著者
武居 渡 鳥越 隆士
出版者
一般社団法人 日本発達心理学会
雑誌
発達心理学研究 (ISSN:09159029)
巻号頁・発行日
vol.11, no.1, pp.12-22, 2000-06-30 (Released:2017-07-20)
被引用文献数
1

本研究は手話言語環境にある聾児の非指示ジェスチャーの特徴について明らかにし, 手話の初語との関連について検討することを目的とした。ろうの両親を持つ聾児2名 (5カ月〜15カ月) のコミュニケーション場面がピデオに収録され, 子どもの手の運動を記述し, 分析した。その結果, 非指示ジェスチヤーに関して以下の4点が明らかになった。第一に, 手がコミュニケーション手段として使用される前に, 非指示ジェスチヤーが出現した。第二に, 非指示ジェスチヤーの多くはシラブルを構成し, リズミカルな繰り返しがみられた。第三に, 非指示ジェスチヤーは, 6カ月前後では「記述の困難な単なる手の動き」として観察されたが, 10カ月前後にはそれが「リズミカルな繰り返し運動」ヘと変化し, 1歳を過ぎると「一見サインのようなジエスチャー」が多く見られ, 発達に伴い質的に変化していった。第四に, 非指示ジェスチャーと初語との間に, 連続性が確認された。これらの結果から, 非指示ジェスチヤーは, 音声哺語の特徴と多くの点で類似していることが明らかになり, 手話言語獲得において, 非指示ジェスチャーが手話の音韻体系を作りあげ, 哺語の役割を果たしていることが考えられた。
著者
武居 渡 四日市 章 Takei Wataru Yokkaichi Akira
出版者
筑波大学心身障害学系
雑誌
心身障害学研究 (ISSN:02851318)
巻号頁・発行日
vol.23, pp.147-157, 1999-03

聾児の言語獲得に関する研究の多くは、音声言語に関するものであった。そこで、本研究では、音声言語だけでなく、手話言語の側面から聾児の言語獲得について文献的な資料をもとに考察した。その結果、手話言語環境にある聾児の手話言語獲得過程は、聴児の音声言語獲得過程ときわめて類似していることが示された。また、手指モダリティにも喃語が存在し、手指喃語が手話の初語表出の基礎となっていることも明らかになった。聴児において、音声喃語表出の直前に身体運動が観察され、それがモダリティを越えて音声喃語表出を促すことが報告されているが、聾児の手指喃語は、聴児にも見られる身体運動が、持続的に発展したものだと推測された。以上の結果から、聴児が音声言語を発達させるのと同じように、聾児は手話言語を発達させることが明らかになり、聾児の言語獲得を考える際、手話と音声言語の両方を考える必要性が示された。
著者
鳥越 隆士 武居 渡
出版者
日本手話学会
雑誌
手話学研究 (ISSN:18843204)
巻号頁・発行日
vol.28, no.1, pp.1-19, 2019-12-10 (Released:2020-12-21)
参考文献数
18

本研究は,第一言語として日本手話を獲得しつつある一人のろう幼児が家庭でどのように日本語に接し,それを学んでいるか,絵本読み場面の観察を通して,記述的に明らかにすることを目的とする。 観察した年齢は,4か月齢から4歳3か月齢までであった。日本語の表出やまわりの大人による働きかけに関する455のエピソードが抽出された。質的分析の結果,5つの時期に分けられた。(1)手話による表出がまだ見られない時期,(2)手話による表出の時期,(3)指文字の初出と文字との対応成立の時期,(4)指文字による語の表出と手話との対応成立の時期,(5)多様な日本語の表出と言語意識が育つ時期である。第2期は,手話の表出とともに,文字への関心が見られ,大人の援助も受けながら指先で文字をなぞるなど,プレリテラシー活動が見られた。第3期に指文字が初出した。当初は文字との関連が見られなかったが,文字を指さして指文字を表出するなどを通して両者の関連が形成された。この時期に指文字を通して日本語の音韻が形成されたと考えられた。第4期には,語レベルで指文字を表出するようになり,これを通して日本語の学習が進められた。第5期には,指文字の使用が文レベルにまで広がり,読みの端緒が見られるようになった。母親は様々なストラテジーを用いて日本語の学習を援助していた。例えば,手話を表出するとき,絵や文字を指さして,指文字も表出したり,時には日本語の口型も表出した。このような関わりを通して,日本語と日本手話との関わりの形成を援助していたと考えられた。最後に手話と音声言語のバイリンガル言語環境におけるろう児への教育的援助について議論がなされた。
著者
武居 渡
出版者
日本認知科学会
雑誌
認知科学 (ISSN:13417924)
巻号頁・発行日
vol.15, no.2, pp.289-301, 2008 (Released:2009-11-20)
参考文献数
40
被引用文献数
2

Many linguistic studies reveal that sign language is a fully-grammaticized language, not a pantomimic communication system. This paper reviews the results of investigation for sign language acquisition and examines how sign language studies contribute towards explaining the human capacity for language and the limits of language learning. First, the human capacity of language creation was discussed by reviewing the researches of deaf people with no or inconsistent language input. Second, this paper discussed whether the late language acquisition affects the ability to produce and comprehend a number of syntactic and morphological structures, by assessing sign language abilities of Deaf people who has various language environments. The results showed that the outcome of the sign language was sensitive not about the timing to expose to sign language learning but about the timing of the first language acquisition. Finally, sign language acquisition process in Deaf children was compared to spoken language acquisition process in hearing children. Language modality plays a very minor role in how children acquire language because the developmental course of language is very similar in two modalities. The above teaches us about the nature of human language and cognition.
著者
杉本 寿史 永井 理紗 波多野 都 吉崎 智一 武居 渡
出版者
日本小児耳鼻咽喉科学会
雑誌
小児耳鼻咽喉科 (ISSN:09195858)
巻号頁・発行日
vol.42, no.3, pp.320-325, 2021 (Released:2022-03-31)
参考文献数
10

