著者
柚洞 一央 新名 阿津子 梶原 宏之 目代 邦康
出版者
公益社団法人 日本地理学会
雑誌
E-journal GEO (ISSN:18808107)
巻号頁・発行日
vol.9, no.1, pp.13-25, 2014-03-31 (Released:2014-04-23)
参考文献数
24
被引用文献数
2 6

ジオパークは,地形・地質遺産が主となって構成されるが,特に,これまで日本のジオパークでは地質公園的な側面が強く現れていた.Global Geoparks Networkのガイドラインでは,地形・地質のほか,生態系,考古,歴史,文化的価値を持つものの重要性も述べられている.それらは地理学的視点によって関連性を科学的に整理し理解することが重要である.地理学の成果にもとづいて,それぞれのジオパークのストーリー,ナラティブが構築されれば,その地域で発生している問題の解決の糸口を与えることになるだろう.そうすることにより,ジオパークの活動が持続可能な発展を目指すものとなる.
著者
栗本 享宥 苅谷 愛彦 目代 邦康 山田 隆二 木村 誇 佐野 雅規 對馬 あかね 李 貞 中塚 武
雑誌
JpGU-AGU Joint Meeting 2020
巻号頁・発行日
2020-03-13

岐阜県北西部から中央部にかけて走る庄川断層帯は,1586年天正地震の起震断層帯として強く疑われている断層帯であり,4条の活断層から成る.その最南端部である三尾河断層の南に移動体体積が2.2×107m3の大規模地すべり地が存在する.これは伝承で「水沢上の大割れ」と呼ばれ,天正地震で生じたとされてきた.しかし,当地すべりに関する地形学・地質学的な観点からの詳しい検討はなかった.演者らは,当地すべりを水沢上地すべり(以下ML)と命名し,現地踏査と1 m-DEMデータから作成した各種主題図(地形陰影図など)に基づく地形判読と現地で採取した試料の年代測定および年代値の分析を基礎として,MLの地形・地質特性や発生時期,誘因を検討した.やや開析された円弧状の滑落崖は北東方向に開き,その直下に地すべり移動体が分布する.移動体末端の一部は直下の河川(吉田川)を越えて対岸の谷壁斜面に乗り上げる.また移動体の一部は比高40~50 mの段丘状地形を成す.滑落崖,移動体の形状はそれらが複数回の地すべりで形成されたことを示唆し,地表面には地すべりに起因する大小の凹凸地形が発達する.地すべり移動体は不淘汰・無層理の安山岩角礫と細粒の基質から成り,礫にはジグソークラックが発達する.Loc. 1の左岸側露頭では移動体構成物質中に,地すべり移動時に巻き込まれたと推定されるクロボク状表土の破片が認められる.この破片に含まれる木片2点の較正年代(2δ)はcal AD 1492~1645の範囲に及ぶ.また,地すべり移動体が吉田川を堰き止めて生じた層厚約2 mの湖沼・氾濫原堆積物も確認できる.この湖沼・氾濫原堆積物の下限の約90 cm上位から採取した直径約20 cmの丸太材の外周部の14C年代はcal AD1513~1618であり,細胞セルロース酸素同位体比年輪年代測定によってAD1615~1620頃と推定された同材の枯死年代とは調和的である.以上のように,MLの規模や地すべり移動体と堰き止め湖沼・氾濫原堆積物の層相および年代から,MLの誘因は強震動が第一に想定される.試料の年代からみて,誘因が1586年天正地震であった可能性は高まったといえる.ただし歴史地震学において提唱されている天正地震の本質から,本震と考えられる1586年1月18日の地震でMLが形成されたか否かといった問題について,なお検討を加える余地がある.同時に1596年慶長伏見地震との関係についても検討の対象となる.
著者
目代 邦康
出版者
公益社団法人 日本地理学会
雑誌
日本地理学会発表要旨集 2021年度日本地理学会春季学術大会
巻号頁・発行日
pp.160, 2021 (Released:2021-03-29)

