著者
田村 正人
出版者
都市有害生物管理学会
雑誌
家屋害虫 (ISSN:0912974X)
巻号頁・発行日
vol.25, no.2, pp.111-120, 2003-11-29

広義の食用昆虫には家屋害虫も少なくない.昆虫を適正に食べることは,動物性たんぱく(蛋白)資源の有効利用や害虫防除にもなるので,日本の代表的な食用昆虫,コバネイナゴ・クロスズメバチ・タマムシ・シロスジカミキリおよびアブラゼミ等の生態について述べた.三宅(1919)によると,日本の食用昆虫は8目55種で,最も多かったのはハチ目の14種,次いでチョウ目の11種,バッタ目の9種,甲虫目の8種などが多かった.薬用昆虫は10目123種にのぼり,最も多かったのは甲虫目の32種で,次いでチョウ目の26種,以下,順にカメムシ目の12種,ハチ目の9種,トンボ目の7種,バッタ目とハエ目の各6種,カマキリ目の4種などへと続く.いなご(蝗)は,全国の都府県で等しく食べられる国民的な食用昆虫で,かつては農村における秋の風物誌であった「いなごとり」も,強力な殺虫剤等の出現によって1950年代以降激減したが,1980年頃より水田をとり巻く環境の変化によってコバネイナゴが全国的に再び大発生の傾向にある.その後,飽食の時代を迎えた日本国民の関心は次第に「医食同源」に向いつつあるように思われる.いなごに次いで「蜂の子」が過半数の都道府県で食べられているのは,蜂類は社会性昆虫で,一度に大量入手が可能なためと思われる。昆虫は栄養価が高く,強壮剤として用いられるほか,薬用としては小児の疳(かん)に効くのが最も多い.現在,各地で人が食べている昆虫は,長い間の経験に基づいて伝承されて来たものであるからまずは食べられる昆虫と言えるが,できるだけ新鮮なものを食べ,安全性には充分配慮する必要がある.
著者
田村 正人
出版者
日本応用動物昆虫学会
雑誌
日本応用動物昆虫学会誌 (ISSN:00214914)
巻号頁・発行日
vol.29, no.2, pp.166-168, 1985-05-25 (Released:2009-02-12)
参考文献数
12
被引用文献数
4 2

年1化性のミノウスバは比較的低温適応性の昆虫で(田村・大内,1977),早いものは4月下旬頃より夏期休眠に入り(田村・小見山,1976),低温・短日下で休眠消去(ISHII et al., 1983)した蛹は日増しに気温が低下する10月下旬∼11月中旬の午前8∼10時に集中して羽化する。しかしながら,この時期の気温はほぼ昼間が15∼20°C,夜間が10∼15°Cであり,探雌のための雄成虫の飛しょう活動には15°C以上が必要なため,昼間活動性であることは本種の生存上きわめて有利であり,適応的であると考えられる。
著者
田村 正人
出版者
日本家屋害虫学会
雑誌
家屋害虫 (ISSN:0912974X)
巻号頁・発行日
vol.26, no.2, pp.149-157, 2004-12-15
参考文献数
21

昆虫の社会とは,「同種の2個体以上の個体間で起こる,種を維持していくうえの協同的相互関係」と定義され,単独生活をするものも含めて,種はすべて社会をなしているとみなされる.したがって「真社会性」とは,(1)両親以外に子育てを手伝う個体がいる(共同育児),(2)2世代以上が同居して一緒に暮している(世代の重なり),(3)子を産む個体と産まない個体(不妊カスト)とがいる(繁殖に関する分業)の3つを完全に備えた「高度に発達した社会」を指す.ハチ(膜翅)目の,このような真社会性に至る道すじには2つのルートが想定される.その1つは,母娘による単一家族ルート(サブソシアル・ルート)で,まず母親が長期間子を世話することで世代の重複が起こり,次に成長した子が妹や弟の世話,巣の掃除や防衛などを分坦するようになり,最終的には自分では繁殖しなくなって繁殖上の分業が成立する.もう1つは,複合家族による共同巣ルート(セミソシアル・ルート)である.まず繁殖メスが複数集まり近接して営巣することから始まって巣や子の防衛に共同で当たるようになり,次に最優位のメスがしだいに独占的に繁殖するようになって,最終的には繁殖の分業が成立するとともに世代の重複によって若いメスが完全にワーカー化するのである.シロアリとミツバチの階級分化には違いがある.シロアリの階級分化は,内因説と外因説があり,前者は遺伝的,あるいは胚の時代に階級分化が決定されているとするもので,後者は卵からふ化した幼虫は,あらゆる階級に分化する能力をもっているが,コロニーの状態によってどの階級に分化されるかが決定される,その決定にはフェロモン,栄養,行動刺激が関係するという説である.一方ミツバチでは,未受精卵(染色体数n=16)からは雄バチが,受精卵(2n=32)からは雌バチが産まれる.さらに女王バチと働きバチの分化は,与えられる餌の質と量の違いにより幼虫期の前期に決定し,階級の維持には起動フェロモン(primer pheromone)が関与する.
著者
竹内 将俊 田村 正人
出版者
日本応用動物昆虫学会
雑誌
日本応用動物昆虫学会誌 (ISSN:00214914)
巻号頁・発行日
vol.38, no.2, pp.79-84, 1994-05-25
被引用文献数
5 4

