著者
池島 徳大 松山 康成
出版者
奈良教育大学大学院教育学研究科専門職課程教職開発専攻
雑誌
奈良教育大学教職大学院研究紀要「学校教育実践研究」 (ISSN:18836585)
巻号頁・発行日
vol.6, pp.21-29, 2014-03-28

本研究では、現在米国で取り組まれている生徒指導システム(PBIS: Positive Behavioral Interventions and Supports)を参考に、日本の学級で規範意識を高めることのできる開発的生徒指導プログラムを試行的に策定し、そのプログラムの効果等について検討した。実践では、学級児童が相互に認め合うことのできる支援ツールとして、ユニバーサルスタジオジャパンが従業員のホスピタリティ(親切なおもてなし)の向上を図る独自の試みとして開発した "HAND IN HAND" を導入し、居心地のよい学級にしていくためのルールづくりを、 "PBIS プログラム" を参考に子どもたちに作成させた。効果測定には、学級集団の特質を測定する「Q-U(河村,2000)」と、質問紙調査を実施した。その結果、学級の「承認」「被侵害」の改善が確認された。また質問紙調査からは、学級児童相互の関わりの増加と、規範意識の向上が見出された。
著者
大対 香奈子 田中 善大 庭山 和貴 松山 康成
出版者
一般社団法人 日本LD学会
雑誌
LD研究 (ISSN:13465716)
巻号頁・発行日
vol.31, no.4, pp.310-322, 2022 (Released:2022-11-26)
参考文献数
27

学校での児童の問題行動に対し,叱責などの嫌悪的な対応ではなく,望ましい行動を積極的に教え,承認することで増やし,問題行動を予防する実践であるポジティブ行動支援(positive behavior support: PBS)が最近注目されている。本研究ではPBSを学校規模で実践する学校規模ポジティブ行動支援(school-wide positive behavior support: SWPBS)を公立小学校1校で実施し,児童と教師への効果を検討した。結果,SWPBS実施後に児童の授業参加行動の増加が見られ,また主観的な友人関係に関わる適応感が改善したことが示された。教師への効果としては,SWPBS実施後に教師の称賛の回数は変化しなかったものの,叱責については減少が見られた。以上より,本研究のSWPBSの実践は児童および教師に一定の効果が認められた。今後は対象校を増やした検討が望まれる。
著者
松山 康成 沖原 総太 田中 善大
出版者
一般社団法人 日本行動分析学会
雑誌
行動分析学研究 (ISSN:09138013)
巻号頁・発行日
vol.36, no.2, pp.139-148, 2022-03-18 (Released:2023-03-18)
参考文献数
8

研究の目的 本研究では、授業開始時に授業準備行動を行う児童が少ない小学4年生の通常の学級に対して、授業開始時の授業準備行動(話の聞き方と準備物の用意)を対象として、集団随伴性を含む介入パッケージを実施し、その効果を検討した。研究計画 ABCDデザインを用いた。ベースライン期(A条件)に続いて、3つの介入(B条件、C条件、D条件)を実施した。場面 公立小学校通常の学級の授業開始時に介入を行った。対象者 公立小学校4年生1学級の31名(男児16名、女児15名)の児童であった。介入 B条件では話の聞き方の授業とステキな聞き方のルールの掲示を、C条件ではB条件に加えて準備物の授業と集団随伴性の手続き(「グーチャレンジ」),さらに担任の対応を、D条件ではC条件に加えてタイマーの表示を実施した。行動の指標 授業準備行動の指標として授業開始時の静かになるまでの時間を連続記録法によって、授業開始時の準備物の用意を産物記録法によって測定した。結果 静かになるまでの時間はB条件及びD条件の実施によって減少し、準備物の用意はC条件の実施によって増加した。結論 授業開始時の授業準備行動に対する集団随伴性を含む介入パッケージの効果が示された。
著者
松山 康成 三田地 真実
出版者
一般社団法人 日本行動分析学会
雑誌
行動分析学研究 (ISSN:09138013)
巻号頁・発行日
vol.34, no.2, pp.258-273, 2020-03-20 (Released:2021-03-20)
参考文献数
25

