著者
日比野 愛子
出版者
日本グループ・ダイナミックス学会
雑誌
実験社会心理学研究 (ISSN:03877973)
巻号頁・発行日
vol.56, no.1, pp.82-93, 2016 (Released:2016-10-06)
参考文献数
26

本研究は,実験道具の発展とともに歩んだ生命科学実験室の集合体の変化に迫ったものである。AFM(原子間力顕微鏡)という先端装置は,生物学に応用されていく中で,今後の発展の見込みが計算しにくい,テクノロジカル・プラトー(道具-組織のシステムが保っている一時的な均衡状態)にいたっていた。本研究では,このプラトーがいかなる構造によって成り立ちうるのかを明らかにすることをねらいとする。方法として,国内の生命科学実験室を中心とした生命科学集合体へのエスノグラフィ調査を実施した。回顧の語りからAFMと実験室が発展する経緯を分析した結果,手段であった装置が目的となり,さらに手段へと戻るプロセスを通じてプラトーにいたったことが示された。一方,実験室とそれをとりまく関係者を対象とした共時的な観察や聞き取りからは,プラトーの渦中における装置の意味の重なりとアイデンティティのゆらぎが見出された。以上をもとに,考察では,プラトーを下支えする力に注目し,そこに現代生命科学の市場的性質がかかわっていることを論じた。
著者
山口 富子 福島 真人 橋本 敬 日比野 愛子 纐纈 一起 村上 道夫 鈴木 舞 秋吉 貴雄 綾部 広則 田原 敬一郎
出版者
国際基督教大学
雑誌
基盤研究(A)
巻号頁・発行日
2015-04-01

本研究は、現代社会にさまざまな影響を及ぼす「予測」という行為に焦点を当て、「予測をめぐる科学技術的実践の多様性とそれが政治あるいは社会に与える影響」、また「政治あるいは社会が予測という行為に与える影響」を明らかにすることを目標とする。その問いの答えを導き出すために、平成29年度は、地震、市場、感染症、食と農、犯罪など、諸分野に観察される「予測」の問題について、科学社会学、科学人類学、科学政策、社会心理学、地震学の立場から、個別の事例研究を推進した。事例研究を推進する過程においては、異なる分野で観察される諸現象についても理解を深めるために、科研メンバー間で事例研究の進捗状況を報告するとともに、関連する分野の専門的知識を持つ連携研究者やゲストスピーカを招き、予測と社会の問題についての理解に勉めた。「災害リスク・コミュニケーションの課題と展望」(京都大学防災研究所巨大災害研究センター、矢守克也氏)、「将来予測の方法論」(JAIST北陸先端科学技術大学院大学客員教授、奥和田久美氏)らが主だった話題提供者である。これまでの研究討議を通して、「予測科学」を社会科学的に理解するためには、予測ツールと人びとの行為の接続の問題、政策的ツールに包含される予測と社会の問題等が掘り下げるべき主要な論点である事が解り、平成30年度は、これらの論点を中心に議論を継続し、多様な事例を統合する方策を模索する。また、研究成果を研究者コミュニティーに還元するために、科学技術社会論学会年次大会において「予測をめぐる科学と社会」というタイトルのオーガナイズドセッションを行った事も主要な研究業績として挙げられる。セッションの取りまとめは、若手研究者である鈴木舞氏が行い、研究者育成にも配慮をした。学会での発表要旨、登壇者等については、本科研のホームページを通して日本語と英語で公表し、社会に向けて情報発信も行った。
著者
日比野 愛子
出版者
日本社会学会
雑誌
社会学評論 (ISSN:00215414)
巻号頁・発行日
vol.60, no.4, pp.554-569, 2010-03-31 (Released:2012-03-01)
参考文献数
21
被引用文献数
3