1.はじめに 地球温暖化対策としての化石燃料使用の抑制,また東日本大震災での原子力発電所事故により原発の危険性が広く認識されたことにより,再生可能エネルギーによる発電が注目されるようになっている.各地で,地域主体の市民共同発電が行われるようになっている(たとえば豊田2016,大門2016など).一方で,地域住民の合意に基づかない,再生可能エネルギー事業のため,地域に軋轢が生じているところもある.再生可能エネルギー施設設置による乱開発を規制する条例が各地で制定されているのは,この表れであるといえる(例えば岩手県遠野市など).国立公園,国定公園といった自然公園は,自然公園法に定められている通り,優れた自然の風景地を保護し,保険,休養,教化に資することを目的としている.こうした自然公園において,環境省は,2015年には,再生エネルギーの大規模な導入という政府方針に基づき,自然公園においても自然環境と調和した再生可能エネルギー発電施設の導入を,限定的に許容すべきという立場をとっており,現在では,さらに許容の立場を進め,国立公園内での再生可能エネルギーの発電所設置を促す方針となっている.今日,多面的にその価値が理解されるようになっている自然公園において,これまでの規制をさらに厳しくするのであれば理解はできるが,安直にその規制を緩めることは,これまで多くの関係者の努力により築き上げてこられた自然公園の仕組みを破壊するものであるといえる.ここでは,自然地理学的観点から,国立公園,国定公園といった自然公園の価値を考えたうえで,再生可能エネルギー乱開発(再エネ乱開発)の問題点を指摘する.2.自然公園の多様な価値 それぞれの地域に暮らす人は,その地域の自然環境から様々な恩恵を受けており,それは生態系サービスという概念において,整理されている.その生態系は,地域によって異なるが,一つのまとまりのある範囲が流域である.流域の中で,水とそれによって運搬される砂礫,諸元素があり,地形環境がそのなかで形成され,そこで人間が生活している.この流域全域が自然公園となっていることもあるが,日本では,山地の上流部,もしくは河口周辺の海岸部が自然公園地域として指定されている.山地が自然公園として指定される意味は,そもそも開発が進んでおらず,美しい景観が残存していることが第一であるが,それとともに河川に流入する水やさまざまな栄養塩が供給される場所であること,また,山地環境における緩和作用により,流出量が調整されることがあるためである.自然公園法では,法文のなかで生物多様性保全の場であるという位置づけをしているが,生物多様性を支えるための流域やそれより広域の自然環境が存在する意義については十分理解されていない.山地に風力発電施設や大規模太陽光発電施設(メガソーラー)を設置する場合,そこの場所に存在している植生の面積が減少すること,地形が変化すること,水文プロセスが変化することは必然であり,それは許容されるべきものであるのかどうかは,土地所有者と許認可を出す行政関係者だけでなく,地域住民や研究者との合意も必要であろう.水文プロセスの変化は,その山地の保水能力の低下や,流出する水の水質の変化ももたらす.2017(平成29)年3月に環境省自然環境局より出された,「国立公園普通地域内における措置命令等に関する処理基準等の一部改正の概要」によれば,「太陽光発電施設の新築,改築及び増築による土砂及び汚濁水の流出のおそれがないこと」は適合するかどうか審査されることになっているが,何らかの地形改変を行って,土砂を河川に流出させないことなど,実質的に不可能である.
著者
目代 邦康 千木良 雅弘
出版者
The Association of Japanese Geographers
雑誌
地理学評論 (ISSN:13479555)
巻号頁・発行日
vol.77, no.2, pp.55-76, 2004-02-01 (Released:2008-12-25)
参考文献数
82
被引用文献数
9 10

赤石山脈南部の大谷崩から山伏にかけて,幅の広い緩斜面を頂部に持つ山稜が分布する.これらの山稜最上部には比高10m以上の凹地(山上凹地)があり,その下方には比高数m程度の山向きの小さな崖(山向き小崖)が発達する.この地域には瀬戸川帯のスレートが分布し,その壁開の走向は上記の凹地と小崖の伸びの方向と大略平行である.これらの凹地・小崖地形は,山体を構成する岩盤が斜面下方に倒れかかった結果形成された重力変形地形であると推定できる.崖頂部の丸みの程度,凹地内堆積物の層相とテフラが示す変形時期,山上凹地・山向き小崖の配列と分岐パターンは,山体の変形が,山体上部から下部へと進行し,かつ地層の走向方向から等高線に沿う方向へと進行したことを示している.稜線付近にある上位の山向き小崖は,少なくとも2万年前には存在しており,下位の山向き小崖は約1万年前に形成されたと考えられた.
著者
目代 邦康
出版者
公益社団法人 日本地理学会
雑誌
E-journal GEO (ISSN:18808107)
巻号頁・発行日
vol.9, no.1, pp.1-3, 2014-03-31 (Released:2014-04-23)
参考文献数
8
被引用文献数
1
著者
目代 邦康 小荒井 衛
出版者
日本地図学会
雑誌
地図 (ISSN:00094897)
巻号頁・発行日
vol.49, no.3, pp.1-16, 2011 (Released:2015-11-07)
参考文献数
65

