著者
二村 昌樹 山本 貴和子 齋藤 麻耶子 Jonathan Batchelor 中原 真希子 中原 剛士 古江 増隆 大矢 幸弘
出版者
一般社団法人 日本アレルギー学会
雑誌
アレルギー (ISSN:00214884)
巻号頁・発行日
vol.65, no.1, pp.66-72, 2016 (Released:2016-02-29)
参考文献数
12

【目的】アトピー性皮膚炎患者が抱えるステロイド外用薬を使用することへの不安を評価する質問票として,12の設問で構成されるTOPICOP(TOPIcal COrticosteroid Phobia)がフランスで開発されている.本研究ではTOPICOP日本語版を作成し,その実行可能性を調査した.【方法】原文から翻訳,逆翻訳の工程を経て日本語版を作成した.次にアトピー性皮膚炎患者(小児患者の場合は養育者)を対象にして,TOPICOP日本語版とともにその回答時間と内容についての無記名自記式アンケート調査を実施した.【結果】回答者は287人(平均年齢38±7歳,女性83%)で,TOPICOPスコアは平均41±18点であった.半数以上の回答者が,ステロイド外用薬が血液に入る,皮膚にダメージがある,健康に悪いと考え,特定部位に使用する不安,塗りすぎの不安,漠然とした不安を感じ,安心感が必要としていた.TOPICOPは全体の68%が5分未満で回答できており,87%が記入に困難は感じず,79%が内容を理解しやすいと回答していた.【結語】TOPICOP日本語版は短時間に回答できるステロイド不安評価指標で,日常診療や臨床研究に今後広く活用できると考えられた.
著者
山本 貴和子
出版者
日本小児アレルギー学会
雑誌
日本小児アレルギー学会誌 (ISSN:09142649)
巻号頁・発行日
vol.33, no.1, pp.20-25, 2019 (Released:2019-03-31)
参考文献数
24

アレルギーマーチは, いくつかのアレルギー疾患が原因 (抗原) と発現臓器 (疾患) を異にしながら経過していく現象と定義され, 1つのアレルギー疾患を契機にアトピー性皮膚炎 (AD), 食物アレルギー, アレルギー性鼻炎 (花粉症), 喘息といった一連のアレルギー疾患を次々と発症していくことが示された. 一般的に1歳までにまずはじめにアトピー性皮膚炎を発症し, 続いてその後の小児期に, 食物アレルギー, 気管支喘息, アレルギー性鼻炎などのアレルギー疾患を次々と発症する. 様々なコホート研究から, 乳児期早期のアトピー性皮膚炎によりその後の食物アレルギー, 喘息, アレルギー性鼻炎のリスクが高まると報告されている. 将来的なアレルギーマーチの予防のためには, アレルギーマーチの源流にあるADに対する適切な介入が重要であると考えられ, 早期積極的治療介入により, その後の食物アレルギー, 気管支喘息, アレルギー製鼻炎などのアレルギー疾患の発症を抑制することができるのではないかと期待されている.
著者
豊國 賢治 山本 貴和子 吉田 明生 宮地 裕美子 樺島 重憲 福家 辰樹 野村 伊知郎 大矢 幸弘
出版者
一般社団法人 日本アレルギー学会
雑誌
アレルギー (ISSN:00214884)
巻号頁・発行日
vol.70, no.10, pp.1383-1390, 2021 (Released:2021-12-14)
参考文献数
18

【背景・目的】アトピー性皮膚炎(AD)は低蛋白血症を伴う重症AD;severe protein-loss in atopic dermatitis(SPLAD)がしばしば問題となる.本研究では,SPLADの急性期治療と予後を明らかにする.【方法】国立成育医療研究センターアレルギーセンターで入院加療を行ったSPLAD患者61人を対象に,入院中と治療開始3年後までの経過について診療録情報を用いて後方視的に検討した.【結果】全例が入院中に外用剤治療にて寛解導入を行い低蛋白血症や電解質異常が改善した.全身性ステロイド薬・免疫抑制剤,生物学的製剤を含む全身療法を行った児は認めなかった.寛解維持のためにステロイド外用薬(TCS)の間欠塗布によるプロアクティブ療法を行い,3年後に95%がTCS使用頻度を週2日以下へ減量して寛解を維持した.入院時に1歳未満の乳児で,3年後に卵,牛乳,小麦いずれか1つ以上の食物を除去していた児は29%であった.【結語】アトピー性皮膚炎の最重症型であるSPLAD患者は急性期に外用剤治療を行うことで寛解導入可能であり,多くの患者が長期間ADの寛解維持が可能である.
著者
平井 聖子 山本 貴和子 樺島 重憲 福家 辰樹 庄司 健介 小澤 克典 左合 治彦 大矢 幸弘
出版者
一般社団法人 日本アレルギー学会
雑誌
アレルギー (ISSN:00214884)
巻号頁・発行日
vol.72, no.10, pp.1223-1229, 2023 (Released:2023-12-13)
参考文献数
25

