著者
武藤 拓之
出版者
日本認知科学会
雑誌
認知科学 (ISSN:13417924)
巻号頁・発行日
vol.28, no.1, pp.182-187, 2021-03-01 (Released:2021-03-15)
参考文献数
26
被引用文献数
2

観察可能な行動を手がかりにしてその背後にある情報処理の仕組みをモデル化し,人の心を理解しようと試みるのが認知心理学の基本的なスタンスである.認知心理学のこのような考え方は,確率モデルでデータの生成過程を表現し,その確率モデルをデータに当てはめることによって現象の理解と予測を促す統計モデリングの手法と非常に相性が良い.特に近年,Stan (Stan Development Team, 2020) やJAGS (Plummer, 2020) といったベイズ推定を実行するための確率的プログラミング言語が登場し,従来よりも容易かつ柔軟に統計モデリングを実施できる環境が整ってきたことは認知心理学にとっても追い風である.このような状況を踏まえ,本稿ではベイズ統計モデリングの強みを生かした最近の認知心理学研究を紹介するa. a  行為主体がベイズの定理に基づいて信念を更新するとみなす意思決定の認知モデル(e.g., 中村, 2009; 繁桝, 1995) については本稿では扱わない.
著者
武藤 拓之
出版者
日本基礎心理学会
雑誌
基礎心理学研究 (ISSN:02877651)
巻号頁・発行日
pp.39.27, (Released:2021-04-01)
参考文献数
37

Hierarchical Bayesian modeling is a powerful and promising tool that aids experimental psychologists to flexibly build and evaluate interpretable statistical models that consider inter-individual and inter-trial variability. This article offers several examples of hierarchical Bayesian modeling to introduce the idea and to show its implementation with R and Stan. As a tutorial, it uses data from well-known experimental paradigms in perceptual and cognitive psychology. Specifically, I present linear models for correct response time data from a mental rotation task, probit models for binary choice data from two psychophysical tasks, and drift diffusion models for both response time and binary choice data from an Eriksen flanker task. The R and Stan scripts and data are available on the Open Science Framework repository at https://doi.org/10.17605/osf.io/2zxs6. The importance of model selection and the potential functions of open data practices in statistical modeling are also briefly discussed.
著者
武藤 拓之
出版者
日本基礎心理学会
雑誌
基礎心理学研究 (ISSN:02877651)
巻号頁・発行日
vol.39, no.2, pp.196-212, 2021-03-31 (Released:2021-06-05)
参考文献数
37
被引用文献数
2

Hierarchical Bayesian modeling is a powerful and promising tool that aids experimental psychologists to flexibly build and evaluate interpretable statistical models that consider inter-individual and inter-trial variability. This article offers several examples of hierarchical Bayesian modeling to introduce the idea and to show its implementation with R and Stan. As a tutorial, it uses data from well-known experimental paradigms in perceptual and cognitive psychology. Specifically, I present linear models for correct response time data from a mental rotation task, probit models for binary choice data from two psychophysical tasks, and drift diffusion models for both response time and binary choice data from an Eriksen flanker task. The R and Stan scripts and data are available on the Open Science Framework repository at https://doi.org/10.17605/osf.io/2zxs6. The importance of model selection and the potential functions of open data practices in statistical modeling are also briefly discussed.
著者
水原 啓太 武藤 拓之 入戸野 宏
出版者
日本認知心理学会
雑誌
認知心理学研究 (ISSN:13487264)
巻号頁・発行日
vol.16, no.2, pp.25-31, 2019-02-28 (Released:2019-03-21)
参考文献数
21

人は自分が意思決定したタイミングを正確に知覚できない.Bear & Bloom(2016)は,画面上に五つの白い円を提示し,実験参加者に任意の円を選ばせた.しばらくして一つの円(標的刺激)を赤色に変化させ,参加者にその円を選んでいたかどうかを尋ねた.その結果,色の変化までの時間(遅延時間)が短いと,標的刺激を選択していたと回答する割合が高かった.これは,実際には色の変化が選択に影響を与えたにもかかわらず,変化前に選択していたと錯覚したことを意味する.本研究では,遅延時間が25~50 msのときに同様の効果が認められたが,さらに短い17 msでは認められなかった.この知見は,意思決定のタイミングについてのポストディクションを支持する新たな証拠である.また,色の変化までに円の選択が間に合ったという報告は,遅延時間が167 ms以下のときに実際よりも多くなることが示された.この結果は,遅延時間が短いときに,意思決定についての意識が後付け的に生じることを示唆している.
著者
武藤 拓之 水原 啓太 入戸野 宏
出版者
日本認知心理学会
雑誌
日本認知心理学会発表論文集 日本認知心理学会第17回大会
巻号頁・発行日
pp.2, 2019 (Released:2019-10-28)

複数の選択肢の中から1つを素早く自由に選択する課題において,自分がどれを選択したかについての意識体験が後付け的に決定されるという現象が知られている。このポストディクション現象は,視覚情報が無意識的に処理されてから意識に上るまでの時間差に起因すると考えられてきた。しかし,従来のモデルは現象の言語的な記述に留まっており,数理的妥当性の検証は不十分であった。そこで本研究は,先行研究の理論的考察を踏まえた仮定から,自由選択の認知過程を表現するシンプルな確率モデルを導出し,このモデルでポストディクション現象が説明できるか否かを検証した。水原・武藤・入戸野 (2019) の2つの実験課題から得られたデータにモデルを適用した結果,全てのデータをこのモデルでよく説明できることが確認された。また,無意識的な処理が意識に上るまでの時間差や選択に要する時間の分布といった有意味な情報を推定できることも示された。