著者
小山 珠美 若林 秀隆 前田 圭介 篠原 健太 平山 康一 社本 博 百崎 良
出版者
一般社団法人 日本摂食嚥下リハビリテーション学会
雑誌
日本摂食嚥下リハビリテーション学会雑誌 (ISSN:13438441)
巻号頁・発行日
vol.24, no.1, pp.14-25, 2020-04-30 (Released:2020-08-31)
参考文献数
26
被引用文献数
1

【目的】当院では,チーム医療による早期経口摂取開始に取り組んできた.誤嚥性肺炎患者に対する入院後早期の経口摂取開始が,在院日数と退院時経口摂取に及ぼす影響を検討した.【対象と方法】2014 年4 月から2018 年3 月までに誤嚥性肺炎で当院に入院した65 歳以上の380 名を対象とした.死亡者を除外した.年齢,性別,要介護度,入院前生活場所,入院時肺炎重症度分類(ADROP),入院後経口摂取開始までの日数,入院後2 日以内の経口摂取開始,リハビリテーションの有無,経口摂取開始後発熱,在院日数,退院時摂食嚥下レベル(FOIS),退院時経口摂取の有無,自宅退院の有無を診断群分類包括評価(DPC)データから後方視的に調査した.また,チーム医療無群とチーム医療有群に分類し,両群を比較したうえで,早期経口摂取による在院日数,退院時経口摂取への影響を検討した.統計解析は単変量解析としてカイ2 乗検定,t 検定,Mann-Whitney のU 検定,多変量解析として重回帰分析,ロジスティック回帰分析を行い,有意水準は5% 未満とした.【結果】対象者の年齢(平均値±標準偏差)は85.9±7.0 歳,経口摂取開始日(中央値)は3 日,在院日数(中央値)は21 日,退院時経口摂取は294 名(77%)であった.チーム医療有無群で比較すると,単変量解析では,入院時A-DROP, リハビリテーション介入,退院時FOIS, 退院時経口摂取,在院日数に有意差がみられた.多変量解析では,在院日数に有意に関連した因子は,要介護度(β =-0.215),入院前生活場所(β= 0.146),チーム医療(β=-0.151),入院後2日以内経口摂取開始(β=-0.134),リハビリテーション介入(β = 0.145),経口摂取開始後発熱(β = 0.202),退院時FOIS(β =-0.280),退院先(β = -0.184)であった.退院時経口摂取に有意に関連した因子は,年齢(オッズ比= 1.039),チーム医療(オッズ比= 3.196),入院後2 日以内の経口摂取開始(オッズ比= 4.095)であった.【考察】急性期医療でのチーム医療による早期経口摂取開始は,在院日数を短縮し,退院時経口摂取率を高める可能性が示唆された.
著者
黄 啓徳 百崎 良 宮崎 慎二郎 若林 秀隆 社本 博
出版者
The University of Occupational and Environmental Health, Japan
雑誌
Journal of UOEH (ISSN:0387821X)
巻号頁・発行日
vol.41, no.3, pp.303-315, 2019-09-01 (Released:2019-09-20)
参考文献数
35
被引用文献数
4 7

急性疾患に対するリハビリテーションと栄養療法の併用効果検証を目的としたシステマティックレビューを行った.MEDLINE,CENTRAL,EMBASEと医中誌データベース検索の986件と他ソース16件の論文からリハビリテーション治療中の急性疾患症例に対する栄養介入効果を検証した2件のランダム化比較試験を抽出した.コクランrisk of bias評価とランダム効果モデルを用いた解析,GRADEアプローチでエビデンスの質評価を行った.Jonesらの研究ではQOL改善効果がなかった(標準化平均差[SMD] 0.55, 95%信頼区間[CI] -0.05 - 1.15; P = 0.12)が,Hegerovaらの研究では筋肉量(SMD 0.65; 95%CI, 0.36 - 0.93; P < 0.00001)とADL(SMD 0.28, 95%CI 0.00 - 0.56; P = 0.05)に改善効果を認めた.急性疾患に対するリハビリテーション栄養療法は筋肉量増加とADL改善に効果的な可能性がある.しかしアウトカム全般にわたる全体的エビデンスの質は低く,さらに研究が必要である.
著者
長野 正幸 照山 絢子 福元 美紀 渡邊 友美 中村 美佳子 百崎 良
出版者
The University of Occupational and Environmental Health, Japan
雑誌
Journal of UOEH (ISSN:0387821X)
巻号頁・発行日
vol.40, no.4, pp.299-305, 2018-12-01 (Released:2018-12-19)
参考文献数
19
被引用文献数
2