【背景】抗菌薬アレルギー(Antimicrobial allergy:AA)の申告の多くは,真のアレルギーでないといわれている.近年,妊婦においても,AA評価は安全に実施できるという報告が増えている.【目的】AA疑いの妊婦に対する分娩前のAA評価の有用性について,検討することを目的とした.【方法】対象は,AAを申告しアレルギーセンターに紹介された妊婦とした.問診・皮膚テストを行い,分娩時に使用できる薬剤を選定した.【結果】合計25症例(のべ24妊婦)が対象となり,最多の被疑薬はセフェム系で13例(52.0%),次いでペニシリン系で9例(36.0%)であった.問診のみでAAを否定された妊婦は5例で,即時型10例,非即時型6例,不明4例であった.分娩時に抗菌薬が必要と判断された21名全員が当センターが定める第一選択薬(βラクタム系)を使用し,手術部位感染を認めなかった.抗菌薬使用によるアレルギー反応は,認めなかった.【結論】AAを申告した妊婦に対して,分娩前にAA評価を行い,分娩時に安全に第一選択抗菌薬を使用できた.
著者
濱口 冴香 山本 貴和子 佐藤 未織 大海 なつき 隈元 麻里子 小川 えりか 野村 伊知郎 山本 康仁
出版者
一般社団法人日本小児アレルギー学会
雑誌
日本小児アレルギー学会誌 (ISSN:09142649)
巻号頁・発行日
vol.37, no.2, pp.132-137, 2023-06-20 (Released:2023-06-20)
参考文献数
13

急性食物蛋白誘発胃腸炎(acute FPIES)の経口食物負荷試験(OFC)における,OFC施行時期,過去の症状の重症度や負荷量と,OFCでの誘発症状の重症度の関係については明らかでない.今回,生後1か月まで混合栄養で症状がなかったが,生後3か月時の普通ミルク再導入により軽症のacute FPIESを疑う症状を呈し,確定診断のために国際コンセンサスガイドラインに準拠した通常負荷量でOFCを施行したところ,意識障害やアシドーシスを伴う重症な症状を呈したacute FPIESの乳児例を経験したため報告する.乳児期,また最終エピソードからOFCまでの期間が短い場合は,ガイドラインに準拠した負荷量でも重症の誘発症状を生じる可能性があり,負荷量設定,緊急時対応の事前準備が,安全なOFC実施に重要である.Acute FPIESに対するOFCの方法はまだ標準化されておらず,今後のエビデンスの蓄積が必要である.
著者
堀向 健太 津村 由紀 山本 貴和子 正田 哲雄 二村 昌樹 野村 伊知郎 成田 雅美 大矢 幸弘
出版者
一般社団法人 日本アレルギー学会
雑誌
アレルギー (ISSN:00214884)
巻号頁・発行日
vol.60, no.11, pp.1543-1549, 2011-11-30 (Released:2017-02-10)
参考文献数
5

【背景と目的】重症アトピー性皮膚炎(Atopic dermatitis;AD)の治療を行っている最中,特にステロイド外用剤(以下ス剤)の連日塗布から間欠塗布へと移行する寛解導入期の終わりから寛解維持期の始めに相当する時期に,全身の皮疹や掻痒は改善しているにも関わらず,患者の掌蹠に汗疱様の水疱・丘疹が出現することがある.我々はこの病態を「AD寛解前汗疱様発疹」と称している.AD寛解前汗疱様発疹はス剤抵抗性の皮疹やアトピー性皮膚炎の再燃と誤解し治療が頓挫する危険性がある.そこで,発症率や患者の特徴について,後方視的に検討し,重症患者の治療上留意すべき現象として本邦初の症例集積研究として報告する.【対象と方法】2007年4月から2009年3月までに当科にADの治療目的に入院した89例を対象とし,発症年齢,AD治療開始後の発症病日,治療後の寛解までの日数,季節性,治療経過,AD重症度との関連,検査所見との関連を後方視的に調査した.【結果】AD寛解前汗疱様発疹は13例(14.6%)に発症しており,治療後の発症病日は16.7±10.4日(4〜32日),平均年齢は6.2±6.1歳(3カ月〜23歳)だった.入院時のSCORADは平均50.8±17.9(16〜91)であり,1歳未満を除いてSCORADを検討すると発症者が無発症者に比べ有意に高値であり,重症患者がより発症しやすいと考えられた.ス剤の局所的な強化により全例が軽快したが,治療後の軽快まで18.5±12.0日(4〜50日)を要し,概して難治であった.なお,汗疱は一般に夏に悪化するといわれているが,季節性は認められなかった.【結論】AD寛解前汗疱様発疹の病態に関しては不明な点が多く,皮疹が改善してきている時期に発症するために,患者が不安に感じる.標準治療の普及の障害になりうるため,その周知と検討が必要と考えられた.