研究の目的 本研究の目的は、高等学校における学校規模ポジティブ行動支援(School-Wide Positive Behavior Support)の特に第1層支援の効果について検討することである。研究計画 ABCBCDEデザインが用いられた。場面 公立の高等学校において実施された。参加者 高等学校の在校生734名、教員54名であった。介入 学校における目標行動を生徒と教員にリマインドするためのポジティブ行動マトリクスを作成し校内に掲示した。それに加えて目標行動を実行した生徒へのフィードバックを与えるために、GBT (Good Behavior Ticket)およびPPR (Positive Peer Reporting)の両手続きを導入した。前者は、教員によって提示され、後者は生徒によって提示された。行動の指標 問題行動を示した生徒への懲戒件数および目標行動が生起した数を得るためにGBTカードとPPRカードの数を用いた。結果 SWPBS第1層支援(ポジティブ行動マトリクスの掲示、GBTおよびPPR手続きの導入)により、懲戒件数は減少することが示された。結論 SWPBSにおける第1層支援の介入として、ポジティブ行動マトリクスの掲示とGBTおよびPPRの手続きの適用が有効であることが示された。しかし、今回の第1層支援の方略だけでは、問題行動を示す生徒が残されていたため、第2層支援、第3層支援に位置づけられるようなより高密度で個別的な介入が必要であると考えられた。
著者
宇田光 市川哲 西口利文 松山康成 溝口哲志# 福井龍太# 有門秀記 渡邊毅#
出版者
日本教育心理学会
雑誌
日本教育心理学会第61回総会
巻号頁・発行日
2019-08-29

