- 著者
-
田村 正人
- 出版者
- 日本家屋害虫学会
- 雑誌
- 家屋害虫 (ISSN:0912974X)
- 巻号頁・発行日
- vol.26, no.2, pp.149-157, 2004-12-15
- 参考文献数
- 21
昆虫の社会とは,「同種の2個体以上の個体間で起こる,種を維持していくうえの協同的相互関係」と定義され,単独生活をするものも含めて,種はすべて社会をなしているとみなされる.したがって「真社会性」とは,(1)両親以外に子育てを手伝う個体がいる(共同育児),(2)2世代以上が同居して一緒に暮している(世代の重なり),(3)子を産む個体と産まない個体(不妊カスト)とがいる(繁殖に関する分業)の3つを完全に備えた「高度に発達した社会」を指す.ハチ(膜翅)目の,このような真社会性に至る道すじには2つのルートが想定される.その1つは,母娘による単一家族ルート(サブソシアル・ルート)で,まず母親が長期間子を世話することで世代の重複が起こり,次に成長した子が妹や弟の世話,巣の掃除や防衛などを分坦するようになり,最終的には自分では繁殖しなくなって繁殖上の分業が成立する.もう1つは,複合家族による共同巣ルート(セミソシアル・ルート)である.まず繁殖メスが複数集まり近接して営巣することから始まって巣や子の防衛に共同で当たるようになり,次に最優位のメスがしだいに独占的に繁殖するようになって,最終的には繁殖の分業が成立するとともに世代の重複によって若いメスが完全にワーカー化するのである.シロアリとミツバチの階級分化には違いがある.シロアリの階級分化は,内因説と外因説があり,前者は遺伝的,あるいは胚の時代に階級分化が決定されているとするもので,後者は卵からふ化した幼虫は,あらゆる階級に分化する能力をもっているが,コロニーの状態によってどの階級に分化されるかが決定される,その決定にはフェロモン,栄養,行動刺激が関係するという説である.一方ミツバチでは,未受精卵(染色体数n=16)からは雄バチが,受精卵(2n=32)からは雌バチが産まれる.さらに女王バチと働きバチの分化は,与えられる餌の質と量の違いにより幼虫期の前期に決定し,階級の維持には起動フェロモン(primer pheromone)が関与する.