- 著者
-
永井 秀利
- 出版者
- 九州工業大学
- 雑誌
- 萌芽研究
- 巻号頁・発行日
- 2002
本年度は,前年度の研究成果を引き継いで,それを発展させるべく研究を進めた.前年度の研究では,他研究に見られる大頬骨筋よりも笑筋を用いる方が有効であることを示したが,本年度の更なる検討により,日常的な軽いあるいは微弱な口唇動作におしいては口角下制筋の方がさらに有効であることを確認した.これにより下顎部のみの比較的狭い領域への電極装着のみで十分である可能性が高まり,実用上の装着負荷をより小さくすることへの見込みも得られた.本年度に提案した口裂周辺の計測位置から得られた波形に基づいて,母音の認識実験も行った.筋電信号は微弱であるため,筋電波形には非常に多くのノイズが含まれる.これをどのように低減するかが大きな問題となるが,本研究ではウェーブレット解析に基づく縮退と大域制限とを併用する手法を提案した.また,特徴パラメータ抽出の際に計測毎の差異を吸収するための正規化の方法についても提案した.認識にはフィードフォワード型のニューラルネットワークを利用し,およそ64%の認識率を得ることができた.さらに,子音認識を目的とした筋の選定とそこから得られる筋電波形の特徴分析を行った.本年度の研究では,顎舌骨筋,胸骨舌骨筋,輪状甲状筋を対象筋として選定した.得られた波形を調査した結果,実際の発声に先行した筋活動の有無による特徴差が観測された他,[k],[s]などの口腔の前方で調音する子音については顎舌骨筋の活動が,[h],[m]などの口腔奥に共鳴空間を作る子音については胸骨舌骨筋の活動が特徴的に表れることが確認された.また,胸骨舌骨筋と輪状甲状筋の活動に関しては,母音発声に際しての特徴差も見られた.現時点ではまだすべての子音を識別できるとは言えないが,いくつかのグループへの識別を行うことは十分に可能と考えられる.こうした成果は,今後,もう少し整理を進めた上で研究発表を行う予定である.