著者
古野 純典 神代 正道 佐々木 淳 清原 千香子 加藤 洋 安 允玉
出版者
九州大学
雑誌
特定領域研究(A)
巻号頁・発行日
1998

大腸がんは韓国にあっても増加傾向にある重要ながんであるが、韓国では大腸がんの発生要因に関する疫学研究はほとんどおこなわれていない。伝統的な食事と欧米化した食事が混在する韓国首都圏は大腸がんの疫学研究に適した地域と考えられる。韓国における大腸がんの遺伝的感受性要因とライフスタイル要因を多面的に検討する目的で、ソウル地区において患者対照研究を実施した。合わせて、大腸がんの部位別分布や病理組織学的特徴をも検討した。患者対照研究:ソウル大学病院及びハリム大学漢江聖心病院の入院患者を対象に大腸がん患者群と非がんの対照群を設定し、面接調査により喫煙、飲酒、運動および食事などのライフスタイル要因に関する調査をおこない、血液約10mlを採取した。1998年10月から1999年12月までの期間に大腸がん247例と対照226例から血液試料の提供が得られた。ライフスタイル要因ついての予備的解析では、喫煙及び飲酒による軽度なリスク上昇、赤身肉と関連した有意なリスク上昇、乳製品と関連した有意なリスク低下を認めた。野菜、果物との関連性はみられなかった。CYP1A1MspI、GSTM、葉酸代謝酵素MTHFR及びアポプロテインEの遺伝子多型の解析を進めている。病理学的比較研究:ソウル大学病院、久留米大学病院及び癌研究会病院の大腸がん手術症例それぞれ約200例を対象として、部位別分布と組織型などの病理学的比較をおこなった。ソウル大学病院手術症例約200例の検討では、わが国の手術症例に比べて、直腸がんの割合が高かったが、結腸がんの部位別分布には大きな差は見られなかった。組織学的には韓国症例で高分化型腺がんの頻度が多い傾向にあった。
著者
斎藤 文彦 岡部 義信 菅 偉哉 渡邉 徹 有永 照子 内藤 嘉記 内田 信治 久下 亨 豊永 純 神代 正道 木下 壽文 鶴田 修 佐田 通夫
出版者
一般財団法人 日本消化器病学会
雑誌
日本消化器病学会雑誌 (ISSN:04466586)
巻号頁・発行日
vol.105, no.10, pp.1509-1514, 2008 (Released:2008-10-08)
参考文献数
17
被引用文献数
3

68歳男性.猪飼育,生食歴あり.糖尿病加療中に好酸球増多と膵体部腫瘍を認め当院紹介.膵腫瘍は画像所見とERP下膵管擦過細胞診で膵癌と診断.肝に多発小結節を認め生検で好酸球性肉芽腫だった.免疫血清学的検査で線虫類抗体が強陽性で内臓幼虫移行症の肝好酸球性肉芽腫を強く疑い,膵癌と幼虫移行症が偶発的に発症したと考え膵体尾部切除を行った.好酸球増多をともなう多発性肝腫瘍の診断には本疾患も念頭におき病歴聴取する必要がある.
著者
重松 峻夫 金 勇一 金 丁竜 安 允玉 神代 正道 日山 與彦 AHN Yoon-Ok KIM Chung Yong MASAMICHI Kojiro KIM Yong Il
出版者
福岡大学
雑誌
国際学術研究
巻号頁・発行日
1988

在日韓国人の肝がん死亡率は日本人に比べ男で約3倍、女で約2倍ほど高率である。在日韓国人における肝がん死亡率の高まりの原因を明らかにすることは肝がん発生要因の解明につながるものであり、日本人、在日韓国人及び韓国の韓国人の肝がんについて、疫学的ならびに病理学的見地より3集団間の比較研究を実施し次のような成果を得た。1.記述疫学的比較研究。1)韓国の肝がんり患率の推定。韓国の死亡診断書の約65%は医師以外の者が交付しており、死亡統計にもとづくがん死亡の解析は韓国では不可能である。韓国の肝がん発生状況を明らかにするため、政府職員・教員を対象とした医療保険制度の資料を活用した。この保険の加入者は全人口の10%におよび、性別年齢別人口も全国人口のそれと大差ない。肝がんの診断確認のために、全国各地の医療施設での検査デ-タの収集も実施した。1986年7月ー1987年6月の期間の35ー64歳に限った年齢訂正肝がんり患率(年10万人対)は男で74.8、女で15.6と推定された。1984年の日本の肝がん推定り患率に比べて男で1.6倍、女1.7倍高率であった。2)在日韓国人の肝がん死亡率とB型肝炎ウイルスに関する研究。文献調査の結果、在日韓国人の血清HBsーAg陽性率は男で約10%、女で約5%と推定され、韓国における陽性率と大差ないと考えられた。大阪府在日韓国人の肝がん死亡率をHBsーAg陽性肝がんと陰性の肝がんに分けて、日本人との比較を行ったところ、在日韓国人の肝がん死亡率はHBsーAg陽性及び陰性肝がんの両者で同様に高まっていると推論された。3)記述疫学研究のまとめ。在日韓国人の肝がんリスクの高まりは、一部本国における高いり患率を反映しているものと考えられる。しかし、在日韓国人男性では、本国よりさらに高い肝がんのリスクを有していると考えられる。さらにこの高まりは本集団におけるB型肝炎ウイルスの高い感染率では十分に説明されるものでない。福岡県の在日韓国人を対象として、飲酒、喫煙、輸血歴など肝がんの危険因子と考えられる生活習慣要因の状況を現在調査中である。2.肝がんの症例対照研究。日本人、在日韓国人及び韓国韓国人の3集団で、肝細胞がんの発生要因の関与度合いを比較検討するため病院内症例対照研究を実施した。B型肝炎ウイルス及び飲酒は、3つの研究で一致して、肝細胞がんの発生と関連していることが認められたが、関与の度合い(人口寄与危険)は3集団間で著しく違っていた。日本人及び在日韓国人の肝細胞がんの20%前後はB型肝炎ウイルス感染によるものと推定されたが、韓国の肝細胞がんでは約70%と推定された。一方、過度の飲酒は日本人、在日韓国人の肝細胞がんのそれぞれ約30%と40%を説明すると考えられたが、韓国の場合、10%程度であった。日本人の研究では喫煙との関連を示唆する結果が得られたが、量・反応関係は認められず今後の検討課題として残される。日本人、韓国内韓国人の研究では他の要因についても調査したが、両研究で輸血歴との強い関連を認め、また韓国人の研究で肝疫患の既往歴との関連が観察された。現在問題になっているC型肝炎ウイルスが3集団の肝細胞がんにどの程度関与しているかは非常に興味あるところであり、今後検討する予定である。3.肝がんの病理学的比較検討。日本人、在日韓国人及び在韓韓国人の肝細胞がんの病理組織標本にもとづく比較検討を行ったが、3集団間で肉眼的ならびに組織学的に特異な差を認めなかった。3者とも結節型肝がんが主体を占め、肝硬変合併率も50〜60%と大差なかった。また合併肝硬変も乙型が大多数であった。しかしHBs-Ag陽性率は日韓で大きな違いが認められた。日本人、在日韓国人では20%前後の陽性率であったが、韓国の症例では75%がHBs-Ag陽性例であった。
著者
岡本 英三 有井 滋樹 内野 純一 遠藤 康夫 神代 正道 谷川 久一 幕内 雅敏 水本 龍二 水戸 廸郎 山田 龍作 有井 滋樹 大西 美佳 平石 保子
出版者
The Japan Society of Hepatology
雑誌
肝臓 (ISSN:04514203)
巻号頁・発行日
vol.38, no.5, pp.317-330, 1997-05-25
被引用文献数
30 27

