- 著者
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若林 満
- 出版者
- 名古屋大学
- 雑誌
- 名古屋大學教育學部紀要. 教育心理学科 (ISSN:03874796)
- 巻号頁・発行日
- vol.34, pp.173-187, 1987-12-24
わが国企業の国際化は, 1980年代にはいって急速な進展をみせており, 最近の円高傾向はこの動向にはくしゃをかけている。日系企業が海外において受け入れられ, 定着し, 着実に発展するためには, 現地従業員との融合が不可欠である。なぜなら, 日本的経営の最大の特色の一つは, 各企業が独自の方法で人材を育成し, 人的資源の充実と呼応する形で業務の展開を行なうことにあるからである。それ故, 現地従業員をどれだけ教育訓練し, 事業拡大の人的資源として活用できるかが, 今後の海外日系企業の発展の鍵をにぎる重要なファクターの1つとなろう。このような観点から, 本稿では既存の調査データをもとに, アメリカとASEAN調査において日系企業がどのような人材育成の試みを行ない, どのような問題に直面しているかがまず検討された。これらの地域において日系企業は, 各種の日本的経営の試み(終身雇用, 年功序列賃金など)を行なっていたが, 大部分は大きな修正を迫られていた。このことから, 海外日系企業は日本の制度や慣行をそのまま現地に移植するのではなく, これらが発揮していた"経営機能"(雇用安定, キャリア形成, 仕事への動機づけなど)を現地において獲得すべく, 新しい制度や慣行の確立(すなわち新しい人的組織のあり方)が必要であることが主張された。このような新しい人的組織は, 現地の制度や慣行, 日本固有のシステム, それに新たな革新的なアイデアを基礎とした, 混合(hybrid)モデルの性質をもつであろうことが示唆された。加えて新しいシステム構築のための方法について, 若干の提案がなされた。