石川県では平成22年に「いしかわ赤ちゃんきこえの相談支援センター(みみずくクラブ)」が開設された。このセンターは保護者に対して3回の個別相談を行うことで難聴児を療育へつなぐ橋渡しを行っており,開設してから11年目を迎え96名の難聴児を受け入れてきた。今回このセンターをより良いものにするために,平成22年度から平成30年度に当センターに紹介された保護者を対象にアンケートを行い,今後の改善点について考察した。このセンターに対するアンケート結果は概ね良好であったが,下記の項目が今後検討すべき課題と考えられた。(1)システム:精密医療機関との連携強化。養育中の保護者に参加してもらうことも検討。(2)医学的情報提供:説明用の資料を保護者に提供し,資料にそって網羅的に説明する。(3)療育とサポート:療育担当者に参加してもらうことも検討。難聴児へのサポートに関する情報をまとめた資料を保護者に提供する。
著者
武居 渡
出版者
日本教育学会
雑誌
教育學研究 (ISSN:03873161)
巻号頁・発行日
vol.70, no.4, pp.536-546, 2003-12-30

金沢大学教育学部障害児教育
著者
武居渡 四日市 章
出版者
筑波大学心身障害学系
雑誌
心身障害学研究 (ISSN:02851318)
巻号頁・発行日
no.23, pp.147-157, 1999-03
被引用文献数
2

聾児の言語獲得に関する研究の多くは、音声言語に関するものであった。そこで、本研究では、音声言語だけでなく、手話言語の側面から聾児の言語獲得について文献的な資料をもとに考察した。その結果、手話言語環境にある聾児の手話言語獲得過程は、聴児の音声言語獲得過程ときわめて類似していることが示された。また、手指モダリティにも喃語が存在し、手指喃語が手話の初語表出の基礎となっていることも明らかになった。聴児において、音声喃語表出の直前に身体運動が観察され、それがモダリティを越えて音声喃語表出を促すことが報告されているが、聾児の手指喃語は、聴児にも見られる身体運動が、持続的に発展したものだと推測された。以上の結果から、聴児が音声言語を発達させるのと同じように、聾児は手話言語を発達させることが明らかになり、聾児の言語獲得を考える際、手話と音声言語の両方を考える必要性が示された。
著者
武居 渡 鳥越 隆士 四日市 章
出版者
日本特殊教育学会
雑誌
特殊教育学研究 (ISSN:03873374)
巻号頁・発行日
vol.35, no.3, pp.33-41, 1997-11-30
被引用文献数
1

本研究では、離島に住む就学経験のない聾者が自発的に発展させた身振りについて記述し、その特徴を検討した。調査者と対象の聾者との自由会話をビデオに収録し、すべての身振りを単語を単位として書き起こした。その結果、全体の約3割が指さしによって構成されており、指さしが聾者の身振りの中で重要な機能を担っていた。具体物に対する指さしだけでなく、その場にないものまで指さしを使って表し、指さしが語彙として定着した例も見られた。また、指さし以外の身振りでは、現実世界のものの扱い方や対象物をパントマイム的に再現しているわけではなく、手型自体があるカテゴリーを持ち、聾者は現実世界にあわせて手型を選択的に使用していた。このような特徴は、日本手話やアメリカ手話などの体系的な手話言語にも見られ、体系的な手話言語が、身振りの特徴を基にして発展していることが示唆された。
著者
武居 渡
出版者
金沢大学
雑誌
若手研究(B)
巻号頁・発行日
2004

近年、ろう学校幼児部の中で、遊びを通して手話によるコミュニケーションを深める実践は多くなされているが、小学以降の教科学習を可能にするためには、一定以上の手話力が求められる。そのためには、教師と子どもとの手話による会話だけでなく、いつでも同じ表現を見ることができ、また繰り返し使うことのできる手話ビデオ教材が有効であると考えられた。本研究では、幼稚部の活動の中で用いることのできる手話ビデオ教材を作成し、手話の力を小学以降の教科学習につなげていくモデルを提案した。平成17年度に行ったろう学校教員へのインタビュー調査により、行事や幼児が日常体験している身近な出来事を題材にした手話エピソードが教育現場で使いやすいということが明らかになったため、平成18年度は、演劇活動も行っており、日本手話が第一言語であるろう者2名の協力を得て、ろう児の身近な話題について約20のエピソードを手話で表現してもらい、それをビデオ収録した。その上で、収録したビデオを、ろう学校教員(ろう教員2名,聴者教員2名,難聴学級教員1名)に見てもらい、子どもの教育的観点からエピソードの修正を行い、より教材として適切なストーリーになるよう改良を行った。その上で再度、子ども向けに改良されたエピソードを手話が第一言語であるろう者に手話で語ってもらい、スタジオで撮影を行った。編集作業を行った後、最終的に作成された教材として、幼稚部の子どもたちにとって身近な12の話題から構成された手話ビデオが出来上がった。本来であれば、そのビデオをろう学校の幼稚部に配布し、実際の教育実践の中で使ってもらった上で評価を行う必要があるが、時間的に問に合わず、いくつかのろう学校に配布するだけで終わってしまった。今後、ビデオを使ったモデル授業の提案や現場の先生との研究授業の積み重ねなどをしていくことが必要であろう。