著者
片山 直樹 馬場 友希 大久保 悟
出版者
一般社団法人 日本生態学会
雑誌
日本生態学会誌 (ISSN:00215007)
巻号頁・発行日
vol.70, no.3, pp.201, 2020 (Released:2020-12-24)
参考文献数
121
被引用文献数
4

水田の生物多様性に配慮した農法の実際の保全効果を明らかにするため、三種類のデータソースをもとに整理した:(1)農林水産省委託プロジェクトによる全国規模の調査結果、(2)農林水産省による環境保全型農業直接支払制度の事業効果測定調査結果、(3)既往学術文献。まず委託プロジェクトでは、全国規模の野外調査の結果、有機栽培が慣行栽培と比較して複数の分類群(植物、無脊椎動物、トノサマガエル属および水鳥類)の種数・個体数が多いことが明らかとなった。次に農林水産省の調査結果では、有機栽培、冬期湛水および総合的病害虫・雑草管理(IPM)の取組により無脊椎動物およびカエル類の個体数から計算される生物多様性スコアが増加することが明らかとなった。さらに、既往の学術文献のシステマティックレビューを行い、生物多様性に配慮した農法(有機栽培、冬期湛水、IPMを含む特別栽培、江の設置、休耕田ビオトープ、中干し延期、魚道の設置、畔の粗放的管理)の保全効果について、分類群ごとに知見を整理した。これら全ての知見の質・量および結果の一貫性に基づき、各農法の保全効果を4つの「信頼度」(十分確立している、確立しているが不完全、競合する解釈あり、検証不足)をつけて分類群ごとに評価した。その結果、保全効果は農法ごとに、また一つの農法でも分類群ごとに大きな差があり、結果の信頼度も多様であった。加えて、多くの研究事例が圃場1筆程度の小さな空間スケールでの評価であり、個体群・群集レベルでの保全効果を示唆する知見は非常に少なかった。これらの結果をもとに、今後の生物多様性保全に配慮した農業のあり方や研究の方向性について議論を行った。
著者
片山 直樹 熊田 那央 田和 康太
出版者
応用生態工学会
雑誌
応用生態工学 (ISSN:13443755)
巻号頁・発行日
vol.24, no.1, pp.127-138, 2021-07-28 (Released:2021-10-01)
参考文献数
107
被引用文献数
1

鳥類の生息地としての水田生態系の機能を明らかにするため,国内を中心に既往研究を整理した.その結果,水田は年間を通じ,多くの鳥類に採食場所を提供していることが示された.水田だけで生活史を完結させる種は少なく,草地や森林等の生息地の異質性が鳥類の種多様性を支えていた.しかし,戦後の農業の集約化は,水田の生息地としての質を低下させ,鳥類の生息・分布にも深刻な影響をもたらした.1970 年代以降の休耕・耕作放棄に伴う植生遷移は,鳥類の群集組成を大きく変化させた.水田性鳥類を保全するためには,有機栽培,冬期湛水,江や魚道の設置等の様々な環境保全型農業が有効であることが示唆された.これらの知見は,応用生態工学会の関係者が今後,水田生態系の保全を計画・実行する際に活用可能である.
著者
夏原 由博 中西 康介 藤岡 康弘 山本 充孝 金尾 滋史 天野 一葉 李 美花 片山 直樹
出版者
一般社団法人 日本生態学会
雑誌
日本生態学会誌 (ISSN:00215007)
巻号頁・発行日
vol.70, no.3, pp.231, 2020 (Released:2020-12-24)
参考文献数
47

本研究ではサギ類を水田の生物多様性の指標と位置づけ、環境保全型稲作によるサギ類の個体数増加の効果を検証することを目的とした。滋賀県野洲市、高島市、愛知県豊田市のそれぞれで、慣行農法による稲作水田と特別栽培または有機栽培の水田を選び、2014年から2016年まで昼行性サギ類(アオサギ、ダイサギ、チュウサギ、コサギ)の個体数とその主要な餌となる魚類、オタマジャクシの個体数をトラップおよびすくい取りによって調査した。また、滋賀県で取り組まれている堰上式魚道の効果を検証するために、2016年に野洲で魚道水田と魚道の設置されていない水田の比較を行った。サギ類個体数と魚類個体数は慣行水田と比較して有機水田で多く、オタマジャクシ個体数は農法による差が認められなかった。有機水田は慣行水田で行われている輪作をしないことや農薬不使用のため魚類(主にドジョウ類)の個体数が多いことがサギ類を増加させたと考えられた。魚道の設置は魚類個体数を増加させ、ダイサギとチュウサギの個体数を有意に増加させたがアオサギは差が認められなかった。アオサギは稚魚より大きな餌を好むためと考えられた。また、オタマジャクシ個体数は魚道水田で少なかったが、カエルが魚類のいる水田を避けて産卵するか、卵やオタマジャクシが魚に捕食されたと考えられた。
著者
片山 直樹 村山 恒也 益子 美由希
出版者
日本鳥学会
雑誌
日本鳥学会誌 (ISSN:0913400X)
巻号頁・発行日
vol.64, no.2, pp.183-193, 2015 (Released:2015-12-13)
参考文献数
49
被引用文献数
2 6

