著者
秦 俊貴 清野 諭 遠峰 結衣 横山 友里 西 真理子 成田 美紀 日田 安寿美 新開 省二 北村 明彦
出版者
日本公衆衛生学会
雑誌
日本公衆衛生雑誌 (ISSN:05461766)
巻号頁・発行日
vol.68, no.7, pp.477-492, 2021-07-15 (Released:2021-07-20)
参考文献数
58

目的 本研究の目的は,食品摂取の多様性を向上させるための10食品群の摂取チェック表(以下,食べポチェック表)について,使用した効果を明らかにする。方法 東京都大田区において実施した2016年と2018年の郵送調査に応答した65-84歳の8,635人を対象とした。2017年7月より大田区において,協力の得られたスーパーマーケットなどの機関に設置する等の方法で普及させた食べポチェック表について,2018年にチェック経験を尋ね,「習慣的にチェックしている」,「チェックしたことがある」と回答した者をチェック経験あり群に分類した。2016年の人口統計学的変数,社会経済的変数,身体的変数,医学的変数,生活習慣関連変数および食品摂取多様性スコア(DVS)の計37の共変量から傾向スコアを算出し,チェック経験あり群となし群の比を1:1としてマッチングし,2年間のDVSの変化をチェック経験あり群となし群各876人について二元配置分散分析を用いて比較した。また,2018年のDVS 3点以下および7点以上を従属変数として,チェック経験なし群に対するあり群の多変量調整済みオッズ比(OR)を多変量調整ロジスティック回帰分析にて算出した。結果 2018年に食べポチェック表のチェック経験があると回答した者の割合は11.9%であった。マッチング後のチェック経験あり群となし群のDVSの平均値±標準偏差は,2016年ではそれぞれ3.9±2.2点,3.9±2.3点,2018年ではそれぞれ4.5±2.4点,4.1±2.4点であり,チェック経験と時間による有意な交互作用が認められた(P<0.001)。2018年でのチェック経験あり群となし群のDVS 3点以下割合は,それぞれ35.2%,43.8%であり,DVS 7点以上割合は,それぞれ21.7%,16.8%であった。チェック経験なし群に対するあり群の2018年のDVS 3点以下のOR(95%信頼区間)は0.68(0.56-0.83)であり,2018年のDVS 7点以上のOR(95%CI)は1.40(1.10-1.78)であった。結論 食べポチェック表の普及とその活用により,高齢者の食品摂取の多様性が向上した可能性が示された。ただし,チェック表を使用した場合でも,欠食や社会的孤立,社会参加がないこと,およびフレイル傾向がある場合は食品摂取の多様性は向上しにくいことが示唆された。
著者
横山 友里 西村 一弘 吉﨑 貴大 串田 修
出版者
特定非営利活動法人 日本栄養改善学会
雑誌
栄養学雑誌 (ISSN:00215147)
巻号頁・発行日
vol.80, no.5, pp.285-293, 2022-10-01 (Released:2022-11-16)
参考文献数
10

【目的】新型コロナウイルス感染症(以下,COVID-19)の感染拡大下における配食事業者のサービス提供体制とその課題を明らかにすることを目的とした。【方法】日本栄養支援配食事業協議会に加盟する配食事業者(21社)を対象に依頼文書を送付し,調査協力への同意が得られた事業者を対象にした。2021年1月~2月に質問紙調査およびインタビュー調査を実施し,配食事業者のサービス提供体制と課題について集計分析を行った。【結果】調査協力への同意が得られた事業者は全13社であった。提供体制の課題として,配送時の感染対策や体制整備,スタッフの感染対策,食数や利用者の増加に対する製造体制の整備,受注業務の体制整備,人材確保等が挙げられた。また,事業者の業態やサービスの特性によっては,医療機関での栄養指導等の減少により,患者に対して配食サービスを紹介する機会が減少していることや,見守りや安否確認が対面でできず,利用者の様子が把握しづらくなっていることも課題として挙げられた。【結論】本研究では,COVID-19の感染拡大下における配食事業者の提供体制に関する課題を整理した。本研究で得られた成果は,感染症発生時に対応した強靭な食環境を整備するうえで重要な基礎資料となるとともに,行政や配食事業者が,感染症の流行に備え,適切に配食サービスを届けるための体制を構築するうえで役立つことが期待される。
著者
横山 友里 吉﨑 貴大 多田 由紀 岡田 恵美子 竹林 純 瀧本 秀美 石見 佳子
出版者
特定非営利活動法人 日本栄養改善学会
雑誌
栄養学雑誌 (ISSN:00215147)
巻号頁・発行日
vol.79, no.3, pp.162-173, 2021-06-01 (Released:2021-07-09)
参考文献数
48
被引用文献数
1