In Japan, geoparks were initiated around 2004. Twenty areas became members of the Japan Geopark Network by September 2011. One of the activities in these geoparks is the creation of various maps, out of which several show the location of geosites and their access routes. Such maps are a form of tourist maps. Some maps explain the geology and landform of an area: they are highly important for initiating scientific activity in geoparks. Thus far, scientific maps explaining the landform and geology of an area have been created by geoscientists, but their information contained in these maps is not reflected in geopark maps. The availability of intelligible scientific maps can aid visitors to geoparks in experiencing a high-quality geotour. However, for creating such effective scientific maps, it is necessary for geoscientists to work in cooperation with geopark managers.
著者
栗本 享宥 苅谷 愛彦 目代 邦康
出版者
公益社団法人 日本地理学会
雑誌
日本地理学会発表要旨集 2019年度日本地理学会春季学術大会
巻号頁・発行日
pp.69, 2019 (Released:2019-03-30)

はじめに 水沢上地すべり(以下ML:35.9363°N,137.0445°E)は岐阜県郡上市明宝に存在する大規模地すべり地である.MLは古文書に基づきAD1586天正地震で生じたとされてきた1,2).しかし先行研究では地質学的論拠が示されていない.筆者らは地質調査と地形判読を基礎として,MLの地形・地質的特徴と最新滑動年代を明らかにした.地域概要と研究方法 <地形>MLは飛騨高地南東部に位置し,周辺には標高2000 m以下の山岳が卓越する.木曽川水系吉田川とその支流がMLを貫く.<地質>ML一帯には烏帽子岳安山岩類が分布する.これはML西方の烏帽子岳から1 Maごろ噴出した安山岩と火山砕屑岩からなる2).同安山岩類は下部の凝灰角礫岩質の部分(以下Ep)と上部の安山岩溶岩(以下Ea)に分類される.他に貫入岩や,花崗岩,かんらん岩,美濃帯堆積岩類も分布する.MLの北に庄川断層帯三尾河断層(以下MF:B級左横ずれ)が走る.MFの最新イベントは840年前以降で,AD1586天正地震が対応する可能性が高い3).<方法>空中写真やDEM傾斜量図等を用いた地形判読と野外踏査を主な手法とした.踏査で採取した試料の14C年代測定も行った。MLの地形と地質 MLは3条の滑落崖と,複数の地すべり移動体に分類される.やや開析された滑落崖は円弧状を呈し,急崖をなす地点ではEaが露出する.地すべり移動体南部の平坦面についてはその分布標高からL~H面に分類できる.全移動体の体積は約2.2×107 ㎥である(侵食部分を含む).以下,各地点での地形・地質的特徴を述べる.<P1>不淘汰かつ無層理のEaの角礫からなる地すべり堆積物を,シルト~中粒砂の堰止湖沼堆積物が覆う.地すべり堆積物にはパッチワーク構造が観察できる.地すべり堆積物に含まれる材はcal AD1494~1601を示す.堰止湖沼堆積物層最下部の材はcal AD1552~1634である.<P2>P2周辺の吉田川の渓岸には割れ目に富むジグソーパズル状に破砕されたEaの岩盤や,シート状の粘土層や著しく座屈・褶曲したEp層がみられる.この堆積物の特徴は大規模崩壊堆積物にしばしば認められる特徴と類似・一致する.<P3>P3を代表とする地すべり移動体南部のL~H面上には,比高がまばらな長円形の小丘状地形や閉塞凹地が分布する.小丘状地形は破砕されたEa・Ep岩屑などで主に構成される。このような地形は、地すべりの移動方向に短軸をもつ4).小丘状地形の短軸方向と分布を集計し,各地形面の移動方向を検討した.地形面同士の関係(切る・切られる)も考慮した結果,過去3回の滑動が推測できた.<P4>P4付近では高さ約20 m,幅約50~100 mにわたり蛇紋岩化の著しいかんらん岩が分布する.かんらん岩は,およそ北―北北東方向に発達しているとみられる2).おわりに本研究は以下のようにまとめられる.①MLの各所に大規模地すべりと判断できる地形や地質的証拠がみられた.②P1ではcal AD1552~1634に地すべりによる堰き止め湖沼が生じた.③地すべり移動体上の微地形判読から,過去3回の滑動が推測された.④そのうち最新の滑動がcal AD1494~1601に発生したことは確実で,その誘因としてAD1586天正地震が挙げられる.⑤地すべりの誘因はML周辺の活断層による地震が,素因は蛇紋岩などの地質的な条件が考えられる参考文献 1)飯田(1987)『天正大地震誌』、井上・今村(1998)歴史地震,14,57-58. 2)河田・磯見・杉山(1988)「萩原地域の地質」.地調.3)杉山・粟田・佃(1991)地震,44,283-295. 4)木全・宮城(1985)地すべり,21(4),1-9.
著者
目代 邦康 小泉 武栄
出版者
東北地理学会
雑誌
季刊地理学 (ISSN:09167889)
巻号頁・発行日
vol.59, no.4, pp.205-213, 2007 (Released:2010-04-30)
参考文献数
20
被引用文献数
1

