著者
池田 敬 児玉 大夢 松浦 友紀子 高橋 裕史 東谷 宗光 丸 智明 吉田 剛司 伊吾田 宏正
出版者
日本哺乳類学会
雑誌
哺乳類科学 (ISSN:0385437X)
巻号頁・発行日
vol.56, no.1, pp.47-52, 2016 (Released:2016-07-01)
参考文献数
18

ニホンジカ(Cervus nippon)を効率的に捕獲する際に,給餌に醤油を用いた場合の選択効果を実証することを目的として,採食試験を実施した.調査は北海道洞爺湖中島において,4地域9地点の給餌場所で2012年11月7日~17日に行った.醤油区と牧草区,醤油を散布した牧草区(醤油牧草区)の3種類の給餌区を設定し,期間中に3回~5回給餌し,自動撮影カメラを利用して各区に対するシカの選択頻度(1時間当たりの撮影頭数)を算出した.各給餌区の選択頻度は(1)調査期間を通しての各給餌回後および全体についてと,(2)各給餌後24時間以内の時系列データに再配列したデータセットでの2時間毎の頻度の二つの区分で別々に評価した.醤油区の場合,二つの区分の両方で選択頻度が低かった.給餌後の変化を見ると(1)の区分では,牧草区と醤油牧草区の選択頻度は1回目の給餌で少なく,回を重ねるごとに増加した.醤油牧草区の選択頻度は,5回目を除いて他の2区と比べて有意に高かった.一方,(2)の区分では,醤油区の選択頻度は他の2区よりも明らかに低く,醤油牧草区の選択頻度は全体的に牧草区よりも高かった.結果的に,醤油単体を給餌した場合はニホンジカに選択されにくいものの,醤油を散布した誘引餌は通常の餌よりもニホンジカに選択されやすいことが示された.
著者
赤羽 俊亮 日野 貴文 吉田 剛司
出版者
森林野生動物研究会
雑誌
森林野生動物研究会誌 (ISSN:09168265)
巻号頁・発行日
vol.41, pp.1-9, 2016-03-30 (Released:2019-09-21)
参考文献数
41

エゾシカが高密度に生息する洞爺湖中島と生息密度の低い洞爺湖湖畔地域で,エゾシカの高密度化がマルハナバチ類に及ぼす影響について考察するため,マルハナバチ類の個体数,種数および種構成を両地域で比較した.中島と湖畔の各3ヶ所でマルハナバチ類の捕獲および林床の開花植物の調査を実施した.中島よりも湖畔で採集個体数は有意に多かったが,種数には違いが見られなかった.nMDSを用いて群集構成を比較したところ,両調査地域間に差異があった.両地域の優占種であるエゾオオマルハナバチの個体数は中島の方が少なく,さらに他種の個体数は中島では非常に少なかった.また中島では林床植物の開花フェノロジーに中断が見られた.これらの結果から,エゾシカの高密度化がもたらす植生改変が,開花フェノロジーの断絶を介してマルハナバチの個体数を減少させ,種構成を変化させる可能性が示唆された.
著者
更科 美帆 吉田 剛司
出版者
一般社団法人 日本生態学会
雑誌
保全生態学研究 (ISSN:13424327)
巻号頁・発行日
vol.20, no.1, pp.15-26, 2015-05-30 (Released:2017-11-01)
参考文献数
67

本研究では、北海道において4種の国内外来カエルによる捕食被害の実態を明らかにすることを目的とし、近年カエル類の食性調査においても汎用性が期待される胃重要度指数割合を用い食性調査を実施した。その結果、アズマヒキガエル、ツチガエルは地表徘徊性生物、特にアリ類を大量に捕食しており、アズマヒキガエル、トウキョウダルマガエル、トノサマガエルはカエル類を捕食していることが明らかとなった。外来カエルの捕食による北海道独自の生態系ピラミッドへの影響や在来カエルとの競合または駆逐が懸念される。また3種の外来カエルが希少種を捕食していたことが判明した一方で、1種の外来カエルはセイヨウオオマルハナバチなどの他の外来種を捕食していることが判明した。北海道においてアズマヒキガエル、トノサマガエル、トウキョウダルマガエルの3種は分布拡大傾向にあるため、広範囲にわたる捕食影響が懸念される。特に近年、北海道では水稲が盛んであり、水田地域を生息域として利用するトウキョウダルマガエル、トノサマガエルの分布拡大は今後の地域の湿地生態系に大きな影響を与える可能性がある。
著者
戸田 光彦 吉田 剛司
出版者
日本爬虫両棲類学会
雑誌
爬虫両棲類学会報 (ISSN:13455826)
巻号頁・発行日
vol.2005, no.2, pp.139-149, 2005-09-30 (Released:2010-06-28)
参考文献数
32
被引用文献数
3
著者
梶 光一 吉田 剛司 久保 麦野 伊吾田 宏正 永田 純子 上野 真由美 山村 光司 竹下 和貴
出版者
東京農工大学
雑誌
挑戦的萌芽研究
巻号頁・発行日
2014-04-01

