著者
木村 凜太朗 萬年 一剛 熊谷 英憲 松井 洋平 伊規須 素子 高野 淑識
出版者
公益社団法人 日本分析化学会
雑誌
分析化学 (ISSN:05251931)
巻号頁・発行日
vol.72, no.7.8, pp.249-256, 2023-07-05 (Released:2023-08-25)
参考文献数
21

箱根温泉・大涌谷の「黒たまご」は,地熱と火山ガス等の化学反応を利用した産物であり,古くから箱根の名物である.卵殻の黒い理由の詳細は,長らく不明のままであった.科学的な知見が少ないまま,殻表面に硫化鉄が付着するためと言われてきたが,黒たまごは放置しておくと1日程度で褪色してしまう.硫化鉄は空気中で比較的安定なため,褪色現象を説明することは困難である.本研究では,まず,黒たまごをクエン酸水溶液中に静置し,薄膜状の黒色物質の単離を行った.次に,単離された黒色物質をさまざまな非破壊及び破壊分析法を用いて検証した.その結果,無機成分は少なく,有機成分であるタンパク質様物質を多く含むことを明らかにした.さらに,炭素(C)・窒素(N)・硫黄(S)の含有量が多いことから,有機物と硫黄を介した架橋反応の形成も示唆された.卵殻外層の黒色物質は,タンパク質様物質のメイラード反応(褐変反応)により生成され,空気中での酸化分解に伴う褪色の可能性が考えられた.そのような準安定的な過程を経て,黒たまごの黒色物質は,保存状態のよい有機─無機複合体として,卵殻外層に存在することが考察された.
著者
渋谷 岳造 上野 雄一郎 小宮 剛 西澤 学 北島 宏輝 山本 伸次 齋藤 拓也 松井 洋平 川口 慎介 高井 研 吉田 尚弘 丸山 茂徳 ラッセル マイケル
出版者
一般社団法人日本地球化学会
雑誌
日本地球化学会年会要旨集 2015年度日本地球化学会第62回年会講演要旨集
巻号頁・発行日
pp.49, 2015 (Released:2015-09-03)

原生代前期には赤道域まで海洋が凍結したという全球凍結イベントがあったとされている。全球凍結の原因については、様々な仮説が提唱されているが、地質記録に基づく大気CO2分圧の推定からはCO2がそれ自体で地球を温暖に保つために不十分だったのかどうかが明らかになっていない。そこで、本研究では南アフリカ、トランスバール超層群のオンゲレック累層 (全球凍結時に海水中に噴出した玄武岩質安山岩) の地質調査・試料採取を行い、海洋底玄武岩の空隙を埋める熱水性石英に含まれている流体包有物の分析を行った。その結果、初生的流体包有物のCO2濃度は5.5 mmol/kg以下であることが明らかになった。また、計算の結果、大気CO2分圧は現在の約21倍以下であり、海水温を氷点温度以上に維持するのに必要なCO2分圧よりも低いと推定された。したがって、原生代前期全球凍結時の大気CO2分圧はCO2の温室効果だけで地球を温暖に保つには不十分であったことが地質記録から初めて明らかになった。
著者
土岐 知弘 大竹 翼 石橋 純一郎 松井 洋平 川口 慎介 加藤 大和 淵田 茂司 宮原 玲奈 堤 映日 中村 峻介 川喜田 竜平 宇座 大貴 上原 力 新城 竜一 野崎 達生 熊谷 英憲 前田 玲奈
出版者
一般社団法人日本地球化学会
雑誌
日本地球化学会年会要旨集
巻号頁・発行日
vol.64, 2017

<p>2016年11月16日~12月15日にかけて、SIP「海のジパング計画」の一環として沖縄トラフの伊是名海穴HAKUREIサイトにおいて、地球深部探査船「ちきゅう」を用いて海底熱水域を掘削した。掘削は、HAKUREIサイトの北部マウンドの頂上から、東側に約500 mの測線上において5本、またリファレンスサイトとしてマウンドから北西500 mほど離れた地点において1本を掘削した。採取したコアから、船上でヘッドスペースガス測定用および間隙水抽出用の試料を採取した。試料から抽出した間隙水について、船上でpH、アルカリ度、栄養塩および硫化水素濃度を、陸上で主成分および微量元素濃度、並びにホウ素同位体比を測定した。また、ガス測定用の試料については、船上で炭化水素および水素濃度を、陸上においてメタンの炭素同位体比を測定した。</p>
著者
市井 和仁 松井 洋平 村上 和隆 山口 靖 小川 克郎
出版者
The Remote Sensing Society of Japan
雑誌
日本リモートセンシング学会誌 (ISSN:02897911)
巻号頁・発行日
vol.22, no.5, pp.625-636, 2002

これまで大気CO<SUB>2</SUB>濃度の予測等に用いられてきたシンプルモデルは,生物圏における炭素循環素過程の経年変動データが不足していたために,生物圏に関して十分な検証が行われていなかった。本研究では,過去20年程度のAVHRRデータを利用して全球NPPの変動を解析し,一方では炭素一エネルギー循環結合モデルを構築し,両アプローチの相互検証を行った上で信頼性を確認した上で,将来予測を行った。<BR>過去のNPPトレンドに関して,気候フィードバックを考慮したモデルでは,考慮しないモデルに比較して,衛星データの結果により近い結果を示した。従って,気候フィードバック効果を導入したことは,妥当であったと結論付けられる。しかし,衛星データから算出されたNPPのトレンドは,モデルから求めた値よりも依然として大きな値である。気候フィードバック効果を考慮したモデルと比較しても2.5倍の開きがあるので,双手法のさらなる改善が必要である。衛星データについては,不十分な大気補正や地表面BRDF補正等の様々なデータ品質の改善が必要である。4-SCEMについては,過去の大気CO<SUB>2</SUB>との不一致の改善や,窒素による肥沃化効果,水分条件の考慮等が必要である。<BR>将来のCO<SUB>2</SUB>濃度や気温の予測の結果,ISAM等他のモデルと比較して,2100年時点で大きな違いは見られなかった。しかし,NPP等の生物圏プロセスについても検証を行うことにより生物圏についても簡単ながら議論ができるようになり,モデルの精度向上と改善へとっながった。<BR>リモートセンシングデータは,過去20年以上にわたって高い時間・空間分解能の地表面等の情報を与えてくれる唯一のデータである。現段階では,衛星データを用いて生物圏等の経年変動や長期トレンドをモニタリングするためには,依然としてノイズが大きく精度が十分でないため,補正等によるS/N比の向上が非常に重要である。現在の地球環境の将来予測モデルでは,生物圏炭素収支の経年変動データが不足しているために,生物圏モデルに十分な制約を与えていない。今後,リモートセンシング等によるより精度の高いグローバルモニタリングにより,モデルにより強い制約を与え,さらには,大気CO<SUB>2</SUB>濃度や気温,各炭素循環プロセスにっいて,より正確な将来予測を行うことが可能となる。