1) 東京都世田谷区の東京農業大学キャンパスと神奈川県秦野市のミカン畑跡地でトホシテントウの餌植物および各発育ステージの発生消長を調査するとともに,寄主植物ごとの室内飼育より幼虫期の発育期間を求めた。<br>2) 寄主植物として世田谷ではキカラスウリなどが,秦野ではアマチャヅル,カラスウリなどが確認され,加害植物としてカボチャ,キュウリが確認された。また世田谷個体群では,羽化時期の餌不足から一部の新成虫がエノキワタアブラムシの分泌蜜およびエノキの葉を摂食した。<br>3) 各発育段階の発生消長を調査地間で比較したところ,産卵ピークから4齢幼虫ピークまでの期間が異なり,産卵時期に対する4齢幼虫の出現は世田谷で早く,秦野で遅れる傾向にあった。また世田谷の幼虫の一部は年内に羽化し,成虫で越冬した。<br>4) 室内飼育では,キカラスウリを与えた幼虫はカラスウリやアマチャヅルを与えた場合より速く成長する。このことから個体群の依存する寄主植物による発育速度の違いが両個体群の生活史の相違をもたらす主な要因と考えられる。
著者
清水 達哉 佐藤 真理 藤田 尚正 辻 潔美 北川 善政 田村 正人
出版者
公益社団法人 日本生体医工学会
雑誌
生体医工学 (ISSN:1347443X)
巻号頁・発行日
vol.Annual57, no.Abstract, pp.S175_1, 2019 (Released:2019-12-27)

目的:骨組織はメカニカルストレスに応答する事が知られ、臨床では超音波刺激による骨折の治療法が確立されているが、詳細なメカニズムは不明である。本研究では、骨組織の超音波刺激応答細胞を同定するため、骨細胞をもつゼブラフィッシュともたないメダカを用いて骨折実験を行った。また、超音波刺激への細胞内応答機構を調べるために骨細胞株に超音波刺激を行ない遺伝子発現を調べた。材料と方法:ゼブラフィッシュとメダカの尾骨を骨折させ、超音波刺激による骨折治癒過程を骨組織染色にて評価した。骨細胞株に超音波刺激を加え、刺激群および対象群からRNAを抽出しqPCRによる遺伝子発現解析を行なった。結果と考察:骨細胞をもつゼブラフィッシュは骨細胞をもたないメダカに比べ超音波刺激により骨折治癒が有意に促進された。この事から、主に骨細胞が骨組織への超音波刺激に応答していると考えられた。また、骨細胞株に超音波刺激を加えると種々のGrowth factorの遺伝子が3-50倍上昇した。つまり、骨細胞は超音波刺激を感知してこれらGrowth factorを分泌する事で、骨折の治癒に重要な血管誘導、繊維芽細胞増殖を増強して治癒を促進すると考えられた。
著者
竹内 将俊 佐々木 友紀 佐藤 千綾 岩熊 志保 磯崎 文 田村 正人
出版者
日本応用動物昆虫学会
雑誌
日本応用動物昆虫学会誌 (ISSN:00214914)
巻号頁・発行日
vol.44, no.2, pp.89-94, 2000 (Released:2002-10-31)
参考文献数
18
被引用文献数
6 8

