- 著者
-
河合 直樹
永田 素彦
- 出版者
- 公益財団法人 集団力学研究所
- 雑誌
- 集団力学
- 巻号頁・発行日
- vol.33, pp.25-48, 2016
<p><tt> 本研究は,東日本大震災(</tt>2011 <tt>年)の被災地で開催している「書道教室」が,被災住民の内発的復興を促す可能性を,アクションリサーチを通じて検討したものである。書道教室は、被災地の一つである岩手県野田村において,</tt>2012 <tt>年</tt>10 <tt>月からほぼ毎月開催してきた。この実践の大きな特徴は,活動のなかで「復興」という目的を明示しないという点にある。第一著者は,講師役としてこの書道教室を主宰し,参加者および関係者の言動を参与観察した。</tt> <tt><br> 書道教室は,これまで交流のなかった多様な住民が集う新たな共同体となった。すなわち,参加者は,主体的に書道を楽しむだけでなく,それをとおして新たな人間関係を構築した。このことは,書道教室が,生活の立て直しに追われるばかりだった住民にとっての貴重な機会となったことを示唆している。</tt> <tt><br> そのうえで,正統的周辺参加論(レイヴ&ウェンガー</tt>, 1993/1991<tt>)の観点から,書道教室が「復興といわない復興支援」として被災地の内発的復興を促す可能性を論じた。具体的には,次の</tt>3 <tt>点を考察した。(</tt>1<tt>)既存の復興支援活動は,復興を強調することによって「受援者」という受動的な役割を被災者に獲得させてしまう傾向があった;(</tt>2<tt>)それに対して書道教室は,被災者が主体性を取り戻すための新たな共同体として機能した;(</tt>3<tt>)その共同体では,「復興」や「受援者」を強調する支配的な言説に対して,住民が主体的に物事に取り組む姿勢を喚起する新たな言説が創出された。</tt></p>