【目的】食品の栄養価を総合的に判断できるよう,特定の栄養素等の含有量で食品を区分またはランク付けする「栄養プロファイルモデル(以下,NPモデル)」が諸外国の栄養政策で活用されている。本研究では,諸外国のNPモデルを調査し,日本版NPモデル策定のための基礎資料の作成および課題整理を行うことを目的とした。【方法】第41回コーデックス委員会栄養・特殊用途食品部会の議題「NPモデル策定のための一般ガイドライン」で共有された既存のNPモデル(97件)の一覧表を用い,対象モデルを抽出した。【結果】採択条件に該当しないモデル(計75件)を除き,調査対象のモデル22件の開発国の内訳は,中南米(1件),北米(5件),欧州(5件),中東(1件),大洋州(2件),アジア(6件),国際機関(WHOの地域事務所)(2件)であった。食品の包装前面の表示(11件),ヘルスクレーム付与に対する制限(5件)を目的としたモデルは一般集団が対象であり,広告規制を目的としたモデル(6件)は子供が対象であった。モデルタイプは閾値モデルが16件,スコアリングモデルが5件,混合モデルが1件で,多くのモデルで摂取を制限すべき栄養素等として,熱量,脂質,飽和脂肪酸,トランス脂肪酸,糖類,ナトリウムを設定していた。【結論】日本版NPモデルの策定にむけた検討課題として,対象栄養素,食品のカテゴリー分類,モデルタイプの設定等が示された。
著者
北村 明彦 阿部 巧 藤原 佳典 新開 省二 清野 諭 谷口 優 横山 友里 天野 秀紀 西 真理子 野藤 悠 成田 美紀 池内 朋子
出版者
日本公衆衛生学会
雑誌
日本公衆衛生雑誌 (ISSN:05461766)
巻号頁・発行日
vol.67, no.2, pp.134-145, 2020

<p><b>目的</b> 高齢者の保健事業と介護予防の一体的実施が進められる中,生活習慣病やフレイル関連の各因子が地域在住高齢者の自立喪失に及ぼす影響の強さ(ハザード比)と大きさ(寄与危険度割合)を明らかにする。</p><p><b>方法</b> 群馬県草津町において,2002~11年の高齢者健診を受診した65歳以上の男女計1,214人(男性520人,女性694人)を対象とし,平均8.1年(最大13.4年)追跡した。自立喪失は,介護保険情報による要介護発生または要介護発生前の死亡と定義した。生活習慣病因子として,高血圧,糖尿病,肥満,腎機能低下,喫煙,脳卒中・心臓病・がんの既往等を,機能的健康の関連因子として,フレイル区分,低体重,貧血,低アルブミン血症,認知機能低下を採り上げた。フレイル区分は,phenotypeモデルの5つの構成要素(体重減少,疲弊,活動量低下,歩行速度低値,握力低値)のうち3項目以上該当をフレイル,1~2項目該当をプレフレイルと定義した。Cox比例ハザードモデルを用いた回帰分析により,各要因保有群における自立喪失発生の多変量調整ハザード比(HR),集団寄与危険度割合(PAF)を算出した。</p><p><b>結果</b> 自立喪失発生者数は475人(要介護発生372人,要介護発生前死亡103人)であった。対象者全体でみると,自立喪失の多変量調整HRはフレイル,プレフレイル,認知機能低下,脳卒中既往,喫煙において1.3~2.2倍と有意に高値を示した。自立喪失のPAFは,プレフレイルが19%,フレイルが12%と他の要因に比し高率であった。男性では自立喪失のPAFは,プレフレイルが19%と最も大きく,次いで喫煙が11%であり,女性では,フレイル,プレフレイルがともに18%,腎機能低下が11%であった。前期高齢者では,フレイル,プレフレイルの他に脳卒中既往,貧血,低アルブミン,認知機能低下,喫煙,糖尿病における自立喪失の多変量調整HRが有意に高く,自立喪失のPAFは,プレフレイルが18%,フレイルが13%,喫煙が11%であった。</p><p><b>結論</b> 高齢者健診の受診者を対象とした検討の結果,自立喪失に寄与する割合が最も大きい要因はフレイル,プレフレイルであった。前期高齢期からフレイル予防,ならびに生活習慣病の予防・改善を図ることが集団全体の自立喪失の低減に寄与すると考えられた。</p>
著者
横山 友里 清野 諭 光武 誠吾 西 真理子 村山 洋史 成田 美紀 石崎 達郎 野藤 悠 北村 明彦 新開 省二
出版者
日本公衆衛生学会
雑誌
日本公衆衛生雑誌 (ISSN:05461766)
巻号頁・発行日
vol.67, no.10, pp.752-762, 2020-10-15 (Released:2020-12-23)
参考文献数
38
被引用文献数
1

