著者
中坪 史典
出版者
一般社団法人 日本教育学会
雑誌
教育学研究 (ISSN:03873161)
巻号頁・発行日
vol.81, no.4, pp.436-447, 2014 (Released:2015-06-25)
参考文献数
31

本研究の目的は、具体的な保育実践場面を対象に、保育者の感情の表出と抑制に注目し、小学校以降の教師の知見と比較することで、両者の共通点や相違点を探り出すとともに、その実践的意義を検討することである。本研究が示した、「子どもの内面に働きかける」「子どもの主体性を引き出す」ための保育者・教師の感情の表出と抑制に関する知見をもとに、保育学と教育学の間に関して、今後どのような議論が可能であるのかを論じる。
著者
上田 敏丈 秋田 喜代美 芦田 宏 小田 豊 門田 理世 鈴木 正敏 中坪 史典 野口 隆子 淀川 裕美 森 暢子
出版者
一般社団法人 日本保育学会
雑誌
保育学研究 (ISSN:13409808)
巻号頁・発行日
vol.58, no.1, pp.67-79, 2020 (Released:2020-12-08)
参考文献数
29

日本では,約1万の幼稚園があり,その内の70%が私立幼稚園である。私立幼稚園の多くは,ファミリービジネスであり,園長は経営者としての役割も担っているため,保育の質の向上には,実践面の役割を担う主任教諭の役割は重要である。そこで本研究では,私立幼稚園の主任教諭が自身のリーダーシップをどのようなものとして捉え,また自身の役割をどのようなものとして認識しているのか,そこでの主任教諭としてのやりがいや葛藤はどこにあるのかを明らかにすることを目的とする。私立幼稚園の主任教諭8名に対してインタビューを行い,質的データ分析方法であるM-GTA(木下2003)を用いて分析を行った。その結果,25の「分析概念」,9つの[カテゴリー],3つの〈コア・カテゴリー〉が生成された。主任は,園長と職員集団との意思疎通を図り,それぞれの意図を伝達する〈つなげる〉ことと,カリキュラムの調整や職員への指導,心理的支援といった職員集団を〈まとめる〉ことをリーダーシップと捉える一方で,この2つのリーダーシップの間で,やりがいと共に葛藤の〈板挟み感〉を感じていることが明らかとなった。
著者
大道 香織 加藤 望 権 赫虹 中坪 史典
出版者
広島大学大学院人間社会科学研究科
雑誌
広島大学大学院人間社会科学研究科紀要. 教育学研究 (ISSN:24360333)
巻号頁・発行日
no.1, pp.213-220, 2020-12-25

The purpose of this study is to provide an overview of how multi-vocal visual ethnography is applied in the world and to examine its possibilities and problems as a research methodology. Twenty-three academic articles using multi-vocal visual ethnography were collected and analyzed. The analysis results revealed the following: (1) multi-vocal visual ethnography is used as a tool for understanding not only the "visible," but also the "invisible." (2) The technique is used not only in comparative cultural research, but also as a tool for capturing different perspectives within a single culture. (3) Photographs and websites are used as cues, in addition to videos. (4) Cues consist of a variety of content. Unlike conventional ethnography, multi-vocal visual ethnography is a research methodology that has the potential to promote dialogues between researchers and people in and outside the field.
著者
久原 有貴 関口 道彦 小鴨 治鈴 松本 信吾 七木田 敦 杉村 伸一郎 中坪 史典 上田 毅 松尾 千秋
出版者
広島大学学部・附属学校共同研究機構
雑誌
学部・附属学校共同研究紀要 = The Annals of educational research (ISSN:13465104)
巻号頁・発行日
no.43, pp.25-33, 2014

