著者
氏家 宏
出版者
Japan Association for Quaternary Research
雑誌
第四紀研究 (ISSN:04182642)
巻号頁・発行日
vol.37, no.3, pp.243-249, 1998-07-31 (Released:2009-08-21)
参考文献数
19
被引用文献数
6 5

沖縄トラフは,琉球島弧の北西側に並走して発達し,さらに北西側に展開する広大な東シナ海大陸棚外縁を縁どっている.現在,そこに黒潮が流入しているが,最終氷期には,推定されている“琉球-台湾陸橋”によって流入を妨げられて,南琉球弧南方沖で大きく東へ転向していたと考えられている.この仮説を琉球弧周辺海域,特に沖縄トラフから得た多数のピストン・コアの安定酸素同位体比測定,タンデム加速器質量分析計による14C年代測定,浮遊性有孔虫群集解析などから確かめた.さらに沖縄トラフのコアでは,浮遊性有孔虫Pulleniatinaグループが最終氷期と同様に,約4,400年前以後約1,000年間,ほぼ欠如に近い産出を示すことから,陸橋区域に黒潮の本格的な流入を妨げるバリヤーが形成され,黒潮本流の転向と南方へのシフティングを促したと推論した.この事件が,これまでにいわれている前期縄文時代後半における寒冷化をもたらしたのかもしれない.
著者
小野 朋典 Midorikawa Yoshiyuki Yamamoto Satoshi Ujiie Hiroshi 小野 朋典 緑川 義行 山本 聰 氏家 宏
出版者
琉球大学理学部
雑誌
琉球大学理学部紀要 (ISSN:02869640)
巻号頁・発行日
no.47, pp.p115-151, 1989-03
被引用文献数
1

本報告は1984年から1987年にかけて実施された琉球大学海洋学科の乗船実習RN-84,-86,及び-87航海で得られた,沖縄本島南方沖,慶良問ギャップ,石垣・西表島周辺海域からの底質サンプルの記載を主目的とする。採取されたサンプルはピストン・コアが8点,グラブ・サンプルが6点, ドレッジ・サンプルが25点に及んだ。記載に先立って行なった予察的研究の結果,次のような点が示唆された。1) 慶良問ギャップ(海裂)では,in situ の島尻層群最上部の泥岩を抜くピストン・コアや,同層群の鮮新銃から最下部更新統部分にわたる泥岩礁を含むドレッジ・サンプルのほかに,浮遊性有孔虫殻を多く含む lime-grainstone (更新統石灰岩?)が採取された.今後の調査で音波探査や深海カメラ等による海底観察と並行した底質サンプリングが行なわれるならば,本海裂の形成運動解明に貢献するであろう。2) 石垣・西表島南方の海溝斜面が先島海段に達する区域の水深2675mの地点より,石灰質砂層と半深海性シルト層の繰り返しから成る turbidite のピストン・コアを採取した。島弧の傾動運動との関連性を,今後追及すべきであろう。そのほかにも,径約5cmに達する大型底性有孔虫・Cycloclybeus carpenteriの生態に関する情報や,西表海底火山が想定されていた位置からの lime-grainstone の採取など,注目すべき材料が得られた。
著者
川幡 穂高 氏家 宏 江口 暢久 西村 昭 田中 裕一郎 池原 研 山崎 俊嗣 井岡 昇 茅根 創
出版者
Japan Association for Quaternary Research
雑誌
第四紀研究 (ISSN:04182642)
巻号頁・発行日
vol.33, no.1, pp.19-29, 1994-02-28 (Released:2009-08-21)
参考文献数
31
被引用文献数
4 4

海洋における炭素循環の変動を調べるために, 西太平洋に位置する西カロリン海盆の海底深度4,409mから堆積物コアを採取して, 過去30万年にわたり平均1,000年の間隔で無機炭素 (炭酸カルシウム) と有機炭素の堆積物への沈積流量を詳細に分析した. その結果, 炭素カルシウムの沈積流量は過去32万年にわたって大きく変動し, 極小値が約10万年の周期をもっていることが明らかとなった. また, 有機炭素の沈積流量は, 主に氷期に増大したが, これは基礎生物生産が高くなったためであると考えた. 無機炭素と有機炭素の形成・分解は, 海洋と大気間の二酸化炭素のやりとりに関しては, 逆の働きをしている. そこで, 堆積粒子に含まれる両炭素の沈積流量の差を用いて, 大気中の二酸化炭素の変動と比較した. その結果, 約5万年前の炭酸カルシウムの沈積流量が非常に増加した時期を除いて, 大気中の二酸化炭素濃度の変動と堆積粒子中の有機・無機炭素沈積流量の変動は第一義的に一致しており, 大気中の二酸化炭素の変動と海底堆積物とが何らかの関連をもっていたことが示唆された.
著者
氏家 宏 市倉 賢樹
出版者
日本古生物学会
雑誌
日本古生物学會報告・紀事 新編 (ISSN:00310204)
巻号頁・発行日
no.91, pp.137-"150-1", 1973-09-20

日本海より得た約40本のピストン・コアのうち25本の予察的検討をおこない, 炭酸石灰補償深度が非常に浅いことを知り, 日本海特有の溶存酸素に富む冷水塊に帰因すると推察する。いっぽう, 同深度より浅い鳥取市沖水域より得たコア(V28-265)は, 920cmに及ぶ全長にかけて, ほぼくまなく浮遊性有孔虫を産出する。卓越する"Globigerina" pachydermaのcoiling ratioから, コア頂部より約120cmのところに完新世・更新世境界(約11, 000年前)を認め, それを境にして古水温の上昇, 還元的条件から酸化的条件へなどの古環境の急変があることを示唆する。もう一つの優勢種であるGlobigerina umbilicataは, ほぼ同コア更新統のみに限られ, 中・高緯度地方の上部鮮新統ないし更新統の示準種となるかもしれない。ただし, V28-265は, Riss-Wurm間氷期には達していないらしい。