目的 「運動」「栄養」「心理・社会参加」を柱としたフレイル改善のための複合プログラムへの参加がその後の要介護・死亡発生リスクや介護費に及ぼす影響を,傾向スコアマッチングを用いた疑似実験的デザインにより検証した。方法 鳩山コホート研究参加者742人のうち,2011年度(47人)と2013年度(30人)に開催した3か月間のフレイル改善教室のいずれかの年度に参加したフレイルまたはプレフレイルの計77人を介入群とした。不参加群は,鳩山コホート研究参加者の中から,介入不参加者(介入対象外であった者のほか,介入対象であったものの,教室参加を拒否した者を含む)を対象に,傾向スコアを算出し,介入群との比を1:2としてマッチングすることにより,設定した。傾向スコアで完全にマッチングできた対象者は介入群70人,不参加群140人,計210人であった。住民異動情報・介護保険情報を突合し,32か月間(教室終了後24か月)の追跡による要介護(要支援含む)・死亡発生リスクをCoxの比例ハザードモデルを用いて算出した。また,ガンマ回帰モデルを用いて介護費の比較を行った。結果 要介護の発生率(対千人年)は介入群が不参加群に比し,有意ではないものの低い傾向を示し(介入群:1.8 vs.不参加群:3.6),不参加群に対する介入群の要介護認定のハザード比と95%信頼区間(95%CI)は0.51(0.17-1.54)であった。また,介入群と不参加群の間で介護費発生の有無に有意な差はみられなかったものの,介護費については,受給者1人あたりの追跡期間中の累積の費用,1か月あたりの費用の平均値はそれぞれ,介入群で375,308円,11,906円/月,不参加群で1,040,727円,33,460円/月と介入群では約1/3の低額を示し,累積の費用(コスト比=0.36, 95%CI=0.11-1.21, P=0.099),1か月あたりの費用(コスト比=0.36, 95%CI=0.11-1.12, P=0.076)ともに,不参加群に比べて介入群で低い傾向がみられた。結論 本研究では統計的な有意差は認められなかったものの,フレイル改善のための複合プログラムの実施により,その後の要介護発生リスクおよび介護費を抑制できる可能性が示された。今後,より厳密な研究デザインによるさらなる検証が必要である。
著者
横山 友里 吉﨑 貴大 小手森 綾香 野藤 悠 清野 諭 西 真理子 天野 秀紀 成田 美紀 阿部 巧 新開 省二 北村 明彦 藤原 佳典
出版者
日本公衆衛生学会
雑誌
日本公衆衛生雑誌 (ISSN:05461766)
巻号頁・発行日
vol.69, no.9, pp.665-675, 2022-09-15 (Released:2022-09-10)
参考文献数
36

