著者
崎山 治男
出版者
日本社会学会
雑誌
社会学評論 (ISSN:00215414)
巻号頁・発行日
vol.61, no.4, pp.440-454, 2011

本稿は,心理主義化の批判のあり方と,感情労働と心理主義化との関連を示すことをめざすものである.<br>従来の心理主義化批判は,基本的には「あるべき」感情を措定しそこからの疎外を心理学的な知がもたらすと批判するものであった.だがそれは論理的な困難をもつばかりではなく,人々が感情労働といった場で進んで心理学的な知を求めたりする現実をあらわすことはできない.<br>感情労働が進んで求められるのは,実は常にそれが多様な自己感情の感受に開かれていることと,感情の互酬性に起因した,感情のやりとりの中での肯定的な感情の感受がありえることに起因する.そして,肯定的な感情の感受を支えるために,EQに代表されるような心理主義的な知が動員されていく.<br>そこに潜む心理主義の現代的陥穽が,多様な感情経験を肯定的なそれへと縮減してしまう現象なのである.
著者
景井 充 大谷 いづみ 中井 美樹 天田 城介 崎山 治男 出口 剛司 中里 裕美
出版者
立命館大学
雑誌
基盤研究(B)
巻号頁・発行日
2008

長きにわたって日本社会の基盤であり続けてきた、日本独特の<社会的なるもの>が、1990年代後半に始まった新自由主義的な社会変革によって、急速に喪われつつある。このことを、社会階層やライフスタイルの変化、「心理主義」の広範な浸透、ケアの個人化、生命倫理に関わる言説の変化に着目して、理論的および実証的に明らかにした。また、そうした状況を踏まえて、今後新たな社会的連帯を再構築するための基本的方向性を検討した。
著者
崎山 治男
出版者
特定非営利活動法人 組織学会
雑誌
組織科学 (ISSN:02869713)
巻号頁・発行日
vol.41, no.4, pp.39-47, 2008-06-20 (Released:2022-08-19)
参考文献数
26

本稿は,組織と感情との関連で問われてきた,感情労働と自己への否定的効果という疎外論モデルの再検討を通して,感情労働へと人々が動員される機制を分析するものである.まず,感情労働は三者関係で捉えられるべきものであり,クライエントも「感情労働者」として振る舞わざるをえないこと,ならびに,組織が感情を要求しつつ/拒絶するということが,感情労働を職務の魅力と感受させる機制を持つことが示される.
著者
崎山 治男
出版者
関東社会学会
雑誌
年報社会学論集 (ISSN:09194363)
巻号頁・発行日
vol.1999, no.12, pp.199-210, 1999

This paper aims to analyze to effects of emotional labour on self-identity in the caring process. In this process, nurses are expected to identify and meet patients' emotional needs. To do so, nurses must manage patients' emotions and establish rapport with patients by paying attention to their own emotions and patients' emotional expressions. Nurses are willing to make rapport with their patients and it is their duty to do so; however, excessive rapport may become an obstacle in their efforts to care for their patients. This paper focuses on how nurses suffer from feelings of ambivalence as double standards of warm feelings and strict rules are imposed on them in the caring process.
著者
崎山 治男
出版者
日本社会学会
雑誌
社会学評論 (ISSN:00215414)
巻号頁・発行日
vol.61, no.4, pp.440-454, 2011-03-31 (Released:2013-03-01)
参考文献数
44

本稿は,心理主義化の批判のあり方と,感情労働と心理主義化との関連を示すことをめざすものである.従来の心理主義化批判は,基本的には「あるべき」感情を措定しそこからの疎外を心理学的な知がもたらすと批判するものであった.だがそれは論理的な困難をもつばかりではなく,人々が感情労働といった場で進んで心理学的な知を求めたりする現実をあらわすことはできない.感情労働が進んで求められるのは,実は常にそれが多様な自己感情の感受に開かれていることと,感情の互酬性に起因した,感情のやりとりの中での肯定的な感情の感受がありえることに起因する.そして,肯定的な感情の感受を支えるために,EQに代表されるような心理主義的な知が動員されていく.そこに潜む心理主義の現代的陥穽が,多様な感情経験を肯定的なそれへと縮減してしまう現象なのである.
著者
崎山 治男
出版者
立命館大学
雑誌
若手研究(B)
巻号頁・発行日
2012-04-01

本研究では、現代の新自由主義化とグローバル化が労働場面や私的場面での関係性を変容させる力学に関して、心理主義化に注目した理論的かつ実証的な研究を行った。具体的には、労働の感情労働化が進む中で公私における感情マネジメント能力を得ることへと人々が煽られる中で、「生の感情労働化」と社会への包摂ー排除が進むことを、感情社会学と現代社会学、社会哲学における統治論・権力論とを接合させる中で示した。それを裏付けるために、1990年代から現代に至るジェンダー、階層を異にする雑誌や自己啓発書におけるビジネススキル書、恋愛作法書などを分析し、「生の感情労働化」が階層差をも生み出すメカニズムを示した。