Seasonal use of powdery mildews by the mycophagous ladybird, Illeis koebelei, was observed in Setagaya. In the field, I. koebelei shows seasonal changes in host use and breeds regularly on Microsphaera pulchra var. pulchra that infests Benthamidia florida, Oidium sp., that infests Pyracantha coccinea in spring, Phyllactinia moricola that infests Morus australis, and Sphaerotheca cucurbitae that infests Trichosanthes kllirowii var. japonica in autumn. On these fungus species under laboratory conditions, larval development of the ladybird was completed (within 20 days at 24°C) with a high survival rate. Thus, the seasonal occurrence of I. koebelei may be synchronized with the abundance of essential fungi. This study showed that I. koebelei feeds on 11 species of powdery mildews, including Sphaerotheca, Podosphaera, Microsphaera, Phyllactinia and Oidium. However, no species of the Uncinula, Uncinuliella and Erysiphe genera were suitable food for the ladybird.
著者
竹内 将俊 田村 正人
出版者
日本応用動物昆虫学会
雑誌
日本応用動物昆虫学会誌 (ISSN:00214914)
巻号頁・発行日
vol.37, no.4, pp.221-226, 1993-11-25
被引用文献数
1 2

1) ウリキンウワバ幼虫のトレンチ行動を野外および室内で観察し,ククルビタシン,師管液,隠蔽との関連性について検討した。<br>2) 幼虫のトレンチ部位は,発育に伴って葉端から葉脈基部へ変化した。<br>3) 寄主植物に対する人為的な処理がトレンチ率へ与える影響を調べた結果,野外の自然状態の葉に対し,茎を切って水差し状態にした無傷の葉ではトレンチ率は低かった。<br>4) 師管液の量は野外状態の葉で多く,また茎を切って水差し状態にした無傷の葉では切断からの放置時間が長いほど少なかった。<br>5) 葉の表に細く切った紙を貼り,葉の強度を増した条件でのトレンチ率を調べたところ野外状態では100%のトレンチ率を示したが,室内において切断から2時間経った葉ではトレンチを描かずに摂食した。<br>6) ウリキンウワバ幼虫のトレンチ行動は,ウリ科植物の師管液に対する適応的行動である可能性が示唆されたが,師管液説,ククルビタシン説のいずれかに断定することはできなかった。
著者
竹内 将俊 田村 正人
出版者
家屋害虫研究会
雑誌
家屋害虫 (ISSN:0912974X)
巻号頁・発行日
vol.17, no.1, pp.11-23, 1995-07-20
参考文献数
16
被引用文献数
3

東京都世田谷区の大学構内で同所的に棲息するチャコウラナメクジ,オナジマィマイ,ウスカワマイマイの季節的発生経過,日周活動,利用食物について調査を行った。発生量はチャコウラが最も多く,夏期以外の季節に活動し,カタツムリ類は春期と秋期に活動した。活動時間は3種類とも体サィズに関係なく日没から明け方までで,カタツムリ類は活動個体の出現頻度に変異が大きく,明確なピークは認められなかった。また糞の内容物の解析の結果,野外で利用している食物は3種間で大きな違いは認められなかった。
著者
竹内 将俊 田村 正人
出版者
家屋害虫研究会
雑誌
家屋害虫
巻号頁・発行日
vol.15, no.2, pp.122-126, 1993

1)東京都世田谷区の大学キャンパス内で,チャコウラナメクジの発生経過と日周活動について野外調査を行った。2)発生量は,大型個体,小型個体とも5,6月が最も多く,夏期にはほとんど出現しなかった。また,大型個体は冬期にも活動し,産卵も認められた。3)活動時刻は日没から明け方まで続き,湿度が高い時は活動時刻に明瞭なピークはなかった。4)家屋への侵入と関連して,建造物の壁面や樹木の幹を這っていた個体の割合は季節的には春期と秋期に多く,時間的には終夜観察された。
著者
野田 政樹 山下 照仁 二藤 彰 田村 正人 川口 奈奈子
出版者
東京医科歯科大学
雑誌
基盤研究(A)
巻号頁・発行日
1997