目的 食品摂取の多様性得点(DVS)は,日本人高齢者の食品摂取の多様性を評価する指標として,疫学研究や公衆衛生の現場において幅広く活用されている。一方,本指標は1990年代の開発以降,見直しが行われておらず,現在の日本人高齢者の食生活の実態を必ずしも十分に反映できていない可能性がある。本研究では,構成食品群の改訂による改訂版DVS(MDVS)の試作および妥当性の評価を行うことを目的とした。方法 鳩山コホート研究の2016年調査に参加した357人(年齢:76.2±4.6歳,男性:61.1%)を対象とした。DVSおよびMDVSは,各食品群の1週間の食品摂取頻度をもとに,ほぼ毎日食べる食品群の数を評価した。DVSの構成食品群は肉類,魚介類,卵類,牛乳,大豆製品,緑黄色野菜類,果物,海藻類,いも類,油脂類とし,MDVSの構成食品群は平成29年国民健康・栄養調査における65歳以上の食品群別摂取量のデータをもとに,主菜・副菜・汁物を構成する食品群の摂取重量および各栄養素の摂取量に対する各食品群の寄与率をもとに,その他の野菜,乳製品を追加することとした。栄養素等摂取量は,簡易型自記式食事歴法質問票を用いて調べた。「日本人の食事摂取基準(2020年版)」で推定平均必要量が定められている14の栄養素について,必要量を満たす確率およびそれらの平均を算出した。DVS,MDVSと各指標との相関分析および相関係数の差の検定を行った。結果 MDVSとたんぱく質エネルギー比率,脂質エネルギー比率,食物繊維,カリウム摂取量,改良版食事バランスガイド遵守得点との有意な正の関連がみられ(偏相関係数の範囲(r)=0.21-0.45),炭水化物エネルギー比率との有意な負の関連がみられた(r=−0.32)。また,MDVSと14の栄養素の必要量を満たす確率の平均との有意な正の関連がみられた(r=0.41)。これらの関連の程度はDVSとMDVSで同程度であり,相関係数の差は有意ではなかった。結論 栄養素摂取量や食事の質との関連からみた妥当性はDVSとMDVSで同程度であった。DVSの改訂にあたっては全国の大規模集団を対象に精度の高い食事調査を用いたさらなる研究が必要である。
著者
石見 佳子 竹林 純 横山 友里 吉﨑 貴大 多田 由紀 岡田 恵美子 瀧本 秀美
出版者
特定非営利活動法人 日本栄養改善学会
雑誌
栄養学雑誌 (ISSN:00215147)
巻号頁・発行日
vol.80, no.2, pp.79-95, 2022-04-01 (Released:2022-05-24)
参考文献数
49

【目的】人びとが健康な食生活を営むためには,適切な食品の選択が求められる。諸外国では消費者が食品の栄養価を総合的に判断できるよう,特定の栄養素等の含有量で食品をランク付けする「栄養プロファイルモデル」が活用されているが,我が国においては策定されていない。そこで本研究では,加工食品について,日本版栄養プロファイルモデル試案を作成することを目的とした。【方法】WHO Technical meeting 2010報告書,WHO健康な食生活のための食品の包装前面表示ガイドライン及び諸外国のモデルを参考とし,国民健康・栄養調査,日本人の食事摂取基準(2020年版),日本食品標準成分表2015年版(七訂),日経POSデータ等を根拠資料として用いて,加工食品の日本版栄養プロファイルモデル試案を作成し,妥当性を検討した。【結果】①日本の公衆栄養の観点から,対象を18歳以上,対象項目を脂質,飽和脂肪酸,ナトリウム(食塩相当量)及び熱量とした。②日本版栄養プロファイルモデルとしてカテゴリー特異的モデルを選択した。対象食品を調理済み加工食品を含む加工食品とし,一般加工食品は国民健康・栄養調査食品群別表の中分類を基に15カテゴリーに分類した。③対象項目の閾値基準を設定し,各食品カテゴリーについて閾値を設定した。【結論】日本の公衆栄養の状況に応じた日本版栄養プロファイルモデル試案を作成した。
著者
北村 明彦 木山 昌彦 野藤 悠 山岸 良匡 横山 友里 谷口 優 清野 諭 新開 省二 西 真理子 村木 功 阿部 巧 山下 真里 陣内 裕成
出版者
地方独立行政法人東京都健康長寿医療センター(東京都健康長寿医療センター研究所)
雑誌
基盤研究(B)
巻号頁・発行日
2020-04-01