本稿では,科学技術に対する態度におけるDK(don't know,「分からない」)回答の意味を質問紙調査から明らかにする.筆者らは2004年に「バイオテクノロジーに関する意識調査」を日本で実施し,541名の成人男女から回答を得た.数量化III類を用いてDK回答の出現パタンを分析した結果,(1)DK回答群が肯定的回答群/否定的回答群の軸から独立して分離するパタン(疎外的DK)と,(2)DK回答群が肯定的回答群/否定的回答群の軸の中に位置づけられるパタン(両義的DK)が見出された.疎外的DKを顕著に示す層は知識量が相対的に少ないという特徴をもっていた.一方,両義的DKの出現は,回答者個人の知識の多寡によらず,科学技術の問題を消費者個人の選好や利用行動に内在化させる質問状況で顕在化していた.2つのDKの意味は,それぞれ,科学技術という主題における主体的かつ二分法的態度をもつ市民像の問題点を示し,社会的意思決定プロセスでの意識調査の位置づけに再考を迫るものである.
著者
日比野 愛子
出版者
日本社会学会
雑誌
社会学評論 (ISSN:00215414)
巻号頁・発行日
vol.60, no.4, pp.554-569, 2010-03-31
被引用文献数
3

本稿では,科学技術に対する態度におけるDK(don't know,「分からない」)回答の意味を質問紙調査から明らかにする.筆者らは2004年に「バイオテクノロジーに関する意識調査」を日本で実施し,541名の成人男女から回答を得た.数量化III類を用いてDK回答の出現パタンを分析した結果,(1)DK回答群が肯定的回答群/否定的回答群の軸から独立して分離するパタン(疎外的DK)と,(2)DK回答群が肯定的回答群/否定的回答群の軸の中に位置づけられるパタン(両義的DK)が見出された.疎外的DKを顕著に示す層は知識量が相対的に少ないという特徴をもっていた.一方,両義的DKの出現は,回答者個人の知識の多寡によらず,科学技術の問題を消費者個人の選好や利用行動に内在化させる質問状況で顕在化していた.2つのDKの意味は,それぞれ,科学技術という主題における主体的かつ二分法的態度をもつ市民像の問題点を示し,社会的意思決定プロセスでの意識調査の位置づけに再考を迫るものである.
著者
標葉 隆馬 川上 雅弘 加藤 和人 日比野 愛子
出版者
北海道大学科学技術コミュニケーター養成ユニット
雑誌
科学技術コミュニケーション (ISSN:18818390)
巻号頁・発行日
vol.6, pp.17-32, 2009-09

In modern times, there is a growing need for scientists' active participation in science communication. However, scientists' current attitudes toward science communication are unclear, despite the fact that scientists are one of the main actors of science communication. In order to consider the effective participation of scientists in science communication, a survey on scientists' attitude is necessary. To this end, an Internet-based questionnaire survey to researchers in life science fields was conducted in 2008, and 1255 respondents were obtained. The results show the attitudes concerning 1) motivation, 2) hurdle for participating in communication, and 3) way of promoting communication, between strongly active scientists and less strongly active scientists. From the result, we considered the issues of science communication in two aspects: infrastructure and variety of awareness. These are important factors for promoting science communication: infrastructure which makes opportunities for communication constantly without the need for a lot of preparation by scientists, and new communication tools and designs especially of scientists who have less positive view of science communication.
著者
日比野 愛子
出版者
科学技術社会論学会
雑誌
科学技術社会論研究 (ISSN:13475843)
巻号頁・発行日
vol.20, pp.34-40, 2022-07-10 (Released:2023-07-10)
参考文献数
12

本稿では,2021年5月8日に開催された科学技術社会論学会シンポジウム「新型コロナ・自然災害・原発事故についていかに分かり合うのか―コミュニケーションを再考する」での議論を整理し,突発的かつ大規模な災害による危機的状況(クライシス状況)でのコミュニケーションのあり方について検討をすることを目的とする.第一に,予言の自己破壊という観点からクライシス状況におけるコミュニケーションの本質的な困難を述べた.続いて,シンポジウムで発表された新型コロナ(奈良報告),自然災害(関谷報告),原発事故(寿楽報告)の報告をもとに災害におけるコミュニケーションの課題を整理した.最後に,あらためて三領域に共通する課題を取り出し,コミュニケーションのあり方とコミュニケーションの位置づけを振り返った.
著者
永田 素彦 日比野 愛子
出版者
科学技術社会論学会
雑誌
科学技術社会論研究 (ISSN:13475843)
巻号頁・発行日
vol.5, pp.73-83, 2008-06-30 (Released:2021-08-01)