本基盤研究においては、骨粗鬆症の病態生理学の基礎となる骨芽細胞・破骨細胞の研究を展開した.その結果、本研究による現在までの骨吸収に関する研究領域の成果としては,カルシウム向性制御因子である副甲状腺ホルモン、ビタミンDやTGFβを含むホルモンおよびサイトカインによって制御されるオステオポンチンのノックアウトマウスを作成し(Journal of Bone and Mineral Research,1998)、このマウスにおいては、閉経後骨粗鬆症モデルを作成すると、骨吸収が明らかに抑制されることから、オステオポンチンが骨粗鬆症の成立の上で重要な促進的役割を持つ分子であることを発見した(Proceedings of the National Academy of Sciences U.S.A.,1999).更に、骨形成領域の研究の成果としては,骨芽細胞機能の制御の分子機構を解析し、新しいBMP制御分子TOBが、特異的に成体の動物の加齢後期において骨の形成の制御に関わることをin vivoで明らかにし(Cell,2000)、Smadの下流におけるCbfaの発現制御の機構(Journal of Biological Chemistry(JBC)1998)、ビタミンDによる抑制性の転写制御因子Idの発現阻害のメカニズム(JBC,1997a)、helix-loop-helix型転写因子Scleraxisの機能の制御(JBC,1997b)、骨・軟骨系の分化に際してのHMG型の転写因子の制御メカニズム(JBC,2000)を発見した。骨粗鬆症において重要な上記のような骨吸収および骨形成に関わる破骨細胞ならびに骨芽細胞の機能の平衡維持のメカニズムの研究領域の成果としては、老化に関わる制御分子、Klothoの機能(Endocrinology,2000;Journal of Endocrinology,2000)、ウィルスの発現系によるKlothoの遺伝子の制御機構(Journal of Gene Medicine,2000)を解明した。さらに本研究の成果として、この重力などのメカニカルストレスがオステオポンチンとKlotho遺伝子がを介する制御(Journal of Experimental Medicine,2001)(Journalof Endocrinology,2001を明らかにした。本基盤研究A(2)の遂行により、骨粗鬆症においてて骨形成・吸収・平衡バランスと老化の3つの主要な局面において中枢的な役割を持つ遺伝子を現在までの研究で解明し、個々の遺伝子の機能の解析に成果を上げた(英文原著39件,国際学会発表57件,受賞13件)。
著者
中島 愛子 田村 正人
雑誌
北海道歯学雑誌 (ISSN:09147063)
巻号頁・発行日
vol.25, no.1, pp.134-137, 2004-06-15
著者
田村 正人
出版者
日本家屋害虫学会
雑誌
家屋害虫 (ISSN:0912974X)
巻号頁・発行日
vol.24, no.1, pp.25-36, 2002-07-30
参考文献数
39
被引用文献数
1

本稿は1940~1952年の農村に於ける伝統的な家屋害虫の防除法,とくに土用干し,ハエ(蝿),カ(蚊)およびネズミ(鼠)の駆除法に対してIPMの光を当てることを目的として総括した.人と昆虫との関わりは古く広く深いので,生活の向上と安定化の歴史は「文化」を生んだものと考えられるので,語源や由来についても若干の考察を試みた.また本学会では,過去5年間「家屋害虫のモニタリング」を年次大会のメーンテーマに連続とり上げているので,ネズミのモニタリングについて,ラットサインによる生息の確認と,記号放逐法や捕殺除去法による個体数の推定を,わかり易く解説した.モニタリングによって防除の要・不要を判断し,さらには防除効果の評価も可能となる.
著者
田村 正人 梨本 正之 石崎 明
出版者
北海道大学
雑誌
基盤研究(B)
巻号頁・発行日
2004

本研究では,未分化な筋芽細胞株であるC2C12細胞にcanonicalなWntとして知られるWnt3aならびにnon-canonicalなWntであるWnt5aを過剰発現させた細胞株を作製した.C2C12細胞では,骨基質タンパク質の一つであるMEPEを産生していないが,Wnt3a-C2C12細胞ではBMP-2によってMEPEやMMP-13の発現が大幅に誘導された.これらの結果から,骨芽細胞の分化においてWntとBMP-2の2つのシグナルが協調して特異的に骨基質タンパク質やMMPの発現を調節していることが明らかになった.次に,骨芽細胞分化においてWntとBMP-2の2つのシグナルの間でどのように調節しているのか検討した.canonical WntシグナルがBMP-2の誘導するId1 mRNAの発現を調節することを見出した.また,BMP-2はC2C12細胞の筋管形成を抑制するが,Wnt3a-C2C12細胞ではこのBMP-2の筋分化抑制作用が低下していた.すなわち,WntとBMP-2の2つのシグナルの間にクロストークがあることがわかった.さらに,Wnt3aによりOPG濃度は著しく増大した.一方,RANKLの発現はWnt/β-catenin及びBMP-2いずれによっても抑制された.活性型β-catenin応答領域を特定するために-253までの領域の4つのLef/Tcf1認識候補部位の変異レポーターコンストラクトを作製した.転写活性の検討ならびにクロマチンIP法を用いた結合因子の同定を行った.以上の研究からWnt/β-cateninシグナルの標的遺伝子としてOPGを同定し,転写活性化機構の詳細を明らかにした.骨芽細胞においてWnt/β-cateninシグナルとBMPシグナルが協調してOPGを介した破骨細胞の分化と機能を調節している可能性が示された.