著者
津田 恭充
出版者
公益社団法人 日本心理学会
雑誌
日本心理学会大会発表論文集 日本心理学会第84回大会 (ISSN:24337609)
巻号頁・発行日
pp.PC-151, 2020-09-08 (Released:2021-12-08)

自分を指すときに一人称単数代名詞の代わりに自分の名前を使うことがある。これはイレイズム(illeism)と呼ばれ幼児期では一般的な現象である。青年期以降では,欧米では名声をもった人物(特に男性)が公的場面でまれにイレイズムを使用する程度であるが,日本では女性が私的場面で頻繁に用いる。また,欧米ではフルネームやラストネームを用いるが,日本では主にファーストネームを用いるという違いがある。こうした特徴をもった現象を表す述語はないため,ここではこれをファーストネームイレイズム(以下,FMIと略す)と呼ぶことにする。本研究ではFMIは自己愛を反映していると仮定した。研究参加者は175名の女子大学生で,顕在的自尊心(山本ら,1982),潜在的自尊心(Single-Target IAT; Karpinski & Steinman, 2006),日常会話で最も頻繁に使う自称詞を測定した。Jordan, et al.(2003)にならって顕在・潜在的自尊心の高低を組み合わせて4群を設け,FMI使用者の割合を比較した。残差分析の結果,潜在的自尊心低・顕在的自尊心高群(自己愛的とされる群)ではFMI使用者の割合が有意に高かった(p<.001)。つまり,仮説は支持された。心理学的および言語学的観点から考察を行った。
著者
津田 恭充
出版者
日本パーソナリティ心理学会
雑誌
パーソナリティ研究 (ISSN:13488406)
巻号頁・発行日
vol.19, no.3, pp.245-254, 2011-04-20 (Released:2011-06-23)
参考文献数
21
被引用文献数
3 2

妄想の認知療法では,妄想の内容を変えることよりも,感情や行動を変えるほうが重要だという指摘がある。この考えに基づいて,本研究では,被害妄想に伴う感情を測定する尺度(EPDS)を開発した。大学生401名(男性209名,女性192名)がEPDSに回答し,そのうちの130名(男性60名,女性70名)が自己関係づけ尺度と妄想観念チェックリストにも回答した。構造方程式モデリング(SEM)を用いた検証的因子分析の結果,モデルはデータによく適合しており,因子的妥当性が確認された。EPDSと他の尺度との間には有意な相関が認められ,併存的妥当性が示唆された。また,尺度項目について高い判別力や高い内的整合性が得られた。これらの結果は,EPDSが十分な信頼性と妥当性を有することを示唆している。
著者
津田 恭充 ツダ ヒサミツ Tsuda Hisamitsu
出版者
大阪大学大学院人間科学研究科対人社会心理学研究室
雑誌
対人社会心理学研究 (ISSN:13462857)
巻号頁・発行日
vol.15, pp.71-76, 2015

これまでの研究で,曖昧さに対する非耐性がパラノイアの素因であることが示唆されている。曖昧さに対する態度には、従来から議論されているネガティブな態度以外にポジティブな態度も存在するが、後者についてはパラノイアとの関連がまだ明らかでない。そこで本研究では,大学生197名を対象に、曖昧さに対するいかなる態度がパラノイアの素因となりうるのかについて検討を行った。パラノイアの指標として、青年期によくみられるパラノイア的な自己関係づけを測定し、曖昧さへの態度を「曖昧さの享受」、「曖昧さの受容」、「曖昧さへの不安」、「曖昧さの統制」、「曖昧さの排除」の5つの側面から測定した。構造方程式モデリングの結果,曖昧な事態に対して不安を覚える「曖昧さへの不安」や、情報収集などによって曖昧さを統制しようとする「曖昧さの統制」がパラノイアと関連していることがわかった。これは、曖昧さに対するネガティブな態度がパラノイアの素因であるという先行研究と一致する結果であった。
著者
津田 恭充
出版者
日本カウンセリング学会
雑誌
カウンセリング研究 (ISSN:09148337)
巻号頁・発行日
vol.44, no.2, pp.101-109, 2011

