- 著者
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土井 陸雄
伊藤 亮
山崎 浩
森嶋 康之
- 出版者
- 日本公衆衛生学会
- 雑誌
- 日本公衆衛生雑誌 (ISSN:05461766)
- 巻号頁・発行日
- vol.50, no.11, pp.1066-1078, 2003 (Released:2014-12-10)
- 参考文献数
- 78
- 被引用文献数
-
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目的 わが国における単包虫症(単包性エキノコックス症)患者発生の歴史を検討し,その発生要因,予防対策,臨床的対策を検討する。方法 既刊の関係論文・抄録,医学中央雑誌,病理剖検輯報,感染症発生動向調査週報,と畜関連法規,日本帝国統計年鑑,食肉文化・皮革およびと畜場の歴史に関する資料を原資料として,単包虫症患者の発生動向を把握し,畜産,と畜関連法規およびと畜場管理の実態との関係を考察した。結果 わが国における単包虫症患者発生76例を確認した。患者発生は屠場法施行を境として大きく 2 時期に分かれ,屠場法以前には九州,四国,中国地方を中心に単包条虫の感染環が存在していたこと,またそれが軍備増強のための畜産奨励や日清・日露戦争を始めとする中国大陸との人的物的交流と深く関係していたこと,次に屠場法施行後,と畜場衛生管理の整備と不衛生な小規模と畜場の整理統合が行われ,日本国内における患者発生が激減したことなどが示唆された。ただし,この時期に中間宿主(牛およびヒト)からは単包虫症が発見されているが,終宿主(犬)から単包条虫を検出した報告がないため,屠場法施行が単包虫症患者発生減少の原因となったことを示す科学的実証はない。戦後も一時的に国内感染と思われる少数の単包虫症患者発生はあるが,近年は患者の大部分が海外の単包虫症流行域に滞在したことのある日本人および外国人である。結論 単包条虫の感染環を駆逐し,ヒト患者発生を予防するには,と畜場の衛生管理がとくに重要である。近年の海外流行国からの来日外国人の発症に対しては,検査機関の整備と医療情報の周知が重要である。また,海外の流行国から無検疫で輸入されている畜犬に対してエキノコックス検疫体制の整備が急務である。