企画趣旨 本シンポジウムでは,過去4回にわたってPBIS(ポジティブ行動支援:ポジティブ生徒指導)の理論と実践を中心に,我が国の学校現場でのポジティブで予防的な生徒指導の導入方法について検討してきた。 今回は,「PBISと人格教育に関する実践」という副題で合計4名の先生方からPBISと人格教育の理論と実践についてご紹介いただく。そして,ポジティブで予防的な生徒指導を日本の学校において導入する場合には,どのような形が効果的なのか,またどのような課題があるのか,引き続き考えていきたい。米国におけるA中高一貫校での「PBIS」と「人格教育」の実践市川 哲 PBIS(Positive Behavioral Interventions and Supports:ポジティブ行動支援:ポジティブ生徒指導)とは,子供の適切な行動の増加を目的とし,スクールワイド,クラスワイドに行う「ポジティブで予防的」な生徒指導システムである(池田, 2014)。また,予防的支援の第1層,第1層で改善が見られなかった子供に対する第2層,第2層で改善が見られなかった子供に対する第3層の階層的支援からなる(Sugai, 2013)。 人格教育(Character education)とは,米国の子供が学校全体で市民(Citizenship)・公正(Fairness)・責任(Responsibility)・尊重(Respect)・寛容(Tolerance)等の価値概念(徳目)を10程度選択し,1つの概念を1つの単元として,幼稚園から高校まで繰り返し学習させるものである(中原,2017)。 発表者は2017年1月に米国ウィスコンシン州のA中高一貫校(以下,対象校)へ視察を行った。対象校は,視察時点で人格教育導入6年目(PBISも同時期に導入)であった。また,対象校はアメリカ全土で特に優れた人格教育に取り組んでいる学校の1校に選ばれており,人格教育とPBISに同時に取り組んでいた。本発表では,対象校における「PBIS」と「人格教育」の取り組みを紹介する。参考文献池田実(2014)「学校全体の行動教育(肯定的な介入と支援)」生徒指導士認定協会応用講座市川哲・池田実・渡邊毅(2017)米国における小中学校での「PBIS」と「人格教育」の実践に関する視察報告 平成28年度学校カウンセリング学会総会研修会Sugai,G(2013) すべての児童・生徒のためのポジティブな行動的介入と支援 日本教育心理学会第55回総会講演日本の小学校におけるSWPBIS松山康成 石隈(1999)は学校心理学の枠組みから,3段階の心理教育的援助サービスを提唱している。また文部科学省(2010)も,集団指導と個別指導を進める指導原理として,生徒指導事象を第1次から第3次的支援に分けて指導する必要性を示している。このようにわが国において多層支援の重要性は指摘されてきている。アメリカではこの多層支援はMTSS(Multi-Tier System of Supports)と呼ばれ、子どもの学力,行動などの様々な側面を多層支援でサポートしようとする取り組みが近年広がっている。その中でも行動面の多層支援として,PBISが着目されている。 私は,アメリカで取り組まれている PBIS の視察を2013年と2014年に2度行い(枝廣・松山, 2015),アメリカの学級で取り組まれている PBIS の実際を見た。アメリカにおいて数多くの実践研究が行われ支援効果が実証されているPBISであるが,日本ではまだ導入や展開といった動向は少なく,学校全体で取り組むPBISの実践例は僅かである。 そこで本研究では,学校全体でPBISに取り組むためにビジュアル版行動指導計画シート(松山, 2018)を開発し,それを用いて特別活動における委員会活動や児童会活動を通して全校児童を対象に実践を行った。具体的には,児童会活動において登校時におけるあいさつ回数の増加を目指した実践を取り組んだ。また委員会活動において清掃時間における残されたごみの数や大きさの減少を目指した実践を取り組んだ。この他,学校内3つの委員会活動において全校児童対象のSWPBISが実施された。各委員会,児童会担当の教員は,児童とともに行動指導計画シートを作成し、職員会議に提案,他の職員の協力を得ながら児童が主体となって取り組みを展開することとした。参考文献枝廣和憲・松山康成(2015)学校全体における積極的行動介入および支援(SWPBIS)の動向と実際 ―イリノイ州District15公立小学校における取り組みを中心に― 岡山大学学生支援センター年報 (8)27-37枝廣和憲・松山康成(2015)学校全体における積極的行動介入および支援の動向と実際 ―イリノイ州 District15 公立中学校における取り組みを中心に― 岡山大学教師教育開発センター紀要 5(1)35-43松山康成(2018)児童会活動による学校全体のポジティブ行動支援 ―ビジュアル版行動指導計画シートの開発と活用― 学校カウンセリング研究19 25-31 道徳教育とポジティブ生徒指導溝口哲志 近年子ども達による学級崩壊が大きな問題となっている。学級崩壊が起きる要因の一つとして,子どもたちの自己肯定感の低さが考えられる。その為,発表者は子ども達の自己肯定感を向上させることを第一に,学級経営や仲間作りをしてきた。主な取り組みとしては,3つある。 1つ目は「ポジティブカード」の活用である。これは,子ども達による賞賛活動の1つである。具体的には,子どもたちが友達にされて嬉しかった事や,すごいと思った事を星形の紙に書いて帰りの会で発表するという活動である。発表し学級全体から賞賛されることで,子ども達の自己肯定感や自己有用感を高める事を狙いとして取り組んでいる。 2つ目は「道徳カード」の活用である。これは,教師による子どもへの賞賛活動である。子ども達が徳目にあった行動をした際に,子ども達を褒めてカードを渡す活動である。全員の目の前で,教師が賞賛することによって子ども達の自己有用感を向上させる事を狙いとした活動である。 3つ目は「ナンバーワン宣言」である。これは,子ども達が1ヶ月間頑張りたいことや,その理由を紙に書き,毎日朝の会で発表するという活動である。朝の会では子ども達の心が落ち着くような呼吸法やイメージトレーニング等を用いて,一日が穏やかな気持ちから始められるようにする。子ども達を落ち着かせることによって,子ども達が発表しやすい環境を作り,発表を聞いてもらう事で自己肯定感の向上を狙いとした活動である。 これらの活動の成果としては,学級が落ち着きを取り戻し始めたことで,子どもの問題行動が減少したことがあげられる。活動実施以前には嫌なことがあると教室を飛び出したり,友だちに手を出したり等の問題行動があったが,以前よりも穏やかに学校生活を送る事が出来るようになった。さらに,困った友達を見つけた時にはすぐに手を差し伸べる等,互いに協力して活動する姿を多く見ることができた。また,6月上旬に実施したQ-Uの結果は,昨年度と比べて学校に対する満足度が約20%向上していた。この事から,子ども達が学級や教室が居心地の良い所と感じている事がうかがえる。ポジティブ生徒指導(PBIS)と人格教育―行動支援は規範意識を醸成するか福井龍太 アメリカの学校では,学校規則を定め,生徒にその規則を守る指導をし,その規則に違反すれば罰を与えて矯正する,というゼロトレランスを基盤とした段階的規律指導が実施されていたが,罰を与えても生徒の行動が改善しない,という問題が指摘されるようになった。 これを背景としてPBISを取り入れる学校が急速に拡大した。PBISはABA(応用行動分析)を基盤としており,専ら期待行動の強化に焦点を当て,生徒の行動全体における望ましい行動の割合を増やすことによって,結果的に問題行動の発生を予防する。PBISは期待行動そのものに注目した教育的枠組みであるが故に,本来そこに道徳性や人格といった個人特性を介在させる必要はない。 最近のアメリカの学校では,しかしながら,期待行動表において徳目を提示することをはじめとして,PBISと人格教育とが関連付けられはじめている。本発表では,先行研究を踏まえ,PBISと人格教育の関わりについて,規範意識の醸成との関連から検討する。 参考文献Althof and Berkowitz (2006) “Moral education and character education: their relationship and roles in citizenship education,” Journal of Moral Education 35, 495–518.
著者
松山 康成 真田 穣人 栗原 慎二
出版者
一般社団法人 日本教育心理学会
雑誌
教育心理学研究 (ISSN:00215015)
巻号頁・発行日
vol.69, no.1, pp.1-9, 2021-03-30 (Released:2021-05-01)
参考文献数
32
被引用文献数
8

