著者
Gillberg Christopher 是永 かな子
出版者
高知大学総合教育センター修学・留学生支援部門紀要編集委員会
雑誌
高知大学総合教育センター修学・留学生支援部門紀要 (ISSN:18831508)
巻号頁・発行日
no.4, pp.97-119, 2010-03

2009年10月8日に高知発達障害研究プロジェクト主催で高知県において行われたスウェーデン・イェーテボリ大学のクリストファー・ギルバーグ教授の講演内容を紹介する。内容はアスペルガー症候群についての診断と定義、有病率、他の障害との重複や併存、妥当性や信頼性、神経心理学的、神経生理学的、そして遺伝的特徴、転帰、検査、遺伝、介入等である。
著者
是永 かな子
出版者
北ヨーロッパ学会
雑誌
北ヨーロッパ研究 (ISSN:18802834)
巻号頁・発行日
vol.16, pp.1-11, 2020 (Released:2021-07-01)

本報告では、スウェーデンにおける民主主義社会の構成員を育成するインクルーシブ教育の基本理念を考察した。それらは地域的差別がない形式的平等と個の教育的ニーズに応じた実質的平等であり、また個人としての自立の尊重と脱家族化であった。ノーマライゼーションに端を発した二元論を前提としたインテグレーションは、一元論もしくは多元論を前提としたインクルージョンに転換している。排除を極力減らすインクルーシブ教育の実践はインクルーシブ社会の創造と相補的な関係にある。インクルーシブ社会においては、他者との共存のために伝統的な「常識」枠組み自体の再検討も行う。全ての者を対象とした総合的なシステムを構築しつつ、多様な個別ニーズにも対応する。社会の構成員がともに学び、お互いの差異に対する知識理解を深めることによって偏見を克服し、排除を回避する積極的な努力が継続的に必要とされていることが再度確認された
著者
林 寛平 是永 かな子 伏木 久始
出版者
信州大学教育学部附属教育実践総合センター
雑誌
教育実践研究 (ISSN:13458868)
巻号頁・発行日
no.6, pp.21-31, 2005-09

The authors showed evidence of the usefulness of "Loggbok" for developing "self study planning ability" in Swedish compulsory schools. But, its educational effects have not been examined. Therefore, this study focused on the effects and the problems of the practical use of "Loggbok". The practical use of "Loggbok" was investigated by a questionnaire, class observation and interview. The questionnaire was distributed to three schools, asking the following questions: (1), do pupils have self-monitoring ability? (2), has the "ability to be responsible" been improved? and (3), does "Loggbok" help the incentive for learning? Class observation and interview in Eklanda-skolan focused on the following: (1), the teachers' approaches to prevent "drop out" and to foster a sense of responsibility in pupils, and (2), equality in teacher-pupil relationship.
著者
石田 祥代 是永 かな子
出版者
北ヨーロッパ学会
雑誌
北ヨーロッパ研究 (ISSN:18802834)
巻号頁・発行日
vol.13, pp.9, 2017 (Released:2018-07-01)

本稿では、北欧で実践されている義務教育諸学校を中心とした児童生徒のための支援の特徴と課題の検証を、文献および資料の分析、質問紙調査および聞き取り調査の結果分析により行った。その結果、一つに、デンマークで主に行われる役割分担型モデル:児童生徒に対しては学校中心に支援を行う一方で、児童生徒の保護者に対してはコムーネの福祉当局が中心に支援を行う、もう一つに、ノルウェーとスウェーデンで主に行われる資源連携型モデル:ニーズに応じて柔軟に支援体制を調整する、最後に、フィンランドで主に行われるインクルーシブ教育モデル:通常学校内に3 段階の特別支援体制を設け、校内で包括的に支援することを試みる、を提示した。そして、各国によって支援の特徴は多少異なるものの、各専門職が役割を担い、ネットワーキングを用いて支援システムを構築していることが明らかとなった。地域性と実践例の検討を加え、我が国における実効性と有用性のある児童生徒のための新たな支援システムモデルを提言することが今後の課題である。
著者
石田 祥代 松田 弥花 本所 恵 渡邊 あや 是永 かな子
出版者
北ヨーロッパ学会
雑誌
北ヨーロッパ研究 (ISSN:18802834)
巻号頁・発行日
vol.17, pp.37-51, 2021 (Released:2022-07-03)

