著者
長谷川 博 山崎 晋 幕内 雅敏 水口 公信 平賀 一陽 横川 陽子
出版者
日本臨床麻酔学会
雑誌
日本臨床麻酔学会誌 (ISSN:02854945)
巻号頁・発行日
vol.3, no.2, pp.152-166, 1983

国立がんセンター肝外科グループでは, 麻酔科と協同で肝切除の術前術中後管理のほぼ一定した方式を決めることができた. この方式は, 昭和48年の肝外科独立以来の172例の肝切除の経験において, 術後直接死亡率が肝硬変合併肝癌でも非合併例でも8%前後であり, 術中出血量は最近3,000m<i>l</i>を上廻るものがなくなったという経験的事実で裏付けられている.<br>1. 基本方針: (1) dry side に維持する. (2) Naを toxic ion 的に考える. (3) 尿浸透圧, 尿中電解質濃度とその動きを, 血清電解質よりも重視する (そのためには医師が常時使用できる血液ガス分析装置, Na&bull;K&bull;Cl電極, 浸透圧計が必需品である).<br>2. 術前管理: (1) Idsep で換気訓練を行ない, (2) IVH約1週間で耐糖能を向上させ, (3) 術後の dry side の輸液に腎が耐え得るか否かを濃縮テストで調べる (800mOsm/kg以上).<br>3. 術中管理: (1) 塩酸ケタミン点滴麻酔を加湿回路をつけて行なう. (2) 術中輸液を一律に1号液のみとし, 6m<i>l</i>/kg/h滴下する. (3) 術中乏尿(0.2m<i>l</i>/kg/h程度)には積極的には対処しない. (4) 出血量に対する輸血は, 80%をなま全血, 20%以上を血漿で補う. (5) 肝硬変例では術中から Trasylol 1日10,000単位/kgを点滴し術後5, 6日続行する. (6) 術中高血糖(250mg以上) には Insulin で対処する.<br>4. 術後管理: (1) なま血漿700~1000m<i>l</i>連日点滴をPT値60%まで続行, (2) Ht値を35&plusmn;3%に維持 (45%以上では瀉血), (3) KClを術終了直後から30~40mM/<i>l</i>以上の濃度で補給, (4) ClをモリアミンSで補給 (transfusion alkalosis 予防, O<sub>2</sub>解離曲線考慮), (5) Na<sup>+</sup>はACD液から入るので輸液中には一切加えない, (6) 総輸液量を, 血漿を含めて40m<i>l</i>/kg/dayに統一する(IVHから1m<i>l</i>/kg/h, 血漿&bull;抗生物質の合計0.6~0.9m<i>l</i>/kg/h). (7) ブドー糖0.1&rarr;0.25g/kg/h点滴(1POD以降 dose up), (8) 低Na血症を原則的に補正せず, 120mEq/<i>l</i>までは尿浸透圧>300mOsm/kgである限り輸液の速度を下げるのみ. 3POD以降で尿中Na100~150mEq/<i>l</i>ならば10%NaClを20m<i>l</i>静注, 著効ある時のみ反復. (9) 乏尿には武見処方を静注し, furosemide を原則的に使用せず(Cl利尿~ACD液による相対的Cl不足や予防のために), (10) Heparin 3~4000u/day IVHに混合(細網内皮系賦活, stress ulcer や血栓の予防).<br>かくて肝外科は, 肝実質の「とり過ぎ」をしない限り安全な手術となりつつある.
著者
北原 拓也 久保 恭仁 吉澤 海 安部 宏 会澤 亮一 松岡 美佳 相澤 良夫 砂川 恵伸 高山 忠利 幕内 雅敏
出版者
一般社団法人 日本肝臓学会
雑誌
肝臓 (ISSN:04514203)
巻号頁・発行日
vol.50, no.5, pp.229-237, 2009 (Released:2009-06-03)
参考文献数
14
被引用文献数
3 3

Peliosis hepatis(肝紫斑病)は,類洞の拡張と肝内に多発する血液の貯留腔を認めるまれな疾患で,WHOの肝腫瘍の組織学的分類では腫瘍類似病変に分類されている.本邦では腫瘍との鑑別に苦慮した症例の報告が散見されるが,肝全域にわたってPeliosis hepatisが発生,進展し,致命的な転帰となった症例は,過去にわずか1例が報告されているのみである.今回我々は,特徴ある組織学的所見を呈し,経過観察中に突然病態が悪化し急速に致命的な経過をたどった,肝全域にわたる特発性Peliosis hepatisの極めてまれな1例を経験したので報告する.
著者
幕内雅敏編集
出版者
文光堂
巻号頁・発行日
2014
著者
岡本 英三 有井 滋樹 内野 純一 遠藤 康夫 神代 正道 谷川 久一 幕内 雅敏 水本 龍二 水戸 廸郎 山田 龍作 有井 滋樹 大西 美佳 平石 保子
出版者
The Japan Society of Hepatology
雑誌
肝臓 (ISSN:04514203)
巻号頁・発行日
vol.38, no.5, pp.317-330, 1997-05-25
被引用文献数
30 27