脳外傷はしばしば,行動障害や復学困難を引き起こす.しかし,脳外傷後の復学困難を誘起する因子についてはいまだ明らかにされていない.本研究の目的は若年脳外傷患者における1年以内の復学困難に関連する因子について探索的に検討することである.本研究は既存データセットの二次解析である.米国のTraumatic Brain Injury Model Systems National Databaseに登録された脳外傷患者(受傷時16歳)のデータを用いた.1年以内に復学できた者とできなかった者とで2群間比較をし,脳外傷重症度に着目したサブグループ解析を追加した.教育歴が10年未満の者を除外し,合計309人の脳外傷患者が抽出された.そのうち246人(80%)の患者は1年以内の復学が困難であった.復学した患者群では復学できなかった患者群に比べ重症脳外傷例が少なかった(29% vs 44%,P = 0.03).また,復学した患者群では復学できなかった患者群に比べリハビリテーション期間が長く(平均日数: 40 vs 29; P = 0.001),脳外傷重症度によるサブグループ解析でも重症脳外傷者群(平均日数:46 vs 29,P = 0.02),非重症脳外傷者群(平均日数: 37 vs 26,P = 0.02)ともに同様の結果であった.脳外傷重症度に関わらず,リハビリテーションの不足が脳外傷後の復学困難に関連していた.
著者
草野 みゆき 春原 則子 渡辺 基 百崎 良 安保 雅博
出版者
一般社団法人 日本高次脳機能障害学会
雑誌
高次脳機能研究 (旧 失語症研究) (ISSN:13484818)
巻号頁・発行日
vol.32, no.4, pp.601-608, 2012-12-31 (Released:2014-01-06)
参考文献数
18
被引用文献数
1 1

慢性期失語症患者に対し短期間の集中的な言語訓練を実施し, その手法および効果について検討した。訓練は毎日40分×2回, 10日間個別に実施した。内容は 1) テーマを指定したスピーチ, 2) 症例ごとに設定した機能訓練, 3) PACE であった。また, 病棟スタッフとのコミュニケーション課題も設定した。介入前後に, SLTA, SLTA-ST (呼称) , Token Test, 失語症構文検査および日常生活上のコミュニケーション活動の状態に関する家族へのアンケート調査を行った。介入後, SLTA「聴く」以外で有意な改善を認め, 3 ヵ月後の評価でも6 項目中5 項目で成績は維持または改善がみられた。慢性期の失語症患者に対しても, その時点の言語機能の評価に基づいた集中的な介入を行うことによって, 言語機能や日常コミュニケーション能力に改善が得られることが示唆された。
著者
百崎 良 岡田 昌史 奥原 剛 木内 貴弘 緒方 直史 安保 雅博
出版者
公益社団法人 日本リハビリテーション医学会
雑誌
The Japanese Journal of Rehabilitation Medicine (ISSN:18813526)
巻号頁・発行日
vol.55, no.7, pp.606-613, 2018-07-18 (Released:2018-08-25)
参考文献数
19
被引用文献数
1

目的:本研究の目的は日本におけるリハビリテーション医学領域の研究登録状況を調査し,今後のリハビリテーション医学研究のあり方について検討することである.方法:UMIN-CTR(2005年以降)の登録データを用い,リハビリテーション医学領域の介入研究を網羅的に検索した.研究デザインや結果公開状況,登録時期などのデータを収集し,検討を行った.結果:21,410件のデータより,529件の研究が抽出された.研究デザインは並行群間比較が54%と最も多く,有効性の検討を目的とした研究が65%と多かった.比較試験の86%はランダム化がなされており,53%はブラインド化がなされていた.研究開始前の事前登録は50%あり,事後登録研究に比べ,結果の公開割合が少なかった.結論:研究登録数は経年的に増加していたが,研究の透明性を確保するためにも事前登録を心がける必要があると考えられた.リハビリテーション医学領域においても臨床研究を適切に計画・登録できる医療者のさらなる育成が重要だと考えられた.
著者
百崎 良
出版者
公益社団法人 日本リハビリテーション医学会
雑誌
The Japanese Journal of Rehabilitation Medicine (ISSN:18813526)
巻号頁・発行日
vol.59, no.11, pp.1087-1092, 2022-11-18 (Released:2023-01-20)
参考文献数
5

傾向スコア解析や操作変数法といった統計学的因果推論手法を用いた研究がリハビリテーション医学領域でも増加している.傾向スコアとは治療を受ける傾向(確率)を表す値であり,交絡因子から推定できる.傾向スコア解析では調整したい交絡因子が多数ある場合でも,モデルの誤設定や多重共線性の問題を気にする必要がない.操作変数法は未測定交絡因子の調整を行うことができる解析法である.操作変数とは治療の選択を左右する因子であり,アウトカムと直接関連していないことが条件である.適当な操作変数をみつけられるかどうかが鍵となるが,各施設におけるリハビリテーション治療実施割合や週末入院などが操作変数として利用されている.
著者
百崎 良 安保 雅博
出版者
公益社団法人 日本リハビリテーション医学会
雑誌
The Japanese Journal of Rehabilitation Medicine (ISSN:18813526)
巻号頁・発行日
vol.54, no.2, pp.82-86, 2017-02-18 (Released:2017-05-22)
参考文献数
14
被引用文献数
1

リハビリテーション(以下,リハ)患者における栄養評価の重要性が見直されている.リハ患者において低栄養の合併は高頻度にみられ,適切なリハ処方のためにも早期の栄養スクリーニングが必要である.特に低栄養の病態把握はリハの方針決定の参考となるため,リハ科専門医にとっても重要なスキルであると考えられる.妥当性の確認されている栄養スクリーニングツールとしてはPG-SGA,MNA-SF,GNRI,CONUT,MST,MUST,NRS-2002,PNIなどが挙げられるが,それぞれ長所や短所があるため,状況によって使い分ける必要がある.リハ患者の適切な栄養状態把握は,リハ医療の質を向上させることにつながる.