人は不確実な対人状況におかれたとき,不確実性を低減させるための情報収集が動機づけられる。このとき,他の人から本心を聞き出すスキルが低いと十分な情報収集ができず,不足した情報を補完するための反すうが生じる。そして,それが関係妄想的認知につながることが先行研究により明らかにされている。しかし,他の人の本心を知るための方略は実際には数多く,それらの方略ごとの効果の違いは明らかにされていない。そこで,本研究では,どのような情報収集行動をどの程度とるのかを測定する情報収集スタイル尺度を開発した。探索的および検証的因子分析の結果,尺度は"当事者とのコミュニケーション""当事者の観察""他の人の意見""メディアの活用"の4因子で構成されることがわかった。次に,反すうを媒介した情報収集行動と関係妄想的認知の関連を調べるためにパス解析を行った。その結果,"当事者とのコミュニケーション"は反すうとの間に負の関連を,他の3つの情報収集行動は反すうとの間に正の関連を示した。反すうは関係妄想的認知と正の関連を示していた。反すうに対する情報収集行動の対照的な影響を説明するため,情報価について考察がなされた。
著者
津田 大希 津田 恭充
出版者
人間環境学研究会
雑誌
人間環境学研究 (ISSN:13485253)
巻号頁・発行日
vol.18, no.1, pp.3-8, 2020

In recent years, whistleblowing has uncovered several cases of wrongdoing committed by organizations and individuals in Japan. However, a survey by Japan's Consumer Affairs Agency (2016) showed that the prospect of retaliation inhibits people from whistleblowing. Although the Japanese government is considering establishing legal penalties for people who retaliate against whistleblowers research has yet to determine whether such penalties encourage whistleblowing in actuality. According to the social impact theory, diffusion of responsibility becomes more likely as more people recognize wrongdoing or when the wrongdoing is recognized by a strong authority figure. Previous studies have shown that when diffusion of responsibility occurs, individuals' intention to report wrongdoing is suppressed. However, previous research has not examined whether the presence of a strong authority figure inhibits whistleblowing intention. Using a hypothetical situation method, the present study examined whether the intention to report wrongdoing is influenced by the number of people who recognize the wrongdoing, the authority of those who recognize the wrongdoing, and the existence of legal penalties for retaliation against whistleblowers. Three hypotheses were formulated: (1) participants are more likely to report wrongdoing when there are legal penalties for retaliating against whistleblowers compared to when no such penalties exist; (2) participants are less likely to report wrongdoing when a strong authority figure (e.g., the manager from a head office) recognizes the wrongdoing, as opposed to someone with weak authority (e.g., a manager without decision-making power); (3) the intention of reporting whistleblowing does not depend on the number of people aware of the wrongdoing. A total of 226 university students participated in the study. 2 (the presence of legal penalties for retaliation against whistleblowers) × 2 (number of people who recognize wrongdoing) × 2 (authority of a boss who recognizes wrongdoing) analysis of variance (ANOVA) was conducted. The results showed that hypotheses 1 and 2 were supported, whereas hypothesis 3 was not. These findings suggest that whistleblowing will be encouraged when legal penalties exist against retaliation and when companies train managers to be aware of the influence of authority.
著者
津田 恭充
出版者
日本カウンセリング学会
雑誌
カウンセリング研究 (ISSN:09148337)
巻号頁・発行日
vol.44, no.1, pp.10-18, 2011 (Released:2012-02-29)
参考文献数
17

本研究の目的は,不確実な対人場面における他者の本心の反すうが関係妄想的認知を生じうるということを検討することであった。関係妄想的認知には,ネガティブな主題のものとポジティブな主題のものがあるが,ポジティブな関係妄想的認知を測定する尺度は存在しない。そこで,研究1ではポジティブな関係妄想的認知尺度を開発した。大学生328名を対象に質問紙調査を行った。その結果,尺度の内的整合性,因子的妥当性,併存的妥当性が確認された。研究2では,大学生196名に,(1)ポジティブな関係妄想的認知尺度,(2)自己関係づけ尺度(ネガティブな関係妄想的認知尺度),(3)不確実な対人場面における他者の本心についての反すう尺度,(4)自尊感情尺度,に回答してもらった。自尊感情を統制した場合における,反すうから関係妄想的認知への影響を検討するため,共分散構造分析を行った。その結果,不確実な対人場面における他者の本心についての反すうは,ネガティブおよびポジティブな関係妄想的認知を引き起こしうることが示唆され,仮説は支持された。反すうと関係妄想的認知との因果関係を確証するための,実験的あるいは縦断的研究が求められる。
著者
津田 恭充
出版者
愛知学泉大学
雑誌
若手研究(B)
巻号頁・発行日
2013-04-01

パラノイアの生起メカニズムを自尊心の観点から説明する2つのモデルが提唱されている。ひとつは、潜在的に低い自尊心が顕在化することに対する防衛としてパラノイアが生じるとするものである。これによれば、潜在的に自尊心が低くとも、パラノイア(誰かに陥れられた。私は悪くない)を抱くことで顕在的には自尊心は保護される。もうひとつのモデルは、パラノイアには防衛的な側面はなく、低い顕在的自尊心を直接反映していると仮定するものである。本研究では、質問紙調査および認知実験によってこれらのモデルの検討を行った。その結果、いずれの分析でも後者のモデルが支持された。