著者
矢倉 道泰 田中 晃久 時田 元 上司 裕史 原田 英治
出版者
The Japan Society of Hepatology
雑誌
肝臓 = ACTA HEPATOLOGICA JAPONICA (ISSN:04514203)
巻号頁・発行日
vol.46, no.1, pp.19-25, 2005-01-25
被引用文献数
3 5

結婚後50年経ってHCVの夫婦間感染が成立した1例を報告した. 妻は72歳. 1955年出産時に輸血. 1989年に初めて肝機能異常を指摘され, 1992年より当院へ通院. 1992年4月, 肝生検はF1/A1, HCV-RNA8.7Meq/m<i>l</i>. 1992年9月よりIFN-α6MUを2週連投後, 週3回22週投与するも無効. 1994年6月, 肝生検はF1/A1. 同年8月よりIFN-α2b10MUを2週連投後, 週3回22週投与するも無効. 一方, 夫は77歳. 1981年より糖尿病で近医に通院. 1975年より毎年検診を受け, 飲酒による肝障害を指摘されていた. 2000年3月, HCV Ab(-). 2002年9月の検診でGOT358IU/<i>l</i>, GPT700IU/<i>l</i>と異常を指摘され当科受診. HBsAg(-), HCV Ab(+), HCV-RNA31.5KIU/m<i>l</i>. 2003年1月29日の肝生検は軽度の脂肪沈着を認めるalcoholic fibrosis with hemosiderosisの所見であった. 2003年2月より, 高齢で糖尿病があるためIFN-α3MUを週2回投与し9月にHCV-RNA陰性となる. 夫婦のHCV NS5B領域339塩基を増幅し, PCR産物をダイレクトシークエンスにより塩基配列を決定した結果, 夫婦間の配列はともにHCV genotype 1bで99.1%の高い相同性が得られた. 系統樹解析でも有意なクラスター (100%) を形成しており夫婦間の感染が強く示唆された. その後, 夫のHCV抗体価も上昇したことから妻から夫への初感染と診断した. 感染経路は性交渉によるものと推測した.
著者
阿部 敏紀 相川 達也 赤羽 賢浩 新井 雅裕 朝比奈 靖浩 新敷 吉成 茶山 一彰 原田 英治 橋本 直明 堀 亜希子 市田 隆文 池田 広記 石川 晶久 伊藤 敬義 姜 貞憲 狩野 吉康 加藤 秀章 加藤 将 川上 万里 北嶋 直人 北村 庸雄 正木 尚彦 松林 圭二 松田 裕之 松井 淳 道堯 浩二郎 三原 弘 宮地 克彦 宮川 浩 水尾 仁志 持田 智 森山 光彦 西口 修平 岡田 克夫 齋藤 英胤 佐久川 廣 柴田 実 鈴木 一幸 高橋 和明 山田 剛太郎 山本 和秀 山中 太郎 大和 弘明 矢野 公士 三代 俊治
出版者
The Japan Society of Hepatology
雑誌
肝臓 = ACTA HEPATOLOGICA JAPONICA (ISSN:04514203)
巻号頁・発行日
vol.47, no.8, pp.384-391, 2006-08-25
被引用文献数
18 56

極く最近まで殆んど不明状態にあった我国のE型肝炎の実態を明らかにする目的で,我々は全国から総数254例のE型肝炎ウイルス(HEV)感染例を集め,統計学的・疫学的・ウイルス学的特徴を求めてこれを解析した.その結果,[i]HEV感染は北海道から沖縄まで全国津々浦々に浸透していること;[ii]感染者の多くは中高年(平均年齢約50歳)で,且つ男性優位(男女比約3.5対1)であること;[iii]我国に土着しているHEVはgenotype 3とgenotype 4であるが,後者は主に北海道に偏在していること;[iv]年齢と肝炎重症度との間に相関があること;[v]Genotype 3よりはgenotype 4による感染の方が顕性化率も重症化率も高いこと;[vi]発生時期が無季節性であること;[vii]集積症例全体の約30%は動物由来食感染,8%は輸入感染,2%は輸血を介する感染に帰せしめ得たものの,過半の症例(約60%)に於いては感染経路が不明のままであること;等の知見を得た.<br>
著者
有尾 啓介 水田 敏彦 八田 美幸 熊谷 貴文 河口 康典 江口 有一郎 安武 努 久富 昭孝 尾崎 岩太 藤本 一眞
出版者
The Japan Society of Hepatology
雑誌
肝臓 = ACTA HEPATOLOGICA JAPONICA (ISSN:04514203)
巻号頁・発行日
vol.46, no.11, pp.658-662, 2005-11-25