水田の有機農法がサギ類(ダイサギArdea alba,チュウサギEgretta intermedia,アオサギA. cinerea)にもたらす効果を検証するため,2013-2014年の5-7月に茨城県と栃木県の有機および慣行水田で野外調査を行った.採食行動調査の結果,ドジョウなどの魚類とカエル類が主食だったが,その割合は種ごとに異なっていた;ダイサギ,チュウサギ,アオサギの順に魚類の割合が高かった.また,いずれの種でも有機水田では慣行水田よりも魚類の割合が高くなっていた.一般化線形モデルを用いて解析した結果,有機農法は採食効率(g/min)に正の影響をもっていたが,その傾向はダイサギでのみ明瞭であるようだった.また有機農法は,ダイサギとアオサギの採食個体数に正の影響をもっていた.以上を踏まえ,本研究では有機農法の正の効果はダイサギでは一貫して認められたが,チュウサギとアオサギでは不明瞭であると結論づけた.この理由としては,食物種(魚類やカエル類)ごとの水田農薬の影響の違いや,有機農法の実施面積割合の少なさ(日本全国では総水田面積の約0.28%,本研究の鳥類センサス地点から周囲200 m以内では18-68%)などが考えられた.
著者
藤田 剛 東 淳樹 片山 直樹
出版者
東京大学
雑誌
基盤研究(C)
巻号頁・発行日
2018-04-01

本研究では、里山の生物多様性を広域にわたり保全する方策として、里山の象徴種猛禽サシバの生息地保全に農地の栽培体系がどう貢献しているか、気候帯の違う複数地域での解明を目的とした。その結果、サシバ分布北限にあたる北東北では、田植え時期は温暖な関東よりわずかに遅い程度で、サシバはため池の多い農地で繁殖していること、カエル類はため池周辺で高密度に分布していることが明らかになった。サシバ分布南西部にあたる九州中北部では二毛作が盛んで田植え時期が関東より1か月遅く、主な餌生物のカエル類がほとんど生息していなかった。そして、バッタ類の生息する草地がサシバの重要な生息地として機能していることが明らかになった。
著者
片山 直樹
出版者
国立研究開発法人農業・食品産業技術総合研究機構
雑誌
若手研究(B)
巻号頁・発行日
2017-04-01

全国各地の野鳥の会から公表されている支部報を用いて、探鳥会記録の電子データ化を進めた。観察された種のリストおよび調査努力量としての観察人数のデータを可能な限り記録した。入力作業は、8割ほど完成したものの、いまだ継続中である。来年度には解析に着手したい。一方、モニタリングサイトサイト1000の鳥類データを用いた解析は、着実に進行した。森林草原サイトと里地サイトの両方のデータをもとに、調査手法が統一されている2009-2020年の個体数データを用いて、個体数トレンドを推定した。推定にはTRIM(Trends and Indice for Monitoring data)を用いて、合計300個体以上が観察された47種を対象として、トレンドを推定した。そして、推定された種ごとの年変化率を目的変数し、各種の生活史形質を説明変数としたPGLS(phylogenetic generalized least squares)を行うことで、種ごとの増減の違いを説明する要因を調べた、その結果、種ごとの年変化率を最もよく説明したのは「生息地グループ」であった。具体的には、森林性グループ(21種)では個体数トレンドが安定していた一方で、里山性グループ(19種)と開放地性グループ(7種)では、平均して年1%以上のペースで個体数が減少していることが示唆された。さらに、調査地選択のバイアスが与える影響も調べた。特に里地サイトでは、何らかの里山保全活動が行われているサイトが多い。そこで保全活動を行っているサイト・行っていないサイトで里山性グループの個体数トレンドを比較した。その結果、保全活動を行うサイトでは個体数トレンドが安定している一方、行っていないサイトでは平均して年2%以上のペースで個体数が減少していることが示唆された。現在、論文執筆中である。
著者
小松 泰喜 石川 知志 片山 直樹 武藤 芳照
出版者
日本肩関節学会
雑誌
肩関節 = Shoulder joint (ISSN:09104461)
巻号頁・発行日
vol.26, no.2, pp.333-336, 2002-01-01
参考文献数
9
被引用文献数
1

Swimming is generally accepted as a sport with minimal physical injuries. However, swimmers frequently complain of shoulder pain, termed &rdquo;swimmer's shoulder&rdquo;, which is thought to be a form of overused disorder. We investigated the factors related to shoulder pain in a cohort of elite swimmers in an attempt to isolate causes of this disorder. The subjects include 123 swimmers selected to participate in the Japan swimming championships between 1996 and 2000. Each participant had undergone complete medical examinations at the time of their competition. A study questionnaire was employed which asked the subject to grade the severity of their shoulder pain asked whether they trained with paddles and flippers, practiced any weight training, tubing and swim bench, did any stretching, and asked them to describe the type of swimming events in which they participated. The McNemar test and chi-square test were used in the statistical analysis. The incidence of shoulder pain was higher in swimmers who used paddles and flippers (p<0.01) and pain occurred more frequently during the weight training (p<0.01). Swimmers who stretched experienced a lower incidence of shoulder pain (p<0.01). There were no significant relationships between the shoulder pain and the type of swimming events or the practice of tubing and swim bench. : The use of the paddles and flippers as a training method needs to be investigated further as this appears statistically related to the development of &rdquo;swimmer's shoulder&rdquo;, a frequently cited overuse disorder among the swimming population. Furthermore, the practice of performing stretching exercises appears to prevent shoulder pain in this population and should be included, as part of the warm-up routine.