The present study examines determinants of the public's attitude formation toward biotechnological applications in Japan, the United Kingdom, Germany, and France. Specifically, using quantitative survey data, we examine the relative influence of perceived benefit, risk, and moral acceptability on overall support or rejection of biotechnological applications, as well as the typical logic underlying public support or opposition of these applications. The study resulted in three major findings: (i)people distinguish sharply between different applications, and the level of support varies across each application according to different assessment of its benefit, risk and moral acceptability; (ii) perceived risk was much less influential to the overall decision of supporting or rejecting biotechnological applications than moral acceptability and perceived benefit; (iii) four prototypical logics of supporting/opposing biotechnological applications were identified. Taking all the results together, perceived moral acceptability appeared to act as a veto over deciding to support each application. Finally, we discuss the need for moral communication rather than risk communication.
著者
日比野 愛子 永田 素彦
出版者
科学技術社会論学会
雑誌
科学技術社会論研究 (ISSN:13475843)
巻号頁・発行日
vol.5, pp.59-72, 2008-06-30 (Released:2021-08-01)

The present study examined how media discourse on biotechnology using genetic engineering has changed in Japan. Specifically, using the online database of the Asahi newspaper, the annual numbers of articles concerning biotechnology were counted, and an analysis of the content was conducted. The results show three major findings: (i) the number of articles has gradually decreased since 2001, (ii) the frame of economic prospect has been considerably dominant since 2001, (iii) patterns of media discourse on "regulation," "food," and "concern" of biotechnology have dramatically changed, while patterns of media discourse on "medical issues," "generic research," and "economics" have remained stable. The discussion focuses on how biotechnology has been accepted as an accomplished fact under the frame of economic prospect by media discourse in Japan.
著者
Aiko Hibino 日比野 愛子
出版者
国立民族学博物館
雑誌
国立民族学博物館研究報告 = Bulletin of the National Museum of Ethnology (ISSN:0385180X)
巻号頁・発行日
vol.44, no.2, pp.255-278, 2019-10-29

本稿では,労働生産の文脈で手作業と機械がどのような関係性を取り持つのかを技術論・組織論の観点から明らかにすることを目的とする。技術史家の中岡哲郎の理論的枠組みに沿うならば,手作業と機械の関係性のあり方は,工場が一つの組織として成り立つ過程の中で定まっていく。日本の青森県に立地する食品加工工場と機械加工工場でのフィールド調査をもとに,機械化が進む際の手作業と機械の新たな役割,ならびに分業を検討した。そこでは,“手作業の復権” とも呼べるような手作業の役割の強化が見出される一方,機械にシンボルとしての役割が付されていた。加えて,工程を制御するための知的熟練にも限界があることを事例の中から提起した。こうした手作業と機械の関係性は,生産の流動化と高付加価値化といった外部環境に対応する過程の中で形成されてきたと考えられる。総合考察では,以上の身体-機械関係性の議論が現代の自動化問題に対して持つ含意について論じた。
著者
日比野 愛子
出版者
日本グループ・ダイナミックス学会
雑誌
実験社会心理学研究 (ISSN:03877973)
巻号頁・発行日
vol.56, no.1, pp.82-93, 2016

<p>本研究は,実験道具の発展とともに歩んだ生命科学実験室の集合体の変化に迫ったものである。AFM(原子間力顕微鏡)という先端装置は,生物学に応用されていく中で,今後の発展の見込みが計算しにくい,テクノロジカル・プラトー(道具-組織のシステムが保っている一時的な均衡状態)にいたっていた。本研究では,このプラトーがいかなる構造によって成り立ちうるのかを明らかにすることをねらいとする。方法として,国内の生命科学実験室を中心とした生命科学集合体へのエスノグラフィ調査を実施した。回顧の語りからAFMと実験室が発展する経緯を分析した結果,手段であった装置が目的となり,さらに手段へと戻るプロセスを通じてプラトーにいたったことが示された。一方,実験室とそれをとりまく関係者を対象とした共時的な観察や聞き取りからは,プラトーの渦中における装置の意味の重なりとアイデンティティのゆらぎが見出された。以上をもとに,考察では,プラトーを下支えする力に注目し,そこに現代生命科学の市場的性質がかかわっていることを論じた。</p>