症例は13歳の男児. 海岸でアメフラシ (学名<i>Aplysia kurodai</i>) の卵を生で摂取後, 持続性の嘔吐と肝機能障害が出現した. 入院時 (摂食後3日目) AST661IU/<i>l</i>, ALT1186IU/<i>l</i> と肝障害がみられ, ウイルスマーカー陰性で, 他に肝障害を起こしうる原因がないことからアメフラシの卵の摂取による急性肝障害と診断した. 安静, 輸液, グリチルリチン製剤静注により自覚症状, トランスアミナーゼ改善し, 併発症なく入院18日目に退院となった. 肝病理組織では散在性に肝細胞の巣状壊死とリンパ球, 好中球の浸潤を認めた. 水棲生物の中には外敵から身を守る生体防御機構としての有害物質を保有しているものがいる. アメフラシは日本中の海岸のいたるところに生息し, その卵塊は一見摂食可能な印象を受けるが, アプリシアニンという毒性物質を含有しており, 摂食により肝障害を起こす可能性がある.
著者
木村 吉秀 山内 学 成田 真 大谷 宣人 鈴木 誠司 折戸 悦朗 溝上 雅史
出版者
一般社団法人 日本肝臓学会
雑誌
肝臓 = ACTA HEPATOLOGICA JAPONICA (ISSN:04514203)
巻号頁・発行日
vol.46, no.1, pp.26-32, 2005-01-25
参考文献数
15
被引用文献数
1 1

症例は50歳の女性. 黄疸を伴う急性肝炎にて入院し, 臨床経過, 肝組織検査, 診断基準より慢性肝障害に合併したウコンによる薬物性肝障害と診断した. ウコンの服用中止後も肝障害が遷延したためプレドニゾロンを使用. プレドニゾロンは奏効し肝障害改善後退院となった. 外来にてプレドニゾロンを中止したが, 中止後50日目に再び肝障害を認めたため2回目の入院となった. 肝組織検査, 診断基準に基づき検討したところ, 2回目の肝障害は自己免疫性肝炎であった. 1回目の肝障害と2回目の肝障害を再検討したが, ウコンによる薬物性肝障害がtriggerとなって自己免疫性肝炎が誘導された可能性と, もともと自己免疫性肝炎が存在しウコン内服によりなんらかの影響を受けて急性増悪した可能性が考えられた.
著者
福本 陽平 岸本 幸広 前田 直人 西向 栄治 金藤 英二 岡田 克夫 内田 靖 河野 通盛 是永 匡紹 池田 弘 藤岡 真一 西野 謙 河野 友彦 辻 恵二 平松 憲 柴田 憲邦 児玉 隆浩 周防 武昭
出版者
The Japan Society of Hepatology
雑誌
肝臓 = ACTA HEPATOLOGICA JAPONICA (ISSN:04514203)
巻号頁・発行日
vol.48, no.10, pp.484-489, 2007-10-25
参考文献数
19
被引用文献数
1 2