昨今,子どもの健康問題から,幼児期の身体活動の重要性が注目されている。本研究は,森の中で遊びを中心とした保育を行っている森の幼稚園(広島大学附属幼稚園)での身体活動量と体力・運動能力との関係を明らかにした。研究1では5歳児クラスの幼児を対象に歩数という指標を用いて身体活動量を測定した。その結果,森の幼稚園の幼児は一般的な幼稚園の幼児よりも保育時間中に多く歩いたり走ったりしていた。研究2では3~5歳児クラスの幼児を対象にMKS幼児運動能力検査を用いて体力・運動能力を測定し,また,身体活動量と体力・運動能力との関係を調べた。その結果,森の幼稚園の幼児の体力・運動能力は平均的であり,歩数が多い幼児ほど瞬発力とスピードが高かった。研究3では,森の幼稚園の卒園児の体力・運動能力を調べた。その結果,森の幼稚園出身の児童の体力・運動能力は,1年生の時点では平均的で,2年生以降になってから平均よりも高くなっていた。このことから,森の幼稚園という保育環境は幼児期に多くの身体的活動を行うことを促し,それが心情面などへの影響を媒介として,小学校入学以降の体力・運動能力に影響を及ぼす可能性があることが示唆された。
著者
中坪 史典
出版者
広島大学
雑誌
基盤研究(C)
巻号頁・発行日
2011

感情的実践としての保育者の専門性について、特に保育者が子どもの自律的問題解決を促すために自らの感情を意図的に抑制する場面に焦点を当てて検討した。具体的には、日本の保育実践の映像を用いて、日米の保育者にインタビューを実施した。結果は次の通りである。(1)自らの感情を意図的に抑制する保育者の実践は、子どもに介入しないけれども関与しないわけではない「非介入的関与」である。(2)自らの感情を抑制しながらも保育者は、視線や表情を媒介として自らの感情を表出しており、それによって子どもは安心感を得ることができる。(3)子どもの自律性を促すために保育者は、問題状況を共有しながらも自らの感情をあえて抑制する。
著者
岡田 たつみ 中坪 史典
出版者
日本保育学会
雑誌
保育学研究 (ISSN:13409808)
巻号頁・発行日
vol.46, no.2, pp.169-178, 2008-12-25

The objective of this study is to clarify the influence of colleagues in childcare upon the process of understanding a child. The first author, a kindergarten teacher, analyzed her journal of childcare and information from her colleagues with the second author, a researcher, using a qualitative analysis methodology. The results are as follows. First, there exist both verbal and nonverbal types of information. Second, there are four types of information to modify the teacher's understanding. Third, the information has both quantitative and qualitative effects. The colleagues have a great influence on structuring the teacher's understanding of a child by sharing information about events related to the child, their views and values to him/her, and so on.
著者
砂上 史子 秋田 喜代美 増田 時枝 箕輪 潤子 中坪 史典 安見 克夫
出版者
一般社団法人 日本発達心理学会
雑誌
発達心理学研究 (ISSN:09159029)
巻号頁・発行日
vol.23, no.3, pp.252-263, 2012

本研究の目的は,戸外と室内という状況の違いによる幼稚園の片付けの実践知を明らかにすることである。戸外と室内の片付け場面の映像に対する3園の保育者の語りを,質的コーディング(佐藤郁哉,2008)の手法を用いて分析,考察した。その結果,次のことが明らになった。(1)戸外と室内に共通して,保育者は主に子どもの遊びを尊重する,片付けを実行する,言葉かけを工夫する,次の活動の見通しを与える,などの方略を組み合わせて片付けを進める。(2)戸外では,活動範囲が広く空間の移動を伴うため,保育者は子どもとの距離に配慮する。(3)戸外では,満足感や必要感から子ども自身が遊びを終えるように,保育者は遊びを尊重したかかわりを行う。(4)戸外では,子どもとの距離の配慮の仕方や,遊びの尊重と片付けの実行とのバランスは,園の構造的特徴に影響される。(5)室内では,空間の移動がないことなどから,保育者は遊びと片付けが重複する状態で片付けを進める。(6)室内では,保育者は子どもとかかわりながら一緒に片付けを進め,言葉かけに留意し工夫する。