ニホンジカの島嶼化プロセスとメカニズムを解明するために、島に導入されたニホンジカの生態・形態・遺伝の年代的変化を調べた。餌資源化で体の小型化が生じ初産齢が上昇したが、間引きによって体重の増加と初産年齢の低下が生じた。餌の変化に対応して第一大臼歯の摩耗速度は初回の崩壊後に早まった。一方、臼歯列サイズは、減少から増加に転じた。有効個体群サイズおよび遺伝的多様性も一度減少したが、その後それぞれ安定および増加に転じた。以上は、餌資源制限下で形態・遺伝に対して正の自然選択が働いた可能性を示唆している。
著者
寺尾 愛也 日野 貴文 鈴木 正嗣 近藤 誠司 吉田 剛司
出版者
Association of Wildlife and Human Society
雑誌
野生生物と社会 (ISSN:24240877)
巻号頁・発行日
vol.3, no.2, pp.41-50, 2016 (Released:2017-06-17)
参考文献数
24

In Japan, the use of firearms to culling in areas surrounding the main road would be an effective option to control overabundant deer. This culling practice is linked to the laws and regulations regarding road and traffic; however, wildlife managers lack knowledge of these laws and regulations. We have identified Japanese regulations and conditions, and have focused on problems and prospects of the existing laws on sharpshooting, which was practiced at the National Route 453 in Shikotsu, Hokkaido, as a model case. Under these laws and regulations, strict safety control by blocking traffic and attending to public interests for culling is required in order to engage in culling around the road. However, the Road Law and Road Traffic Law do not specifically support road usage for culling intended for wildlife population control. Consequently, those laws require a viewpoint of wildlife management to solve conflicts that occur in and around the road.
著者
寺尾 愛也 日野 貴文 吉田 剛司
出版者
「野生生物と社会」学会
雑誌
野生生物と社会 (ISSN:24240877)
巻号頁・発行日
vol.2, no.1, pp.1-10, 2014-12-01 (Released:2017-06-16)
被引用文献数
2

The increasing number of deer-vehicle collisions (DVCs) has had a significant impact on public safety. Scientific countermeasures require the systematization of DVC data. In Japan, however, DVC countermeasures are still insufficient due to the lack of DVC data systematization. The objective of this study was to review the progressive approach used for DVC data systematization in Germany, North America (Canada and the USA.), Sweden, and the United Kingdom. Additionally, we describe the prospect of DVC data systematization in order to develop scientific countermeasures in Japan.
著者
更科 美帆 吉田 剛司
出版者
一般社団法人 日本生態学会
雑誌
保全生態学研究 (ISSN:13424327)
巻号頁・発行日
vol.20, no.1, pp.15-26, 2015

本研究では、北海道において4種の国内外来カエルによる捕食被害の実態を明らかにすることを目的とし、近年カエル類の食性調査においても汎用性が期待される胃重要度指数割合を用い食性調査を実施した。その結果、アズマヒキガエル、ツチガエルは地表徘徊性生物、特にアリ類を大量に捕食しており、アズマヒキガエル、トウキョウダルマガエル、トノサマガエルはカエル類を捕食していることが明らかとなった。外来カエルの捕食による北海道独自の生態系ピラミッドへの影響や在来カエルとの競合または駆逐が懸念される。また3種の外来カエルが希少種を捕食していたことが判明した一方で、1種の外来カエルはセイヨウオオマルハナバチなどの他の外来種を捕食していることが判明した。北海道においてアズマヒキガエル、トノサマガエル、トウキョウダルマガエルの3種は分布拡大傾向にあるため、広範囲にわたる捕食影響が懸念される。特に近年、北海道では水稲が盛んであり、水田地域を生息域として利用するトウキョウダルマガエル、トノサマガエルの分布拡大は今後の地域の湿地生態系に大きな影響を与える可能性がある。
著者
古賀 彩音 本間 由香里 伊吾田 宏正 吉田 剛司 赤坂 猛 金子 正美 松浦 友紀子
出版者
日本霊長類学会
雑誌
霊長類研究 Supplement
巻号頁・発行日
vol.29, 2013