2006年開催の第85回日本消化器病学会中国支部例会では,シンポジウム「急性肝炎の疫学的変遷」が行われ,最近の中国地方における急性肝炎の発生動向が報告された.その結果,最近5∼25年間の総計1,815症例の報告では,ウイルス性急性肝炎が約52%で,薬物性肝炎14%,自己免疫性1%,原因不明33%であった.また,山陰地域ではA型急性肝炎が,山陽地域ではC型急性肝炎や薬物性肝炎がより多く発生した.一方,最近の10年間では,急性肝炎は発生総数として約15%減少し,その要因はA型急性肝炎の減少であった.また,原因不明の急性肝炎が増え,薬物性肝炎も増加する傾向にあった.この間のウイルス性肝炎は,成因別にA型急性肝炎に代わりB型急性肝炎の割合が一位となり,C型急性肝炎の割合は変化なかった.すなわち,最近5年間に発生したウイルス性急性肝炎の割合は,HBVが約45%,HAV 25%,HCV 15%,HEV 1%,EBVとCMVとは併せて15%であった.<br>
著者
齊藤 奈津子 土山 寿志 大森 俊明 山田 真也 島崎 英樹
出版者
The Japan Society of Hepatology
雑誌
肝臓 = ACTA HEPATOLOGICA JAPONICA (ISSN:04514203)
巻号頁・発行日
vol.45, no.5, pp.268-273, 2004-05-25
被引用文献数
5 7

従来本邦では, E型肝炎の発生は稀であると考えられてきたが, 近年海外渡航歴のない国内発症例が報告されている. 今回, 北陸では初の報告となるE型急性肝炎の国内感染, 発症例を経験した. 症例は50歳男性. 海外渡航歴, 輸血歴, 動物の飼育歴, 薬剤服用歴及び, 不特定な人との性的接触はなかった. 2002年3月下旬より全身倦怠感, 褐色尿が出現し4月4日当科受診. 血液検査, 画像所見より急性肝炎と診断され入院となった. 対症療法にてトランスアミナーゼは速やかに改善したが, 黄疸は遷延化した. ビリルビン吸着療法計7回の後, 黄疸も改善傾向を示し, 第56病日目に退院となった. 入院時血清よりIgM型抗HEV抗体, HEV-RNA陽性が判明し, 本症例はE型急性肝炎と診断された. HEVは genotype IIIで, その塩基配列は既報のJRA 1株と最も高い一致率 (94.9%) を示した. HEVは日本国内に広く定着していると考えられた.
著者
高田 弘一 堀田 彰一 目黒 高志 平山 眞章 丸谷 真守美 茎津 武大 河野 豊 高梨 訓博 加藤 淳二 新津 洋司郎
出版者
The Japan Society of Hepatology
雑誌
肝臓 = ACTA HEPATOLOGICA JAPONICA (ISSN:04514203)
巻号頁・発行日
vol.45, no.11, pp.603-608, 2004-11-25
被引用文献数
2 4

症例は57歳, 男性. 平成7年11月25日全身倦怠感および食欲不振を主訴に近医を受診. 腹部CTにてHCCが疑われ, 精査加療目的に平成8年1月8日当院紹介入院となった. 精査の結果, 門脈腫瘍栓を伴ったHCC stage IVAと診断した. 同年1月16日と2月21日に, 主腫瘍であると考えられた肝S8, S4のHCCに対してTAEを施行した. 同時期より右骨盤部の痛みと歩行障害が出現した. 原因検索を目的にCTおよび血管造影を施行したところ右腸骨に hypervascular な腫瘍が描出された. 骨シンチグラフィーでも同腫瘍に一致してTcの取り込みを認めた. 臨床経過および画像所見よりHCCの骨転移と診断し, 同腫瘍に対してTAEおよび放射線治療を施行した. その結果, 疼痛は消失し歩行障害も改善した. 画像上も骨転移巣は消失した. その後肝内にHCCが再発し, TAEを計9回とRFAを1回施行した. 平成12年12月頃より肝不全が徐々に進行し, 骨転移が出現してから約6年後の平成14年1月31日永眠された. これまで, HCCの骨転移は予後不良であると考えられていたが, 本症例では長期生存が得られ貴重な症例と考え報告した.
著者
平岡 淳 道堯 浩二郎 重松 秀一郎 眞柴 寿枝 熊木 天児 徳本 良雄 長谷部 昌 日浅 陽一 堀池 典生 恩地 森一
出版者
The Japan Society of Hepatology
雑誌
肝臓 = ACTA HEPATOLOGICA JAPONICA (ISSN:04514203)
巻号頁・発行日
vol.45, no.11, pp.609-613, 2004-11-25
被引用文献数
5 5

