知床半島のシカは冬季の気象条件と餌によって個体数が制限されているとはいえ,メスの生存率は高く,かつ自然増加率が高いために高密度で維特されている.メスも大量に死亡するような豪雪でも来ない限り激減することはない.そのため,自然に放置した場合には,植生への影響は軽減されないだろう.知床におけるエゾシカの爆発的増加が,自熱生態的過程か人為的な影響による要因かを区分することは,現状ではできない.管理計画策定にあたって重要なのは,半島全体の土地利用と自然保全の状況に応じて地域ごとの管理目標を明確にし,総合的な計画を策定することである.また,モニタリング項目として絶滅リスク評価につなげられるような「植物群落の分布調査」が不可欠である.知床国立公園内や周辺地域での生息地復元や強度な個体数管理などを実施する場合は,生態系管理としての実験として位置づけ,シカと植生の双方について長期のモニタリングを伴う順応的な手法を採用していく必要がある.
著者
助野 実樹郎 宮木 雅美
出版者
「野生生物と社会」学会
雑誌
野生生物保護 (ISSN:13418777)
巻号頁・発行日
vol.11, no.1, pp.43-66, 2007
参考文献数
36
被引用文献数
5

We surveyed the vascular flora on the Nakanoshima Islands in Toya Lake, Hokkaido, Japan, during the years 2002-2004. Here, the impacts of an excessive population of sika deer (<i>Cervus nippon</i> Temminck) have lasted for more than 20 years. The present survey found 150 plant species in 68 families on the islands (excluding the species recorded only in the areas impossible for the deer to enter), a decrease to 32.6% of the 460 species surveyed in 1977. The survival ratios of herbaceous, shrub and tree species were 18.8% (n = 67), 35.0% (n = 14), and 62.5% (n = 40), respectively. The survival ratios of herbaceous and shrub species were lower than for tree species. These results suggest that shrub and herbaceous species, which utilize the same space as deer, were more affected by the deer compared to the tree species. Numbers of alien plants did not change since the first survey, and the failure to increase was probably because of heavy foraging pressure. In recent years, deer have started foraging on unpalatable plants such as <i>Cephalotaxus harringtonia</i> var. <i>nana</i> and <i>Senecio cannabifolius</i>. The current findings suggest that the flora on the island change rapidly in response to pressure from browsing deer.
著者
稲富 佳洋 宇野 裕之 高嶋 八千代 鬼丸 和幸 宮木 雅美 梶 光一
出版者
日本生態学会
雑誌
保全生態学研究 (ISSN:13424327)
巻号頁・発行日
vol.17, no.2, pp.185-197, 2012-11-30
被引用文献数
1

北海道東部地域の阿寒国立公園においてメスジカ狩猟と個体数調整がエゾシカの生息密度に与えた影響を評価するために、1993年〜2009年に航空機調査を実施した。また、エゾシカの生息密度の変動に伴う林床植生の変化を明らかにするために、1995年〜2010年に囲い柵を用いたシカ排除区と対照区の林床に生育する植物の被度及び植物高を調査した。航空機調査の結果、生息密度は1993年の27.1±10.7頭/km^2から2009年の9.5±2.5頭/km^2へと減少した。1994年度のメスジカ狩猟の解禁後に生息密度が減少し始め、1998年度のメスジカ狩猟の規制緩和に伴って生息密度が急減し、1999年9月の個体数調整開始以降は、生息密度が低く維持されていることから、阿寒国立公園における生息密度の低下は、メスジカ狩猟の解禁と規制緩和並びに個体数調整による効果が大きいと考えた。林床植生調査の結果から、15種の嗜好性植物及び2種の不嗜好性植物について被度や植物高の変化を解析した。対照区では、嗜好性植物であるクマイザサやカラマツソウ属、エンレイソウ属の被度若しくは植物高が増加傾向を示し、不嗜好性植物であるハンゴンソウが消失した。阿寒湖周辺では、エゾシカの生息密度の低下によって、採食圧が低下したために林床植生が変化したことが示唆された。以上のことから、エゾシカを捕獲し、生息密度を低下させることは、高密度化によって衰退した林床植生を回復させるための有効な一手段であると考えた。
著者
梶 光一 高橋 裕史 吉田 剛司 宮木 雅美 鈴木 正嗣 齊藤 隆 松田 裕之 伊吾田 宏正 松浦 由紀子 上野 真由美 及川 真里亜 竹田 千尋 池田 敬 三ツ矢 綾子 竹下 和貴 吉澤 遼 石崎 真理 上原 裕世 東谷 宗光 今野 建志郎
出版者
東京農工大学
雑誌
基盤研究(A)
巻号頁・発行日
2009

洞爺湖中島のエゾシカ個体群は、2度の爆発的増加と崩壊を繰り返して、植生に不可逆的な変化をもたらせた。その後落葉に周年依存するようになり、2008-2012年の間、高い生息密度(45~59頭/km^2)を維持していた。落葉はかつての主要な餌であったササよりも栄養価は低いが、生命・体重の維持を可能とする代替餌として重要であり、栄養学的環境収容力の観点から高密度を維持することが可能な餌資源であることが明らかになった。