地域住民の疫学研究により、生活因子(身体活動、食事、喫煙、飲酒、精神的ストレス等)、医学的因子(脳卒中、心疾患、動脈硬化、メタボリックシンドローム等の生活習慣病、及び低栄養、サルコペニア、認知機能低下、うつ等の老年症候群)、社会的因子(社会参加、近隣・地域との交流、ソーシャルサポート等)がフレイルの発症に及ぼす影響を中年後期、前期高齢期、後期高齢期の年齢層別に明らかにする。
著者
清野 諭 北村 明彦 遠峰 結衣 田中 泉澄 西 真理子 野藤 悠 横山 友里 野中 久美子 倉岡 正高 天野 秀紀 藤原 佳典 新開 省二
出版者
日本公衆衛生学会
雑誌
日本公衆衛生雑誌 (ISSN:05461766)
巻号頁・発行日
vol.67, no.6, pp.399-412, 2020-06-15 (Released:2020-07-02)
参考文献数
39

目的 本研究の目的は,大都市在住高齢者を対象としてフレイルの認知度とその関連要因を明らかにすることである。方法 東京都大田区で実施したフレイル予防のための地域介入研究のベースラインと2年後調査データを用いた。2016年7月に,郵送法によって65-84歳の男女15,500人の健康度や生活実態を調査した。2018年 7 月に同一集団のフレイル認知度を調査し,この有効回答者10,228人をフレイル認知度の解析対象とした。さらに,これに2016年の調査データを結合できた9,069人を対象として,フレイル認知度の関連要因を検討した。フレイルについて「意味を知っている」または「聞いたことはあるが意味は知らない」と回答した者の割合を認知度とした。これを目的変数とし,年齢,婚姻状況,家族構成,教育歴,等価所得,BMI,既往歴の数,食品摂取多様性得点,腰痛,膝痛,飲酒,喫煙,抑うつ,運動習慣,社会活動,社会的孤立,フレイルの有無を説明変数とした決定木分析とマルチレベルポアソン回帰分析を適用した。結果 フレイルの認知度は20.1%(男性15.5%,女性24.3%)と推定された。決定木分析による認知度の最も高い集団は,社会活動と運動の習慣があり,かつ食品摂取多様性得点が 4 点以上の女性であった(認知度36.3%)。フレイル認知の独立した有意な関連要因は,年齢(1 歳ごと:多変量調整済み prevalence ratio[PR]=1.03,[95%信頼区間=1.02-1.04]),性(女性:1.35[1.21-1.51]),教育歴(高等学校:1.27[1.11-1.45],短大・専門学校以上:1.47[1.28-1.70]),等価所得(250万円以上/年:1.12[1.01-1.25]),運動習慣(あり:1.26[1.11-1.43]),食品摂取多様性得点(6 点以上:1.37[1.21-1.55]),社会活動(あり:1.33[1.20-1.49]),社会的孤立(あり:0.75[0.67-0.85]),フレイル(あり:0.72[0.62-0.84])であった。結論 フレイルの認知度は低水準であった。高年齢で社会経済状態や社会活動・運動・食習慣が良好な女性ではフレイルという用語が比較的よく認知されていた。一方,フレイル対策が必要な者ではフレイル認知度が低いという実態が明示された。ハイリスク者のフレイル予防・改善を促す具体策の検討が急務である。
著者
成田 美紀 北村 明彦 武見 ゆかり 横山 友里 森田 明美 新開 省二
出版者
日本公衆衛生学会
雑誌
日本公衆衛生雑誌 (ISSN:05461766)
巻号頁・発行日
vol.67, no.3, pp.171-182, 2020-03-15 (Released:2020-04-01)
参考文献数
40