症例は56歳男性. アルコール性肝硬変. 平成15年8月より全身倦怠感を自覚. 同年10月より体重増加. 11月8日より39度台の発熱が出現し, 近医入院. 同14日当科入院. WBC 7700/μ<i>l</i>, Hb 8.8g/d<i>l</i>, Plt 5.2万/μ<i>l</i>, PT 46.1%, T-Bil 4.8mg/d<i>l</i>, AST 129IU/<i>l</i>, ALT 59IU/<i>l</i>, γ;-GTP 27IU/<i>l</i>, Alb 2.5g/d<i>l</i>, 入院当初より左腰背部痛を軽度自覚. 入院後, 肝不全に対して保存的に加療を行ったが, 貧血が進行した. 下血はなく, 上部消化管内視鏡では明らかな出血はなかった. 第6病日, 腹部造影CTにて左腸腰筋の軽度腫大が描出された. 再検前にショックに陥り第7病日死亡. 剖検にて左腸腰筋血腫と診断された. 肝硬変に合併した特発性腸腰筋血腫は稀であるが, 貧血が進行する肝硬変患者における鑑別として重要である.
著者
國土 典宏 幕内 雅敏 中山 健夫 有井 滋樹 小俣 政男 工藤 正俊 神代 正道 坂元 亨宇 高安 賢一 林 紀夫 門田 守人
出版者
The Japan Society of Hepatology
雑誌
肝臓 = ACTA HEPATOLOGICA JAPONICA (ISSN:04514203)
巻号頁・発行日
vol.48, no.11, pp.562-570, 2007-11-25
参考文献数
7

平成14-15年度の厚生労働省診療ガイドライン支援事業により「科学的根拠に基づく肝癌診療ガイドライン研究班」(班長:幕内雅敏)が組織され,ガイドラインを作成し,2005年2月に書籍として刊行した.発刊後ほぼ1年を経て,臨床現場でガイドラインを用いるより多くの医師による評価を目的として,日本肝癌研究会全会員に対するアンケート調査を実施した.ガイドライン内容の妥当性だけではなく,普及・利用の現状と可能性に関する評価のために16項目からなる質問票を作成し2006年3月,質問票を本研究会個人会員2,279名に送付し,843名(37.0%)から回答を得た.回答者年齢の中央値は47歳,卒後年数は93.9%が10年以上であり,中央値は20年であった.専門領域は内科系55.6%,外科系37.8%,放射線科系4.4%,病理2.0%であった.最近3カ月で診療した患者数は外来で20名以上が45.7%,入院で10名以上が44.8%であり,現在activeに肝癌診療に関わっているベテラン医師からの回答がほとんどであった.ガイドライン認知度についての質問では,「ガイドラインをみたことがある」が72%であり,日常診療に役立つかどうかの質問では,「大いに役立つ」,「役立つ」を併せて78.8%であった.ガイドラインのどの部分をよく利用するかを尋ねたところ,「治療のアルゴリズム」が77%と最も多く利用されており,次いで「診断・サーベイランス」39%,「経皮的局所療法」38%,「手術」34%と続いた.「ガイドラインを使用して治療方針に変化がありましたか」という質問には「変化した」という回答は20.8%とむしろ少なく,「変化はないがガイドラインが自分の推奨に近いことを確認し自信が持てた」が40.3%と多くを占めた.「変化した」内容については,「治療選択に時間がかからなくなった」が50%で,「時間がかかるようになった」の8%を大きく上回っていた.一方,「ガイドラインは医師の裁量を拘束すると思いますか」との質問には43.9%が拘束されると回答した.解答率が37%と高くないという問題はあるものの,本調査によって肝癌診療ガイドラインがわが国の肝癌専門医に広く認知され利用されていることが明らかになった.本アンケート調査の結果は2006年度から開始されているガイドライン改訂作業の参考資料になると期待される.<br>