全国649施設の協力により, 1992年1月1日より1993年12月31日までの2年間の原発性肝癌症例15, 782例 (臨床診断/組織診断の判明13, 991例) が日本肝癌研究会に登録された. 約96%は肝細胞癌, 約3%が胆管細胞癌であった. 追跡症例は9, 854例であった. 本報告においては, これら新規症例を170項目に及ぶ疫学, 臨床病理学的事項, 診断, 治療について解析し, その主たる点について述べた. 特別集計としては, 追跡症例を含めて, 肝細胞癌, 胆管細胞癌, 混合型肝癌の治療法別生存率, 及びlogistic modelによる肝細胞癌切除後の3年, 5年生存の予知因子の解析を行った.
著者
佐藤 祐一 市田 隆文 原田 武 伊藤 信市 朝倉 均 加藤 仁 橋倉 泰彦 池上 俊彦 川崎 誠治 松波 英寿 幕内 雅敏
出版者
The Japan Society of Hepatology
雑誌
肝臓 (ISSN:04514203)
巻号頁・発行日
vol.38, no.11, pp.684-689, 1997-11-25
被引用文献数
2

症例は52歳の成人女性で, 1984年に皮膚掻痒感で発症し, Scheuer I期の原発性胆汁性肝硬変 (PBC) と診断され, 外来で経過観察されていた. 1992年頃より黄疸が出現し, 1993年3月に当科入院したが, 黄疸の高度進行, 腹水の増加, 肝性脳症の悪化, 肝腎症候群を認め, 血漿交換を含めた内科的治療も奏功しなかった. そこで本人と家族が肝移植を強く希望したため, 正式にインフォームド・コンセントを得て, 1993年10月20日信州大学第1外科へ移送し, 同年11月2日, 長男 (25歳) をドナー (グラフト肝重量402g) とする成人間生体部分肝移植を施行した. その後, 原病の再発とも思われる組織像と, 抗糸粒体抗体, 抗PDH抗体, IgM, ALPの上昇を認めた. 術後約3年半を経た現在, 上述のように血清学的には原疾患の再発が示唆されるが, QOLはよく, 日常生活に支障は生じていない. 一方, ドナーである長男も結婚し, 普通と全く変わらない生活を送っている. 以上PBCに対する治療として, 生体肝移植は我が国で選択されうるべき治療法の一つであり, 今後その推進に力を注ぐ必要があると思われた.
著者
國土 典宏 幕内 雅敏 中山 健夫 有井 滋樹 小俣 政男 工藤 正俊 神代 正道 坂元 亨宇 高安 賢一 林 紀夫 門田 守人
出版者
The Japan Society of Hepatology
雑誌
肝臓 = ACTA HEPATOLOGICA JAPONICA (ISSN:04514203)
巻号頁・発行日
vol.48, no.11, pp.562-570, 2007-11-25
参考文献数
7

平成14-15年度の厚生労働省診療ガイドライン支援事業により「科学的根拠に基づく肝癌診療ガイドライン研究班」(班長:幕内雅敏)が組織され,ガイドラインを作成し,2005年2月に書籍として刊行した.発刊後ほぼ1年を経て,臨床現場でガイドラインを用いるより多くの医師による評価を目的として,日本肝癌研究会全会員に対するアンケート調査を実施した.ガイドライン内容の妥当性だけではなく,普及・利用の現状と可能性に関する評価のために16項目からなる質問票を作成し2006年3月,質問票を本研究会個人会員2,279名に送付し,843名(37.0%)から回答を得た.回答者年齢の中央値は47歳,卒後年数は93.9%が10年以上であり,中央値は20年であった.専門領域は内科系55.6%,外科系37.8%,放射線科系4.4%,病理2.0%であった.最近3カ月で診療した患者数は外来で20名以上が45.7%,入院で10名以上が44.8%であり,現在activeに肝癌診療に関わっているベテラン医師からの回答がほとんどであった.ガイドライン認知度についての質問では,「ガイドラインをみたことがある」が72%であり,日常診療に役立つかどうかの質問では,「大いに役立つ」,「役立つ」を併せて78.8%であった.ガイドラインのどの部分をよく利用するかを尋ねたところ,「治療のアルゴリズム」が77%と最も多く利用されており,次いで「診断・サーベイランス」39%,「経皮的局所療法」38%,「手術」34%と続いた.「ガイドラインを使用して治療方針に変化がありましたか」という質問には「変化した」という回答は20.8%とむしろ少なく,「変化はないがガイドラインが自分の推奨に近いことを確認し自信が持てた」が40.3%と多くを占めた.「変化した」内容については,「治療選択に時間がかからなくなった」が50%で,「時間がかかるようになった」の8%を大きく上回っていた.一方,「ガイドラインは医師の裁量を拘束すると思いますか」との質問には43.9%が拘束されると回答した.解答率が37%と高くないという問題はあるものの,本調査によって肝癌診療ガイドラインがわが国の肝癌専門医に広く認知され利用されていることが明らかになった.本アンケート調査の結果は2006年度から開始されているガイドライン改訂作業の参考資料になると期待される.<br>