全国649施設の協力により, 1992年1月1日より1993年12月31日までの2年間の原発性肝癌症例15, 782例 (臨床診断/組織診断の判明13, 991例) が日本肝癌研究会に登録された. 約96%は肝細胞癌, 約3%が胆管細胞癌であった. 追跡症例は9, 854例であった. 本報告においては, これら新規症例を170項目に及ぶ疫学, 臨床病理学的事項, 診断, 治療について解析し, その主たる点について述べた. 特別集計としては, 追跡症例を含めて, 肝細胞癌, 胆管細胞癌, 混合型肝癌の治療法別生存率, 及びlogistic modelによる肝細胞癌切除後の3年, 5年生存の予知因子の解析を行った.
著者
國土 典宏 幕内 雅敏 中山 健夫 有井 滋樹 小俣 政男 工藤 正俊 神代 正道 坂元 亨宇 高安 賢一 林 紀夫 門田 守人
出版者
The Japan Society of Hepatology
雑誌
肝臓 = ACTA HEPATOLOGICA JAPONICA (ISSN:04514203)
巻号頁・発行日
vol.48, no.11, pp.562-570, 2007-11-25
参考文献数
7

平成14-15年度の厚生労働省診療ガイドライン支援事業により「科学的根拠に基づく肝癌診療ガイドライン研究班」(班長:幕内雅敏)が組織され,ガイドラインを作成し,2005年2月に書籍として刊行した.発刊後ほぼ1年を経て,臨床現場でガイドラインを用いるより多くの医師による評価を目的として,日本肝癌研究会全会員に対するアンケート調査を実施した.ガイドライン内容の妥当性だけではなく,普及・利用の現状と可能性に関する評価のために16項目からなる質問票を作成し2006年3月,質問票を本研究会個人会員2,279名に送付し,843名(37.0%)から回答を得た.回答者年齢の中央値は47歳,卒後年数は93.9%が10年以上であり,中央値は20年であった.専門領域は内科系55.6%,外科系37.8%,放射線科系4.4%,病理2.0%であった.最近3カ月で診療した患者数は外来で20名以上が45.7%,入院で10名以上が44.8%であり,現在activeに肝癌診療に関わっているベテラン医師からの回答がほとんどであった.ガイドライン認知度についての質問では,「ガイドラインをみたことがある」が72%であり,日常診療に役立つかどうかの質問では,「大いに役立つ」,「役立つ」を併せて78.8%であった.ガイドラインのどの部分をよく利用するかを尋ねたところ,「治療のアルゴリズム」が77%と最も多く利用されており,次いで「診断・サーベイランス」39%,「経皮的局所療法」38%,「手術」34%と続いた.「ガイドラインを使用して治療方針に変化がありましたか」という質問には「変化した」という回答は20.8%とむしろ少なく,「変化はないがガイドラインが自分の推奨に近いことを確認し自信が持てた」が40.3%と多くを占めた.「変化した」内容については,「治療選択に時間がかからなくなった」が50%で,「時間がかかるようになった」の8%を大きく上回っていた.一方,「ガイドラインは医師の裁量を拘束すると思いますか」との質問には43.9%が拘束されると回答した.解答率が37%と高くないという問題はあるものの,本調査によって肝癌診療ガイドラインがわが国の肝癌専門医に広く認知され利用されていることが明らかになった.本アンケート調査の結果は2006年度から開始されているガイドライン改訂作業の参考資料になると期待される.<br>