&nbsp;北海道西部でも個体数が増加しているエゾシカ(<i>Cervus nippon yesoensis</i>)は,近年札幌都市部にも出没し,自動車事故や列車との衝突事故などその被害は年々拡大している.しかし,都市部に出没したエゾシカは銃器を用いた対策などが難しく,未だ管理の有効な手立ては見つかっていない.更に,都市部に生息するエゾシカの生態に関する先行研究も極めて少なく,対策を講じるための基礎情報が不足しているのが現状である.<br>&nbsp;本研究では,都市部に出没するエゾシカの季節移動パターンと生息地利用を把握する為,札幌市に隣接する北広島市及び江別市においてテレメトリー調査とライトセンサス調査を行った.テレメトリー調査は,2012年 1月~ 2013年 3月にかけて北広島市の国有林内で生体捕獲を実施し 4頭(雄 2頭,雌 2頭)を捕獲した.捕獲した雄には VHF発信機を,雌 1頭には VHF発信機及び GPS首輪を,もう 1頭の雌には VHF発信機及び GPS首輪と膣挿入型電波発信機を装着した.放獣後,VHF発信機は三角法を用いて週 2回の頻度で位置を特定した.GPS首輪は 3~ 6時間毎に測位するよう設定し,月1回の頻度で位置データの遠隔回収を行った.ライトセンサス調査は,2008年 5月~ 2012年 12月の期間で北広島市(23.4km)と江別市(26.5km)において実施した.<br>&nbsp;結果,テレメトリー調査では 4頭全てに季節移動がみられ,そのうちの 3頭が JR千歳線と国道 274号線を横断した.また 1頭の雌は昨年利用した越冬地には戻らず,夏に利用した道立野幌自然公園内で越冬し,その後約 7km離れた札幌市厚別区に一時的に移動した.また,ライトセンサス調査では,目撃個体数は両市で増加傾向が見られ特に農地での観察割合が最も高くなった.<br>&nbsp;以上から,捕獲個体が江別市や札幌市に移動している事と,両市でエゾシカの増加傾向が示唆された事から,今後も都市部でのエゾシカによる様々な軋轢の多発が懸念される為,市の垣根を越えた「広域管理」が必要とされる.
著者
小荒井 衛 吉田 剛司 長澤 良太 中埜 貴元 乙井 康成 日置 佳之 山下 亜紀郎 佐藤 浩 司馬 愛美子 中山 詩織 西 謙一
出版者
日本地図学会
雑誌
地図 (ISSN:00094897)
巻号頁・発行日
vol.50, no.3, pp.3_16-3_31, 2012 (Released:2015-11-07)
参考文献数
29