佐渡島大佐渡山地稜線周辺には, 裸地, 草地が, 標高800~1,000mの尾根にパッチ状に分布している。そこでは, ブナの偏形樹が見られ, 氷期の遺存種であるイブキジャコウソウ, タカネマツムシソウなどの高山植物が生育している。裸地, 草地は, 北西―南東方向に伸びる谷の延長線上の, 北東―南西あるいは南北にのびる尾根にのみ分布している。そこでは, 冬季の季節風が, 谷沿いを吹き抜けて稜線を吹き越す場所である。強風は, 冬季には積雪を吹き払い, さらに地表付近の細粒物質も除去する。そのため, 高木, 低木の定着, 生育が困難となっている。このような環境のため, 局地的に高山帯と同様の景観が作り出されている。
著者
苅谷 愛彦 清水 長正 澤部 孝一郎 目代 邦康 佐藤 剛
出版者
公益社団法人 日本地理学会
雑誌
地理学評論 Series A (ISSN:18834388)
巻号頁・発行日
vol.87, no.5, pp.386-399, 2014-09-01 (Released:2019-10-05)
参考文献数
25

山地の解体過程において,大規模地すべりの時間的推移を詳しく検討することは重要である.本論文は,このような視点から関東山地南部・三頭山(標高1,531 m)北西面の大規模地すべりをとりあげ,踏査や空中写真判読,年代測定に基づき,その地形・地質的特徴と発生年代を論じたものである.この大規模地すべりは三頭山山頂から西北西方向に伸びる稜線の直下で発生し,滑落崖を形成した.地すべりで斜面物質は約1.5 km移動し,谷壁や谷底に堆積した.地すべり移動体はジグソー・クラックを伴う厚い礫層からなり,堰き止めを起こし湖沼・氾濫原を形成したとみられる.初生地すべりはcal AD 1292~1399(鎌倉時代~室町時代)かそれ以前に発生し,二次地すべりがcal AD 1469~1794(室町時代~江戸時代後期)に生じた.山麓の集落には,湖沼・氾濫原の決壊や二次地すべりを示唆する伝承が残されていることも判明した.
著者
目代 邦康
出版者
公益社団法人 東京地学協会
雑誌
地学雑誌 (ISSN:0022135X)
巻号頁・発行日
vol.121, no.2, pp.367-383, 2012-04-25 (Released:2012-05-29)
参考文献数
99
被引用文献数
1 2

IWATA Shuji and KOIZUMI Takeei initiated Japanese geoecology studies in the 1970s. The Colloquium of Cold Region Landform (Kanrei Chikei Danwakai) contributed significantly to Koizumi's studies. Early geoecological studies have been classified into two categories: analysis of landscape structure and research on phytogeography. The former is similar to the general system theory. This concept is a good method for understanding the natural landscape and for resolving regional issues. The latter relates to systematic geography. These studies are mainly conducted in mountain areas. While studies on natural environments in mountain areas have advanced, Japanese geoecological studies seem to have focused on special areas. Furthermore, research trends of Japanese geoecological studies were analyzed by examining competitive funding practices. The results illustrate that there have been three types of study since the 1980s: (1) phytogeographical studies and analysis of the landscape structure in cold regions such as polar and high mountain areas; (2) comprehensive geographical overseas studies; and, (3) problem-solving research on regional issues such as resource management and countermeasures for natural disasters. Currently, phytogeographical studies and problem-solving research are advancing. However, Japanese geoecological studies have not appealed to researchers in different fields until now. The future development of geoecological research requires interdisciplinary research.
著者
目代 邦康
出版者
公益社団法人 東京地学協会
雑誌
地学雑誌 (ISSN:0022135X)
巻号頁・発行日
vol.120, no.5, pp.803-818, 2011-10-25 (Released:2012-01-17)
参考文献数
126
被引用文献数
3 5

Geoconservation for geographical and geological phenomena is the most important concept associated with a geopark scheme. However, there is not enough discussion on geopark activities in Japan. Japanese Earth scientists have acted individually to conserve the natural environment, but large-scale conservation projects have not been carried out as activities of research organizations of academic societies. One of the contributions the Earth sciences have made to society is to report the scientific value of regional natural environments. Japanese Earth scientists should make detailed inventories of landforms, strata, and soil and evaluate them. Earth scientists will be able to contribute to conserving nature and sustainable development of regions through these activities. The RIGS system of the United Kingdom is a good model.