本研究の目的は,小学生高学年を対象とした友人同士の対立場面における介入行動意図尺度を作成し,その信頼性と妥当性を検討することであった。小学5, 6年生の202名(男子児童93名,女子児童109名)を対象に,介入行動意図,向社会的行動,向社会的目標,自己指向的反応,被影響性に関する尺度を含む質問紙調査を実施した。探索的因子分析と確認的因子分析の結果,介入行動意図尺度は援助意図,傍観意図,非介入意図,介入意図の4因子21項目から構成された。介入行動意図尺度は一定のα係数と再検査信頼性係数を示し,十分な内的一貫性が認められた。また,同時に測定した外的基準との関連を示したことから,一定の信頼性と妥当性を有すると考えられた。尺度得点については,学年差が認められ,援助意図は小学5年生の得点が小学6年生の得点よりも高く,傍観意図と非介入意図は小学6年生の得点が小学5年生の得点よりも高いことが確認された。また傍観意図において性差が認められ,男子よりも女子の方が高いことが確認された。最後に本尺度の利用可能性について考察されるとともに,今後の介入行動研究に関して議論された。
著者
山田 賢治 松山 康成
雑誌
日本教育心理学会第62回総会
巻号頁・発行日
2020-09-16

近年,児童生徒の問題行動に対して学校規模ポジティブ行動支援(School-Wide Positive Behavior Support; 以下,SWPBS)が取り組まれつつある(庭山, 2020; Sugai & Horner, 2006)。日本においても小中学校や高等学校において実践が取り組まれているが,SWPBSが学校適応に及ぼす効果については,小学校では明らかにされつつあるものの,中学校では未だ効果が検証された例は見られない。そこで本研究では,公立中学校の1〜3年生の通常学級に在籍する生徒(計9学級,275名)と教職員を対象に中学校でのSWPBSに取り組み,学校適応 (Q-U) に及ぼす影響を検討した。実践は,具体的には1学期にあいさつ運動(全校生徒対象),2学期に,教師の言語称賛増加を目的とした研究授業(3年生対象)と,生徒の言語称賛増加を目的とした研究授業(1年生対象)を実施した。その結果,学校適応(Q-U)における友人との関係および学習意欲,教師との関係,配慮スキル,学級との関係,かかわりスキルにおいて有意な差が認められた。
著者
池島 徳大 松山 康成
出版者
奈良教育大学大学院教育学研究科専門職課程教職開発専攻
雑誌
奈良教育大学教職大学院研究紀要「学校教育実践研究」 (ISSN:18836585)
巻号頁・発行日
vol.7, pp.53-61, 2015-03-31

本研究は、PBIS(Positive Behavioral Interventions and Supports)における第2層支援のCICO(Check-in/Check-out)を参考に、学級に在籍する複数の教育的ニーズのある児童に対して、同じ手順で行える支援モデルをカウンセリングで用いられるスケーリング・クエスチョン技法と応用行動分析で用いられるトークン・エコノミー技法を統合して試作し、学級に在籍する特別支援学級児童1名、特別な教育的ニーズのある児童2名に実施し、その効果を検討した。その結果、対象児童の学校適応感と行動変容、仲間からの受容度の向上が見られた。本研究は近年必要性が論じられつつある多層支援の実現の一助となることが示唆された。