目的 日本人高齢者の食品摂取の多様性指標の一つに,食品摂取多様性スコアがある。高齢者を対象とした研究では,身体機能や生活機能,転倒リスク,サルコペニア等との健康アウトカムと食品摂取の多様性の関連が報告されているが,多様な食品摂取による各種栄養素の多寡や食事の特徴について十分検討されていなかった。本報は,高齢者における食品摂取多様性スコアと栄養素等摂取量,食品群別摂取量および主食・主菜・副菜を組み合わせた食事日数との関連を明らかにすることを目的とした。方法 東京都板橋区在住で65~84歳の高齢者182人を対象とした。食品摂取の多様性指標は,熊谷らの食品摂取多様性スコア(DVS)を使用し,0~3点を低群,4~6点を中群,7~10点を高群に分類した。並行して,3日間の自記式食事記録を行い,1日当たりの栄養素等摂取量,食品群別摂取量および主食・主菜・副菜を組み合わせた食事が1日2回以上の日数(以下,バランスのとれた食事日数)を求めた。性,年齢,エネルギーを調整した一般線形モデルによりDVS区分と各食事関連指標との関連について検討した。また,各栄養素の推定平均必要量(EAR)を下回る者の割合を算出し,多重ロジスティック回帰分析によりDVS区分の栄養素別不足リスクを推定した。結果 DVS高群に比し低群ではバランスのとれた食事日数が有意に低値を示した(DVS低群1.4(1.2-1.6)日,中群1.8(1.6-1.9)日,高群1.9(1.7-2.1)日,傾向性P=0.001)。DVS高群に比しDVS低群ではエネルギー,たんぱく質・脂質のエネルギー比率,総たんぱく質,食物繊維,カリウム,マグネシウム,リン,ビタミンK,ビタミンB12の摂取量が有意に低値を示し,炭水化物・穀類のエネルギー比率,炭水化物摂取量は有意に高値を示した。ビタミンCのEARを下回るオッズ比はDVS高群に比し低群で有意に高値を示し,マグネシウム,亜鉛,ビタミンB6のEARを下回るオッズ比DVS中群で有意に高値を示した。結論 DVSが高いことは,たんぱく質および微量栄養素のより多い摂取と有意な関連があり,主食・主菜・副菜を組み合わせた食事を行う機会が多いことが明らかになった。DVSは高齢期に望ましい多様な食品や栄養素の摂取につながる食事の評価指標となり得ると考えられる。
著者
北村 明彦 清野 諭 谷口 優 横山 友里 天野 秀紀 西 真理子 野藤 悠 成田 美紀 池内 朋子 阿部 巧 藤原 佳典 新開 省二
出版者
日本公衆衛生学会
雑誌
日本公衆衛生雑誌 (ISSN:05461766)
巻号頁・発行日
vol.67, no.2, pp.134-145, 2020-02-15 (Released:2020-02-22)
参考文献数
27

目的 高齢者の保健事業と介護予防の一体的実施が進められる中,生活習慣病やフレイル関連の各因子が地域在住高齢者の自立喪失に及ぼす影響の強さ(ハザード比)と大きさ(寄与危険度割合)を明らかにする。方法 群馬県草津町において,2002~11年の高齢者健診を受診した65歳以上の男女計1,214人(男性520人,女性694人)を対象とし,平均8.1年(最大13.4年)追跡した。自立喪失は,介護保険情報による要介護発生または要介護発生前の死亡と定義した。生活習慣病因子として,高血圧,糖尿病,肥満,腎機能低下,喫煙,脳卒中・心臓病・がんの既往等を,機能的健康の関連因子として,フレイル区分,低体重,貧血,低アルブミン血症,認知機能低下を採り上げた。フレイル区分は,phenotypeモデルの5つの構成要素(体重減少,疲弊,活動量低下,歩行速度低値,握力低値)のうち3項目以上該当をフレイル,1~2項目該当をプレフレイルと定義した。Cox比例ハザードモデルを用いた回帰分析により,各要因保有群における自立喪失発生の多変量調整ハザード比(HR),集団寄与危険度割合(PAF)を算出した。結果 自立喪失発生者数は475人(要介護発生372人,要介護発生前死亡103人)であった。対象者全体でみると,自立喪失の多変量調整HRはフレイル,プレフレイル,認知機能低下,脳卒中既往,喫煙において1.3~2.2倍と有意に高値を示した。自立喪失のPAFは,プレフレイルが19%,フレイルが12%と他の要因に比し高率であった。男性では自立喪失のPAFは,プレフレイルが19%と最も大きく,次いで喫煙が11%であり,女性では,フレイル,プレフレイルがともに18%,腎機能低下が11%であった。前期高齢者では,フレイル,プレフレイルの他に脳卒中既往,貧血,低アルブミン,認知機能低下,喫煙,糖尿病における自立喪失の多変量調整HRが有意に高く,自立喪失のPAFは,プレフレイルが18%,フレイルが13%,喫煙が11%であった。結論 高齢者健診の受診者を対象とした検討の結果,自立喪失に寄与する割合が最も大きい要因はフレイル,プレフレイルであった。前期高齢期からフレイル予防,ならびに生活習慣病の予防・改善を図ることが集団全体の自立喪失の低減に寄与すると考えられた。
著者
吉﨑 貴大 横山 友里 大上 安奈 川口 英夫
出版者
特定非営利活動法人 日本栄養改善学会
雑誌
栄養学雑誌 (ISSN:00215147)
巻号頁・発行日
vol.77, no.1, pp.19-28, 2019-02-01 (Released:2019-03-05)
参考文献数
48
被引用文献数
10