本稿では、文献調査と聞き取り調査を通して、スウェーデンの義務教育からの移行支援およびインクルーシブ教育の構造を明らかにする。スウェーデンでは、義務教育後の進路の選択肢は、後期中等教育機関としての高校・知的障害高等部・聴覚障害高等部・肢体不自由高等部があり、セーフティネットとしての若年者支援プログラムとリカレント教育としての社会教育機関も受け皿として存在する。移行支援では、キャリアカウンセラーと特別教育家が連携し、最適な学習環境の視点からの進路選択、進学希望先への見学促進、教育的支援の情報伝達を行っている。後期中等教育におけるインクルーシブ教育システムを支えるのは子ども健康チーム、対応プログラム、高校の入門プログラムであった。特徴としては、途切れのない障害児教育システム、前期・後期中等教育間の接続、移民の子どもへの教育的支援、学習を保障する生涯教育システムが挙げられた。
著者
石田 祥代 是永 かな子 本所 恵 渡邊 あや 松田 弥花
出版者
北ヨーロッパ学会
雑誌
北ヨーロッパ研究 (ISSN:18802834)
巻号頁・発行日
vol.16, pp.39-52, 2020 (Released:2021-07-01)

本稿は、フィンランドの義務教育から後期中等教育への移行とその支援について、インクルーシブ教育の観点から明らかにすることを目的とする。文献調査と聞き取り調査を実施した結果、①義務教育段階の特別な教育的支援として三段階支援のシステムがあること、②同様の支援システムが後期中等教育においても整備されつつあること、③義務教育修了後、特別な教育的ニーズのある生徒は、基礎学校10年生、高校、職業学校、ヴァルマ、テルマから進路選択を行っていること、④基礎学校における移行支援として、キャリアカウンセラーと特別支援教育教員による進路相談、進学先との調整、学校訪問同行などが行われていることが明らかになった。一方、今後の課題として、①高校・職業学校における進学後のフォローアップ体制の不備、②退学問題への対応の強化、③授業での教育内容調整や直接的支援の必要性、などが示唆された。
著者
石田 祥代 是永 かな子
出版者
北ヨーロッパ学会
雑誌
北ヨーロッパ研究 (ISSN:18802834)
巻号頁・発行日
vol.15, pp.47-56, 2019 (Released:2020-07-01)

デンマークにおける地方自治構造改革は、2004年1 月の「特別委員会による地方自治構造改革についての提案書」ならびに同年6 月の「与野党間における合意書」の締結を経て、2007 年1 月にアムト(amt;県に相当)の廃止をもたらした。同時に、5 つの広域自治体レギオン(region)が創設され、コムーネ(kommune;市町村に相当)は3 万人以上の人口を目安に271 から98 に再編された(Indenrigs-og Sundhedsministeriet, 2005)。教育に関しては、ギムナシウム(gymnasium;高等学校に相当)と高等職業訓練コース(VET;職業専門学校に相当)等の後期中等教育、加えて、高等教育試験課程(HF;大検に相当)はアムトから国へと管轄が移行した。義務教育では、責任を負う管轄はコムーネであり改革前後に大きな変化はなかったものの、特別教育への影響は大きかった。すなわち、従来の特別教育では、コムーネがその責任で対応する場合と、国やアムトが特別な予算を用意して対応する拡大特別教育(vidtgående specialundervisning)があった。拡大特別教育は、比較的重度の障害児を対象としていたので、2007 年以降、重度の障害児も含め全ての子どもを対象とする義務教育の責任はコムーネが負うこととなった。インクルーシヴ教育の目 標値が設定されるに至り、全国のコムーネはインクルーシヴ教育計画を練り、それに基づき実践を行ってきたが、その中で新たな課題に直面するコムーネも少なくなかった。例えばそれらは、特別学校が移管されなかったコムーネにおける特別学校・学級の新設、対象となる子どもの範囲の拡大、移民の増加であり、全国各地で特別教育の費用が急増した。そのため、デンマーク政府は各コムーネに特別教育予算の適正化を図ることを要請し、インクルージョンセンターの設置による通常学校での対応の具体的支援や16 コムーネのパイロットスタディを開始したものの、現在も各コム ーネの固有の条件をふまえた様々なインクルーシヴ教育への取組が模索されている。本研究ノートでは、とくにインクルーシヴ教育推進の中心機関となるPPR が地域性と資源を活用し試行を繰り返している2 つのコムーネに注目し、地方自治構造改革後にインクルーシヴ教育をどのように進めてきたのかに関して、他コムーネとの共通性と2 コムーネの多様性を明確にしながら、浮き彫りにすることを第一の目的とする。改革以降、インクルーシヴ教育はコムーネの責任で行われ、その実践はコムーネごとに独自性をもった取組となっているからである。そして、デンマークが経験した大規模自治体再編後の急激な地方分権制度の進展に伴うインクルーシヴ教育における混乱とその収束を明らかにするために、2 コムーネの調査に筆者らの一連の研究とこれまでに遂行したフィールド調査の分析を検討に加え、その 取組の特徴を示すことを第二の目的とする。
著者
是永 かな子 石田 祥代
出版者
北ヨーロッパ学会
雑誌
北ヨーロッパ研究 (ISSN:18802834)
巻号頁・発行日
vol.15, pp.57-66, 2019 (Released:2020-07-01)