This study develops the way to produce landscape ecological map for estimation of biodiversity using the airborne laser survey (LiDAR survey) data. We produce the landscape ecological map consists of three dimensional vegetation structure and micro topography under the forest using LiDAR. Two study areas were selected. One is the Shiretoko Peninsula (Mt. Rausu and Shiretoko Corp), Hokkaido Island as World Natural Heritage Area of Japan. Another is the Chugoku Mountains (north foots of Mt. Dogo) which are many historical iron sand mining sites (Kanna-Nagashi) as Satoyama Region (secondary forest area).Basic legend of landscape-ecological map consists of ecotopes which are the combination of vegetation classification and landform classification. Vegetation classification is three dimensional vegetation structure classification using high density random points data, detailed DSM (Digital Surface Model) and detailed DEM (Digital Elevation Model) by LiDAR data. Landform classification is micro landform classification using detailed DEM by LiDAR data.Using LiDAR data in summer and autumn seasons, 0.5m grid DSM and DEM in summer and 1 or 2m grid DSM and DEM in autumn are obtained. Vegetation classification has been down using three dimensional vegetation structure detected by the difference between LiDAR data in two seasons. The legend of three dimensional vegetation structure maps consists of the combination of vegetation height, thickness of crown and difference in two seasons (deciduous dingle layer tree, deciduous multi layer tree and evergreen tree). Landform classification has been done by automatic landform classification method combined three categories, such as slope degree, texture (roughness) and convexity of autumn DEM. The results of overlay analysis between vegetation classification and landform classification are as follows: On Shiretoko Peninsula, three dimensional vegetation structures are dominated by site elevation compared with micro landform classification. On Chugoku Mountains, some early deciduous high think crown trees (a kind of nut) are located in historical mining sites (Kanna-Nagashi) with following micro landform categories such as gentle slope, concave and rough texture.Grid size of landscape ecological maps is 4m, because the grid size is corresponding on tree crown size. At first, we produced 1m grid vegetation maps and automated landform classification maps, and then we resampled 4m grid data from 1m grid data. These maps would be introduced as example of LiDAR application for ecological field.
著者
梶 光一 高橋 裕史 吉田 剛司 宮木 雅美 鈴木 正嗣 齊藤 隆 松田 裕之 伊吾田 宏正 松浦 由紀子 上野 真由美 及川 真里亜 竹田 千尋 池田 敬 三ツ矢 綾子 竹下 和貴 吉澤 遼 石崎 真理 上原 裕世 東谷 宗光 今野 建志郎
出版者
東京農工大学
雑誌
基盤研究(A)
巻号頁・発行日
2009

洞爺湖中島のエゾシカ個体群は、2度の爆発的増加と崩壊を繰り返して、植生に不可逆的な変化をもたらせた。その後落葉に周年依存するようになり、2008-2012年の間、高い生息密度(45~59頭/km^2)を維持していた。落葉はかつての主要な餌であったササよりも栄養価は低いが、生命・体重の維持を可能とする代替餌として重要であり、栄養学的環境収容力の観点から高密度を維持することが可能な餌資源であることが明らかになった。
著者
山本 さつき 鈴木 馨 松浦 友紀子 伊吾田 宏正 日野 貴文 高橋 裕史 東谷 宗光 池田 敬 吉田 剛司 鈴木 正嗣 梶 光一
出版者
日本哺乳類学会
雑誌
哺乳類科学 (ISSN:0385437X)
巻号頁・発行日
vol.53, no.2, pp.321-329, 2013 (Released:2014-01-31)
参考文献数
35

銃器捕殺の勢子による追い込み狙撃法(n=4),大型囲いワナ(銃)(n=6),出会いがしらに狙撃するストーキング(n=9),シャープシューティング(n=14),および麻酔薬を用いた不動化捕獲の移動式囲いワナのアルパインキャプチャー(n=14),大型囲いワナ(麻)(n=8),待ち伏せ狙撃するフリーレンジ(n=10)を用いてニホンジカ(Cervus nippon)を捕獲した.肉体的ストレスの指標として測定したクレアチンキナーゼは,追い込み狙撃法(2,057±1,178 IU/L)がシャープシューティング以外の全ての捕獲方法より,また交感神経興奮の影響を反映するアドレナリン,ノルアドレナリンは,追い込み狙撃法(アドレナリン:16.500±4.655 ng/ml,ノルアドレナリン:20.375±8.097 ng/ml)が他の全ての捕獲方法より有意に高かった(P<0.05).精神的ストレスの指標として測定したコルチゾルは,囲いワナ(アルパインキャプチャー:2.63±1.90 mg/dl),大型囲いワナ(銃:1.38±0.50 mg/dl)および大型囲いワナ(麻:3.10±1.79 mg/dl)が他の捕獲方法より高い傾向が見られたが,これらは全てGaspar-Lópezほか(2010)により報告されたアカシカ(Cervus elaphus)の正常変動範囲内(1.30~6.49 mg/dl)であった.以上の結果から,追い込み狙撃法は身体的負荷が大きいこと,囲いワナは他の方法に比較して著しいストレス反応を伴う捕獲方法ではないことが明らかになった.よって,大量捕獲が可能な囲いワナで生息密度を低下させることは,アニマルウェルフェアに配慮した適切な個体数管理の手法になりうると考えられた.