著者
川本 芳
出版者
京都大学ヒマラヤ研究会・総合地球環境学研究所「高所プロジェクト」
雑誌
ヒマラヤ学誌 : Himalayan Study Monographs (ISSN:09148620)
巻号頁・発行日
vol.10, pp.103-114, 2009-05-01

現代人はアフリカを起源地として進化的に短時間で拡大し多様な環境に適応しているため, 類人猿にくらべ遺伝的多様性が少ない霊長類である. 遺伝子におけるヒトの地域差は身体特徴や文化の違いとは対照的に少なく, 多様な環境への適応は, 自分たちを環境に合わせる遺伝子適応より環境を自分たちに都合良く改変する言語発達による非遺伝的伝達(文化)に支えられたところが大きいと考えられる. しかし, 一方でゲノムの一部では新規環境へ適応する際に, 短期間で選択がかかり遺伝子改変が進んだことも考えられる. 高地の低酸素環境やデンプン質食物の消化能力に関わる地域差は, ゲノム中では比率的に少ないものの, こうした遺伝的改変を伴う適応の例だと考えられる. 高地における現代人祖先の重要な生活環境改変のひとつに, 高地の野生動物の家畜化とその利用がある. アンデスとヒマラヤの高地では, おのおのにユニークな家畜が生じ, 高地民に必須の動物資源として生活を支えている. アンデスではラクダ科のグアナコやビクーニャからリャマやアルパカが家畜化され, 搾乳を伴わない利用がみられる. 野生種や家畜種の間に生殖隔離がなく, 高地で同所的に分布し自然および人為的に交雑する能力がある. 家畜化起源については, 単系説と多系説があり, 遺伝学や考古学の研究から現在検証が進んでいる. ネパール・ヒマラヤではチベット由来のヤクを在来牛と交雑利用している. ソル・クンブーでの遺伝学調査により, 伝統的に厳密な家畜繁殖管理がつづいていると推測された. ブータン・ヒマラヤではヤク利用のほかに, インドのアルナーチャルプラデシュから導入したミタンと在来牛の交雑利用がある. その繁殖システムには戻し交雑においてネパール・ヒマラヤに共通する家畜認識があり, それが原因でミタンと在来牛間に遺伝子流動が生じている可能性が考えられる. その実態につき遺伝学的および人類学的調査を進める計画でいる.
著者
M・A Huffman 川本 芳 ナハラゲ チャーマリ A. D.
出版者
京都大学
雑誌
基盤研究(C)
巻号頁・発行日
2014-04-01

本研究の目的は分類に使われてきた形態変異と糞試料で検出した遺伝子変異の比較で認められたちがいから、トクモンキーおよびラングール類の亜種分類を再評価し、スリランカ霊長類の系統地理的特性を総合的に理解することである。トクモンキーでは海抜2~2,129メートルの間に明瞭な尾長の地理的勾配が認められ、尾率は標高に従い有意に小さくなった。この形態変異は亜種境界には厳密に対応せず、むしろ本種が標高と寒さに対しアレンの法則に従う適応をもつことを示していた。新しいPCRプライマーを作成し、ラングール類の亜種の違いを試験した。これら霊長類2種の亜種の違いをさらに調査するためこれらのプラマーを利用していく。
著者
藤澤 正視 稲村 哲也 渡部 森哉 福山 洋 菊池 健児 高橋 浩 五十嵐 浩也 山本 紀夫 川本 芳 大山 修一 大貫 良夫 阪根 博 ワルテル トソ セノン アギュラール カルロス サバラ 鶴見 英成 藤井 義晴 阿部 秋男
出版者
筑波技術大学
雑誌
基盤研究(A)
巻号頁・発行日
2007

ラス・シクラス遺跡の発掘を実施し、同遺跡の中核的遺構の北マウンドの様態を解明した。マウンド上部の建築群は形成期早期(紀元前2900~1800年)の神殿建築であり、少なくとも8回の神殿更新が認められた。その過程で多量のシクラが使用されたのがこの遺跡の特徴である。シクラ構造を模擬した試験体で振動台実験を行った。その結果、一定の制振効果をもつことが確認される一方で、ある条件のもとでは、その効果がなくなるという特徴が示唆され、シクラを持つ神殿の地震動に対する挙動と被害軽減効果を確認した。
著者
川本 芳 川本 咲江 川合 静 白井 啓 吉田 淳久 萩原 光 白鳥 大祐 直井 洋司
出版者
一般社団法人 日本霊長類学会
雑誌
霊長類研究 (ISSN:09124047)
巻号頁・発行日
vol.23, no.2, pp.81-89, 2007-12-20 (Released:2009-03-13)
参考文献数
13
被引用文献数
6 7

We examined a total of 20 blood samples for assessment of the degree of hybridization between introduced rhesus macaques and native Japanese macaques in the Bousou Peninsula. Each individual was characterized by different kinds of genetic markers (two protein loci, mtDNA and one Y chromosome DNA) in order to evaluate paternal and maternal origin and the degree of hybridization. The sample individuals contained one adult male Japanese macaque, and all others were rhesus or rhesus hybrid born in the study population. Of these 19 natal, at least 15 (78.9 per cent) were hybrids. The estimated frequencies of Japanese macaque genes were 0.342 and 0.857 for autosomal and Y chromosomal genes, respectively. This result revealed a high degree of hybridization in the introduced rhesus population. A test for random mating suggested that the two species were intermixing without reproductive defects. As the habitat of native Japanese macaque troops on the peninsula are very close, removal of the hybrid population is urgently required to prevent the transfer of their genes into the Japanese macaque population. It is also important to begin monitoring for further potential gene flow between rhesus and Japanese macaques in the peninsula.
著者
稲村 哲也 山本 紀夫 川本 芳 大山 修一 苅谷 愛彦 杉山 三郎 鵜澤 和宏
出版者
愛知県立大学
雑誌
基盤研究(B)
巻号頁・発行日
2005

研究代表者らはこれまで中央アンデス、ネパール・ヒマラヤ山岳地域などで共同研究を重ね、高地環境における牧畜文化の研究を蓄積してきた。アンデス高地の研究から、リャマ・アルパカ牧畜の特徴として、(1)定住的であること、(2)乳を利用しないこと、(3)農耕との結びつきが強いこと、などを明らかになった。これらの特徴は相互に関係し、低緯度の高地に位置する中央アンデスの自然環境、生態学的条件と関係している。そして、アンデスには2種類のラクダ科野生動物ビクーニャとグアナコも生息している。アンデスの家畜種アルパカと野生種ビクーニャの遺伝的近縁性が解明されたことから、その両種の生態を把握することの学術的意義が明確になり、他の地域では困難な「家畜と近縁野生種の同一地域における共時的・通時的研究」がアンデスでは可能となった。そこで、本研究では、ラクダ科動物の家畜種と野生種に関する遺伝学的な分析をさらに精緻化すると共に、それらの生態、牧畜システムの実態をさらに検証し、また、より精度の高い自然環境に関するデータを踏まえて、野生種と家畜種、狩猟と牧畜、動物と農耕などの相互関係、ドメスティケーション等に関わる研究を推進し、新たな知見を得た。また、今後のドメスティケーション、牧畜成立過程、古代文明形成プロセスなどに関する新たな研究への基礎を構築することができた。