【目的】日常の食生活では,複数の食品の組み合わせで食事が構成されている。しかし,多様な食品の摂取とフレイルとの関連は十分に検討されていない。そこで,本研究は地域在住高齢者を対象に食品摂取の多様性とフレイルとの関連を検討することを目的とした。【方法】対象は群馬県邑楽郡で実施された官学連携の健康教室で,ベースライン調査に参加した218名(65~95歳)とした。研究デザインは横断研究とし,自記式質問票を用いた調査を実施した。参加者には基本属性,食品摂取の多様性,フレイルに関する質問を含んだ自記式質問票への回答を依頼した。食品摂取の多様性は,10項目の食品や食品群について1週間当たりの摂取頻度から評価した(以下,多様性得点(0~10点))。フレイルの判定には介護予防チェックリストを用いた。全15項目の各質問につきネガティブな回答に1点を付与し,4点以上の者をフレイルと判定した。解析にはフレイルの有無を従属変数,多様性得点を独立変数とした多変量ロジスティック回帰分析を用いた。【結果】解析対象者の平均年齢,BMIおよび多様性得点はそれぞれ75.5歳, 22.9 kg/m2,3.6点であった。フレイルの者の割合は15.6%であった。多変量ロジスティック回帰分析において,多様性得点とフレイルとの間に有意な関連が得られ,多様性得点が低値群に対する中間群,高値群のオッズ比はそれぞれ0.70(0.21~2.27),0.10(0.02~0.54)であった。【結論】多様性得点が高い者ほどフレイルのリスクが低かった。
著者
田中 泉澄 北村 明彦 清野 諭 西 真理子 遠峰 結衣 谷口 優 横山 友里 成田 美紀 新開 省二
出版者
日本公衆衛生学会
雑誌
日本公衆衛生雑誌 (ISSN:05461766)
巻号頁・発行日
vol.65, no.12, pp.744-754, 2018-12-15 (Released:2018-12-27)
参考文献数
20

目的 大都市部在住の高齢者における孤食の実態についてその頻度を含めて明らかにするとともに,孤食と食品摂取の多様性との関連を示す。方法 2016年6月に,東京都大田区に在住する65歳以上の男女を対象とし,15,500人に自記式調査票を郵送した。回答を得た11,925人(回収率76.9%)のうち,データ欠損を含まない8,812人(有効回答率56.9%)を分析対象とした。毎食一人で食事をとる1週間当たりの日数を孤食頻度として0,1~3,4~6,7日群に分類した。食品摂取多様性得点(DVS)は,10の食品群それぞれの1週間あたりの摂取頻度から算出し,3点以下の場合をDVS低値と定義した。統計解析は,DVSまたは各食品群について「ほぼ毎日食べる」の有無を従属変数,孤食頻度を独立変数,年齢,居住地域,BMI,教育歴,等価所得,就業,独居,既往歴,飲酒,喫煙を調整変数とした二項ロジスティック回帰分析を行った。結果 男性の47.1%,女性の48.5%が週1日以上の孤食であり,さらに男性の14.9%,女性の16.9%が週7日(毎日)孤食であると回答した。孤食頻度0日群と比較して,男性ではすべての頻度の孤食群でDVS低値に対するオッズ比が1.51~2.00と有意に高値を示した。女性では,孤食頻度7日群でのDVS低値のオッズ比は1.15(95%信頼区間0.92-1.43)と有意差はみられなかった。男女とも孤食習慣のある群では,非孤食群と比較して緑黄色野菜類,果物類,油を使った料理を「ほぼ毎日食べる」オッズ比が有意に低値を示した。結論 大都市部の高齢者では,男女ともに半数近くに孤食習慣があることが明らかとなった。孤食群は非孤食群と比較して年齢や等価所得,同居家族の有無とは独立して食品摂取の多様性が低い傾向を示した。本成績は,孤食習慣のある大都市部高齢者の低栄養対策に資する有用な知見となると考えられる。