本研究は、スウェーデンにおける子ども健康チームの取り組みを、資源の少ない小規模自治体に注目して、フィールド調査及び関連文献の検討から分析することを目的とした。スウェーデンにおいては、いじめや精神的不安定等子どもの多様な問題に対応する子ども健康チームの設置が求められている。しかし小規模自治体であるトッメリラコミューンは各学校の規模も小さく、自校での子ども健康チーム設置が困難であった。そのためコミューンとして中央子ども健康チームを整備して、コミューンが雇用した専門家の巡回訪問で各学校における支援を提供していた。具体的には、コミューンとして学校心理士や学校福祉士等、必要な専門家を雇用して学校兼任配置したり、支援の申請や分析・介入方法を自治体で共有 したり、重篤な課題に関しては医療や福祉局、警察などと連携したりすることで、多方面からの子どもの支援体制を構築していた。
著者
是永 かな子
出版者
北ヨーロッパ学会
雑誌
北ヨーロッパ研究 (ISSN:18802834)
巻号頁・発行日
vol.11, pp.39-52, 2015 (Released:2018-10-01)

本稿ではスウェーデンにおける高齢者の自立を支える制度と理念について、 高齢者支援にかかわる市中央地区行政当局、 ホームヘルプサービス事務所、 高齢者集会所、 高齢者住宅の現地調査に基づいて考察した。具体的には、イェーテボリ市の各機関において共通項目を用いて聞き取り調査を実施した。 結果として今回の調査研究からは、第一に孤独の回避やコミュニティケア等の予防的かかわり、第二に個別の介護サービス判定に基づく介護と看護の保障、第三に支援内容決定における高齢者の主体的参加の重視という、高齢者の自立を支える制度と理念の近年の傾向が明らかになった。
著者
是永 かな子
出版者
北ヨーロッパ学会
雑誌
北ヨーロッパ研究 (ISSN:18802834)
巻号頁・発行日
vol.9, pp.43-53, 2013 (Released:2018-10-01)

フィンランドにおける特別ニーズ教育の活用と学力形成の関連について、文献検討と現地調査から分析した。 基礎教育法とナショナルコアカリキュラムには段階的教育支援が規定され、個別の計画に基づいた指導が明示されていた。 調査を行ったユバスキュラ市では、第一段階としての通常学級内の環境改善等の一般の教育支援、 第二段階としての個別の計画に基づく強化支援、第三段階と しての専門的見地を含めた個別の計画に基づく全体的もしくは部分的な特別教育が提起されていた。通常学校では、第一段階支援や第二段階支援として、特別学習グループ編成や個別抽出のリソースルーム活用のみならず、教科専門教員と特別教員との連携による協働授業が実施されていた。通常学校における段階的支援に基づく特別ニーズ教育の活用は、子どもに対する早期支援につながり、学習困難の予防策として機能し、結果として学力形成に寄与すると分析した。